SSブログ

極限に生きる -疎外され死ぬ以外の権利を剥奪された一団の物語- [戦争小説]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

H.G.コンザリク著の「極限に生きる」を読破しました。

第二次大戦中のドイツ国防軍に3個あったとされる通称「懲罰大隊」の悲惨な運命の物語です。
徴兵逃れをしたとして有罪判決を受け、懲罰大隊送りとなったドイッチュマン医師を主人公に
犯罪者の鏡のようなシュヴァネッケ、柏葉騎士十字章を持つ元少佐、
師団長であった元大佐などが一介の2等兵として登場します。
これだけでもゾクゾクしますね。。しませんか?

極限に生きる.JPG

前線での戦闘経験がないにも係わらず、それを隠して威張り散らす上級曹長や
大隊付き副官の猛烈なシゴキと虐めのなかで、
当初は反目していた2等兵の彼らにも徐々に戦友意識が芽生えていきます。
そんな部下たちを犯罪者ではなく、軍人として扱うことすら許されないことに葛藤する
中隊長オーバーマイヤー中尉の軍人としての理想を追求する姿勢は、
後半、ロシア軍背後への全滅必至の斥候作戦直前の訓示に現れ、
自らも中隊長の責務として部下と共に任務に加わります。

そして、今や部下の2等兵であるものの、尊敬するかつての上官であった元師団長との
最後のやりとりには涙に文字が霞みます。。。
主人公たちにも「これでもか!」というほどの不幸が訪れ、まさに「極限に生きる」悲惨さです。
実際、読みながら思わず「うぁ~~・・!」と声を出してしまいました。
たまに泣くことはあっても、こんなことはこの一度だけです。

同じコンザリク著の「第6軍の心臓」同様に人間味溢れる登場人物たちが
キッチリ描き込まれていることで決して派手さはないものの、
無益に死んでゆく彼ら一人一人に切なさを感じます。
ドイツでは映画化されているそうですが、日本版は発売されていません。
ですが心情がこの物語の命なので、この本より面白い映画であることは恐らく無いでしょう。
コンザリクのなかでは最も手に入りづらい本ですが、5000円以内だったら迷わず購入してください。



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第三帝国の中枢にて -総統付き陸軍副官の日記- [ドイツ陸軍]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ゲルハルト・エンゲル著の「第三帝国の中枢にて」を読破しました。

内容はまさしく「副題」のとおりですが、日記というよりは「覚え書き」や「メモ」に近いものを
ある程度整理したものと考えたほうが良いでしょう。

第三帝国の中枢にて.JPG

総統付き副官というものは陸海空の三軍各々から選ばれており、
陸軍からはエンゲル、海軍ではプットカマー、空軍ではフォン・ベローが主に勤め、
首席副官としてルドルフ・シュムントが存在していました。
エンゲル自身は佐官としてオーストリア併合直前の1938年から1943年まで副官を務めており
その後、歩兵師団長として柏葉騎士十字章を受章、中将まで昇進した人物です。

ゲルハルト・エンゲル.JPG

ハッキリ言って読みやすい本ではありません。1ページ中に何個も注釈が出てきて
それらが巻末にまとめてあるので、行ったり来たりと大変です。
かなり知識のある人なら、注釈を無視して読み進められるでしょうが・・・。

それでも、この副官職というのはなかなか面白いもので(当人にとっては堪らないものでしょうが・・)
エンゲル自身、ヒトラーとそのヒトラーから最も信用されていない陸軍司令部の
板ばさみとなって苦しみます。
身内である筈の陸軍参謀総長のハルダー将軍からも、なぜか信用されておらず、
逆に陸軍総司令官のブラウヒッチュに対しては「まったく、なさけない」を連発するという環境です。

Franz Halder.jpg

最もよく登場するのが首席副官のシュムントですが、
ヒトラー信奉者となっていったシュムントとは度々激論を交わします。
エンゲル曰く「恐ろしいほどに騙されやすく、なんでも簡単に信じてしまう」らしく
逆に言えばヒトラーにとっては扱いやすかったのでしょう。
しかし、彼がその後のシュタウフェンベルクの仕掛けた爆弾の犠牲者となるのは何とも皮肉です。

Rudolf Schmundt.jpg

国防軍最高司令部長官のカイテルと統帥局長のヨードルも対照的です。
カイテルに対しては他の軍人の回想録などに負けず劣らず、罵詈雑言を浴びせており、
一方、ヨードルはなんとかロシア軍とヒトラー双方と戦っている様子が伺えます。

hitler-keitel-jodl.jpg

スターリングラードでの第6軍が包囲された状況では、情報が錯綜し、
司令部も混乱を極めていたことが伝わってきます。
パウルスマンシュタイン、そして新たな参謀総長ツァイツラーからの脱出要請が
度々出され、大きな議論となりますが、
ヒトラーの優柔不断な態度も混乱に輪をかけている印象を受けました。

フォン・ベローの「ヒトラーの副官として」やハルダーの日記など翻訳されれば
ぜひ読みたくなりました。



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Uボート・エース [Uボート]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ヨルダン・ヴァウス著の「Uボート・エース」を読破しました。

撃沈数48隻、23万トンを誇る第二位のエース、宝剣付き柏葉騎士十字章拝領者である
ヴォルフガンク・リュートのUボート戦記です。
残念ながら彼は、終戦直後、30歳にして悲劇的な死を遂げてしまったため
この本は回想録ではありません。
しかし、1943年以降の陸上勤務時代に「潜水艦再び攻撃す」という一冊を著しており、
これが本作のベースともなっています。

Uボート・エース.JPG

本書ではUボートの第1世代であるU47のプリーン
U99のクレッチマーについても、その戦いや人間性が述べられており、
続く第2世代ともいえるリュートを中心として、エーリッヒ・トップなども登場します。

Lüth_Topp_Bleichrodt.jpg

リュートはその戦果もさることながら、長い哨戒の最中における乗組員の規律を維持しつつも
艦内での様々なリクリエーションを考案し、それらは正式に推奨されることになるなど
教官ないしは幕僚としての能力も高かったようです。
本人はナチ党員であるがゆえ、音楽を推奨するにしても「ジャズは嫌いにならなければいけない」
という党の規律により、なんでもかんでも公認はしなかった(出来なかった?)とのことですが、
艦橋に出ているリュート艦長に聞こえないように
内緒でジャズのレコードをかけるのを容認するという懐の広さもあって
部下たちには大変慕われていたようです。

Luth.JPG

デーニッツもこのようなリュートをUボート指令としての後継者と考えていたのか、
1944年には異例の抜擢で大佐に昇進させ、海軍兵学校の校長に就任させます。
そしてドイツ降伏直後、18歳のドイツ人歩哨に・・。

朝日ソノラマから刊行されていた本書ですが、
「異色の撃沈王その生涯と死闘の記録ヴォルフガング・リュート伝」
という副題のもと、再刊されています。





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私はヒトラーの秘書だった [女性と戦争]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

トラウデル・ユンゲ著の「私はヒトラーの秘書だった」を読破しました。

「ヒトラー 最後の12日間」でお馴染みのユンゲ嬢の回想録です。
先に映画を観ていたこともあって、ベルリンの総統ブンカーもイメージしやすく
ほとんど一気読みしてしまいます。
ただし、実際3年も秘書を務めていただけあって、回想の舞台もベルリンだけではなく、
ヴォルフスシャンツェやベルヒテスガーデンでの生活など、
映画では出てこない話が半分以上を占めており、
特に1944年7月20日のヒトラー暗殺未遂についても
当時、現場に居合わせた証言として貴重なものとなっています。

私はヒトラーの秘書だった.JPG

女性に対しては常に礼儀正しく、食事のときにもホストとして振舞うヒトラーの様子。
自分をまるで末娘のようにからかうのが好きだったなどとも語っています。

Traudl Junge.jpg

登場人物は多士にわたり、犬猿の仲のボルマン兄弟、笑いのネタである主治医のモレルが
良く出てきますが、特別扱い気味なのがヘルマン・フェーゲラインSS中将です。
曰く、颯爽とした騎手のような人だが、信じられないような大ボラ吹きであり、
利己的でありながら、無遠慮で、それでも好ましい性格の持ち主だったとして、
さらに任せられていた暗殺未遂事件の犯人探しでは、
「自分のようなカッコいい男をも一緒くたに木っ端微塵にしようとするとは・・」
と個人的に憤っており、ヒトラーを片付けることよりも
こっちのほうがずっと重大な冒瀆だと考えて、復讐に燃えていた・・。

Hermann Fegelein.jpg

挙句、ガチョウ呼ばわりした娘がエーファ・ブラウンの妹グレートルだと知ると、
とっとと結婚してしまう辺りや、その最後の銃殺までしっかり書かれています。

この手の本は、コッテリした戦記ものの次に読むのに最適ですね。





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ナチからの脱出 -ドイツ軍将校に救出されたユダヤ人- [欧州諸国]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ブライアン・マーク リッグ著の「ナチからの脱出」を読破しました。

1939年のドイツ軍ポーランド侵攻時にその包囲網に取り残された
「超正統派」ユダヤ教指導者をアメリカ側からの要請を受けたドイツ軍が救出したという
ノンフィクションです。

ナチからの脱出.JPG

国防軍防諜本部(アプヴェーア)の本部長のカナリス提督が「やっぱり」という感じで絡んでおり
ユダヤ人の父を持つ、ブロッホ少佐を救出隊長に任命します。
しかし、ポーランド国内でSSを中心としたユダヤ人狩りの嵐が吹き荒れているなかで、
いくら国防軍といえドイツ軍兵士が一般のユダヤ人に「ユダヤ教指導者を助けたいから」と説明して
その隠れ家を聞き出すというのは無理があり、案の定、誰も信じてはくれません。
また、SSに先んじて発見、そして脱出しなければならず
まずベルリンへ行くという意表を付いた脱出行も、途中、数々のSSの検問をかい潜りながらであり
ここら辺はサスペンス物ばりの読み応えがあります。

Wilhelm Canaris.jpg

興味をそそられたのは、このブロッホ少佐のようなユダヤ人の血を持つ軍人でも
ヒトラーの権限により「アーリア化」できたということで、
実際、ブロッホの場合もカナリス提督が申請し「アーリア化」されたとのことです。
しかし戦局の悪化、SDやゲシュタポの権力拡大、さらにヒトラー暗殺未遂事件を頂点として
このようなことはなくなり、ブロッホも当時のロシア戦線における連隊長の地位も
突然解任~退役となっていきます。

なお、著者は前作に「ヒトラーのユダヤ系兵士」という題の本を書いており
邦訳されれば読んでみたいですね。



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