SSブログ

暁の七人 -ハイドリッヒの暗殺- [戦争映画の本]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

アラン・バージェス著の「暁の七人」を読破しました。

SD(親衛隊諜報部)、ゲシュタポ、保安警察の全てを含む国家保安本部(RSHA)長官にして
ベーメン・メーレン保護領(チェコ)の事実上の総督として「プラハの虐殺者」と呼ばれた
ラインハルト・ハイドリヒSS大将暗殺のドキュメンタリーです。
その国の最高権力者を暗殺するために潜入し、計画、実行そして最後のとき・・
というストーリーとしては、フォーサイスのデビュー作である「ジャッカルの日」みたいですね。

暁の七人.JPG

英国軍に指導を受けた亡命チェコ軍兵士たちが落下傘降下により潜入し、
ハイドリヒの行動を調査/観察し、具体的な暗殺計画を立案、そしていざ実行に移します。
しかし銃撃は失敗し、手榴弾によりなんとか重症は負わせたものの
暗殺は見事成功という訳には行かず、ナチス・ドイツの威信に賭けての犯人探しが始まります。

The damaged car of Reinhard Heydrich.jpg
模型で再現!.jpg

知らせを受けたSS全国指導者ヒムラー自ら、最高の医師団とともにプラハを訪れますが、
結局、1週間後にハイドリヒは死亡します(ハイドリヒを恐れていたヒムラーによる殺害説も・・)。
一方、暗殺を実行した2人ヤン・クビシュ、ヨゼフ・ガブチックを含むチェコ軍兵士たちは
仲間の裏切りによって、隠れていた教会において壮絶な銃撃戦により命を絶つことになります。

Valcik, Kubis, Opalka & Gabcik.jpg

その後も報復としてヒトラー命令と内務大臣カール・ヘルマン・フランクにより、
有名な「リディツェ村の惨劇」などと続いていきます。

ハイドリヒ暗殺は、連合軍側がナチス高官を暗殺するという戦略が
あまりにリスクが高いことを認識したようで、その後はこのような計画が実践されていません。
もしハイドリヒが暗殺されることがなかったら、「鋼鉄の心臓を持つ男」とヒトラーに言わしめた
この計り知れない権力と野心溢れる人物によって、いくつかの歴史が変わったようにも思えます。

Heydrich_Karl Frank.jpg

1975年に「ジョニーは戦場へ行った」のジョニー役で知られるティモシー・ボトムズ主演で
映画化もされています。観ていないのですが、DVD化されていません・・・残念。

暁の7人.jpg

ハイドリヒを演じた役者さん(アントン・ディフリング)は当時、57歳ですが
実際のハイドリッヒは20歳も年下です。これはSSという組織が如何に若いかを物語っていますね。
現在もそうですが、この映画の公開の時代でも、このような立場の人物が30代後半というのに
観る側も違和感を感じてしまうのでしょう。またはその年齢で演じられる役者がいないか・・。

Heydrich_OPERATION DAYBREAK.JPG

また、戦時中の1943年には「メトロポリス」で有名なドイツ人のフリッツ・ラング監督が
「死刑執行人もまた死す」という、この暗殺事件をヒントにした映画を撮っています。
こっちは20年くらい前の本邦初公開のときに観に行きましたね。





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SS‐HITLERJUGEND―第12SS師団の歴史1943-45 [ヒトラー・ユーゲント]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ルパート・バトラー著の「第12SS師団の歴史」を読破しました。

今ひとつ評判のよろしくない、リイド社出版の武装SS師団シリーズものです。
第12SS師団の歴史とはいっても、実際のところ実稼動1年の部隊なので、
前半はヒトラー・ユーゲントそのものの歴史、というか成り立ちから無理矢理始まり、
当然、青少年全国指導者シーラッハやアクスマンの人間性やらと、
あまり関係ない話が続きます。

第12SS師団の歴史.JPG

そしてようやくフリッツ・ヴィット師団長が登場し、ノルマンディでの初陣となりますが、
ここでは第101重戦車大隊のミヒャエル・ヴィットマン「SS中佐」というスゴイ人物も参戦してきます。
ヴィットマンはその後も中佐として出てきますので、誤字ではないようですね。
文字数のワリに誤字の多いシリーズではありますが、
ひょっとしたら死後に2階級特進したのかも。。

Wittmann&Woll.jpg

最後には重要人物としてヴィット師団長の戦死後、師団長となったクルト・マイヤーや
ヒットラー・ユーゲント 第12SS戦車師団史」の著者である作戦参謀のフーベルト・マイヤー、
最後の師団長フーゴ・クラースや戦車連隊長のマックス・ヴュンシェが紹介されています。
全体的に写真も多く、中には生々しいものもありますが、
いかんせん、文章はフーベルト・マイヤーの本からの抜粋が多く、
その逆に、この著者はクルト・マイヤー個人が嫌いで、彼の著書「擲弾兵」は信用なしという
選り好みが目立ちます。どうもフリッツ・ヴィットも嫌いな匂いもします。

12th SS Hitlerjugend.JPG

結局、この師団の歴史はもちろん、武装SSを肯定、或いは批判するものでもなく、
しかし客観的でもないという著者の真意が今ひとつ(かなり?)理解できないものとなっています。



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燃える東部戦線 -独ソ戦の全貌- [ロシア]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ハリソン・E・ソールズベリー著の「燃える東部戦線」を読破しました。

副題の通りの独ソ戦についてをソヴィエト/ロシア側からの視点でまとめたもので、
著者は1944年当時のUP通信のモスクワ支局長を務めていたソールズベリーです。
ソヴィエト側からの視点といってもジャーナリストによる客観的なものであるため、
スターリンはもとより、ヒトラーを含むドイツ軍も誰一人として好意的には書かれていません。
それはルーズベルトやチャーチルにしても同様です。

燃える東部戦線.JPG

ドイツ軍は単なる「敵」として存在しているだけで、その「敵」になすすべなく蹂躙され、
持ちこたえ、反撃するソ連軍という、東部戦線の大局的な戦記として進んで行きます。
バルバロッサ作戦からモスクワ周辺での攻防、レニングラード、ハリコフと続き
スターリングラードからクルスクの戦い、ベルリンへと、更には日本まで・・。
スターリンを中心に軍または軍集団(方面軍)レベルでの戦闘の経緯が述べられており、
第2次大戦におけるソヴィエト/ロシア軍の戦い、主要人物、体制を知るには
入門書とも言えそうです。

Georgy Zhukov.JPG

この本の主役をあえて挙げるとすればジューコフ元帥です。
ほとんどの戦場にスターリンの火消し役として登場してきます。
悪名高いトハチェフスキー元帥などの大粛清を経て、この大祖国戦争を戦うなかで、
その時点では、スターリンが最も(唯一?)信頼した将軍であるように感じます。

Super zhukovman.jpg

ドイツ軍で言えば、ゼップ・ディートリッヒがマンシュタインの戦術論を持っていたら・・とか、
ルントシュテットが生粋の古参ナチ党員の武装SS大将だったら・・
などという、とんでもない妄想をしてしまいます。
もし、ヒトラーの政治的/軍事的戦略を理解し、それを実行する能力と
絶対的信頼を得るような将軍が1人でもいたなら、果たしてどうなったのでしょうか・・。

ドイツ軍によるレニングラードの包囲の詳細についてはあまり知られていませんが
そのぶん、この本では特別印象に残ります。
ドイツ第6軍が包囲されたスターリングラードの様子は
様々な本や映画でうかがい知ることはできますが、
2年半もの間、包囲されていたレニングラードの極限状態は恐るべきものです。
軍人たちの戦いというよりも、百万人以上の一般市民が
飢餓をいかに耐え、生き延びたかは非常に興味深く、
同じ著者による「攻防900日」は、この戦史について詳細に書かれているそうで、
ぜひ読破したくなりました。



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運命の決断 -第2次大戦 インサイド ストーリー- [戦記]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

S.フライデン W.リチャードソン共著の「運命の決断」を読破しました。

終戦直後、ドイツ軍の高級指揮官たちがアメリカ軍の戦史編纂官に語った陳述記録集です。
ドイツが敗れた有名な戦い6章からなっており、
「バトル・オブ・ブリテン」を当時、第3航空軍首席参謀であった、ヴェルナー・クライペ空軍大将が
「モスクワ」を当時、第4軍(クルーゲ元帥)参謀長であった、ギュンター・ブルーメントリット大将が
「エル・アラメイン」を当時、アフリカ軍団参謀長であった、フリッツ・バイエルライン中将
「スターリングラード」を当時、陸軍参謀総長であった、クルト・ツァイツラー上級大将が
「フランスの戦い」を当時、西部方面軍首席作戦参謀であった、ボド・ツィンメルマン中将が
「アルデンヌ」を当時、第5装甲軍司令官であった、ハッソー・フォン・マントイフェル大将が
自身の経験と当時の資料から敗戦の原因までを率直に語ります。

運命の決断.JPG

ブルーメントリット大将は、バルバロッサ作戦の準備が始まると
ドイツ中の書店からソ連の地図や文献が消え失せ、
これらの本がクルーゲ元帥の机の上に山と積まれていたというエピソードや
南方軍集団司令官のルントシュテット元帥曰く、
「ソ連と戦うなど馬鹿げた事だ。わしには明るい結末など考えることは出来ん。」とし、
やるにしても長期戦を望むべきとの見解だったようです。

Guenther Blumentritt.jpg

ご存知のように、この老元帥は西部方面軍司令官として復帰しますが、
こちらでも沢山の逸話が出てきます。
連合軍の空襲を懸念した参謀たちは、元帥の留守を見計らって防空壕を作りますが、
それを見た元帥は「何物を以ってしても、わしをこの代物に入れることは出来ん」と宣言したとか
連合軍上陸後、電話で元帥から辞意を伝えられた国防軍最高司令部長官のカイテル
今後の対応について意見を求めると「馬鹿者!戦争を終わらせるんだ!」

von Rundstedt.jpg

スターリングラードの運命をめぐる、ヒトラー対陸軍参謀総長ツァイツラー上級大将の死闘は壮絶で
この章だけで充分一冊書けるでしょう。マンシュタインの回想録を彷彿とさせます。
第6軍の即時撤退を必要に求めるツァイツラーに対して
「絶対にボルガは去らんぞ!」と激昂するヒトラー。
そして意見を求められたカイテルは、目を輝かせて「総統閣下!ボルガを去ってはなりません!」
ならばと「空軍による補給で維持は可能」とのゲーリングの発言について、
「国家元帥閣下、毎日どれだけの量の空輸が必要かご存知ですか?」
「わしは、知らん・・」と狼狽するゲーリングをヒトラーの次に第6軍全滅の責任があるとしています。

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フォン・マントイフェル大将のいわゆる「バルジの戦い」も大変興味深く読めます。
主役であるゼップ・ディートリッヒ率いるSS第6装甲軍に対しては、遠回しながらも
ディートリッヒを含め、武装SSに優れた指揮官が不足しているとして、
敗因の一つにしているとも読み取れます。

von Manteuffel.JPG

コンパクトにまとめられた、なかなか勉強になる一冊ですが、残念なことに完訳ではないようです。
古い本でも当事者たちの語る戦記は貴重で、このようなものをもっと出版して欲しいものです。



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ヒトラーの死を見とどけた男 -地下壕最後の生き残りの証言- [回想録]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ローフス・ミッシュ著の「ヒトラーの死を見とどけた男」を読破しました。

5年間に渡り、ヒトラーの総統護衛部隊員として最後まで総統地下壕で任務についていた
SS隊員(ライプシュタンダルテ)の回想録です。
映画「ヒトラー 最後の12日間」について「所詮は映画であり大袈裟に描かれている」
と語るように、数少なくなった当事者としての責任からも当時を振り返っています。

ヒトラーの死を見とどけた男.JPG

とはいっても、そのヒトラー最後の数日はあくまで最後の章で語られる程度です。
それよりも個人的には前半のライプシュタンダルテへのなんとも呆気ない入隊の過程や
ポーランド侵攻作戦により重傷を負い、その後、モーンケ大尉(当時)の気遣いによって、
総統護衛部隊(後方部隊)へ配属となったいきさつ、
そしてヒトラーに初めて話しかけられるという「恐怖体験」の方が新鮮で楽しめました。
また開戦当時の総統官邸の様子やその警備体制などは、
この本以外ではなかなか知ることの出来ない貴重な情報だと思います。

wilhelm mohnke.jpg

普段のヒトラーの態度も「私はヒトラーの秘書だった」で書かれているように
非常に家庭の父親的なものであったとして、ちょっとした楽しいエピソードも書かれています。

興味深いところではスターリングラードで苦戦中のパウルス将軍がヒトラーに撤退を求めたところ、
2人の話し合いでは一度了解したものの、その後ゲーリングの「撤退は許さん」発言によって
ヒトラーもそちらに傾いていったと証言しています。

Rochus Misch.jpg

最近の「ヒトラーの素顔本」という意味では「ヒトラー・コード」という
もっとボリュームのある本がありますが、本書においては、それよりも
「総統護衛部隊」の生活と、その運命に翻弄される若者という見方で読むべきでしょう。
この観点で言えば倍のボリュームが欲しいくらいです。



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