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ドイツ空軍、全機発進せよ! [ドイツ空軍]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ジョン・キレン著の「ドイツ空軍、全機発進せよ!」を読破しました。

英国人の著者によるこの有名な本書は、タイトルや表紙の雰囲気から
勝手に「バトル・オブ・ブリテン」を中心に描いたものと思っていましたが、
序文を書く、英空軍スレッサー大将の
「NATO空軍所属の士官各位に、必読の書としておすすめする」を読み、
原題もそのものズバリ「ザ・ルフトヴァッフェ」であることで
まったく想像していたものと違うことがわかりました。。

ドイツ空軍、全機発進せよ!.JPG

まずは第一次世界大戦における空の戦いの様子から・・。
大エース、リヒトホーフェンの空戦から、ツェッペリン飛行船によるロンドン空襲、
そして「リヒトホーフェン戦隊」を引き継いだヘルマン・ゲーリング中尉の活躍。

Goring01.jpg

敗戦後の苛烈なヴェルサイユ条約を甘んじつつ、禁止された空軍の再建のため、
ゼークトを長官とする国防軍は、民間航空会社ルフトハンザを利用します。
パイロットであった腹心エアハルト・ミルヒが筆頭常務になったことで
乗員育成訓練計画も軍隊色となり、新ドイツ空軍発足の際には
大量の民間パイロットが移籍し、ルフトヴァッフェの中核になっていきました。

本書ではこのように一般的に「ルフトヴァッフェ生みの親、ゲーリング」と云われることには反対で
ゲーリングが表舞台に出てくる10年以上も前に、思慮深いゼークトによって
国防軍の中にその充分な基礎が出来ていたのだとしています。

Hans von Seeckt.jpg

続いてはスペイン内戦。ガーランドメルダースも戦闘機乗りとしてデビュー。
「政治性もなければ、世論に対する考慮も皆無な軍人根性まるだしな猪首」という紹介の
フーゴ・シュペルレ率いるこの「コンドル軍団」は、開発した戦闘機や爆撃機の
試験の場として利用します。
そして、それはピカソの「ゲルニカ」で世界中に知られることとなった
バスク地方の田舎町「ゲルニカ空爆」を引き起こします。

Hugo Sperrle2.jpg

ヴァルター・ヴェーファー初代参謀総長は四発重爆の推進者で、Do-19などの
開発を推し進めますが1936年に事故死。。。
それによりゲーリングによって技術開発部局長の座に半ば無理やり就かされた
元大エースのエルンスト・ウーデットが急降下爆撃機に傾倒したことから
四発重爆を用いた長距離戦略爆撃という理念はルフトヴァッフェからは失われていきます。

Udet and Molders.jpg

そしてそのJu-87 シュトゥーカ急降下爆撃機がポーランド、フランスで
地上部隊の支援機としても大活躍をし、ウーデットの名も高まります。
しかし、バトル・オブ・ブリテン・・。英国本土爆撃ではその足の遅さから
スピットファイアの格好の餌食となり、護衛についたメッサーシュミットBf-109にも
大きな負担がかかるばかり・・。

Junkers_ju 87.jpg

バルバロッサ作戦が発動されても一向に進まない新型機開発と
ミルヒの策謀とゲーリングの知らん顔に病み、追い詰められたウーデットは自殺・・。

旗艦シャルンホルストを擁するブレスト艦隊のドーヴァー海峡突破の「ツェルベルス作戦」。
新型戦闘機フォッケウルフ FW-190とBf-109の252機を護衛とした空海共同作戦も
詳しく書かれていますが、このドイツの大艦隊にたった6機の旧式ソードフィッシュで
生還の見込みのない攻撃に挑んだ若きアイルランド人、
ユージン・エズモンド海軍少佐のドラマは特別に印象に残りました。

Eugene Esmonde is second from left.jpg

ドイツ海軍の日誌でも「博物館から引き出してきたような古色蒼然の少数機による古風な攻撃」
と書かれ「しかし、その乗員の勇敢さたるや・・」と海軍らしい感想で締めくくっています。

Swordfish Channel Dash.jpg

1942年にはスターリングラードで包囲された第6軍に対する空からの補給任務が・・。
ゲーリングの安請け合いに困った参謀総長のイェショネクですが、
「総統閣下に、誓ってやりとうせますと言うんだ!」とゲーリングに叱責され苦境に立たされます。
ミルヒとリヒトホーフェンがありとあらゆる輸送機を必死にかき集めますが、
極寒の地では思うようにことは運びません。

Milch&Richthofen_ Hitler declared Milch Aryan_ He was awarded the Ritterkreuz for his performance during the campaign in Norway in 1940.jpg

同じことは続くチュニジアへの輸送機問題でも明らかになります。
北アフリカで追い詰められたアフリカ軍団を救うために
"ギガント"ことMe-323が投入されますが、戦闘機の護衛も受けられない
この空の巨人20機中、18機が撃墜されたという話は
ヘルマン・ゲーリング戦車師団史」にもありましたね。

me 323.jpg

スターリングラードの補給の失敗の責任をゲーリングから着せられたイェショネクも
ドイツ本土の各都市への大空襲が続き、「V兵器」の開発拠点である
ベーネミュンデまで爆撃されると、戦争の行く末に絶望し、遂に自殺・・。

Hermann Goring, Hans Jeschonnek.jpg

終戦も近づいてくると、いつものようにジェット戦闘機Me-262などが登場しますが、
本書ではその他の「秘密兵器」も紹介しています。
特におんぶ式親子飛行機「ミステル」はその使用方法も詳しく書かれ、
爆撃機隊の元締めであるペルツなども大いに興味を持ち、
実際、連合軍の上陸船団に対する攻撃に用いられて、
フランスの旧式戦艦クールベを見事、撃沈したそうです。

Mistel.jpg

また、小型有人ロケット機、Ba 349「ナッター(まむし)」も出てきます。
これは連合軍の爆撃機編隊に向かって垂直に飛び掛り、
その編隊の中央に必殺のロケット弾を叩きこもうとするもので、
これらの実験の様子から、いざ、実戦配備・・となかなか楽しめました。

Ba349-Natter.jpg

有名なエース・パイロットたちが次々と紹介されるものではなく
ロンメルの北アフリカでマルセイユが消耗しきって戦死するのが出てくるくらいで、
空軍以外の人物もあまり紹介されません。
たまに出てきても、古い本なので、例えばフェリックス・シュタイナーSS大将などは
「ナチ突撃隊の首領、シュタイナー」といった前時代的なスゴイ紹介です。

どちらかと言えば、エース・パイロットの活躍より上層部の軋轢、
その結果、開発される戦闘機や爆撃機、輸送機が如何なるものだったのか・・
ということに焦点を当てている印象です。

また、本書を読んでいて特に感じたことのひとつに、「戦略爆撃」というのが
隠れたテーマになっている気がしました。
第一次大戦の英国本土空爆からゲルニカ、ワルシャワ、ロッテルダム、
そして再び、ロンドン空襲と続いたドイツ軍による空爆が「種を蒔き」
それが後に連合軍による、ケルン、ハンブルク、ドレスデンといった都市を壊滅させる
「戦略爆撃」として刈り取られた・・としています。

Bomber Harris_Sir Arthur Harris.jpg

そしてアーサー・ハリス英空軍爆撃機軍団司令官を取り上げ、
彼が、「無差別爆撃こそ、戦争の決め手となる」ことを提唱し続けた人物と紹介しています。
やはり日本人として、特に東京の下町で生まれ育った人間としても
「東京大空襲」という過去を身近に感じでいるだけに、
このようなテーマには特別なものを感じました。



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ドイツ海軍戦記 [ドイツ海軍]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

C.D.ベッカー著の「ドイツ海軍戦記」を再度読破しました。

原著は1955年発刊という古いものですが、朝日ソノラマらしい読みやすい一冊の紹介です。
ここのところ「仮装巡洋艦」が出てくるものを2冊読破したこともあり、
結構前に読んだ本書を読み返してみました。
ひょっとしたら、初めて読んだドイツ海軍モノだったかも知れません。

本書はポケット戦艦「アドミラル・シェア」の艦長をはじめ、連合軍のノルマンディ上陸当時、
西部方面の海軍司令官も務めたテオドール・クランケ提督も携わっているようです。

ドイツ海軍戦記.JPG

終戦から半年も過ぎた1945年のクリスマス。数少ない生き残りのドイツ艦、
軽巡「ニュルンベルク」が英国兵監視の元、ソ連側へ引き渡される話から始まります。
艦長ギースラー大佐を中心に、ラトヴィアの港まで無事に航行するこのプロローグは
既に英ソ関係の方が怪しいなか、3ヶ国の海の男たちには、笑顔があります。

ドイツ海軍(クリークス・マリーネ)の誇る、有名な戦艦、ビスマルクやティルピッツ、
ポケット戦艦のシュペー号ブレスト艦隊のドーバー海峡突破などの話は
当然のように出てきますが、これらはドイツ海軍戦記として以前に
呪われた海」と「ヒトラーの戦艦」を紹介していますので
実は本書の裏の主役である地味な艦隊をここでは紹介してみます。

Flotten-Kriegsabzeichen.jpg

1943年11月、クリミア半島奪還を目指し、橋頭堡を築いたソ連軍を食い止めるため
黒海のケルチ海峡では、艦隊と呼ぶのも恥ずかしい貧弱な
Rボート(掃海艇)とSボート(高速魚雷艇)を中心とした「ドイツ黒海艦隊」が
10倍もの戦力差のあるソ連艦隊に挑みます。

raeumboot.jpg

第3掃海隊は、海峡の機雷による封鎖を試みるものの、
橋頭堡に物資を届けるため、夜間にありとあらゆる船舶で海峡を渡るソ連艦船に
Rボートが攻撃を仕掛けます。
目と鼻の先、10mを横切る、拳銃の射程内での敵味方入り乱れる海上の白兵戦・・。
かつての海戦を彷彿とさせるこの戦いは、速力と操縦性に優るドイツ艦隊に軍配があがります。

Kriegsabzeichen für Minensuch.jpg

しかし翌日の夜、長射程で一挙にカタをつけるべく、ソ連艦隊は大型の砲艦で待ち伏せます。
コレを見たドイツ艦隊はソ連砲艦に全速力で突撃。
甲板面より俯角をつけられず、せっかく陸軍から借り受けた”カチューシャ”ロケット砲
手も届くほどの近距離の相手に浴びせることも出来ないソ連艦隊は
逆にドイツ艦艇が接近して投げ込む機雷攻撃の前になす術なし・・。
見事、ケルチ海峡の制海権を取り戻し、ドイツ軍は補給不足となったソ連軍を
クリミア半島の橋頭堡から追い出すことに成功します。

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その後のソ連の猛攻により、クリミアから撤退する第3掃海隊800名が
ブルガリア、ユーゴスラヴィアという既に危険となった国々を陸路横断し、
本国へと向かう最後まで描かれていて、本書のなかでも最も楽しめました。

ちなみにSボート(Schnellboot)は一般的には(本書でも)Eボートと言われますが、
これは特に英仏海峡を巡回していたドイツ艦艇を英海軍が"Enemy boat"と
呼んでいたことに起因しているようです。

Schnellboot-Kriegsabzeichen.jpg

ノルマンディ沖に現れた連合軍の大船団に立ち向かうのも、
たった3隻の水雷艇(Torpedoboot)です。
指揮艦T-28を筆頭に英戦艦ウォースパイトめがけて突進しますが、
ウォースパイトは一向に攻撃してくる気配はなし・・。
訝しがる水雷艇の砲術士官に「おかしくって撃てないんだろ」と誰かが一言。。。

Torpedoboot Möwe. Baugleich mit Kondor und Albatros und ebenfalls zur Kriegsschiffsgruppe 5 gehörig !.jpg

このような自暴自棄の悲しいジョークはベルリン攻防戦にも確かありましたね。
路上に築かれたバリケードを突破するのにソ連軍は30分の時間を費やす、というジョークで
「みんなで大笑いするのに25分、戦車で吹き飛ばすのに5分・・」。

やっぱり幽霊船とも言われた補助巡洋艦(仮装巡洋艦)も1章割かれていて
1940年に初めて海洋に乗り出したアトランティスから、「捕虜」にも登場した
コルモラーン、その他初めて聞いた名前のオリオンやコメットなど・・。
この章では夜間戦闘機を搭載した最後の幽霊船、コロネルの1943年の任務が描かれますが、
帰れなかったドイツ兵」のトール(トオル)の名もチラッと出てきました。

Auxiliary Cruiser Badge.jpg

1944年のクールラント・・。ソ連の大攻勢に押されっぱなしで追い詰められたドイツ軍を
プリンツ・オイゲンやアドミラル・シェア、アドミラル・ヒッパーが正確無比な艦砲射撃で援護します。
後にグディニア港では無事に撤退した陸軍兵が海軍兵を見つけては「ありがとう・・」。
陸軍参謀総長グデーリアンがデーニッツに送った海軍に対する感謝の言葉も紹介されています。

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まるでドイツ版ダンケルクとでもいうような撤退作戦も
東バルト海の司令官ティール提督を中心に紹介され、
このバルト海を巡る最後の攻防は終戦まで続きます。

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もちろんUボート話もいくつか紹介されており、小型Uボートのゼーフントやネガー
新型Uボートに乗るU-2511のシュネー艦長が終戦に伴い降伏し、
英提督らとの尋問に対して自信満々に答える勇姿まで・・・。

Adalbert Schnee3.jpg

まぁ、肩の凝らない気軽に楽しめるドイツ海軍戦記で、戦艦から仮装巡洋艦、
Uボートに水雷艇の活躍までをありがちな悲惨な終焉ではなく、
逆にユーモアと尊敬を交えて、連合国側とも接した逸話を盛り込んでいます。

また、怪しい・・と思っていま、調べてみたところ、著者のC.D.ベッカーは
やはり「呪われた海」の著者であるカーユス・ベッカーのようですね。

300ページの本書は、初めてドイツ海軍モノを読んでみようという方や、
パウル・カレルような戦記がお好きな方にも、息抜きがてらにオススメできる一冊です。



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ディファイアンス -ヒトラーと闘った3兄弟- [戦争映画の本]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ネハマ・テック著の「ディファイアンス」を読破しました。

1年半前にひっそりとロードショー公開された映画「ディファイアンス」の原作本です。
「現役007」ダニエル・クレイグ主演の第2次大戦モノ・・という理由だけで
詳細なストーリーも知らないまま観に行きましたが、まぁ、可も無く不可も無く・・という作品でした。
今回、たまたま古書で安く見つけましたので、「もうひとつのシンドラーのリスト!」という本書を
ちょっと思い出しながら読んでみました。

ディファイアンス.JPG

さすがにこの映画をご覧になった方はそれほど多くないと思いますので
簡単にストーリーを紹介すると・・・1941年のバルバロッサ作戦
ポーランドの東に位置するベラルーシ(白ロシア)をも占領したドイツ軍。
ここにも大量のユダヤ人が住んでいることから、ポーランドと同様
知識人や高位のユダヤ人を虐殺し、ゲットーを設置して迫害します。

そんななかユダヤ人の貧しい大家族のなかで育ったビエルスキ家のうちの3兄弟は
むざむざドイツ軍の手に落ちることを潔しとせず、銃を手に入れ、森に逃げ込みます。
同胞のユダヤ人が徐々に集まり出し、その人数も1000名を超え、
食料の調達に苦労しながらも、ナチス・ドイツ軍に対し
赤軍のパルチザン部隊として戦いを挑む・・といったものです。

本書では、まず、ダニエル・クレイグ演じたトゥヴィア・ビエルスキと兄弟の生い立ちから
その当時から存在していた反ユダヤ主義を紹介し、
ドイツ軍占領後も隣人たちや地元民による密告など、ベラルーシ人というものではなく、
あくまでユダヤ人としての生き残りを賭けた戦いとして進んでいきます。

Defiance Daniel Craig.jpg

ユダヤ人の同胞を救うことが目的のカリスマ性溢れるトゥヴィアは
女性や子供、老人もすべて受け入れますが、その食料の調達には実に苦労します。
食料調達班は銃を持って村へ忍び込み、農家などから分けてもらうわけですが、
どこも裕福なわけはなく、僅かな食料を「略奪」された彼らからすると
「山賊」というイメージでもあったようです。

人数も増え、パルチザン部隊として立ち上がりますが、当初の部隊名は
有名なソヴィエト/ロシアの将軍にあやかって「ジューコフ隊」としますが、
結局は「ビエルスキ隊」に落ち着きます。

In Poland the story of Bielski detachment.jpg

家族や知人をゲットーから救出する過程も紹介されますが、ソコよりも快適とはいえない
この森での共同生活に順応できず、「ブラジャーないと生きられない」と言って
ゲットーへと自ら戻っていくおばちゃんもいたりします(結局はゲットーで殺され・・)。

1943年~44年、ロシアの攻勢が始まると、ロシア軍からも正式なパルチザン部隊として
認められますが、このロシア軍にも反ユダヤ主義は多く存在し、
必ずしも、安眠できる状況ではありません。
また、「ビエルスキ隊」内部でも反乱分子が登場したりと、それらは特に
パルチザン部隊としては異常な数に上る「非戦闘員」の数、すなわち女性、子供、
老人の占める割合が多いことも、トゥヴィアが信用されない理由でもあったようです。

Tewje Bielski.jpg

中盤過ぎで、映画でのクライマックスの場面を迎えてしまいますが、
映画のような戦車も登場する派手な戦闘シーンはありません。
そして、映画では語られなかったその後の「ビエルスキ隊」が描かれ
終盤では、トゥヴィア・ビエルスキ本人を含む、多数の人物たちからのインタビューをもとに
この「ビエルスキ隊」というコミューンが果たして如何なるものだったのかを検証します。

映画を思い出しながら読んだ自分は、この終盤がとても興味深く読めました。
ただでさえ弱い立場のユダヤ人のなかで、特に女性は1人で生きていくことはほぼ不可能です。
それはこのコミューンでも例外ではなく、誰か強い男の特別な存在となって
守ってもらう必要があり、結果的に衣食住といった問題も、一気に解決します。
もちろん、そうなるにはその女性が若く、容姿も良いという条件が付きますが、
当然、男は見返りとして身体を要求します。

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リーダーのトゥヴィアもかなりとっかえひっかえやっていたようですが、
これは強要ではなく、逆に女性からも憧れられていたことも要因の一つだったようです。
このような弱い女性の話は「ベルリン終戦日記」とまったく同じだと感じました。

ちなみに劇中でも淡い恋を演じるトゥヴィアの兄弟役のジェイミー・ベルは、
自分の大好きな映画「リトル・ダンサー」の子役で
ちょっと大きく逞しくなった彼の姿を見て嬉しくなったのも思い出しました。

Jamie Bell and Mia Wasikowska in Defiance.jpg

ドイツ軍が一方的に悪者として描かれているわけでもなく、前半にはユダヤ人を助けようとする
ドイツ人軍曹も登場しますし(その後、バレて死刑)、立場が逆転し、
敗走する腹を空かせたドイツ人が逆に殺されていくのも実に可愛そうです。
一番の悪役はドイツに協力して報酬をもらうベラルーシ人で、このような連中は
家族共々報復に遭います。

映画に比べ、このようなポーランドやロシアに隣接した地域におけるユダヤ人問題を
詳しく知ることのできた一冊で、ドイツだけではなく周りがすべて敵・・という
ユダヤ人の運命を少し理解できました。







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髑髏の結社 SSの歴史(下) [SS/ゲシュタポ]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ハインツ・ヘーネ著の「髑髏の結社(下)」を読破しました。

この下巻では、まず東部戦線の悪名高い「アインザッツグルッペン」を詳細に解説します。
A~Dの初代隊長たち・・刑事警察局長で隠れ反ヒトラー派のネーベだけが志願し、
東部従軍を2度拒否してヒムラーからも不興を買っていたオーレンドルフも仕方なく承諾。
ヴァルター・シュターレッカーとオットー・ラッシュも隊長を務めることに至った理由は、
ハイドリヒの受けを良くして、その後のベルリン本部内での出世が目当てです。

逆にゲシュタポのミュラーやSDのシェレンベルクらが巧く立ち回り、
このユダヤ人とパルチザンらを容赦なく抹殺する殺人部隊の指揮を執るという、
最悪な前線勤務から、巧く身をかわした話も・・。

髑髏の結社 下.JPG

そして占領区域ではユダヤ人の迫害を実行に移すSSですが、
救出への道」でもあったように、SS嫌いの党のガウライター(大管区指導者)からは
邪魔者扱いされ、フリードリヒ・ヴィルヘルム・クリューガーSS大将もお手上げです。

Friedrich Wilhelm Krüger.jpg

これらエーリッヒ・コッホハンス・フランクといったガウライターの他にも
東部の管区では「長いナイフの夜」によるエルンスト・レームの粛清とともに
滅亡したと思っていた「SA」が、SSに対する復讐心を忘れておらず、
SSの政策をここぞとばかりに邪魔だてし、特にSA幕僚長ヴィクトール・ルッツェは、
その謎の最後まで非常に印象的でした。

Viktor Lutze.jpg

中盤ではヒムラーとボルマンのライバル関係も・・。
秘書と恋に落ちたヒムラーが、妻と別れて新しい家族との生活を望むものの、
隠れて私腹を肥やす部下たちとは違い、この絶大な権力を持ちながらも
給料だけでやり繰りする潔癖症のヒムラーにはそんなお金がありません。

Heinrich Himmler and his daughter Gudrun_Heydrich_Wolff.jpg

恋には勝てない一介の男でもあるヒムラーは、仕方なく「党の金庫番」である
ボルマンからお金を借りて、彼の愛する子供たちも育ちます。
このヒムラーの複雑な人間性はルドルフ・ヘースアイヒマンが登場する
絶滅収容所の場面でも取り挙げられ、毎日数千人のユダヤ人を整然と殺害させながら、
看守の暴力による1人2人の被収容者の殺害は許さないという矛盾した潔癖症っぷり・・。

Gudrun and Dad.jpg

本書ではここまでほとんど触れられなかった武装SSも70ページほどの章で紹介されます。
ゼップ・ディートリッヒと本部長のゴットロープ・ベルガーの他に
軍人気質のフェリックス・シュタイナーと軍人嫌いというテオドール・アイケという2人の
SS師団長の相対する考え方を中心に解説しています。

Theodor_Eicke.jpg

1944年のヒトラー暗殺未遂関連では、フランスのB軍集団司令官ロンメルによる
連合軍への降伏交渉に伴う各将軍への根回しを紹介します。
ここでは武装SSを代表してビットリッヒも大賛成していました。
しかし結局、この計画は失敗し、ゲシュタポに捕えられた
ロンメルの参謀長シュパイデルを助け出したのが
ゼップ・ディートリッヒだったというのは初めて知りました。

bittrich7.jpg

また、解体~SDへ吸収した国防軍防諜部(アプヴェーア)のカナリス提督
父のように慕っていたシェレンベルクに、ゲシュタポのミュラーは
嫌がらせ充分にそのカナリスを逮捕するよう命じます。
このあたり、誰が何をするにしても、陰謀や裏切り、保身と敵対心が渦巻いていて
SSのなかにも、常識的にとても許されない残虐行為に手を染めていたことから
後戻りは考えられず、最後までヒトラーと共に突っ走ろうとする連中と、
敗戦と連合軍への降伏を想定し、証拠隠滅や逃亡計画を図る連中とに
分かれている印象があります。

Walter Schellenberg5.jpg

ヒトラーの国防軍への不審が最高潮に達したこの時期、少年時代からの夢が叶い、
遂に軍人としてヴァイクセル軍集団司令官という東部戦線の重要ポストにつくものの、
己の軍人としての実力を思い知ったヒムラーは、
一日の戦いは夜の10時に終わるもの・・と勝手に決めつけては床に就きます。
当初から絶望的な人事と考えていた陸軍参謀総長グデーリアン
「病気療養中」の彼から辞意を引き出させようとヒムラーの元を訪れますが、
それを出向かえたヒムラーの参謀長ラマーディングSS少将も思わず、
「あの司令官をなんとかしていただけませんでしょうか・・?」

Heinz Lammerding7.jpg

1945年のベルリン攻防戦ともなると、敵前逃亡した兵士を吊るし首にするため、
SDは軍事裁判の書類を提出するよう国防軍に求めます。
しかしOKWのカイテル元帥は、一向にこの要請を拒否。
すでにボロボロとなった国防軍兵士を晒し者にするなどということは
さすがに出来なかったようで、どの本でもロクなことが書かれていないカイテルが
このSSを中心とした断末魔の時期においては、マトモな人間である気がしました。

Generalfeldmarschall Wilhelm_Keitel.jpg

最後はほとんどヒムラーの副官となった印象のシェレンベルクと
ヒムラー専属のマッサージ師、フェリックス・ケルステンが
ヒトラーを見限るよう説得し続けています。
ケルステンの日記からヒムラーが真実の姿を見せているようでもあり、
前半から随所にケルステンによると・・とヒムラーの発言を検証しています。

kersten_himmler.jpg

とにかくタイトルから想像させるような「一枚岩の思想」という結束がまったく無い
「髑髏の結社」は戦線の拡大によって膨れ上がったSSという組織の現実的な運用と、
ヒムラーの追い求める理想とのギャップというジレンマの狭間に、
上級指揮官たちによる個人的な戦いや横領などの私利私欲が蔓延し、
誰もコントロール出来ない操縦不可能な組織になっていったというように感じました。

例えば、「ユダヤ人の抹殺」を推し進める部局があると思えば、一方では、
「ユダヤ人を労働力」として大量に確保しようという正反対の部局も存在します。
その意味では、このSSを支配したヒムラーが良く言われるような
2面性を持った化け物だったわけでは決してなく、
巨大組織のトップとして、「SS帝国指導者」としての責務を果たせていなかった・・と
考えたほうが良いのかも知れません。

Reinhard Heydrich at a Fencing Competition with the Berlin SS Fencing Team (1939).jpg

となると、やはり考えてしまうのが、「もし、ハイドリヒが暗殺されなければ・・?」。
古参には異常に甘いヒトラーがヒムラーを罷免することはないでしょうが、
それよりも、この戦局悪化の時期においては、上司を見限ったハイドリヒを黒幕とした
SS内部のクーデターが発生したとしてもおかしくありませんね。
ちょっと「ファーザーランド」を彷彿とさせる展開過ぎますかねぇ?

実におびただしいほどの人物が登場し、半分は初めて聞く名前でした。
しかもベッケンバウアーなどというSS将校まで出てくると、「おいおい・・大丈夫か?」
とドイツ・サッカー界まで心配になってきます。

SS Polizei's (Orpo) football team.jpg

決してSS入門編とは言えない「濃い」内容ですが、
他のSSモノを読まれているような興味のある方なら必ず読むべきもので、
Uボートでいうところの「デーニッツと灰色狼」と同じ位置づけだと思います。
たぶん、これ以上のSSモノは無いんじゃないでしょうか。。。
本書と「武装SS興亡史」の2冊を読破することで、
このSSという組織がある程度は理解出来ると思いました。



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髑髏の結社 SSの歴史(上) [SS/ゲシュタポ]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ハインツ・ヘーネ著の「髑髏の結社(上)」を読破しました。

原著は1967年、日本でも1981年にフジ出版から発刊された有名な一冊です。
フジ出版のものは昔から古書店で良く見かけて知っていました。
しかし箱入りでぶっとい背表紙に「髑髏の結社」と書かれている毒々しく、怪しげで、
いかがわしい雰囲気をプンプン発散したもので、立ち読みするには度胸も必要です。

そんな小心者のヴィトゲンシュタインは、人目を気にしてamazonで講談社学術文庫の再刊を
上下巻¥1500で購入しましたが、そのボリュームに負けず劣らず、恐ろしく充実した内容です。
過去に紹介した「ヒトラーの親衛隊」や「ゲシュタポ」、「SSガイドブック」などは
ベースは本書であると言って良いでしょう。

髑髏の結社 上.JPG

上巻はまず、SSが形成されていく過程とその中心人物となるヒムラーについての解説です。
一般的に「SS全国指導者」と訳されているヒムラーですが、
本書ではこの「ライヒスフューラー」を「帝国指導者」と訳しています。
あくまでイメージの問題ですが、SSという組織からすると、この「帝国指導者」というのは
個人的には気に入りました。

ヒムラーの生い立ちから入党する経緯については、他の書籍でも多く書かれていますが、
本書では、彼の「アーリア人思想」がいかにして生まれたのかを掘り下げています。
特に「血と土」のヴァルター・ダレに感銘し、後に彼を全国農民指導者として登用するほどです。

Darre_Hitler.jpg

SSが拡大していこうという1929年以降は、フライコーアなどからバッハ=ツェレウスキ
フリードリヒ・ヴィルヘルム・クリューガーやカール・ヴォルフといった後の大物連中が
早くも流入し、本書にも登場してきます。

Karl Wolff, Joachim Peiper, Heinrich Himmler, Franco,.jpg

1933年にヒムラーが「国家警察」の創設にヴェルナー・ベストを起用します。
彼はその後、ハイドリヒの右腕的な存在として、ゲシュタポを含む恐怖の警察機構を
創りあげて行きますが、現行法に依存する考え方がハイドリヒの怒りを買い
後に罷免されてしまいます。

Dr. Werner Best _ Günther Pancke.jpg

このヴェルナー・ベストは本書では度々登場する重要人物で
後にデンマークの総督として過ごしますが、ユダヤ人問題には、尽く反対し
ヒトラー直々の命令にもこっそりと逆らい続けます。
まるでSSの悪の権化ハイドリヒの対極にあるという印象を持つ人物です。

SS隊員の純血にも当然触れられ、レーベンスボルンなどの他にひとつ面白い話がありました。
ヴァルター・クリューガーSS中将の母方にユダヤ人の血があることが判明したため、
彼の娘は婚約中のSS少佐との結婚が許されなかったということです。
そしてそのSS少佐とは、あのユーゴを征服したクリンゲンベルクです。

klingenberg_7.jpg

新興勢力であるSSの権力を拡大するということは、逆に言えばSS内部も
ここぞとばかりに自らの権力拡大を目論む人間の巣窟ということもあって
この「支配と権力と陰謀のジャングルを切り開く力のある者に優先権が与えられる」
という時代、その先陣を突き進むのはハイドリヒです。

SS General Reinhard Heydrich in his office during his tenure as Bavarian police chief. Munich, Germany, April 11, 1934.jpg

しかし強制収容所を自分の支配下に置こうとするものの、テオドール・アイケには敗北を喫し、
オーレンドルフシェレンベルクといった新鋭の知識人を要するSDも
ハンリヒ・ミュラーアルトゥール・ネーベらの秘密/保安警察との役割の中でパッとせず、
そのミュラーとネーベというハイドリヒの部下2人もお互い足を引っ張り合います。

Arthur Nebe2.jpg

そして陸軍総司令官フリッチュに対するでっち上げスキャンダルが失敗に終わると
さしものヒムラーとハイドリヒも陸軍の復讐に恐れをなします。
ドイツ参謀本部興亡史」ではこのブロムベルクとフリッチュ事件は
大変重要な事態となっていましたが、
この事件はSSという組織でもかなり、その存亡の危機にもなっています。

Nürnberg,_Blomberg,_Fritsch_und_Raeder.jpeg

結局はSDと保安警察を統合し、「国家保安本部=RSHA」として
更なる勢力拡大を目指しますが、ポーランド侵攻からは、SSには新たなる敵も登場します。

1939 Parade in Warsaw.jpg

上巻の500ページはここで終わります。。。
古い本なので、特別びっくりするような新たな話が出てくるわけではありませんが、
ひとつひとつが丁寧というか、実に濃く書かれていて
ロマンチックな夢想家ヒムラーと、リアリストで権力主義者のハイドリヒが
なんでも思うようにやれていたわけではないという感じがしました。



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