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ディファイアンス -ヒトラーと闘った3兄弟- [戦争映画の本]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ネハマ・テック著の「ディファイアンス」を読破しました。

1年半前にひっそりとロードショー公開された映画「ディファイアンス」の原作本です。
「現役007」ダニエル・クレイグ主演の第2次大戦モノ・・という理由だけで
詳細なストーリーも知らないまま観に行きましたが、まぁ、可も無く不可も無く・・という作品でした。
今回、たまたま古書で安く見つけましたので、「もうひとつのシンドラーのリスト!」という本書を
ちょっと思い出しながら読んでみました。

ディファイアンス.JPG

さすがにこの映画をご覧になった方はそれほど多くないと思いますので
簡単にストーリーを紹介すると・・・1941年のバルバロッサ作戦
ポーランドの東に位置するベラルーシ(白ロシア)をも占領したドイツ軍。
ここにも大量のユダヤ人が住んでいることから、ポーランドと同様
知識人や高位のユダヤ人を虐殺し、ゲットーを設置して迫害します。

そんななかユダヤ人の貧しい大家族のなかで育ったビエルスキ家のうちの3兄弟は
むざむざドイツ軍の手に落ちることを潔しとせず、銃を手に入れ、森に逃げ込みます。
同胞のユダヤ人が徐々に集まり出し、その人数も1000名を超え、
食料の調達に苦労しながらも、ナチス・ドイツ軍に対し
赤軍のパルチザン部隊として戦いを挑む・・といったものです。

本書では、まず、ダニエル・クレイグ演じたトゥヴィア・ビエルスキと兄弟の生い立ちから
その当時から存在していた反ユダヤ主義を紹介し、
ドイツ軍占領後も隣人たちや地元民による密告など、ベラルーシ人というものではなく、
あくまでユダヤ人としての生き残りを賭けた戦いとして進んでいきます。

Defiance Daniel Craig.jpg

ユダヤ人の同胞を救うことが目的のカリスマ性溢れるトゥヴィアは
女性や子供、老人もすべて受け入れますが、その食料の調達には実に苦労します。
食料調達班は銃を持って村へ忍び込み、農家などから分けてもらうわけですが、
どこも裕福なわけはなく、僅かな食料を「略奪」された彼らからすると
「山賊」というイメージでもあったようです。

人数も増え、パルチザン部隊として立ち上がりますが、当初の部隊名は
有名なソヴィエト/ロシアの将軍にあやかって「ジューコフ隊」としますが、
結局は「ビエルスキ隊」に落ち着きます。

In Poland the story of Bielski detachment.jpg

家族や知人をゲットーから救出する過程も紹介されますが、ソコよりも快適とはいえない
この森での共同生活に順応できず、「ブラジャーないと生きられない」と言って
ゲットーへと自ら戻っていくおばちゃんもいたりします(結局はゲットーで殺され・・)。

1943年~44年、ロシアの攻勢が始まると、ロシア軍からも正式なパルチザン部隊として
認められますが、このロシア軍にも反ユダヤ主義は多く存在し、
必ずしも、安眠できる状況ではありません。
また、「ビエルスキ隊」内部でも反乱分子が登場したりと、それらは特に
パルチザン部隊としては異常な数に上る「非戦闘員」の数、すなわち女性、子供、
老人の占める割合が多いことも、トゥヴィアが信用されない理由でもあったようです。

Tewje Bielski.jpg

中盤過ぎで、映画でのクライマックスの場面を迎えてしまいますが、
映画のような戦車も登場する派手な戦闘シーンはありません。
そして、映画では語られなかったその後の「ビエルスキ隊」が描かれ
終盤では、トゥヴィア・ビエルスキ本人を含む、多数の人物たちからのインタビューをもとに
この「ビエルスキ隊」というコミューンが果たして如何なるものだったのかを検証します。

映画を思い出しながら読んだ自分は、この終盤がとても興味深く読めました。
ただでさえ弱い立場のユダヤ人のなかで、特に女性は1人で生きていくことはほぼ不可能です。
それはこのコミューンでも例外ではなく、誰か強い男の特別な存在となって
守ってもらう必要があり、結果的に衣食住といった問題も、一気に解決します。
もちろん、そうなるにはその女性が若く、容姿も良いという条件が付きますが、
当然、男は見返りとして身体を要求します。

kol7.jpg

リーダーのトゥヴィアもかなりとっかえひっかえやっていたようですが、
これは強要ではなく、逆に女性からも憧れられていたことも要因の一つだったようです。
このような弱い女性の話は「ベルリン終戦日記」とまったく同じだと感じました。

ちなみに劇中でも淡い恋を演じるトゥヴィアの兄弟役のジェイミー・ベルは、
自分の大好きな映画「リトル・ダンサー」の子役で
ちょっと大きく逞しくなった彼の姿を見て嬉しくなったのも思い出しました。

Jamie Bell and Mia Wasikowska in Defiance.jpg

ドイツ軍が一方的に悪者として描かれているわけでもなく、前半にはユダヤ人を助けようとする
ドイツ人軍曹も登場しますし(その後、バレて死刑)、立場が逆転し、
敗走する腹を空かせたドイツ人が逆に殺されていくのも実に可愛そうです。
一番の悪役はドイツに協力して報酬をもらうベラルーシ人で、このような連中は
家族共々報復に遭います。

映画に比べ、このようなポーランドやロシアに隣接した地域におけるユダヤ人問題を
詳しく知ることのできた一冊で、ドイツだけではなく周りがすべて敵・・という
ユダヤ人の運命を少し理解できました。







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コメント 4

IZM

レビューを読むと、本のほうが面白そうですね。

芸人の江頭さんが、自身のネット配信の番組でこの映画の批評やってて、面白かったです。ワタシはこの映画まだ観てないんですけど、エガちゃんは
「森の中の位置関係が漠然としてて、わかりずらい。地図とかの小道具をもっと使え」とか、敵に乱暴され妊娠しちゃった女の子が「お腹の子が、私の生きる希望なの」とかいう台詞が、「おれは男だから、この心理がよくわかんなかった。」とかいうようなことを言っていました。
D クレイグの魅力がよくわかんないので、この映画自分で見る機会はなさそうな感じですが、本のほうはちょっと気になりました。
by IZM (2010-08-20 00:48) 

ヴィトゲンシュタイン

この映画は、やはり舞台となる場所と時代が難しいですねぇ。
特に日本人には(自分にとっても)馴染みがないですし、
映像でこの白ロシアの「森」の生活や、町や村を観ることは出来ますが、
逆にこの時代のユダヤ人の置かれた状況を理解するのは大変です。

本書となると映画の逆で、ユダヤ人の置かれた状況は理解できますが、
舞台をイメージするのは大変でしょう・・。

「可も無く不可も無く」という映画の原作を読む気になったのは、
消化不良の部分を補いたかったから・・という感じです。

ヴィトゲンシュタインの少年時代の007は、3代目のロジャー・ムーアでしたが、やっぱり初代のショーン・コネリーが良いですね。
一番好きなのも「ロシアより愛を込めて」ですし、スマートさよりも
男臭さがあって、その意味ではD・クレイグもなかなか良いですよ。

by ヴィトゲンシュタイン (2010-08-20 20:07) 

かつひで

ブログみて映画だけの見方だけではないんだなと、新しい発見で感動しています。
特にドイツ軍は全て悪というわけではなく、ドイツ軍に協力したベラルーシ人が悪役だというところに驚きをもちました。

敵に協力する味方?もいるんだなと。
実際にいろんな人がいるし、やっぱりそう人はいるんですね。
そんな人達の気持ちもわからないでもないですが。

4年前の記事ですが、面白く発見もあったのでコメントさせていただきました(^^)
by かつひで (2016-04-20 01:36) 

ヴィトゲンシュタイン

ど~も、かつひで さん。
懐かしい記事にコメントありがとうございます。

言われるように、映画との大きな違いが本書にはありましたねぇ。ドイツだけでなく、ポーランド、ソ連邦各国内にもユダヤ人差別、迫害が存在していたわけで、戦後、ナチスのホロコーストが発覚したことから、極力、当時のユダヤ人問題は隠されるようになったと思います。

そして占領下のユダヤではないベラルーシ人は、自分の身を守るために嫌いなユダヤ人を密告すると・・。
フランスでも解放後にドイツ軍に協力した女性がリンチに遭って、丸刈りにされて晒し者・・と、占領軍の協力者となるのは生きるためにある意味、当然のことなんでしょう。



by ヴィトゲンシュタイン (2016-04-21 06:11) 

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