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ドイツ空軍、全機発進せよ! [ドイツ空軍]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ジョン・キレン著の「ドイツ空軍、全機発進せよ!」を読破しました。

英国人の著者によるこの有名な本書は、タイトルや表紙の雰囲気から
勝手に「バトル・オブ・ブリテン」を中心に描いたものと思っていましたが、
序文を書く、英空軍スレッサー大将の
「NATO空軍所属の士官各位に、必読の書としておすすめする」を読み、
原題もそのものズバリ「ザ・ルフトヴァッフェ」であることで
まったく想像していたものと違うことがわかりました。。

ドイツ空軍、全機発進せよ!.JPG

まずは第一次世界大戦における空の戦いの様子から・・。
大エース、リヒトホーフェンの空戦から、ツェッペリン飛行船によるロンドン空襲、
そして「リヒトホーフェン戦隊」を引き継いだヘルマン・ゲーリング中尉の活躍。

Goring01.jpg

敗戦後の苛烈なヴェルサイユ条約を甘んじつつ、禁止された空軍の再建のため、
ゼークトを長官とする国防軍は、民間航空会社ルフトハンザを利用します。
パイロットであった腹心エアハルト・ミルヒが筆頭常務になったことで
乗員育成訓練計画も軍隊色となり、新ドイツ空軍発足の際には
大量の民間パイロットが移籍し、ルフトヴァッフェの中核になっていきました。

本書ではこのように一般的に「ルフトヴァッフェ生みの親、ゲーリング」と云われることには反対で
ゲーリングが表舞台に出てくる10年以上も前に、思慮深いゼークトによって
国防軍の中にその充分な基礎が出来ていたのだとしています。

Hans von Seeckt.jpg

続いてはスペイン内戦。ガーランドメルダースも戦闘機乗りとしてデビュー。
「政治性もなければ、世論に対する考慮も皆無な軍人根性まるだしな猪首」という紹介の
フーゴ・シュペルレ率いるこの「コンドル軍団」は、開発した戦闘機や爆撃機の
試験の場として利用します。
そして、それはピカソの「ゲルニカ」で世界中に知られることとなった
バスク地方の田舎町「ゲルニカ空爆」を引き起こします。

Hugo Sperrle2.jpg

ヴァルター・ヴェーファー初代参謀総長は四発重爆の推進者で、Do-19などの
開発を推し進めますが1936年に事故死。。。
それによりゲーリングによって技術開発部局長の座に半ば無理やり就かされた
元大エースのエルンスト・ウーデットが急降下爆撃機に傾倒したことから
四発重爆を用いた長距離戦略爆撃という理念はルフトヴァッフェからは失われていきます。

Udet and Molders.jpg

そしてそのJu-87 シュトゥーカ急降下爆撃機がポーランド、フランスで
地上部隊の支援機としても大活躍をし、ウーデットの名も高まります。
しかし、バトル・オブ・ブリテン・・。英国本土爆撃ではその足の遅さから
スピットファイアの格好の餌食となり、護衛についたメッサーシュミットBf-109にも
大きな負担がかかるばかり・・。

Junkers_ju 87.jpg

バルバロッサ作戦が発動されても一向に進まない新型機開発と
ミルヒの策謀とゲーリングの知らん顔に病み、追い詰められたウーデットは自殺・・。

旗艦シャルンホルストを擁するブレスト艦隊のドーヴァー海峡突破の「ツェルベルス作戦」。
新型戦闘機フォッケウルフ FW-190とBf-109の252機を護衛とした空海共同作戦も
詳しく書かれていますが、このドイツの大艦隊にたった6機の旧式ソードフィッシュで
生還の見込みのない攻撃に挑んだ若きアイルランド人、
ユージン・エズモンド海軍少佐のドラマは特別に印象に残りました。

Eugene Esmonde is second from left.jpg

ドイツ海軍の日誌でも「博物館から引き出してきたような古色蒼然の少数機による古風な攻撃」
と書かれ「しかし、その乗員の勇敢さたるや・・」と海軍らしい感想で締めくくっています。

Swordfish Channel Dash.jpg

1942年にはスターリングラードで包囲された第6軍に対する空からの補給任務が・・。
ゲーリングの安請け合いに困った参謀総長のイェショネクですが、
「総統閣下に、誓ってやりとうせますと言うんだ!」とゲーリングに叱責され苦境に立たされます。
ミルヒとリヒトホーフェンがありとあらゆる輸送機を必死にかき集めますが、
極寒の地では思うようにことは運びません。

Milch&Richthofen_ Hitler declared Milch Aryan_ He was awarded the Ritterkreuz for his performance during the campaign in Norway in 1940.jpg

同じことは続くチュニジアへの輸送機問題でも明らかになります。
北アフリカで追い詰められたアフリカ軍団を救うために
"ギガント"ことMe-323が投入されますが、戦闘機の護衛も受けられない
この空の巨人20機中、18機が撃墜されたという話は
ヘルマン・ゲーリング戦車師団史」にもありましたね。

me 323.jpg

スターリングラードの補給の失敗の責任をゲーリングから着せられたイェショネクも
ドイツ本土の各都市への大空襲が続き、「V兵器」の開発拠点である
ベーネミュンデまで爆撃されると、戦争の行く末に絶望し、遂に自殺・・。

Hermann Goring, Hans Jeschonnek.jpg

終戦も近づいてくると、いつものようにジェット戦闘機Me-262などが登場しますが、
本書ではその他の「秘密兵器」も紹介しています。
特におんぶ式親子飛行機「ミステル」はその使用方法も詳しく書かれ、
爆撃機隊の元締めであるペルツなども大いに興味を持ち、
実際、連合軍の上陸船団に対する攻撃に用いられて、
フランスの旧式戦艦クールベを見事、撃沈したそうです。

Mistel.jpg

また、小型有人ロケット機、Ba 349「ナッター(まむし)」も出てきます。
これは連合軍の爆撃機編隊に向かって垂直に飛び掛り、
その編隊の中央に必殺のロケット弾を叩きこもうとするもので、
これらの実験の様子から、いざ、実戦配備・・となかなか楽しめました。

Ba349-Natter.jpg

有名なエース・パイロットたちが次々と紹介されるものではなく
ロンメルの北アフリカでマルセイユが消耗しきって戦死するのが出てくるくらいで、
空軍以外の人物もあまり紹介されません。
たまに出てきても、古い本なので、例えばフェリックス・シュタイナーSS大将などは
「ナチ突撃隊の首領、シュタイナー」といった前時代的なスゴイ紹介です。

どちらかと言えば、エース・パイロットの活躍より上層部の軋轢、
その結果、開発される戦闘機や爆撃機、輸送機が如何なるものだったのか・・
ということに焦点を当てている印象です。

また、本書を読んでいて特に感じたことのひとつに、「戦略爆撃」というのが
隠れたテーマになっている気がしました。
第一次大戦の英国本土空爆からゲルニカ、ワルシャワ、ロッテルダム、
そして再び、ロンドン空襲と続いたドイツ軍による空爆が「種を蒔き」
それが後に連合軍による、ケルン、ハンブルク、ドレスデンといった都市を壊滅させる
「戦略爆撃」として刈り取られた・・としています。

Bomber Harris_Sir Arthur Harris.jpg

そしてアーサー・ハリス英空軍爆撃機軍団司令官を取り上げ、
彼が、「無差別爆撃こそ、戦争の決め手となる」ことを提唱し続けた人物と紹介しています。
やはり日本人として、特に東京の下町で生まれ育った人間としても
「東京大空襲」という過去を身近に感じでいるだけに、
このようなテーマには特別なものを感じました。



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