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スペイン戦争 [欧州諸国]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。
明けましておめでとうございます。

三野 正洋 著の「スペイン戦争」を読破しました。

スペイン内戦というテーマには数年前から挑戦してみたいと思っていました。
ナチス・ドイツの「コンドル軍団」派遣や、「ゲルニカ爆撃」程度は読んできましたが、
ど~も、本腰を入れづらい・・というか、背景や組織がややこしそうと、いつまでも敬遠・・。
そんなヘタレの独破戦線は、今年は勝手にチャレンジがテーマ。
そこで今回、本格的に理解するための取っ掛かりとして、
1997年、436ページの朝日ソノラマを選んでみました。

スペイン戦争.jpg

「まえがき」では、日本でも10数点のスペイン戦争に関する著書が出版されているものの、
革新的な勢力を心情的に支持しているために、イタリア・ドイツを含む
フランコ側に対する非難の色合いが強いとしています。
また、単純に「ファシズム = 悪」とも叫びたくないと、本書の中立性を宣言します。
いきなり難しい問題ですねぇ。
独破戦線は完全なドイツ寄りですから、戦記としてはフランコ・ファシスト軍を応援したいですが、
個人的に20数年のFCバルセロナ・ファンであり、レアル・マドリー嫌いという、
サッカーにおいては「反フランコ」なんですね。。
この精神的アンバランスが、今までスペイン内戦を掘り下げようとしなかった理由かも・・。

FC Barcelona 1994.jpg

第1章は「スペインの予備知識」です。
スペイン地図を掲載して、各地方と各都市を理解します。
「バルサとレアル スペイン・サッカー物語」というアンダルシアやバスクにも
言及した本を以前に読んでいますし、リーガ・エスパニョーラも毎週観ていますから、
行ったことのないスペインですが、この地理関係はOKですね。

それから「用語集」。
反ファシスト軍の総称が「人民戦線」であるとか、「コミンテルン」、
「無政府主義(者)、アナーキズム(アナーキスト)」、「ファシズム」といった言葉の意味。
恐らくこのBlogで初登場の「アナーキスト」ですが、
これについても少年時代セックス・ピストルズを毎日聞いていただけに、まったく問題なし。
ご存じない方に「anarchy in the u.k.」を英語とスペイン語歌詞でど~ぞ。



しかしさらに細かく組織単位の解説になると、コレがなかなか大変です。
政府である人民戦線側は、共産党、社会党、無政府主義者が主であり、
クーデターを起こした反政府側は、カトリック教会、軍人、ファシズム支持派が中核です。
真っ赤な共産党はカトリックを弾圧しますから、教会が反政府につきますし、
軍人と言っても一枚岩ではなく、フランコらはスペイン陸軍の正統派である王党支持グループ。
陸軍とは犬猿の仲の海軍士官は、政府側につく・・という分裂も起きています。

Generalissimo Franco TIME.jpg

第2章は「戦争前夜のスペイン」で、内戦に発展した政治的背景を解説します。
1920年代から始まった労働条件改善のストライキ、
共産主義者とアナーキストによる扇動、バスクやカタルーニャ分離主義者の存在、
政治テロによって1800人以上が殺されるという混乱続きのなか、
1936年の総選挙で左派の人民戦線側が勝利。
それによって貴族や地主、資本家に教会関係者らは国外に脱出。
イメージ的にはソ連の革命そのものですね。こうして軍部による反政府クーデターへ。

第3章では始まった「戦争の経緯」を簡単に年表と共に振り返り、
第4章で「各国の態度と介入の度合い」へ。
早速、フランコ側についたイベリア半島の隣国ポルトガルに、
コンドル軍団を派遣したドイツ。

LEGION CONDOR.jpg

最大級の介入を行ったのはファシスト・ムッソリーニのイタリアで、
5万人の遠征軍(CTV)を送り込みます。
総司令官はロアッタ将軍で、正規のリットリオ師団の他、
黒シャツ、黒い矢、黒い焔の名の付いた急造3個師団です。

Mussolini and Francisco Franco.jpg

一方の政府側には当然、共産党のボスであるソ連が、1000人の軍人と、
ポリカルポフI-16戦闘機、T-26戦車を派遣して全面バックアップ。
この当時としては世界屈指の最新兵器です。
また、フランスもこの時、右左に政治が揺れ動いており、左派のレオン・ブルム内閣が誕生。
同じ人民戦線としてスペイン政府支援に立ち上がるのでした。

第5章は「主要な戦闘」と題して、マジョルカ島を中心としたバレアレス諸島の争奪戦に、
内戦勃発から33か月間続いた首都マドリード攻防戦などを紹介。
なかでもグアダラハラの戦闘では、例の恐ろしげな黒シャツ、黒い矢、黒い焔師団が
見かけ倒しの民兵隊以下であり、先に逃げ出すのは常にイタリア軍人であった・・と。
最新鋭の装備を持ちながらも、敵の強力なT-26、BT5戦車70両の攻撃の前には
敵味方のスペイン人から笑いの種にされてしまうのもしょうがないですね。
この戦闘で戦死者2000人も出している位ですから・・。

frecce_nere_C.T.V..jpg

悪名高い「ゲルニカ爆撃」については4ページほど。
著者は「軍事的に見るかぎり、特別に非難されるものではないように思える」との感想です。
まぁ、この攻撃の真意についてはいろんな説がありますからねぇ。。

Dis Guernica nadat dit gebombardeer was in April 1937.jpg

ビルバオの戦闘ではフランコと共に反乱軍の指導者だったモラ将軍が、
飛行機事故で死亡します。
ゲルニカ爆撃に対するバスク人の復讐説に、フランコ将軍のライバル暗殺説など、
さまざまな噂がスペイン中を駆け巡りますが、
何はともあれ、フランコにとっては、その独裁的な地位が確立されたわけです。

Emilio_Mola.jpg

このちょうど半分が過ぎたところで、戦争自体は終わってしまいます。
以降の章は航空戦、海上戦闘、機甲戦単位で、より詳細に振り返りますが、
ど~も、どこまでが概要で、どこから本文なのかが良くわかりません。
その航空戦、まずコンドル軍団の解説では後期に投入されたJu-87が有名になったものの、
最も活躍した急降下爆撃機として、Hs-126を挙げています。

hs126.jpg

旧スペイン空軍では1000人のパイロットのうち70%がフランコ側につき、
反対に3000人の整備員の大多数が共和国(人民戦線)側につくという、大分裂が・・。
これは、パイロット = 士官(貴族・上流階級)、整備員 = 兵士(労働者階級)という図式です。
そしてフランコ空軍のスペイン人パイロットであるホアキン・ガルシア・モラト少佐が、
40機撃墜のトップエースということです。なかなかの数字ですねぇ。

GARCIA MORATO.jpg

無敵艦隊と云われたスペイン海軍も内戦が始まると混乱に見舞われます。
戦艦ハイメ一世の艦上では、空軍と同様に士官vs水兵に分かれた戦闘となりますが、
当然、人数の多い水兵側の勝利。80名の士官の全員が殺されてしまいます。
しかし、士官のいなくなった軍艦を水兵だけで操るのは大変で、行動不能になったり・・。

JaimeI.jpg

そしてドイツ海軍も最新のポケット戦艦ドイッチュラントを地中海に送り込み、
共和国政府が維持している湾岸都市や軍事施設に艦砲射撃を実施。
しかしマジョルカ島でツポレフSB-2爆撃機の攻撃を受け、死者31人、負傷者83人を出し、
設備の良い病院があるとの理由で、英海軍勢力下のジブラルタル軍港へ逃げ込みます。

deutschland.jpg

陸上の機甲戦の主役はソ連製の10㌧級最新戦車T-26とBT5です。
これに対してイタリアはL3軽戦車を600両も送り込みますが、1/3程度の3㌧しかないうえ
7.9㎜機関銃だけしか火力がなく、到底、太刀打ちできません。

cv33.jpg

フォン・トーマの指揮するドイツ装甲部隊もⅠ号Ⅱ号戦車では歯が立ちませんが、
1200門にも及ぶ、37㎜対戦車砲(PaK36)がソ連戦車を撃破。
また、フランコ側には鹵獲したソ連戦車も30両はあったということですから、
スペイン内戦でのT-26の写真だからといって、人民戦線側とは限らないようですね。

tanks in Spain.jpg

第9章は「国際旅団と外人部隊」です。
フランコ軍の反乱から共和国を守るために、世界54ヶ国から数万人が駆けつけ、
8個の国際旅団が編成されます。
ファシズムの蔓延に強い嫌悪感を抱いた知識人や労働者、学生たち、
または思想とは関係なく、単に冒険を求める若者たちの集まりですが、
スペイン語も話せず、軍事訓練も受けたことがない連中ばかりですから大変です。

中立を装っている英米からも大勢参加しているだけでなく、
ヒトラーやムッソリーニの政策に反発しているドイツ人、イタリア人の姿まで・・。
もちろんヘミングウェイも人民戦線側の取材記者として参加し、
帰国後、「誰がために鐘は鳴る」を発表するのです。
子供の頃にこの映画をTVで1回観ただけで、ほとんど覚えてないのが悔しいところ。。
ゲーリー・クーパーとヒトラーが好きだったというイングリッド・バーグマンですね。
ありゃ、これは「真昼の決闘」のペアじゃないの?? と思ったら、
あっちはグレース・ケリーでした。

For Whom the Bell Tolls_japan.jpg

また、ロバート・キャパの有名な「崩れ落ちる兵士」も含め、
こういうところからも、共産・共和国政府が「善」とされるんでしょうね。

Carteles de la Guerra Civil Española.jpg

函館出身とされるニューヨークの料理人、ジャック白井について9ページ割いています。
米共産党の義勇兵としてスペインへと向かい、食事だけでなく機銃手としても活躍。
しかし、そんな「戦うコック」も狙撃兵の銃弾を頭に受けて、戦死・・。
ちょうど10月に「ジャック白井と国際旅団 - スペイン内戦を戦った日本人」が
文庫化されました。ちょっと気になりますね。

jack shirai.jpg

内戦も2年目の1938年になると、フランコ軍の優勢は明らかとなり、
たいした戦闘力のない国際旅団は大隊単位で全滅することもしばしば・・。
本国で「大粛清」の始まったソ連軍も粛清されるために装備を残して引揚げ、
人民戦線内部でも共産主義者とアナーキストが殺し合い・・。
指導者たちはピレネー山脈を越えてサッサとフランスへ亡命します。。
ツール・ド・フランスのピレネー・ステージのような必死さでしょうか。

FALANGISTAS EN EL DESFILE DE LA VICTORIA.jpg

最後の章ではこの戦争を分析し、登場人物を改めて詳しく紹介します。
さて、本書は評価が分かれる気がしますね。
半分過ぎまで読んで、「お~、この展開で最後まで行くのか・・」と心配になりましたし、
実際、戦記らしい盛り上がりもなく、なんとなく終わってしまいます。

Four female Loyalists patrol the street with rifles over their shoulders, 1937.jpg

しかし、こうして振り返って見ると、それもまたアリなのかなぁ~と・・。
今まで、なかなか理解できなかった各々の組織とその関連性、
この内戦を理解するにはコレ位の基礎知識が必要だとも思います。
本書が面白かったか・・?? というよりも、本書を読んで、
スペイン内戦が頭の中でイメージできるようになったのは確かです。
これでいよいよ、ビーヴァーの「スペイン内戦―1936-1939」いけるかな? 

それとも上下巻で1575ページ!のボロテン著「スペイン内戦 革命と反革命」。。
いやいやコレは無理だ。
とりあえず元旦早々、パエリア食べて気合だけは入れました。



















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