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卍とハーケンクロイツ -卍に隠された十字架と聖徳の光- [ナチ/ヒトラー]

ど~も。おととい初めて「ナウシカ」を観たヴィトゲンシュタインです。

中垣 顕實 著の「卍とハーケンクロイツ」を読破しました。

先日、神保町の三省堂で「スターリンの将軍 ジューコフ」でも軽く立ち読みしてみようか・・と
フラフラしてたところ、おすすめ本コーナーのような場所で本書を見つけました。
今年の6月に出た230ページの一冊ですが、ズバリなタイトルと表紙に惹かれました。
以前から気になっていたテーマでもありますし、いつになく楽しみです。

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初めて「卍」を意識したのは、小さい頃にTVで見ていた「仮面の忍者 赤影」の「卍党」です。
いわゆる悪の組織でショッカーみたいなモンですが、とても印象的でした。
小学校低学年でナチスも知らない時ですから、この「卍」に特別なインパクトがあったんでしょう。
しかし、「卍党」って書くと、「ナチ党」の略語みたいですね。

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「序章」では本書がニューヨーク神学校での伝道学博士論文がベースであり、
2012年、著者の住むブルックリンのアジア系宝石店で「卍」のイヤリングを売っていたことが
新聞沙汰となり、店主は「卍」はチベットの幸運のシンボルだと説明したものの、
「一般人には、卐(スワスティカ)は憎悪のシンボルである」と政治家までもが介入。
英語では「卍」も、「卐」(逆まんじ)もスワスティカと呼びますが、
西欧社会ではとにかく「邪悪なシンボル」であることを解説します。

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そして第1章は「日本・仏教における(卍)」です。
地図にはお寺のマークに「卍」が使われ、浅草寺には屋根や焼香台、
灯篭などにも「卍」が見られ、海外からの観光客も違和感を覚えています。
本文には白黒写真も掲載されていますが、巻頭には7ページほどのカラー写真があり、
本文とリンクしていてわかりやすいですね。
神社は「鳥居」のマークで表されますが、近所の根津神社は「卍」が多く使われているそうなので、
カメラを持って行ってきました。

Nezu Shrine.jpg

ははぁ、気が付かなかったなぁ。「卍」だらけです。

Nezu Shrine2.jpg

その他、お土産グッズやら、家紋やらと「卍」は生活の中に浸透し、
アントニオ猪木の「卍固め」も紹介。あ~、そうか、それもありましたか。
プロレス好きでしたから良く友達と掛けたり、掛けられたりしたもんです。
ミル・マスカラスの大ファンだったので基本、全日を見たり、観に行ったりしてましたが、
後楽園ホールで開催された新日のファン感謝祭にも行きましたね。。
藤波 辰巳がまだ、ジュニアヘビー級チャンピオンだった頃のことです。

Octopus hold.jpg

1999年には日本のみで発売されていたポケモン・カードに「卍」があり、
それが海外へ流出したことで大きな論争に発展。
任天堂は謝罪しますが、相手はアジアでも「卍」を使うなという論調・・。
世界はユダヤ人のためにあるわけでないと、著者は語っていますし、
任天堂、謝んなよ!と、思わず心の中で叫ぶほどムカつく話ですね。
ヒトラーもハーケンクロイツもまだ出てこないのに、コリャなかなか楽しい。

pokemon-swastika.jpg

そもそも本来の「卍」の意味はというと、
大吉、幸運といっためでたい兆しである「吉祥」と、
いろいろな功徳があるという意味の「万徳」。
「卍」は幸せのエキスが詰まったシンボルであるのです。
そしてサンスクリット語の吉祥・万徳を意味するスワスティカという言葉に由来し、
インド・ヒンズー教のヴィシュヌ神と関係が深く、仏教伝来とともに日本に伝わります。
仏の胸には「卍」があり、平安時代に作られた阿弥陀如来像にも「卐」が・・。

阿弥陀如来 卍.jpg

また、仏教のスワスティカは経典によると右回転「卐」とあるそうですが、
現在では左回転「卍」がスタンダード。
その理由は、影響力のあった中国仏教が639年に左回転「卍」を正式な漢字とし、
それ以降、すべての仏教に定着したとしています。

swastika.jpg

第2章では「世界中にあるスワスティカ」としてその起源にも触れます。
スワスティカはもともと太陽を現すシンボルと考えられ、
「卐」はインダス文明の頃にまで遡り、3000年もの聖なる歴史があるということですが、
面白かったのは西洋文化、特にユダヤ教の古代シナゴーグ遺跡からも発見されており、
ダビデの星」がユダヤ教の聖なるシンボルならば、
その横にあった「スワスティカ」も同様と考えるべき・・という話ですね。皮肉だなぁ。。

Swastika on Ein Gedi synagogue mosaic floor. Discovered 1965.jpg

アメリカ・インディアンもスワスティカを使用していました。
その意味は部族によって異なるようですが、治療・癒しの聖なるシンボルなど・・。
やがて白人開拓者にも広がって、カウボーイのピストル革ケースや、
乗馬の鞍などに、四葉のクローバーとともに幸運のデザインとして使われます。

Indian swastika.jpg

こうして1930年までは米国大衆文化にも浸透したスワスティカ。
1925年にはコカコーラのデザインにもなります。

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絵葉書も星条旗とスワスティカの組み合わせ。
まるでルーズヴェルトとヒトラーが手を結んだプロパガンダ絵葉書みたい・・。

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第3章は「ホロコースト」です。
著者はヨーロッパのユダヤ人とホロコーストを知るために、
トレブリンカアウシュヴィッツザクセンハウゼンの3つ強制収容所を巡り、
博物館となっているアンネ・フランクの家、同じくオスカー・シンドラーの工場も訪問。
ワルシャワでは長老ラビとも会談します。

こうして第4章は「ハーケンクロイツとスワスティカ」の関係へ・・。
ヒトラーの「わが闘争」のドイツ語版、英語版、日本語版から重要な部分を抜粋します。
ドイツ語版で「ハーケンクロイツ」と書いていたものが、「スワスティカ」に英訳され、
日本語版では「鉤十字」と翻訳されていることに注意を払い、
ヒトラーがインド起源のスワスティカという言葉を知っていながら、
あえて「先端の曲がった十字架」という意味で知られていたハーケンクロイツを使ったとします。

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すなわちキリスト教における十字架の一種が「ハーケンクロイツ」であり、
ヒトラーが制定したドイツ十字章(Deutsches Kreuz)のデザインも
ハーケンクロイツだということは「卐」が十字架である証拠としています。

それは複数の英語版を比較して、より詳しくなります。
1933年の初期の英語版ではスワスティカではなく、「Hooked Cross」が使われていて、
1939年以降の版からスワスティカに切り替わります。
著者はこれをドイツ軍が十字架を持って戦っていることを意図的に
英米が国民から隠そうとしたと推測します。
ナチス国旗は東洋の怪しいシンボルであるスワスティカであり、
英米は真の十字軍である・・といった図式ですね。
こうして「卐」スワスティカは、ホロコーストの代名詞となっていくのでした。

Leibstandarte SS Adolf Hitler.jpg

第5章「ヒトラーの隠された十字架」では、「卐」のデザインが採用された経緯を検証。
歯科医フリードリヒ・クローンが提出したデザインをヒトラーが手直ししたのが
「ハーケンクロイツ」だというのはわりと知られた話ですが、
本書ではこのクローンがトゥーレ協会の会員であったことから
同協会のシンボルの丸みを帯びた「鉤の十字架」であっただろうと推察。

Thulela.jpg

ヒトラーユーゲントが人文字で描いているのは丸みを帯びたデザインですね。
これは「sonnenrad」という名前で、回転する太陽を現すようで、
第5SS装甲師団「ヴィーキング」もコレだったなぁ。

Hitler youth honor an unknown soldier by forming a swastika symbol on Aug. 27, 1933.jpg

ナチ党婦人部のピンバッジでは、前に紹介したのとはちょっと違う
こんなデザインも見つけました。

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ヒトラーによって今の形となり、赤を基調にした配色も完成。

Hitler_Hakenkreuz.jpg

オフィシャル・デザインの人文字も作ります。

Die Hakenkreuz und der Krieg und Frieden zeigen.jpg

基本的には「卐」に45度の角度をつけたものが正式なナチ党のシンボルですが、
本書でも触れられているとおり、角度の付いていないものも存在します。
特に連隊旗はそうですね。
党大会の会場であるツェッペリンフェルトにも角度なしが据えつけられていますが、
角度ありと無しの区別は不明です。
ただ、角度のある方が革命運動が回転しているように感じるのも確かです。

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でも、もともとのトゥーレ協会の鉤の十字架が角度がついていますし、
十字架は必ずしも「十」形ではなく、
スコットランドのセント・アンドリュース・クロスのように「X」形も存在します。
X十字による磔刑」というヤツですね。

さらに1873年、ドイツ人のシュリーマンが古代トロイ遺跡を発掘し、
そこで多くのスワスティカのモチーフを発見したことで、
インド・ヨーロッパのシンボルとして国際的な注目を浴び、
20世紀初頭に欧米で幸運のシンボルとして大衆化したということです。
本書に掲載されているものでありませんが、
1920年のヒトラー・スケッチと呼ばれているものもあったりして・・。

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第6章では「アーリア人卓越民族思想」について詳しく書かれ、
第7章ではキリスト教の歴史における「反ユダヤ主義」、
そして新たに「ハーケンクロイツ(鉤の十字架)」を掲げたヒトラーの聖戦へと進みます。
主にマルティン・ルターの書いた「ユダヤ人と彼らの嘘について」から抜粋し、
「ユダヤ人は毒蛇の子、サタンの子どもである」という強烈な反ユダヤ主義を紹介。
ヒトラーが受けた影響にも言及します。

martin luther_hitler.jpg

また、十字架そのものがユダヤ人にとっては否定的な、反ユダヤ主義のシンボルであり、
それはキリストを十字架にかけた責任がユダヤ人の罪である・・という歴史にも触れ、
改めてハーケンクロイツは、新たなドイツ人キリスト教のシンボルだとしています。

巻頭ではフィンランド空軍のスワスティカ・マークの他にも、
ハーケンクロイツが図柄のクリスマス切手がカラーで掲載されていましたが、
「DNSAP」っ誤字ってんじゃないの?? と調べてみたら、デンマークのナチ党でした。
ドイツ語の「NSDAP:Nationalsozialistische Deutsche Arbeiterpartei」じゃなく、
「Danmarks Nationalsocialistiske Arbejderparti」。略して「DNSAP」です。

Danish Nazi Party_dnaps-1938_swastika above candle.jpg

このように「卍(まんじ)」、「卐」も、神聖なシンボルとして3000年も敬われ、
ヒトラー政権が起こした、たった12年間の行動には責任がなく、
スワスティカも被害者なのだと締め括ります。
そして大量殺戮とは正反対の平和のシンボルのはずなのに、
いまだにそれを認めない西欧の世界。
一方的な西欧中心の世界観と価値観を、他国に押し付けることに苦言を呈します。

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ニューヨーク仏教連盟前会長、浄土真宗の僧侶の研究書・・と書くと、
仏教徒である日本人でも難しそうな内容に感じますが、そんなことはありませんでした。
個人的には宗教は全般的に疎い人間ですが、仏教の起源やその伝来、
ユダヤ教とキリスト教についても勉強になりましたし、
卍(まんじ)と、卐(ハーケンクロイツ)、そしてスワスティカが頭の中で整理できました。

もちろんハーケンクロイツが、「新たなドイツ人キリスト教のシンボル」というのは
仮説なわけですが、ヒトラーが1920年代から教会とは巧くやっていたことを思い出しても
悪くない仮説だと思います。
ヘインリッヒ・ヒンムレルなんて誰だかわからない人も出てきますが、
これくらいは許容範囲でしょう。(Heinrich Himmler)とも書かれてますしね。
宗教を中心としてワールドワイドな観点から見た著者ならではの、
他に類を見ない優れた一冊ではないでしょうか。







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