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資料が語る戦時下の暮らし -太平洋戦争下の日本:昭和16年~20年- [日本]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

羽島 知之 編著の「資料が語る戦時下の暮らし」を読破しました。

去年に「遊就館」に行った影響で、日本についても勉強しているところですが、
膨大な数の書籍の存在する日本軍戦記の前に二の足を踏みつつも、
銃後の生活にも大変興味があります。
6月の「戦う広告 -雑誌広告に見るアジア太平洋戦争-」なんかもその一つですし、
ナチス・ドイツで言えば、「写真で見る ヒトラー政権下の人びとと日常」や、
健康帝国ナチス」、「戦時下のベルリン: 空襲と窮乏の生活1939-45」、
ヒトラーを支持したドイツ国民」などがソレに該当すると思います。
本書は2004年発刊で、165ページながらも大判のオールカラー。
銃後の写真やグッズが盛りだくさんの一冊です。

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昭和16(1941)年の太平洋戦争勃発から始まります。
最初の「出征」というテーマでは、まず「臨時招集令状」の実物が・・、いわゆる「赤紙」です。
続いて「千人針」。
コレは千人の女性が一針ずつ縫った布を身に付けていると、敵の弾丸に当らない・・
と言われているもので、「昭和館」でブロ友のIZMさんに教えていただきました。
本書は資料の解説だけでなく、このテーマごとの概説がわかりやすくて良いですね。

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「食料」では、調味料にお菓子、そして燃料も配給制となります。
「家庭用豆腐菓子購入券」や、「家庭用品燃料通帳」といった類が登場。
非常時に備え、食用野草や、調理設備のない場合の工夫を知っておくよう教育され、
コレを教える「決戦食講習会」の受講券というのは強烈です。

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綿花や羊毛の輸入量激減のため、「衣料品」も切符制の配給に・・。
1人に割り当てられた点数は、農村部(甲種)で80点、都市部(乙種)は100点で、
1年間有効です。
掲載されている衣料切符を見ると、1点の「手編み糸1オンス」に始まり、
最高点である63点の「背広三つ揃い、男子外套」まで詳しく書かれています。
ネクタイにハンカチーフなら2点、猿股、パンツ、褌、ブルマー、ズロースが5点、
ワイシャツ、スカートなら15点、婦人ツーピース上下揃一式だと35点、
国民服、訓練服、学生服が40点って結構、高いですね。
10点の「シゴキ」ってのはいったいなんでしょう??

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こんな時代の女性にオススメだったのが、決戦服と呼ばれた「もんぺ」です。
簡素で動きやすい活動着として普及したものの、その不恰好さに不評の声も。。
名古屋市主催の「決戦型婦人服装展」の案内は確かに微妙ですね。
なんでもかんでも「決戦」って付ければいいってもんじゃないでしょう。

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「供出」では以前に「ここに銀が要る!!」という広告がありましたが、
今回は研磨や切削加工に必要な物質である「ダイヤモンド」が対象です。
「隣組回報」(回覧板)では、「贅沢は敵だ!!! ダイヤモンドを売りませう」と書かれ、
「ダイヤモンド工具は航空機、電波兵器等の生産上なくてはならないものだ。
個人が死蔵しているよりも国家に捧げ、米英撃滅の為に役立たせた方が、
はるかに有益であろう」。
買い取り価格は1カラットに付、1500円となっております。

白金(プラチナ)も同様で、
もし白金に心があるのだったら、この決戦に自分の本来の使命を果たすために、
箪笥から飛び出してでも戦列に加わるでしょう。
米英撃滅のメスとして天晴れお役に立ちたいことでしょう」。

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「防空」、「慰問」と続いて、「娯楽」です。
軍歌や愛国歌のレコードが次々と発売され、ラジオからも流れてきます。
ビクターから出た「撃て!米英」という愛国歌は、歌詞が素晴らしいので紹介しましょう。

断乎と打ち斃せ 邪悪の國を
アメリカ イギリス われ等の敵ぞ
幾百年の長きにわたり
摂取謀略 飽く無き敵を
われ等の血をもて うち斃せ

と激熱です。一度聞いてみたいですね。

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相撲も食料事情の悪化で壊滅状態、
敵国に由来した野球も中止に追い込まれますが、
昭和17年の雑誌「野球界」の表紙は、全員軍服で銃を担いだ写真。
なかも「巨人部隊の猛訓練」で、捧げ銃などを猛訓練しています。
また、競馬も金銀を使った優勝杯もなくなり、騎手も減少、
競馬場も閉鎖を余儀なくされるのでした。

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「子どもの教育」では各種児童雑誌が紹介されています。
機械化」という国防科学雑誌で専門的な兵器研究を・・。

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少年兵の憧れ「航空少年」からは本文を抜粋。
「真珠湾、アメリカの水兵たちが、一撃にして米太平洋艦隊の全滅と、
みにくい残骸をさらした飛行機を目の前に見た時の
阿呆づらが見たかったと思います。
僕もきっときっと少年飛行兵になって、
あの憎い憎いヤンキー共をやっつけて見せるぞ」。

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他にも「週刊少国民」という兵士に憧れるような雑誌に、
戦争映画の与える影響も・・。
4年生男子「日本の兵隊さんがあんなに強いことがよくわかった」

6年生女子「戦いというものがどんなに大変であるかということを
聞かされていた以上にわかりました」

5年生女子「日本は本当に強い国だと思いました。
なんとも言えないほどうれしい気持ちになりました」

やっぱりゲッベルスのように映像、プロパガンダ映画の影響は強いですね。

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「子どもの遊び」にも戦争が浸透します。
おもちゃは戦闘機に兵隊人形、「紙工作の防毒マスク」までありました。
大東亜共栄圏を一巡する「すごろく」に、軍隊を模した「戦争将棋」。
この将棋は「主都」を中心に、「国民」に「海軍」、「斥候隊」、「工作隊」、
「騎乗隊」、「機化隊」、「衛生隊」などの駒があり、
「動き方が実戦に即しているので、興味津々、やめられぬ位面白い。」
というのがうたい文句です。

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子どもの次は「女性」。
昭和19年の「女子挺身勤労令」によって12歳から40歳までの女性に
1年の勤労が義務付けられ、工場、通信、交通関係の職場に
多くの女性が動員されて、真剣に労働に打ち込む姿が雑誌の表紙を飾ります。
写真でみる女性と戦争」を思い起こさせますね。

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しかし女性は子を産み育てることによって、国に尽くすことも期待され、
前線から帰還した傷病兵と結婚することも奨励されます。
このように若い女性を労働力とすべきか、
家庭に入り、人口の再生産とすべきかという問題は、
軍や政府の間で意見の一致を見なかったということです。
前者はソ連的考え方で、後者はナチス的考え方のように思いますね。

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「健康」。
戦時中に結核死亡率は過去最高に達したうえに、食料にも事欠くこの時代。
栄養補助剤を摂取しなければなりません。
となれば、やっぱり胃腸と栄養に・・の「わかもと」に、
充実した気力と旺盛な体力を盛上る・・「仁丹」。
鼻病は増産の敵だ・・の「ミナト式」も定番の広告ですね。

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「国の宝」という名の妊産婦用の通帳には、特別配給券が綴られていて、
妊娠5ヵ月目から、毎月1回「菓子パン3個」が、
出産予定月になった者は「石鹸」が購入できたそうです。
石鹸って・・。

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国民健康であれば「増産」も可能です。
昭和20年に「国民勤労動員令」によって中学生以上の学生や
40歳未満の未婚女子が根こそぎ徴用されます。
白紙」と呼ばれた徴用告知書は初めて見ました。
拒否すれば1年以下の懲役か、1000円以下の罰金です。

「産業報国新聞」には過労死が美談として掲載。
学徒報国隊」の腕章も印象的です。

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そして戦局は悪化の一途を辿り、遂に「学徒出陣」、「学童疎開」と続きます。
「本土空襲」が始まると、伝単と呼ばれる米軍の「宣伝ビラ」が・・。

日本国民諸氏 
アメリカ合衆国大統領 ハリー・エス・ツルーマンより一書を呈す。
ナチス独逸は壊滅せり、日本国民諸氏も我米国陸海空軍の
絶大なる攻撃力を認識せしならむ・・・と、電話をしている写真付きで。

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またある時は、青森、西ノ宮、久留米などの都市名が書かれたビラを撒き、
裏面には以下のような文章が・・。

数日の内に四つか五つの都市にある軍事施設を米空軍は爆撃します。
御承知の様に人道主義のアメリカは、罪のない人達を傷つけたくありません。
ですから裏に書いてある都市から避難してください。

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そして「原爆」が投下されると、8月11日発行の「新聞共同特報」において
新型爆弾に対する心得16か条が発表。

一機でも油断は禁物だとか、壕内退避が有効であるなどの他に、
「軍服程度の衣類を着用していれば火傷の心配はない」やら、
「防空頭巾、手袋を併用すれば完全に護れる」、
「白い下着類は火傷を防ぐために有効である」など、
広島、長崎の実際の被害状況は隠されているのでした。

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いや~、ホント面白かった。こういう本大好きですね。
小学生の子どもたちが戦争映画を観て、聞いていた話が具体的になったように、
第2次世界大戦について、いくら聞いたり、読んだりして知っていたとしても、
実物のカラー写真が持つ印象は圧倒的です。
「独破戦線」でも写真を多用しているのは同じ理由からでもありますが、
本書で一番興味深かった写真は、表紙下の「笑顔で小銃訓練する女性」です。
本文に載っていなかったのが残念ですが、私服のままだし、
まるでお祭りの射的をやっているかのような、不思議な写真です。

本書に続いて、
「神国日本のトンデモ決戦生活―広告チラシや雑誌は戦争にどれだけ奉仕したか」を
読みましたが、こちらはタイトルからも想像できるように、おチャラけた雰囲気です。

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靖国神社にまつわる章では、「靖国システム」や、「靖国フェチ」といった表現を用い、
当時の小学生なら「ハナタレたち」といった具合です。
「一年生のブルマーを上級生のお姉様たちが縫っていたのだ。これには激しく驚愕した」
と、表現もかなりオーバー。

「標準支那語早学」から抜粋した日本軍標準会話、
「お前は人夫に変装して軍状を偵察に偵察に来たのだらう」
「早く白状しろ」
「でないと銃殺するぞ!」
といった尋問の会話シナリオが書かれた興味深いページもあったかと思えば、
「写真週報」の3人娘、
ベルトーニ伊太利大使館附陸軍武官の愛嬢フランチェスカさん、
荒木十畝画伯の愛孫明子さん
オット独大使の愛嬢ウルズラさんを取り上げ、その後の消息を追うものの、
結局はわからずじまい・・。惜しいなぁ。

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全体的に「写真週報」と「主婦の友」からの記事引用が多く、
それらに対してハシャギながら大袈裟に突っ込んでる・・といった内容で、
読んでる方は、当時の生活を冷静に分析するのは至難の技となっています。
笑える人とイラっとする人、極端に分かれるでしょうね。
最近も「ひと目でわかる「戦前日本」の真実 1936-1945」という本が出て、
コレまた気になったり・・。



最後に「資料が語る戦時下の暮らし」に戻りますが、
戦場というのは体験したことがないので理解するのは難しいですが、
銃後の生活はわりと簡単に置き換えてみることが出来ます。
ですから、壮絶な戦記に劣らず、戦争を理解するのに
申し分のない書籍ではないかと思います。





タグ:トルーマン
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