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完全分析 独ソ戦史 -死闘1416日の全貌- [戦記]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

山崎 雅弘 著の「完全分析 独ソ戦史」を読破しました。

10月に独破した「詳解 西部戦線全史」の前に発売されたものですが、
最新の600ページを超える大作、「宿命の「バルバロッサ作戦」」がちょっと気になっているので、
それを読む前に、未読だった同じ独ソ戦の本書を選んでみました。
文庫で382ページですが、「詳解 西部戦線・・」が644ページでもダイジェスト的な
印象だったことを考えると、今回のは「完全分析」とか、「全貌」となっていても、
もっと概要程度になっているような気がしますが、果たして・・。

完全分析 独ソ戦史.jpg

まずは、ヒトラーによる対ソ戦構想と、陸軍参謀本部による作戦構想を解説します。
スウェーデンやフィンランドの鉄やニッケルなどに依存するドイツ軍需産業のためにも
北方のバルト海とレニングラードの占領は優先目標であり、
南部のウクライナも豊富な農作物がとても重要です。
これにより、中央のモスクワ占領の位置づけは「曖昧」にされたまま・・・。

ここでは1941年3月、中央軍集団司令官フォン・ボック元帥
「命令文によれば、~となっておりますが?」と参謀総長ハルダー上級大将に質問し、
それに対して「それは、~と言っているのだよ」と答えるという展開ですが、
いくら参謀総長相手とはいえ、4歳年上の元帥が、上級大将に敬語を使い、
上級大将が元帥に上から目線でそんな言い方して良いんでしょうか?
西方戦役の前には同じ状況で、ボックはハルダーを「きみ」呼ばわりしていた本がありましたが、
実際のところはどうなんでしょう・・?

Time_1941_12_08_Fedor_von_Bock.jpeg

一方のソ連側については≪スターリンは「愚か者だったか≫として、
ドイツの攻撃情報が山ほど入っていたにもかかわらず、それに目をつぶった「真の動機」を
明確にしようとしていますが、結局はよくわからず・・。

Stalin_Voroshilov.jpg

80ページから、いよいよ対ソ戦の幕が上がります。
水路と城壁に囲まれた「ブレスト要塞」の攻防は本書では1ページほどですが、
これには大変興味があるんですね。
この戦いだけで1冊書かれた本が読みたいくらいですが、詳しく書かれたものさえ
ほとんど読んだことがありません。

Brest Fortress.jpg

ただ、いま調べたら、まさにこの戦いの映画が製作されていたのを発見しました。
2010年のベラルーシ/ロシア合作のようですが、コレは面白そうですね。
どこかのメーカーさんがDVD出してくれるのを期待しています。

The Brest Fortress (2010).jpg

やがて中央軍集団がモスクワ攻略を目指す「タイフーン作戦」が発動されますが、
訪れた冬将軍の前に敗北を喫するドイツ軍。
ヒトラーの有名な死守命令を「あの状況下では間違いなく正しい判断だった」と語る
第4軍参謀長ブルーメントリットの言葉を紹介しつつ、
防寒着類の不足によって凍傷となったドイツ兵が22万人に達したとしています。

TankFlag.jpg

翌1942年5月の「第2次ハリコフ戦」では26万人の将兵を失ったソ連軍。
この時期は作戦的に何をやってもドイツ軍の方が一枚も二枚も上手です。。
クリミア半島では第11軍司令官となったマンシュタインによる「セヴァストポリ要塞戦」が・・。
ネーベルヴェルファーやカール自走臼砲列車砲ドーラ
ありとあらゆる火砲を集めた、一大見本市会場と化したこの有名な戦いも大好きですねぇ。
本書では一次も含めて8ページほどの解説ですが、
やっぱりこの戦いだけで1冊書かれた本が読みたいくらいです。

Vzorvannaya tower number 35 coastal batteries of Sevastopol.jpg

1943年、スターリングラードのドイツ第6軍が包囲壊滅し、
ハリコフ防衛を任されたランツ軍支隊に所属するSS装甲軍団司令官ハウサー
ランツ中将に撤退を求めるも、彼は総統命令を優先し、拒絶・・。
しかしSS軍団に属するグロースドイッチュランド師団の指揮権を持つ、ラウス軍団司令官
ラウス中将と協議の末、SS師団ダス・ライヒと共に脱出させることを決定します。
これが「SSの総統命令違反」として知られる件のいきさつのようです。

Raus_Lanz.JPG

クルスクにおける「ツィタデレ作戦」の発動をヒトラーが悩みに悩んだ末、
「政治的理由から必要」と判断した件について本書では「トルコに対するもの」と
力強く解釈していました。
そして満を持して投入されたティーガーなどの重戦車に対して、
「ソ連軍の猛獣ハンター」として紹介されるのは、KV重戦車の車体に
152㎜野砲を搭載した自走砲「SU-152」です。

SU-152.jpg

ドニエプル川を越えて撤退するドイツ軍に追い打ちをかけるべく実施された
ソ連軍1万人の空挺降下作戦。
しかし半数程度しか目標地点に降下させることができず、
ネーリングの第24装甲軍団の真上に降下して、着地する前に機銃掃射により
絶命する者も多数出る始末・・。
それでもキエフが遂に陥落すると、第4装甲軍司令官のホトがこの責任を取らされることになり、
ヒトラーによって罷免されてしまいます。。。

Hermann Hoth.jpg

チェルカッシィの包囲戦、逆に900日間包囲されていたレニングラードの解放
ソ連軍の大攻勢「バグラチオン作戦」の発動・・とオーデル川まで押し戻されたドイツ軍。
1945年2月にはジューコフの第1白ロシア方面軍に対する反抗「冬至(ゾンネンベンデ)作戦」で
起死回生を図りますが、燃料弾薬は3日分、わずか5㌔前進ただけ・・。
ある指揮官は「敵は我々が反撃したことに気づいてくれただろうか」

Manstein_greeting_soldiers_from_72_Inf_Div_who_had_escaped_from_the_Cherkassy_pocket.jpg

ベルリンの最終戦ではヴァイクセル軍集団司令官のハインリーチと第9軍のブッセ
第3装甲軍のマントイフェルといったお馴染みの面々が登場してくると、
それまでスターリンとジューコフ、ヒトラーとマンシュタインの有名な会話以外、
ほとんど言葉のやり取りがなかった本書も、他の最終戦モノの同様に
上記の3人が頻繁に喋り出します。。

manteuffel_color1.jpg

また、ワルター・ウェンクなどと出てくると、さすがに違和感を感じました。
本書では読みやすさを優先して、「W」を「ワ」読みで統一しているわけですが、
普通にヴァルター・ヴェンク(Walther Wenck)と一般的な読み方で
どんな不都合があるのか・・?

berlin 1945.jpg

「あとがき」をちゃんと最後に読みました。
それによると本書は主に、この筋の初心者を対象にしたものだそうです。
そういう意味では全体的によろしいんじゃないでしょうか?
個人的には今回紹介した部分以外に、特に目新しいものはありませんでしたが、
以前に紹介した、同じ「学研M文庫」から出ているソ連軍目線の「詳解 独ソ戦全史」よりも
独ソの双方をバランスよく、その独裁者同士の戦略や、軍集団、軍レベルでの戦術の解説も
必要なものは記載されていました。
「詳解 西部戦線全史」と同様な戦況図も所々に出てきましたが、
欲を言えば、独ソ将軍連の顔写真か、せめて似顔絵なんかがあると、
初心者にはもっとイメージしやすいんじゃないかと思います。

erich_von_manstein_caricature_cartoon_painting_drawing_art_krim_shield.jpg

また参考文献では、冷戦後に発表された資料を活用していると書かれていましたが、
主に「独ソ戦車戦シリーズ」のことを指しているようです。
これは「独破戦線」でも何冊か紹介しているものですが、まだ本棚に「カフカスの防衛」がありました。
他にも「死闘ケーニヒスベルク」や、「東部戦線のティーガー」、「ベルリン大攻防戦」なんかは
読んでみたいですね。
翻訳されていない文献では、やっぱり「ハルダーの日記」は気になります。
「フォン・ボックの日記」というのもあって、こういうのこそ、どこか翻訳してくれないですかねぇ!







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