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第二次世界大戦 ヒトラーの戦い〈10〉 [ヒトラーの戦い]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

児島 襄 著の「ヒトラーの戦い〈10〉」を読破しました。

10回連続という、おそらく「独破戦線」最初で最後の大作も、いよいよ最終回です。
1945年4月の一ヶ月間を集約したこの最終巻はまさに「最終戦」、そして
「ヒトラー 最期の12日間」という展開です。

ヒトラーの戦い⑩.jpg

4月10日、生まれ故郷のウィーンに現れた、SS中佐スコルツェニー
徒歩で西へ逃れようとする負傷兵を尻目に、家具を積み込んだ荷馬車に乗る
「健全兵」を見かけた彼は、激怒し、車上から引きずりおろした・・・という、
彼の回想録からのエピソードを紹介しますが、
スコルツェニーが「士官3名を絞首刑にした」という「ドイツ軍側記録」も合わせて紹介。。。

米軍が解放したブッヘンヴァルト強制収容所の部分では所長の妻であり
「ブッヘンヴァルトの魔女」と呼ばれたイルゼ・コッホの「魔女」ぶり・・、
囚人の皮膚で壁飾りやランプ・シェードを作ったという話も出てきました。
その米軍ではベルリン侵攻を諦めたアイゼンハワーに対して、パットンが食い下がります。
しかし、ベルリン作戦で想定される「損害10万人」は対日戦で必要なのだと
アイゼンハワーは首を横に振り続けます。

Ilse Koch , Karl Koch.jpg

ルール・ポケットの包囲されたB軍集団ではドイツ軍将兵の集団投降が連日発生し、
それは2000人や5000人といった集団単位で・・。
そしてこの事態に参謀長のヴァーグナー少将は涙ながらに
司令官モーデル元帥に降伏を進言します。
しかし「総統は許可すまい・・」と語るモーデルは、解決策を模索するのでした。

Generalfeldmarschall Walter Model_1.jpeg

東部では遂にソ連軍による「ベルリン作戦」が発動されます。
そしてこのジューコフによる最後の攻撃を迎え撃つのは、
ヴァイクセル軍集団司令官のハインリーチです。
威力偵察を命ぜられた、ウラソフのソ連捕虜部隊ですが、ここでは
同じ反ソでも旧ツァーリズムの復帰を目指すウラソフのロシア人部隊と、
そのソ連/ロシアからの独立を目指すウクライナ人部隊が対立し、
心理的打撃を受けたウラソフの「酒浸りの日々」が紹介されます。これは初めて読んだ話ですねェ。

generaloberst gotthard heinrici.jpg

オーデル川を渡河しはじめたソ連軍・・。第3装甲軍司令官のマントイフェル
「可能な限り持久し、後に1歩づつ西へ向かう。本職は1人の部下もソ連軍に渡さぬ」と
上官ハインリーチに打電します。
そのハインリーチも繰り返される「非現実」的な総統命令の前に
「ヒトラーに会って、解任を申請して国民義勇軍の一員として前線に出る許可を求める」。
いや~、この東部での最終戦はハインリーチのカッコよさがいつも目立ちますが、
本書はマントイフェルも実に男らしい・・。

Hasso_von_Manteuffel.jpg

エヴァ・ブラウンがヒトラーの反対を押し切って総統ブンカーに住み着く反面、
ここから脱出を図ろうする連中や家族を心配するものも数多く存在します。
ヒトラーの外科医であったブラントが妻子を米軍占領地域に送り「亡命」させようとしたことで
「死刑」判決を受けたり、この戦局悪化で多忙を極めるなか、僅か1か月前に再婚したヨードル
新妻に疎開を指示しますが、赤十字看護婦の彼女はソレを良しとしません。

こんな展開だと、映画「ヒトラー 最期の12日間」のシーンが頭の中に浮かびますねぇ。
ちょっと独破を中断して、DVD観るか・・、でも今回もガマンです。。。



さすがに日本人の著者によるものだという典型が、ベルリンの日本大使館に残留する
三等書記官の新関という人による記録が度々出てくるところです。
「ゲーリング、ゲッペルス、リッペントロップ、ヒンムラー、ト共ニ伯林ニ残留セリ」
という感じです。「ヒンムラー」は凄いですねェ。
ちなみにこの人、「第二次大戦下ベルリン最後の日―ある外交官の記録」を
書かれている、新関 欽哉氏ですかね。これは今度、読んでみようと思います。

ベルリン動物園もヘック園長の苦悩が語られ
「飢えた猛獣がソ連兵にだけ噛みつくように訓練を施さなかったのが悔やまれた・・」。
ひょっとしたら本物の「ティーガー」や「パンター」も戦ったかもしれませんね。

1945 killed about 4000 animals of the Berlin Zoo.jpg

そのベルリンを救出すべく編成された「シュタイナー軍集団」。
ヘルマン・ゲーリング師団」の1個大隊がゲーリングが爆破した私邸
カリン・ホールにいることがわかると、ヒトラーから「すぐに編入しろ」との連絡が届きます。
コレに以前からありえない・・と思っていた最高司令官による1個大隊にも及ぶ
細かい指示が事実だった・・と驚くシュタイナーです。。。
そしてその指示が空軍に伝えられますが、突如編成された「シュタイナー軍集団」なるものを
聞いたことがある者は皆無です。

Hitler_&_Felix_Steiner_&_Degrelle.jpg

毒を煽ったモーデルのB軍集団に続き、米軍は南部のG軍集団の壊滅にかかります。
ナチ党の「聖地」であるニュルンベルクを巡るこの戦い。
ほとんど読んだことがありませんでしたが、
砲爆撃で瓦礫化した市内に突入した米軍ですが、崩壊したビルや地下室などから
執拗に反撃するドイツ兵に悩まされます。まるで逆スターリングラードのような感じです。
しかし、4月20日、ドイツ軍が総攻撃をかけたことで、これ幸いとばかりに「殲滅」・・。
この日が総統誕生日であったことが、「ドイツ軍総攻撃」の理由だったようです。。。

Die Ruinen Nürnbergs. Am Ende des Krieges sind die meisten deutschen Städte zerstört 1945.jpeg

ここからはオーバーザルツベルクへと逃亡したゲーリングの総統後継者に向けた戦略と、
同じことを目論むヒムラー、そして軍需相シュペーア
ヴェンクの第12軍に総統指示を与えるカイテル・・らが、
ヒトラーのブンカーの周りで、さまざまな思惑と忠誠心の間で揺れ動きます。

エルベ川では米ソの東西連合軍が遂に合流し、トルーマンとスターリンに「乾杯」。
そして双方の最高司令官から方面軍、軍司令官、師団長から小隊長に渡るまで
名前を呼びあっては、ウォッカで乾杯を繰り返します。

American and Soviet troops meet east of the Elbe River.jpg

総統ブンカーに隣接した官邸地下室には2000人もが生活しています。
そこではソ連兵に暴行された女性と、ソレ怖れる女性に分かれているものの、
前者は汚れた身を清めるかのように、後者はどうせなら同胞に・・という思いからか、
ドイツ兵との人目も気にしない「乱交状態」が続いたということです。

luftwaffe female auxiliary members.jpg

このような極限状態では男女はお互いを求めあうものなのでしょうか。
それはムッソリーニも愛人クラレッタと共に逃亡の末に殺され、
ヒトラーとエヴァ・ブラウンも結婚という形で表されます。
参謀総長の副官ローリングホーフェンらは、こそこそ夜中に結婚したヒトラーに対して、
「別に遠慮することもなかろうに・・」として、「結局は彼も俗人だったのだ」という感想を残しています。
その結婚式に婚姻登録役として急遽呼ばれたベルリン大管区監督官。
首尾よく式の大役を果たした彼ですが、その後、自らの陣地へ帰る途中、狙撃弾を受けて戦死・・。
まったくツイテいない人ですねぇ。

AdolfAndEvaWithChildren.jpg

ベルリンの最後の戦闘も、ヴァイトリンクモーンケらの指揮官たちが登場し、
果敢な防衛戦を繰り広げます。攻めるチュイコフも苦し紛れに
戦車に積んだ砂嚢に火をつけ、燃えながら前進する姿でドイツ兵をビビらせよう・・という
戦術を編み出しますが、この修羅場では全く効果なし・・。
地下鉄内でも損害が相次ぎ、この「地獄の迷路」の突破作戦は中止に追い込まれます。

battle-berlin-1945-Russian forces.jpg

OKW本部はソ連軍から逃れるために、総統ブンカーから離れて移動中・・。
ヒトラーの死を未だ知らされていないカイテルとヨードルは、
後継者に指名されたデーニッツから呼び出しを受けます。
「まさかデーニッツは我々にUボートで暮らせというのでは?」。
「そうなったら"さまよえるOKW"になりますなぁ」。

Dr Albert Speer (left), with Admiral Doenitz and Colonel Alfred Jodl after their arrest on 23 May 1945.jpg

マントイフェルの第3装甲軍とティッペルスキルヒの第21軍も米軍に降伏。
米兵はアコーディオンで「リリー・マルレーン」を演奏し、歌います。
この軽快ながらも哀愁を帯びたメロディに、下を向いて口ずさむドイツ兵の頬には涙がつたい、
それを見た米兵は指をさして大笑い・・。
米軍のギャビン少将は「同じ歌をうたい、戦ってきた兵士の一方が泣き、それを見て他方が笑う。
現実とは思えぬ残酷な風景であった」と語ります。

berlin-destroyed-1945-may-Broken men of an once formidable German Army.jpg

この最終巻に限定して言うなら、1巻~9巻までを読んでいる必要はありません。
数多くあるヒトラー最期の数日という、独立したジャンルのうちの1冊であり、
そして、その内容は書き手によっても情報によっても違うことで
「最終戦」が好きな方には、この巻だけでもオススメします。

全10巻を読み終えて、当初の不安・・「挫折」という二文字はまったく余計な心配でした。
時間が許す限り、実に楽しく読めましたし、いつもよりペースも早かった気もします。
確かに後半、西側連合軍の頻度が多くなったりもしましたが、自分は勉強にもなりましたし、
興味がない方は、軽く読み飛ばしながらでも、影響はないでしょう。
3000円で1ヶ月楽しめたかと思うと、実に安い買い物でした。

ということで、皆さん、長い間、お付き合いありがとうございました。







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