SSブログ

完全分析 独ソ戦史 -死闘1416日の全貌- [戦記]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

山崎 雅弘 著の「完全分析 独ソ戦史」を読破しました。

10月に独破した「詳解 西部戦線全史」の前に発売されたものですが、
最新の600ページを超える大作、「宿命の「バルバロッサ作戦」」がちょっと気になっているので、
それを読む前に、未読だった同じ独ソ戦の本書を選んでみました。
文庫で382ページですが、「詳解 西部戦線・・」が644ページでもダイジェスト的な
印象だったことを考えると、今回のは「完全分析」とか、「全貌」となっていても、
もっと概要程度になっているような気がしますが、果たして・・。

完全分析 独ソ戦史.jpg

まずは、ヒトラーによる対ソ戦構想と、陸軍参謀本部による作戦構想を解説します。
スウェーデンやフィンランドの鉄やニッケルなどに依存するドイツ軍需産業のためにも
北方のバルト海とレニングラードの占領は優先目標であり、
南部のウクライナも豊富な農作物がとても重要です。
これにより、中央のモスクワ占領の位置づけは「曖昧」にされたまま・・・。

ここでは1941年3月、中央軍集団司令官フォン・ボック元帥
「命令文によれば、~となっておりますが?」と参謀総長ハルダー上級大将に質問し、
それに対して「それは、~と言っているのだよ」と答えるという展開ですが、
いくら参謀総長相手とはいえ、4歳年上の元帥が、上級大将に敬語を使い、
上級大将が元帥に上から目線でそんな言い方して良いんでしょうか?
西方戦役の前には同じ状況で、ボックはハルダーを「きみ」呼ばわりしていた本がありましたが、
実際のところはどうなんでしょう・・?

Time_1941_12_08_Fedor_von_Bock.jpeg

一方のソ連側については≪スターリンは「愚か者だったか≫として、
ドイツの攻撃情報が山ほど入っていたにもかかわらず、それに目をつぶった「真の動機」を
明確にしようとしていますが、結局はよくわからず・・。

Stalin_Voroshilov.jpg

80ページから、いよいよ対ソ戦の幕が上がります。
水路と城壁に囲まれた「ブレスト要塞」の攻防は本書では1ページほどですが、
これには大変興味があるんですね。
この戦いだけで1冊書かれた本が読みたいくらいですが、詳しく書かれたものさえ
ほとんど読んだことがありません。

Brest Fortress.jpg

ただ、いま調べたら、まさにこの戦いの映画が製作されていたのを発見しました。
2010年のベラルーシ/ロシア合作のようですが、コレは面白そうですね。
どこかのメーカーさんがDVD出してくれるのを期待しています。

The Brest Fortress (2010).jpg

やがて中央軍集団がモスクワ攻略を目指す「タイフーン作戦」が発動されますが、
訪れた冬将軍の前に敗北を喫するドイツ軍。
ヒトラーの有名な死守命令を「あの状況下では間違いなく正しい判断だった」と語る
第4軍参謀長ブルーメントリットの言葉を紹介しつつ、
防寒着類の不足によって凍傷となったドイツ兵が22万人に達したとしています。

TankFlag.jpg

翌1942年5月の「第2次ハリコフ戦」では26万人の将兵を失ったソ連軍。
この時期は作戦的に何をやってもドイツ軍の方が一枚も二枚も上手です。。
クリミア半島では第11軍司令官となったマンシュタインによる「セヴァストポリ要塞戦」が・・。
ネーベルヴェルファーやカール自走臼砲列車砲ドーラ
ありとあらゆる火砲を集めた、一大見本市会場と化したこの有名な戦いも大好きですねぇ。
本書では一次も含めて8ページほどの解説ですが、
やっぱりこの戦いだけで1冊書かれた本が読みたいくらいです。

Vzorvannaya tower number 35 coastal batteries of Sevastopol.jpg

1943年、スターリングラードのドイツ第6軍が包囲壊滅し、
ハリコフ防衛を任されたランツ軍支隊に所属するSS装甲軍団司令官ハウサー
ランツ中将に撤退を求めるも、彼は総統命令を優先し、拒絶・・。
しかしSS軍団に属するグロースドイッチュランド師団の指揮権を持つ、ラウス軍団司令官
ラウス中将と協議の末、SS師団ダス・ライヒと共に脱出させることを決定します。
これが「SSの総統命令違反」として知られる件のいきさつのようです。

Raus_Lanz.JPG

クルスクにおける「ツィタデレ作戦」の発動をヒトラーが悩みに悩んだ末、
「政治的理由から必要」と判断した件について本書では「トルコに対するもの」と
力強く解釈していました。
そして満を持して投入されたティーガーなどの重戦車に対して、
「ソ連軍の猛獣ハンター」として紹介されるのは、KV重戦車の車体に
152㎜野砲を搭載した自走砲「SU-152」です。

SU-152.jpg

ドニエプル川を越えて撤退するドイツ軍に追い打ちをかけるべく実施された
ソ連軍1万人の空挺降下作戦。
しかし半数程度しか目標地点に降下させることができず、
ネーリングの第24装甲軍団の真上に降下して、着地する前に機銃掃射により
絶命する者も多数出る始末・・。
それでもキエフが遂に陥落すると、第4装甲軍司令官のホトがこの責任を取らされることになり、
ヒトラーによって罷免されてしまいます。。。

Hermann Hoth.jpg

チェルカッシィの包囲戦、逆に900日間包囲されていたレニングラードの解放
ソ連軍の大攻勢「バグラチオン作戦」の発動・・とオーデル川まで押し戻されたドイツ軍。
1945年2月にはジューコフの第1白ロシア方面軍に対する反抗「冬至(ゾンネンベンデ)作戦」で
起死回生を図りますが、燃料弾薬は3日分、わずか5㌔前進ただけ・・。
ある指揮官は「敵は我々が反撃したことに気づいてくれただろうか」

Manstein_greeting_soldiers_from_72_Inf_Div_who_had_escaped_from_the_Cherkassy_pocket.jpg

ベルリンの最終戦ではヴァイクセル軍集団司令官のハインリーチと第9軍のブッセ
第3装甲軍のマントイフェルといったお馴染みの面々が登場してくると、
それまでスターリンとジューコフ、ヒトラーとマンシュタインの有名な会話以外、
ほとんど言葉のやり取りがなかった本書も、他の最終戦モノの同様に
上記の3人が頻繁に喋り出します。。

manteuffel_color1.jpg

また、ワルター・ウェンクなどと出てくると、さすがに違和感を感じました。
本書では読みやすさを優先して、「W」を「ワ」読みで統一しているわけですが、
普通にヴァルター・ヴェンク(Walther Wenck)と一般的な読み方で
どんな不都合があるのか・・?

berlin 1945.jpg

「あとがき」をちゃんと最後に読みました。
それによると本書は主に、この筋の初心者を対象にしたものだそうです。
そういう意味では全体的によろしいんじゃないでしょうか?
個人的には今回紹介した部分以外に、特に目新しいものはありませんでしたが、
以前に紹介した、同じ「学研M文庫」から出ているソ連軍目線の「詳解 独ソ戦全史」よりも
独ソの双方をバランスよく、その独裁者同士の戦略や、軍集団、軍レベルでの戦術の解説も
必要なものは記載されていました。
「詳解 西部戦線全史」と同様な戦況図も所々に出てきましたが、
欲を言えば、独ソ将軍連の顔写真か、せめて似顔絵なんかがあると、
初心者にはもっとイメージしやすいんじゃないかと思います。

erich_von_manstein_caricature_cartoon_painting_drawing_art_krim_shield.jpg

また参考文献では、冷戦後に発表された資料を活用していると書かれていましたが、
主に「独ソ戦車戦シリーズ」のことを指しているようです。
これは「独破戦線」でも何冊か紹介しているものですが、まだ本棚に「カフカスの防衛」がありました。
他にも「死闘ケーニヒスベルク」や、「東部戦線のティーガー」、「ベルリン大攻防戦」なんかは
読んでみたいですね。
翻訳されていない文献では、やっぱり「ハルダーの日記」は気になります。
「フォン・ボックの日記」というのもあって、こういうのこそ、どこか翻訳してくれないですかねぇ!







nice!(2)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

ナチスドイツの映像戦略 -ドイツ週間ニュース 1939‐1945- [戦記]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

三貴 雅智 著の「ナチスドイツの映像戦略」を読破しました。

15年前に発刊された本書。ちょっと仰々しいタイトルなので敬遠していましたが、
副題の「ドイツ週間ニュース」、さらには帯に書かれている「ガイドブック」の文字が
本書の内容を表しているものでした。
15巻ほど??ビデオ化され、後に一部はDVD化もされている「ドイツ週間ニュース」。
1巻も持ってはいないものの、YouTubeなどではいくつか見ていて興味がありましたので、
DVDを購入する手引きとして、古書を500円で手に入れてみました。

ナチスドイツの映像戦略.jpg

「はじめに」では、この「ドイツ週間ニュース」とは如何なるものかと、
「宣伝中隊」について簡単に解説しています。
国内での啓蒙用に映画館などで定期的に上映されていた戦場ニュース「Wochenschau」。
そしてこの素材となる映像を前線で撮影したゲッベルス主導による
宣伝中隊「Propaganda Kompanie」、通称、「PK」ですが、
(ペナルティ・キックと間違えてはいけないので、ちゃんと「ペーカー」と記されています)
彼らはもともと純粋なアナウンサーやカメラマンであり、軍事訓練を受けたうえで
戦う報道員として配属され、その数は延べ、陸軍で40個、海空に各10個中隊もあったそうです。
また、武装SSは有名なクルト・エッガース連隊がPKマンとして活躍しました。

Propaganda Kompanie.jpg

本文は「MGビデオ ドイツ週間ニュース」を1939年から順に紹介していくわけですが、
ビデオ自体が時系列で発売されておらず、最初に紹介されるポーランド戦が「第6巻」にあたります。
実際のニュースの内容に触れる前には、著者による当時の戦況が解説され、
その後、ニュースのポイントや兵器など映像についてコメントするといった展開で進みます。
ページの下部は注意書きと映像の一部が小さいながらも掲載され、キャプション付き。
自由都市ダンツィヒでのSSダンツィヒ郷土防衛部隊が旧式装甲車で郵便局を襲うシーンも
「降伏しないポーランド兵に業を煮やしたSS部隊は、ホースでガソリンを撒いて放火するという
ゴロツキまがいの戦法で決着をつけた」という書きっぷりです。

danzig 1939.jpg

次は第4巻の西方フランス戦です。
ドイツ週間ニュースは時折、映像とナレーションの不一致・・というか間違いがあるようで、
コレは「捏造」ではなく、編集者が単に兵器に明るくないという理由のようです。
その一例として炎上した戦車が映し出されるシーンでナレーター氏は「フランス戦車」と言うものの、
著者によると「間違えようのないドイツⅢ号戦車である」

Die Deutsche Wochenschau.jpg

第7巻のハリコフの戦いに続き、第10巻の栄光の戦場スターリングラードでまず紹介されるのは
ハイドリヒ暗殺事件」です。
プラハの広場に集まった6万人を超える大観衆が映り、その後、遺体がプラハ城に安置され、
SSの衛兵に囲まれたベルリンへの護送風景と続いていきます。
これは1巻50分程度のドイツ週間ニュースはタイトルの戦役だけが収められているものではなく、
同時期のいくつか戦役やニュースの詰め合わせになっているようですね。

Heydrich’s funeral.jpg

この巻には「セヴァストポリ要塞攻略」のニュースも含まれています。
マンシュタインに加え、カール自走臼砲列車砲ドーラの活躍も映っているようですね。
メインはスターリングラード戦のようですが、この戦役全般の話が書かれていて、
どの時期のどのようなシーンが映っているのかは不明でした。
もう少し、ニュース部分の記述が明確にしてあると良いんですけどねぇ。

The monster 807 mm German gun called 'Dora' in action in Russia.jpg

続く第11巻はアフリカ軍団です。
「北アフリカのドイツ兵士」というタイトルの教育映画が収められているようで、
これはアフリカに派遣される前の将兵に知識を与えるものだそうです。
また、88㎜高射砲によって散々な目に遭わされた英国戦車兵の
「高射砲で戦車を撃つとは卑怯だ」という負け犬の遠吠えに、
「高射砲でしか撃破できない戦車で来るほうが卑怯だ」
とドイツ兵が語った逸話が紹介されています。

88-mm-flak-18-flak-36-north-africa.jpg

そして地中海で空母アーク・ロイヤルと戦艦バーラムを撃沈したUボート・エースの2人、
U-81のグッゲンベルガーとU-331のティーゼンハウゼンが登場し、
アオスタ公からイタリア勇者勲章を授与されるシーンも・・。
さらにはこの北アフリカで忘れてはならない人物。「アフリカの星」こと、マルセイユ
乗機から降り立ち、やや緊張した面持ちで空戦技術を身振り手振りで語るそうです。

Hans-Joachim Marseille.jpg

このビデオシリーズでは第○巻ではなく、独立したものも出ています。
「緑の悪魔 1939~1943」はそのうちのひとつで、これはもちろん降下猟兵ですね。
本書では、その訓練映画を紹介し、勇気と恐怖を克服するタフネスが必要であり、
空挺部隊員は国籍を問わず猛烈に戦った・・として、マーケット・ガーデン作戦などの
英米の空挺部隊も取り上げ、精鋭を自負する彼らは「俺も空挺、お前も空挺」という
独特の連帯感情のもと、同じ国の陸海空軍がいがみ合うのが当たり前のなか、
空挺部隊員には国籍を超えた戦友感情が存在していたと評価します。
ヴィトゲンシュタインも空挺部隊は国籍を問わず大好きなので、コレはわかりますね。

Kreta, Soldatengräber.jpg

第8巻「激闘の戦線 1943」では、スターリングラードで敗北したドイツ軍が3月、
第3次ハリコフ争奪戦で戦う様子が収められています。
パウル・ハウサーの第2SS装甲軍団に、進むティーガー戦車の姿・・。
ライプシュタンダルテの連隊長、フリッツ・ヴィットSS大佐も画面に登場します。

Fritz_Witt.jpg

続くクルスク大戦車戦は何が映っているのか、良くわかりませんが、
スターリングラードで全滅した第60自動車化歩兵師団が再編され、
ダンツィヒで行われた「フェルトヘルンハレ装甲擲弾兵師団」命名式典の様子・・
というのに惹かれます。

「緑の悪魔」と同様、単巻モノの「対戦車戦」は、予備役訓練局が製作したそうで、
本物のT-34戦車を使用したストーリー仕立ての教育映画です。
震え上がって逃げ出そうとする2等兵に、「臆病者は死ぬだけだ!」と老練の下士官が諌めます。
その後はめでたく撃退するわけですが、そのシーンは、あのサム・ペキンパーの名作映画
戦争のはらわた」にも影響を与えたほど、ソックリだということです。
ふ~ん。比較して観たいですねぇ。
他にも柏葉章の中尉がKV-1戦車に立ち向かい、その腕には数枚の「戦車撃破章」が・・。

the holders of the tank destruction badge.jpg

これは教育映画ですから、T-34を発見した際、「転輪5個、傾斜装甲」と声にして伝え、
「砲塔に識別の白十字なし」と味方の鹵獲戦車でないことをダメ押しするなど、
細かいやりとりが結構、面白そうですね。

Charkow, SS-Division Das Reich_T-34  1943.jpg

さらに「工兵、前へ」というタイトルの教育映画も収められていて、
橋を架けたり、トーチカを爆破したり、地雷を撤去したりと、最前線で活躍する
「戦闘工兵」の危険な仕事を詳しく解説しています。
特にゼリー状の可燃物に点火して圧縮ガスで飛ばすという火炎放射器は、
摂氏800℃の高温で燃焼する恐ろしいもので、間違って付着したら最後です。
このような教育映画で「狙撃兵」というのも出ているんですが、本書は無視。残念。。

Flammenwerfer.jpg

1944年からは、複数の巻に収められているニュースを紹介していきます。
これはもう大攻勢もなく、戦局は悪化しているため、各地での戦いの模様を少しずつ
ニュースで伝える展開のようですね。
西側連合軍の上陸に備え、B軍集団司令官に任命されたロンメル
西方の壁と宣伝された砲台やトーチカを視察・・。
しかし映像は点在する施設を繋げて、さも強力なように見せているということです。

Rommel_bei_Inspektion_des_Atlantikwalls.jpg

チェルカッシィで包囲された友軍を救うべく、出動するベーケ重戦車連隊にもPKマンは同行。
戦死した"パンツァー"・シュルツ将軍の葬儀式典の光景。マンシュタインが花輪を捧げます。
「フェルトヘルンハレ師団」がUボート基地を訪問し、大エースのリュートを出迎える様子。

Generalmajor Dr. med. dent. Franz BÄKE.jpg

モンテ・カッシーノから降下猟兵も撤退。ナレーター氏は珍しく「第1降下猟兵連隊」の
特定名を挙げて、その健闘を称え、「この撤退は命令によるものであり、
決して戦闘に敗北したわけではない」と強調します。

Monte_Cassino  Fallschirmjaeger.jpg

フランスではレジスタンス容疑者を尋問する「ミリス」も登場し、
ポーランドでは「ワルシャワ蜂起」を鎮圧する寄せ集めのドイツ軍部隊も。
マーケット・ガーデン作戦も物資コンテナから英国製のタバコを美味そうに燻らせるドイツ兵。
また、ヒーローを称えて盛り上げるためか、騎士十字章受賞者がニュースに多く登場し、
宝剣が追加される22歳の史上最高のパイロット、エーリッヒ・ハルトマンに、
伝説のタンクキラー、ヴィットマンいざ出撃の姿・・。

wittmann_1944.jpg

ヒトラー・ユーゲントの少年たちが防空戦闘に駆り出され、訓練を受ける様子。
さらには女性も補助部隊に、老人も国民突撃隊に・・。
バルジの戦いではPKマンが、あのパイパー戦闘団に随行。
ひょっとしたら、映画「バルジ大作戦」の元ネタシーンがあるかも知れません。
翌年のバラトン湖の戦いでも敗北を喫したドイツ装甲部隊。
「ロシア人民最大の敵」ルーデル大佐も片足を失って入院中・・。

Training on a 'Würzburg D' radar_flak.jpg

ドイツ軍が奪還した村々に入ったカメラは、レイプと虐殺、略奪のあとを写します。
このようなニュースもソ連の進軍に脅える国民に見せていたようですね。
ベルリンの最後まで本書では語られますが、いつまでニュースになっていたのかは
良くわからないまま終わってしまいました。
前線の歩兵並みの死傷者を出したという、「PKマン」ですから、
フィルムと命のある限り、ニュースにはならずとも撮影を続けたのかも知れませんね。

PK Mann_Russia July 1941.jpg

全体的にドイツ軍の兵器が好きな著者が、それらを称賛したり、嬉々として書いていては
調子が悪いので、とりあえず映像の捏造部分やナレーションに異議を唱えたりして
タイトルと帯に書かれているような「映像が歪めた真実」という、
単なるガイドブックではないんだよ的な本に仕上げたという印象を持ちました。
しかし最後に「あとがき」を読むと、もともとは字幕の情報を補う、兵器解説を主体とする
「MGビデオ・ガイドブック」としてまとめるつもりが、映像とナレーションに
真実が隠されていることに気づき、本書のような形になったそうです。

決して悪い本ではありませんが、「ガイドブック」と「プロパガンダの検証」の
切り分けをもう少し、巧くして欲しかったですね。
でもこれを参考に買ってみようかと思いますが、半分くらいしかDVD化されてません。
とりあえず、「ドイツ・アフリカ軍団」と「対戦車戦」、「緑の悪魔」あたりかな?











nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

クルスク大戦車戦 [戦記]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ヤヌツ・ピカルキヴィッツ著の「クルスク大戦車戦」を読破しました。

この「クルスク大戦車戦」というタイトルの本はいろいろあってヤヤコシイですが、
以前紹介したのは小説、そして今回は1989年に「朝日ソノラマ」から刊行された1冊です。
久しぶりに戦車モノを読みたくなったので、古書を「1円」で購入していた本書を選びましたが、
パウル・カレルの「焦土作戦」で始まって、さまざまな独ソ戦記やら、
クルスクの戦い」などの写真集やら読んできたものの、
実はこの「クルスク戦」全体を総括した本は今まで読んだことがありませんでした。
著者は珍しいことにポーランド人、翻訳はヴィトゲンシュタインの好きな加登川 幸太郎氏です。
359ページですが、安心して読めそうですね。

クルスク大戦車戦.jpg

本書はまず本文に入る前に「戦いの舞台」として、この中央ロシア高地のクルスクとは
如何なる場所なのか・・を詳しく解説するところから始まります。
地質や気候、天然資源などが説明されますが、ここではクルスクを中心として
北にオリョール、南にベルゴロドという町があることだけは知っておく必要があるでしょう。

続いて「主役を演じた将軍たち」として、独ソ将軍が写真つきで紹介。
最初に紹介されるのが第4航空軍司令官のデスロッホ・・というのが凄いですが、
クルーゲマンシュタインの両軍集団司令官と、モーデルホトケンプフといった
戦車部隊を指揮した将軍たち・・。

Hermann_Hoth.jpg

ソ連側では中央方面軍司令官のロコソフスキーが特に詳しく書かれていて、
赤軍大粛清」で彼に何が起こったのかまで・・。
1937年、「日本軍とポーランド秘密警察の工作員」の容疑で突然逮捕。
その後、強靭な体力のおかげで、NKVDの牢獄での3年間を生き延び、1940年に放免。
もっとも、拷問のために歯を何本か引き抜かれたそうです・・。

kursk_Рокоссовский.jpg

こうしてやっと「プロローグ」へ。1943年2月から3月にかけての戦局が語られて
スターリングラードに勝利した勢いで西進するソ連軍はクルスクを奪回。
ハリコフも取り返しますが、マンシュタインと第2SS装甲軍団のハウサーの逆襲に遭って・・
といった結果、戦線が落ち着いた時には、西に突き出した「クルスク突出部」が完成。
このバイエルン州ほどの大きさがあるというこの突出部を南北からの装甲部隊の攻撃によって
切断し、平らにすることによって予備も生み出そう・・というのが「ツィタデレ作戦」です。

OKH-Lagekarte_ZITADELLE.jpg

いよいよ「第1部 戦闘開始まで」が始まりますが、本書の展開はかなり変わっています。
1943年3月17日から、OKW(国防軍最高司令部)の戦争日誌、SS秘密機関の極秘報告などの
ドイツ側の資料、そして赤軍参謀総長宛ての報告書や
「プラウダ」などの新聞記事が時系列でひたすら掲載されます。
例えば4月24日付のヒトラーの「ツィタデレ作戦」命令書も、5ページに渡って掲載。
ドイツ軍の準備状況と、その情報から着々と防御準備に入るソ連軍の様子、
さらにはロイター電なども出てきて、5月に攻勢開始か・・?
しかし秘匿名ユーリエフことジューコフは「それはないでしょう」と、
同志イヴァノフ(スターリン)に報告します。

Koursk_Tigers.jpg

これが30ページ続いた後で「戦いの裏で」という本文が始まります。
この段階はいわゆる「情報合戦」であり、ドイツ側はソ連側の暗号を解読し、
ドイツの暗号機「エニグマ」を解読していた英国は、その「ウルトラ」情報をソ連参謀本部へ流します。

150㌔に及ぶ縦深の対戦車防御。それに対し、ティーガーに加え、
新型戦車パンターフェルディナンドで対抗しようとするヒトラー・・。
基本的には双方の情報はお互いの情報部へ筒抜けとなっているものの、
その情報を信じるかどうかは、ヒトラーとスターリンそれぞれにかかっています。

battle_kursk_0002.jpg

そして優柔不断となっては延期を繰り返すヒトラーに、各々の意見を持った将軍たちの対立の様子。
ちょっと整理すると、「やるならすぐやれ派」が南方軍集団司令官マンシュタイン、
中央軍集団司令官クルーゲ、陸軍参謀総長ツァイツラー、空軍参謀長イェショネク
「頼むからやめてくれ派」が装甲兵総監グデーリアン、OKW作戦部長ヨードル
軍需相シュペーアといった感じです。

「この作戦は政治的に必要なのだ」とするヒトラーに、
「クルスクなんて場所を世界中の誰が知っているというんですか?」
時間はソ連の防御陣地をさらに強固なものとしますが、ヒトラーは戦車を2倍にすれば・・。
また第9軍司令官のモーデルが上官であるクルーゲの頭越しにヒトラーへ
「突破は困難である」と報告して、関係がギクシャクしたり・・。

Guderian und model.jpg

7月2日、作戦は成功しなくとも、ソ連の機甲部隊にダメージを与えることに意義を見出している
マンシュタインはルーマニアのアントネスクを訪れ、セヴァストポリ占領記念を祝う式典に出席。
しかし、このような行動は欺瞞工作であって、すでに「ツィタデレ作戦」の決行は、
3日後の7月5日に決定しているのでした。

von Manstein Antonescu.jpg

「第2部 ドイツ軍攻撃開始」。この章でもまず、OKWの戦争日誌などが紹介されて
始まった「ツィタデレ作戦」の戦闘の推移が語られます。
印象的なのはフェルキッシャー・ベオバハターに掲載された、従軍記者の記事ですね。
乗っている戦車に直撃弾を浴びて、死にもの狂いで飛び出したり・・。

Kursk-1943.jpg

7月7日のソ連情報局の発表では、「本日、ドイツ軍は戦車520両、飛行機229機を失い、
この3日間の戦闘で失ったのは戦車1539両、飛行機649機」ということです。
これじゃドイツ軍は間もなく全滅ですね。。

オリョールを起点とした北の中央軍集団はモーデルの第9軍が攻撃します。
装甲6個師団、歩兵15個師団、装甲擲弾兵1個師団という、やや歩兵中心の編成です。
しかし新型の怪物フェルディナントも受領し、マントイフェル集団なる強そうな装甲部隊も・・。

Ferdinand Sd.Kfz. 184 Panzerjäger Tiger.jpg

ベロゴルドからクルスクを目指す南方軍集団はホトの第4装甲軍が主役です。
ティーガー戦車などを揃えたライプシュタンダルテダス・ライヒなどの
精鋭武装SS師団から成る、ハウサーSS大将の第2SS装甲軍団に、
フォン・クノーベルスドルフ大将の第48装甲軍団。
さらにはエリート師団グロースドイッチュランドの新型戦車パンターを指揮する
シュトラハヴィッツ大佐に、あの強面カール・デッカー将軍の「パンター旅団デッカー」も・・。
そしてケンプフ装甲集団も同時に攻撃を仕掛けます。

karl decker_General der Panzertruppe.jpg

しかし歩兵師団の少ない南方軍集団は敵陣にはまり込み、いきなり苦戦を強いられ、
一方の中央軍集団も、ロコソフスキーの機転による地中に埋められた戦車によって、
4日間も攻撃を食い止められてしまいます。
普通、このようなクルスク戦は、北部戦線と南部戦線に分けて書かれているものですが、
本書は入り乱れて出てきます。また、独ソ双方の状況が師団単位で描かれますので、
ある程度、慣れている人じゃないと、結構シンドイ展開ですねぇ。

kursk_214.jpg

ソ連戦車を撃破し、徐々に突破北進を繰り返し40㌔前進したホトの第4装甲軍。
第2SS装甲軍団の側面に対して、第2親衛戦車軍団を差し向けたバトゥーチン
この危機を救ったのは「空飛ぶ対戦車砲」、30㎜砲を備えたHs-129B2です。
マイヤー空軍大尉が呼び寄せた16機によって、集結していたソ連戦車50両を撃破します。

Hs 129.jpg

ロコソフスキーは自分が第9軍を相手に、弱い地域に兵力を集中し、うまく防御したことを
自画自賛しながら、南方軍集団に対するヴォロネジ方面軍司令官のバトゥーチンは
兵力を防御線の全部にばらまいた・・として、
ドイツ南方軍集団が突破に成功したのは、その戦力差ではないと語ります。

PzKpfw III v kurském oblouku.jpg

やがて頑強なソ連軍の抵抗に遭い、最短経路を棄てて別の経路でクルスクを目指すこととしたホト。
彼が選んだのは「プロホロフカ」経由です。
こうして、いよいよ史上最大の戦車戦と云われる「プロホロフカの大戦車戦」へと続いていきますが、
まぁ、これはいろいろ書かれていますから、今回は・・。

battle_kursk_0133.jpg

余談ですが、数年前に「サドン・ストライク」というPCゲームをやっていたときに
「プロホロフカの戦い」というミッションが大好きだったことを思い出しながら読んでました。
Ⅳ号戦車やティーガーで戦うわけですが、うじゃうじゃ出てくるT-34などのソ連戦車相手に
敗北を喫して、涙したこともしばしば・・。
思えばそんなことが、いま「独破戦線」をやっているキッカケのひとつかも知れません。

kursk_T-34.jpg

「第3部 両軍激突ののちに」では
南部の激戦の陰に隠れたモーデルの第9軍は、すでに攻勢は頓挫し、
逆にロコソフスキーの逆襲を喰らって、作戦開始したオリョールの防御戦闘に移行します。
西側連合軍もシチリアに上陸し、ヒトラーは作戦中止を決定。
南方軍集団の武装SS師団を抽出してイタリアへ派遣するように指示し、
「撤退は許さん!」で有名な総統が、早く撤退するよう各司令官に命令します。

battle_kursk_0144.jpg

しかし未だ互角の戦いを繰り広げているマンシュタインの手元には、
まだ予備の切り札としてヴィーキング師団も。。
そんななか、マンシュタイン指揮のもとにスターリングラード救出部隊の先方として活躍した
第6装甲師団長フォン・ヒューナースドルフ少将が狙撃兵に頭部を撃たれて戦死・・。
本書は登場する各師団のあとにカッコ書きで師団長の名も書かれているので、
第11装甲師団長のヘルマン・バルクとか出てくると、「おっ」といちいち気になってしまいます。。

Manstein with Tigers.jpg

最後の「第4部 ソ連軍の逆襲」では、遂にオリョールまで奪還されて、大規模な後退をする
第9軍の様子・・。それでもこの防御しながらの撤退を整然と行うモーデルの手腕は、
ここに至って真骨頂と呼べるものです。
南部も予備であったコーネフのステップ方面軍がベロゴルドに突入し、
8月5日、これをもって「クルスク会戦」は終了します。

battle_kursk_model.jpg

久しぶりにクルスク戦モノ読みましたので、なかなか面白かったです。
特に、中盤までの準備状況・・っていうのは、個人的に焦らされている感じもあって
嫌いじゃないんですね。
大脱走」とか、「荒野の七人」とか、基本は「準備」がメインですから、
そういう映画が好きな人には、コレを理解してもらえるかも・・。
北部戦線の大判写真集である「続・クルスクの戦い」や第二次世界大戦ブックスの
同じタイトル、「クルスク大戦車戦」も今度、読んでみるつもりです。
それから独ソ戦車戦シリーズの「クルスク航空戦」もかなり気になってきました。。











nice!(1)  コメント(8)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

WW2ドイツの特殊作戦 -恐るべき無法と無謀の集大成- [戦記]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

広田 厚司 著の「WW2ドイツの特殊作戦」を読破しました。

8月に読破した「ヒトラーのスパイたち」で登場した「ブランデンブルク隊」の話・・。
「もっと細かくして1冊の本にして欲しかったくらいです。」なんて書いてましたが、
その1ヶ月前に発刊されていたのが本書です。
たまたまamazonで「怒涛のドイツ陸軍の進攻を容易に導いたブランデンブルグ部隊。
種々の専門技能、外国語にも精通し、優れた体格を有する恐るべき戦争のプロたち」
と紹介された293ページ本書を発見して、お昼には本屋さんで購入してしまいました。

WWⅡドイツの特殊作戦.jpg

まず序章では国防軍防諜部(アプヴェーア)のカナリス提督と、その彼によって
1939年に編成されたフォン・ヒッペル大佐のブランデンブルク部隊の
入隊基準や訓練などが解説されます。
ヒトラーの政策により、外国に住むドイツ人が母国へ戻るよう奨励された結果、
多種技能を有して外国語を操る数千人の人びとが帰国したそうです。

Theodor von Hippel.jpg

そして第1章は「ヒンデンブルク作戦」。。
初めて聞いた作戦名ですが、読み進めるとポーランド侵攻直前にハイドリヒ
舎弟のナウヨックスが仕掛けた、国境そばのラジオ放送局を襲撃するというヤツですね。
これにブランデンブルク隊がどう絡んでいたのか・・というと特に絡んでいません・・。
実際のポーランド戦が始まってから、軍本隊よりも先にポーランドへ入り、
石炭と鉱山施設をポーランド側の破壊行為から守る任務に就いたそうです。

pz1 Poland 1939.jpg

第2章は「フェンロー作戦」。。
これってまさかシェレンベルクのヤツ??と思いましたが、
1940年の西方電撃戦におけるムーズ河に架かるヘネプ鉄道橋を確保するというミッションでした。
本書は文庫ながら150枚程度の写真が掲載されていて、
この任務を指揮したヴァルター中尉も写真つき・・。結構、良い男です。
また、ココでは英国侵攻の「あざらし作戦」の話が出てきますが、なんか違うだろ・・?
「ゼーレーヴェ作戦」は「あしか」ですよね。。
そういえば著者は「武装親衛隊 -ドイツ軍の異色兵力を徹底研究-」の方でした。
細かいところはちょっと怪しい気が・・。

panzers-riv.jpg

次の章はベルギーの「エーベン・エメール要塞」攻略です。
これはコッホ大尉率いる空軍のグライダーと降下猟兵の活躍で
以前に読んだ「ストーミング・イーグルス」のような展開です。
これにブランデンブルク隊がどう絡んでいたのか・・というとやっぱり絡んでいません・・。
この時点で気づきましたが、本書はブランデンブルク隊に特化したものではないんですね。

ebenemael.jpg

続く「バルバロッサ作戦」ではグデーリアン装甲集団の猪突猛進を助けるべく、
赤軍兵に扮した橋梁奇襲作戦の実行です。
進軍するドイツ軍の流れに巻き込まれれば、攻撃を受けてしまう可能性もあるこの特殊任務。
橋頭堡の維持は15分の予定が、実際は数時間にもおよび
指揮を取るクラーク中尉以下、多数の戦死者を出てしまいます。
これはブランデンブルク隊の真骨頂ですね。

Brandenburg commandos in Russian uniform, 1941.jpg

北アフリカでは300名のブランデンブルク隊が「アフリカ中隊」として送られ、
英軍ばりの「長距離砂漠挺身隊」としても活動。
連合軍が上陸してきたチュニジアでも、ラムケ降下猟兵大隊の残存兵と合流し、
最終的には脱出する者、捕虜になる者・・。

Cufftitle Panzer-Grenadier-Division Brandenburg.jpg

中盤の第6章は「スコルツェニーSS少佐の登場」です。
有名な「ムッソリーニ救出作戦」が紹介され、「走り幅跳び作戦」なるものの説明が・・。
これはテヘランに集う連合軍の3巨頭をまとめて暗殺してしまおうというものだそうで、
RSHA長官カルテンブルンナーが総責任者となり、スコルツェニーが実行指揮官に任命。
ヒトラーにも承認された計画だそうですが、ソ連側にバレて、やむなく中止・・。ふ~ん。。

Tehran. 1943.jpg

SS降下猟兵第500大隊が活躍した、バルカンでのパルチザンの首領「チトー急襲作戦」。
これには第7SS義勇山岳師団プリンツ・オイゲンとブランデンブルク隊も参加していました。
直前に降伏したイタリア軍は重火器を含めた武器をパルチザンに引き渡してしまい、
戦力充実した相手に大損害を被り、チトーにも逃げられて軍服をゲットしただけに留まります。
この章はなかなか良く書かれていました。

Alcuni paracadutisti dell' SS Fallschirmjäger Battaillon 500 con la giacca del maresciallo Tito.jpg

そして「グライフ作戦」。バルジの戦いにおける米軍に変装した後方攪乱で有名です。
このスコルツェニーの「第150戦車旅団」の構成が詳しく書かれていて
空軍降下猟兵大隊2個、SS特殊部隊1個、SS降下猟兵第500大隊の残存部隊(第600に改名)、
陸軍からも装甲部隊、擲弾兵部隊、対戦車砲に迫撃砲などが中隊単位で参加しています。
また、並行して実施されたフォン・デア・ハイデ大佐の降下作戦も解説されていますが、
このあたりはトーランドの「バルジ大作戦」のダイジェストのような感じです。
パンツァーファウスト(戦車鉄拳)とか、パンツァーシュレック(戦車驚愕)、というカッコ書きが
けっこう笑えました。。戦車驚愕って・・?

panzerschreck.jpg

後半は海空の特殊部隊が続きます。
「K-特殊部隊(K戦隊)」は特殊潜航艇と自爆ボートが売りの海軍特殊部隊です。
一人乗りの「ネガー」や「ビーバー」、二人乗りの「ゼーフント」が登場し、
果敢な、そして物悲しい突撃を繰り返します。そういえばゼーフントが「あざらし」ですね。

UBoot-Neger.jpg

イタリア海軍が実績を挙げていたフロッグマンの訓練もドイツは始めます。
頑健で知識と技量、冷静な判断力を兼ね備えた一握りのスペシャリストだけが
選ばれるフロッグマンは、酸素ボンベで水中で自由に活動するエリートです。
そしてここに首を突っ込むのが、特殊部隊の主役、スコルツェニー。。
SSの要員を無理やり参加させているようで、本書には書かれていませんが、
彼らがレマーゲン鉄橋爆破任務 ⇒ 失敗・・だったんでしょうね。

NAZI-kampfschwimmer-Frogman-Panerai.jpg

空軍は以前に紹介した「ヒトラーの特攻隊」こと、「エルベ特別攻撃隊」と
「第200爆撃航空団」が紹介されます。
バウムバッハ大佐が運営する第200爆撃航空団が出てくるものは初めて読みましたので
非常に興味深かったですね。
情報員を敵地に潜入させることを目的としたこの特殊部隊は、その任務のため、
不時着したB-17爆撃機などの英米機を修理/復元して使用していたそうです。
さらに彼らが最後の任務として敗戦の混乱のなか、ナチ高官を友好国へ逃亡させた・・。

b17_KG 200.jpg

最後は「人狼部隊」です。
ヒトラー・ユーゲント指導者アクスマンとSSのプリュッツマン、スコルツェニーに
カルテンブルンナーによって編成されたということですが、
元人狼メンバーの回想などが語られます。
特にアーヘン市長の暗殺が彼らの戦果であり、わりと顔の知られたイルゼ・ヒルシュという名の
少女団(BdM)の女の子がこの暗殺事件に関わっていたというのは初めて知った話です。

Ilse Hirsch .jpg

紹介文に書かれているようなブランデンブルク隊については半分以下・・という本書でしたが
このように、SS、海軍、空軍と幅広くドイツの特殊部隊を時系列で整理した一冊で
戦局の推移によって、特殊部隊の必要性がどのように変化していったのかもわかる反面、
ブランデンブルク隊について深く知りたかった自分にとっては、物足りなくもありました。
また、最後の「第200爆撃航空団」と「人狼部隊」の話については、どこまでホントか、
疑問に思うのも事実ですね。



nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

詳解 西部戦線全史 -死闘!ヒトラー対英米仏1919‐1945- [戦記]

ど~も。風邪っ引きのヴィトゲンシュタインです。

山崎 雅弘 著の「詳解 西部戦線全史」を読破しました。

以前に「ポーランド電撃戦」と「ロンメル戦記」と合わせてまとめ買いしていた本書。
先月、名著「電撃戦という幻」を読んで、西方戦役モノが無性に読みたくなっていたのもあり
今回、644ページという文庫の限界に近い厚さの本書を選んでみました。
しかし副題が微妙ですね。。「ヒトラー対英米仏」と言いつつ、「1919‐1945」。。。
「1939‐1945」じゃないのか・・? とタイトルにこだわるヴィトゲンシュタインとしては
ちょっと心配です。。

西部戦線全史.jpg

「はじめに」では、その「1919‐1945」の理由が書かれていて、
第1次大戦後のヴェルサイユ条約から「一本の大きな河の流れ」で記述することを
目的としたということです。
そして第1章では、フランスが次なる戦争では防御戦の方針を固めており、
それを「兵士の生命を重んじる立派な発想」と国民に解釈された・・とか、
スペイン内戦に参加した「コンドル軍団」のⅠ号戦車が非力過ぎることから、 
バンバン鹵獲したソ連のT-26戦車で4個大隊を編成した・・というような話を紹介します。

T26-Vickers.jpg

第2章は「ポーランド戦」、そしてポケット戦艦グラーフ・シュペーなどの活躍した
「通商破壊戦」をドイツ海軍を中心にデンマークとノルウェー侵攻までを・・。
160ページを過ぎた第3章から、いよいよ西方戦役に向けたマンシュタイン・プランの誕生と、
電撃戦」によるパリ陥落、さらにバトル・オブ・ブリテンと続きます。
英国本土上陸の「あしか作戦」では、長さ18mのホース状のシュノーケルをつけた
「潜水戦車」についても触れられています。

TauchpanzerIII.jpg

この西方戦役の章はまるで「電撃戦という幻」のダイジェスト版のようでした。
読んだばっかり・・というのもありますが、「あ~、アソコねぇ・・」と思ったり、
自分が書いたレビューとソックリな箇所があってビックリしたり(もちろん、本書が先です)、
巻末の参考文献にもしっかり載ってましたが、ちょっと参考にし過ぎてるような気も・・。
まぁ、逆に言えば、それだけ「電撃戦という幻」が素晴らしいということになりますね。
それでも電撃戦後は、クルップの列車砲が英国本土に向けて砲撃を開始した・・など
楽しい話もいろいろとありました。

Aberdeen_Tank-Museum-283mm-Leopold.jpg

ゲルニカ、ロッテルダムと続いたドイツ空軍による爆撃も、ヒトラーが首都ロンドンへの 爆撃
禁止していたにも関わらず、目標を見失ったHe-111が適当に爆弾を投下した結果、
ロンドンの市街地へと吸い込まれてしまい、これを契機にベルリンへの報復爆撃と
さらにロンドンへの爆撃禁止令の撤回・・ロンドン市民の7人に1人が住居を失い、
地下鉄のホームでの生活を余儀なくされた・・ということです。
この激しくなった爆撃合戦は1943年のハンブルク爆撃で3万人の市民が命を落とすまで
なかなか詳しく書かれています。

Elephant and Castle tube station during the Blitz.jpg

フランス・レジスタンスも有名なジャン・ムーランが紹介され、彼がゲシュタポに捕えられて
クラウス・バルビーの拷問を受けた後、死亡・・や、
逆にドイツの傀儡政府であるヴィシー政府の後押しを受け、反独抵抗組織の壊滅に一役買った
フランス人の武装組織ミリス(フランス民兵団)も、団長ジョゼフ・ダルナンとともに登場。
本書によると彼らによって殺されたレジスタンスの数は3万人を下らないそうですが、
神々の黄昏」を読んで気になっていた組織なので、大変勉強になりました。
まぁ、1ページだけなんですけどね。。

Milice française.jpg

中盤はメインとなるノルマンディ上陸作戦です。
ヴィレル・ボカージュの戦い」では、武装SSの戦車野郎ヴィットマンが大活躍。
そして、その死までも書かれていますが、本書は基本的に
個々の兵士のエピソードは書かれていないので(尉官レベルは皆無)、
このヴィットマンは完全に特別扱いですね。

ϟϟ-Hauptsturmführer der Waffen-SS Wittmann.jpg

戦況図が5ページに一枚の割合で出てくるのも、わかりやすくて良かったところです。
100枚ほどの戦況図が載っているそうですが、特にパリ解放後のドイツ本土へ向けた
モントゴメリー案とアイゼンハワー案の違いも上下で比較して見せたりして、
単なるやっつけ戦況図ではなく、簡潔ですが、
それぞれ意図を持ったわかりやすいものだと思いました。
もちろん彼らの確執に、パットンブラッドレーらの絡んだ連合軍バトルも頻繁に登場します。

Generals Montgomery, Eisenhower, and Bradley.jpg

本書には独英米仏と、実に多くの師団や軍団、軍、軍集団が登場しますが、
その名称の後にカッコ書きで師団長などの名前が記載されています。
例えば、第1SS装甲師団<テオドール・ヴィッシュSS少将>という書き方で、
一度、出てくれば師団長の名はなくなりますが、その後、師団長交代すると、
第1SS装甲師団<ヴィルヘルム・モーンケSS少将>となります。

有名師団だけではなく、弱小師団についても、このルールは適用されているので
バルジの戦いで「突撃砲兵」のギュンター・ホフマン・シェーンボルンとか
「総統付き陸軍副官」ゲルハルト・エンゲルが国民擲弾兵師団長と書かれていると
「おぉ~、こんなところで頑張っているとは・・」と、なにか懐かしく感じたりもしました。
こういうのは親切かつ、発見もあったりして、実に良いですね。

Gerhard Engel.jpg

ラストにはエルベ河畔で米軍第9歩兵師団がソ連第58狙撃兵師団と握手を交わし、
西部戦線と東部戦線が結合・・。ヒトラーも大急ぎで自殺して終わります。
遠すぎた橋」などもちろん登場しますし、ドイツ側の将軍もロンメルモーデル
クルーゲルントシュテットと沢山登場しますが、特別目新しい記述がなかったので
今回は思いっきり端折って、個人的に興味のあった部分のレビューにしました。

American and Soviet troops meet east of the Elbe River2.jpg

また、本書は各戦役や各々の戦いについては著者独自の見解というものはなく、
あくまで、一般的なものに留まっています。
例を挙げれば「ダンケルクの停止命令」も、いろんな説があって真相は不明・・・という表現です。
600ページ越えとはいえ、全体的にダイジェスト的な印象なのは否めませんが、
お弁当に例えるなら定番のおかずがたくさん入った「幕の内弁当」ですか・・。
ものめずらしい食材や、斬新な味付けがされているわけではなく、
「遠すぎた橋」が海老フライで、「バルジ大作戦」が唐揚げ・・なんて感じです。
しかし小さいおかずがたくさん詰め込まれてあるよりは、
「牛肉どまん中」みたいな、肉だけ食ってろ的なお弁当・・じゃなくて
戦記の方が好きな人も多いでしょうね。

german_soldiers_00.jpg

最後に、この本がどんな読者をターゲットにしているのか・・?
う~ん、難しいなぁ。
初めて本格的に第二次大戦の戦記を読む人には大変だと思いますし、
詳しい方には物足りない・・。まさにいま、勉強中という人や、
20年前に「グデーリアンの電撃戦」や「史上最大の作戦」を読んでいたような方が
「懐かしいな~」なんて呟きながら楽しめる一冊なのかもしれません。



nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。