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ドイツ装甲師団とグデーリアン [ドイツ陸軍]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ケネス・マクセイ著の「ドイツ装甲師団とグデーリアン」を読破しました。

先日レン・デイトンの「電撃戦」を読破した際、「参考文献目録」に
ケネス・マクセイの「グデーリアン」という本が載っていました。
「ケネス・マクセイ」って聞き覚えがあるなぁと思って調べてみると
予想通り「第2次大戦兵器ブックス」の「ドイツ機甲師団―電撃戦の立役者」の著者で、
読んだことはないものの、同じ本の別タイトルと思っていた本書こそ、
実は原題「グデーリアン」であることに気づきました・・。

それからは全てがあっという間の出来事です。
当時の定価2200円ですが、古書を1500円で購入し、この350ページほどに
ぴっちり書かれた本書を久しぶりにワクワクしながら、大事に、ジックリ、読破しました。

ドイツ装甲師団とグデーリアン.JPG

ロンメル伝「狐の足跡」のグデーリアン版といっても差し支えない内容で、
基本的にはグデーリアンの回想録「電撃戦」と彼が最愛の妻に送った手紙、
または息子のハインツ・ギュンター・グデーリアン少将や、総統付き副官だったエンゲル
そして最近すっかりお馴染みの参謀長ネーリングらの証言から
生い立ち~1954年のその最後まで・・が余すことなく書かれています。

guderian99.jpg

まずは彼の回想録、その英語のタイトルである「パンツァー・リーダー」について
それが書かれた経緯を分析し、評価するところから始まります。
戦後3年間を捕虜として過ごし、ポーランドに戦犯として
引き渡されそうな状況の中で集めた、僅かな資料と自身の記憶によって
書きはじめられたもので、自らを弁護するためにも必要な行動としながらも、
「彼は自分を弁護することには、まことにマズイ男である」としています。
このような理由については、既に彼の回想録をお読みの方なら納得されるでしょうが、
本文中に度々引用される「パンツァー・リーダー」の記述でわかってくることになります。

続いては生い立ち・・というよりも彼の先祖まで遡り、オランダ人の子孫か、
もっと怪しいがスコットランド人の末裔とも・・。

入学した陸軍大学校では同期生にフォン・マンシュタインがおり、
妻となり、最後までグデーリアンの「参謀長」を務めたマルガレーテと
その彼女の「またいとこ」のボーデウィン・カイテルが登場します。

young Manstein.jpg

第一次大戦では兵站と補給問題に没頭し、これが後に素晴らしい経験となった
ということです。これはグデーリアンがその後のワイマール共和国時代に
自動車化や通信、そして補給部隊と、「ドイツ装甲部隊の核」となる新しい分野を
担当/研究することとなり、その結果は他の兵科とのつばぜり合いに発展して行きます。

貴族も多く花形である騎兵は、真っ先にこの「補給部隊の成り上がりものたち」に
役割を譲ることとなり、機動戦などという怪しいものを信用しない砲兵科からも
激しい抵抗を受けます。
国防軍最高司令部(OKW)の上位にいるヨードル、ヴァーリモントは皆、砲兵科の出身であり、
陸軍総司令部(OKH)でもフリッチュ、ベック、そしてハルダーと砲兵・・。
これは「ドイツ参謀本部興亡史」にも書かれていましたが、
本書によると第一次大戦で戦死した砲兵科の将校が少なかったことによるそうです。

Walter Warlimont.jpg

このような保守的な参謀たちにとってはヒトラーやナチ党と同様に
グデーリアンも新参者の異端児扱いであり、それが逆にヒトラーとグデーリアンの繋がり、
陸軍総司令部との戦いとなっていきます。

1938年にはブラウヒッチュとライヒェナウ、そして人事局長ボーデウィン・カイテルと
その兄であるヴィルヘルム・カイテルといった面々が上層部に就任し、
クデーリアンの装甲部隊も大きく発展していきます。

Wilhelm Keitel y su hermano menor, Bodewin Keitel.jpg

ちなみにこの当時、装甲部隊をヒトラーが素晴らしいと認めていたとされることにも触れ、
ヒトラーがその戦術や運用を理解していたわけではなく、新設の空軍と同様に
派手で新しく、他国に対して脅しに使える部隊という程度の認識であったとしています。

Guderian & Hitler have a lunch with his generals in Sudetenland.jpg

いよいよポーランド侵攻から第2次大戦へと突入します。
ここからのグデーリアンの活躍は多数の戦記に書かれていますので、
面白かった部分をいくつかご紹介。。。
ポーランド戦線の背後で行われていたユダヤ人虐殺を知りつつ、
なにもしなかったとして非難されているドイツの将軍たちに対し、この英国人の著者は
「それはしょうがない」として、連合軍側で、無差別爆撃など自分が納得できない事態に対して
抗議した将軍がどれだけいたのか・・としています。

Guderian WAForum.jpg

フランスでの爆走停止命令では、回想録で上官のクライストと大喧嘩した話に触れ、
そのクライストは軍集団司令官ルントシュテットの命令に従っただけで、
グデーリアンはそれを戦後になっても知らなかったのだと解説しており、
このクライスト以外にも弱気な姿勢の上官に対しては
「まったく装甲部隊の運用を理解していない」という不満タラタラな妻への手紙を紹介し、
それは1941年の東部戦線で、激しさを増していきます。

French campaign he was given command of Panzer Group Kleist.jpg

バルバロッサ作戦」も当初の順調さが陰を潜め、T-34やKV-1戦車に手を焼くようになると
中央軍集団司令官のフォン・ボックにも反攻します。
そして有名なクルーゲとのバトルの末、罷免・・。
回想録でも激しくけなしているクルーゲ批判ですが、マクセイは
既に亡くなった軍人に対してあそこまで批難するのはいかがなものか・・といった感想です。

FedorVonBock3.jpg

さらに個人的に一番興味深く、面白かったハルダーとの関係がここから最後まで続きます。
どちらかというと、砲兵科出身の陸軍参謀総長のハルダーがもともとグデーリアンを
好きでない感じで、引用されているハルダー日記では「命令を無視して勝手に失敗しろ」と
ほくそえんでいます。
そしてグデーリアンが行き詰った攻勢からの撤退をヒトラーに進言するにあたり
結果的にグデーリアン、ハルダー双方がお互いを「裏切り者」という立場にしてしまいます。

HALDER,GUDERIAN,HOTH,STRAUSS,HOEPNER,OLBRICHT_RK-Verleihung.jpg

1943年の装甲兵総監就任による復帰、1944年の参謀総長就任
そして1945年の解任~終戦と続き、アメリカ軍の捕虜として、
戦犯容疑者として拘留されることになります。
そこではフォン・レープリスト、ヴァイクスら著名な将軍たちがおり、
同じく拘留されている宿敵ハルダーの保守派が中心です。
村八分であるグデーリアン派はミルヒとブロムベルクだったそうで、
3年間の派閥争いは退屈しのぎの口争いを繰り広げたようです。

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また、著者はグデーリアンとロンメルという装甲部隊の運用に長けた
将軍2人の比較も多面的に行っており、なかなか楽しめました。
今度、彼の著書「ロンメル戦車軍団」も読んでみますか・・。

Rommel atop a Panzer III.jpg

本書がとても楽しい理由のひとつには、著者と訳者の経歴が関係している気もします。
著者のマクセイは1941年から英国軍機械化部隊に所属し、1944年、フランスにおいて
戦車部隊を率いてドイツ軍と戦い「戦功十字章」を受けたという人物ですし、
訳者の加登川氏は戦前、陸軍大学校を卒業し、陸軍戦車学校教官を務め、
戦時中は参謀として様々な戦地を転戦したという、自分の祖父と同い年の方です。

国こそ違うものの、彼らにとって師匠ともいえる存在のグデーリアン伝を
その人物像を掘り下げながら書き上げ、または、翻訳しているということで、
彼らにとっても、それがとても楽しい作業であっただろうことが、読んでいてなにか伝わってきます。
それにしても、カバーの裏にはこの加登川氏の現住所「練馬区下石神井△-△-△」と
書かれているのはスゴイです。。

guderianfuneral3mn.jpg

とにかく、このような素晴らしい本の存在を今まで知らなかったということが自分でも驚きです。。
自分は結果的に「電撃戦 -グデーリアン回想録-」を先に読んだ形ですが、
本書を先に読んでも、充分楽しめ、また、回想録も読みたくなること請け合いです。
ドイツ装甲部隊に興味のある方なら、どちらも読むべき名著だと思います。


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電撃戦 [ドイツ陸軍]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

レン・デイトン著の「電撃戦」を読破しました。

英国のスパイ小説の巨匠、レン・デイトン、1979年のノンフィクションです。
デイトンを読むのは自分が若かりし頃、スパイ小説を読破していた時以来で
当時は「SS-GB」や「ベルリン・ゲーム」などを読んでいました。

電撃戦.JPG

原題はドイツ語の「ブリッツクリーク」で、日本語でいうところの、
この「電撃戦」という言葉を誰が始めて使ったのか・・も、検証しています。
まぁ、ヒトラー説など諸説あるようですが、リデル・ハートが「ライトニング・ウォー」と
書いたのが最初という話もあるようです。

序文を書くのはヴァルター・ネーリングです。
1920年代のグデーリアン少佐との初めての出会いから、1940年のフランス戦で
そのグデーリアン装甲軍団の参謀長を務めた彼が、簡潔に7ページほど書いていますが、
このまま100ページくらい続けて欲しい・・と思ってしまいました。

Walther Nehring9.jpg

基本的に「電撃戦」とはなんだったのか?、また、「電撃戦」の定義は?という観点から
フランス戦役が語られるのかと思っていましたが、本書は第一次大戦の戦い・・
当時の登場した戦車、戦闘機などを含む新兵器を用いた戦術解説から始まります。

続いて、ヒトラーの台頭から軍事力発展、グデーリアンの装甲部隊創設・・と続いていきますが、
これは原著の副題「ヒトラーの出現からダイケルク陥落まで」ということを
知っておく必要があるでしょう。

Guderian41.jpg

フランス戦そのものも大事ですが、どのようにしてこの電撃戦が生まれるに至ったのか
ということを掘り下げており、それを理解するためにその時代ごとの英国、フランス、ドイツの
戦術ついての考え方を細かく取り挙げています。

このような展開となる本書は序盤、ヒトラーがブロムベルクと国防軍を改造して行く
過程が語られますが、国防省大臣局長フォン・ライヒェナウが大きく紹介されています。
曰く「冷徹周到で、指導力もあり、知的な点でブロムベルクを凌ぎ、
リデル・ハート大尉の数冊の著書のドイツ語訳まで行う機動戦の提唱者」。

Von Reichenau.jpg

1934年、ブロムベルクは陸軍総司令官に旧友ライヒェナウを押しますが、
ナチ寄りの彼の元で働くことを嫌がった2人の軍団司令官、フォン・レープ
ルントシュテットの反対により、妥協の産物としてフリッチュが任命されたということです。

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ヒトラーのユダヤ人迫害政策について著者のデイトンは、自身の見解を述べています。
「もしユダヤ人迫害がなければ、1930年代後半には核弾頭とそれを運ぶV2ロケットが完成し、
ドイツは世界を征服していたかもしれない・・」。
これは勿論、彼らユダヤ人が「新兵器」開発に大きく寄与しただろう・・という意味です。

やられてしまった側の英仏連合軍に対しても、その充分な要因があり、
特に政治問題と腰の引けた政策を辛辣に批判しています。
1938年のチェコでの危機の際、英国首相チェンバレンがミュンヘンを訪れます。
これを「日曜学校の先生にアル・カポネとの取引を頼むようなもの」として
偉大な政治家として名を残す契機とばかり乗り込んだチェンバレンは
あっさり、ヒトラーの副官に成り下がってしまったとまで書いています。

von Ribbentrop, Neville Chamberlain, Adolf Hitler.jpeg

1939年のポーランド戦、一般的にはこの戦いも「電撃戦」と言われたりもしますが、
(最近、「ポーランド電撃戦」という本も出ましたね)
その作戦立案を行ったルントシュテット作業班~事実上ルントシュテットは2人の部下、
マンシュタインブルーメントリットに任せきり~の様子から、その実際の作戦と
戦いの推移に至るまでを検証して、この戦役は古典的な包囲戦であり、
機甲部隊の分散配置やその少なさからも「電撃戦ではない」と結論しています。

Günther Alois Friedrich Blumentritt.jpg

武装SSについても書かれています。興味深いのは1940年5月の時点で
5名のアメリカ人義勇兵がいた・・というところですね。

そしていよいよ「電撃戦」の様子が北から進んで行きます。
オランダへの作戦では、降下猟兵による各橋の確保の重要性が解説されます。
こうやって考えてみると、後にモントゴメリーが編み出した
マーケット・ガーデン作戦」の序章とでも言うべき作戦だった気もしました。

ベルギーのエーベン・エメール要塞への空挺作戦も、その要塞なるものの真実・・
重歩兵装備も、高射砲も、輸送手段もなく、あるのは時代遅れの攻城砲だけで、
訓練も受けていない年配者のよる「要塞師団」で、
その名もコンクリートに閉じ込められている部隊の体の良い別称に過ぎなった・・。

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フランスへの侵攻が始まるとグデーリアンの装甲軍団を中心に、
ロンメルの第七装甲師団も活躍します。
ここでも有名な88mm高射砲の話・・窮地に立ったロンメルがとっさのアイデアで、
対戦車砲として初めて水平射撃を行った逸話に触れ、徹甲弾が有ったということは、
はじめからそのような使用方法が想定されていた・・という
言われてみれば当たり前のことですね。

88-mm-flak-18-with-36-kills.jpg

急降下爆撃機(Ju 87)が英仏軍に与えた心理的効果は大変大きく、
特にその降下の際に発せられる独特の音は、それだけで戦意を喪失させたほどで、
グデーリアンの参謀長ネーリングは、空軍に対し、爆弾が無くなっても新手が到着するまで
敵の頭上で急降下を繰り返すよう進言したそうです。

A swarm of Junkers Ju 87 Stuka dive bombers.jpg

これは過去においての攻撃戦術、つまり、歩兵や騎兵の突撃を支援する「砲兵の役目」を
「電撃戦」では急降下爆撃機が担ったということであり、
また、英国の3.7インチ砲が10㌧以上も重量があるのに対して、ドイツの88mm砲は
その半分であったことから、牽引のスピードにも違いがあったでしょう。

本書はグデーリアンによって発展させられたこの戦術の定義、
「速やかで不意打ち的な軍事攻撃で、通常、空・陸両軍の協同作戦で行われる」を
このような様々な角度と要因から分析し、その戦力差よりも
第一次大戦以来となる、双方の心理的問題が大きかったという印象を持ちました。

guderian-en-ardennes-en-mai-1940.jpg

実際、ドイツ軍戦車による英仏軍の死傷者は、わずか5%ほどであったとしています。
これは軽戦車のⅠ号、Ⅱ号戦車であっても、それらの集中的な使用とスピードによって
慌てふためき後方へ逃げ出した兵士たちの報告が誇張に誇張を呼び、
ドイツ戦車と急降下爆撃機の数は千単位で増えていったからとしています。

最後はダンケルク。英国の「ダイナモ作戦」による撤退の様子が詳しく書かれており、
特にこの作戦にほとんど貢献の出来なかった英国空軍の話が印象的です。
救出された大陸派遣軍の陸軍兵士たちは、命がけで救出してくれた海軍には
大いに感謝したものの、姿を現さなかった空軍のブルーの制服の兵士が、
その後何ヶ月もダンケルクの生き残りたちから暴行を受けたりしたそうです。

dailysketch-dunkirk.jpg

デイトンの小説家としての展開力もあってか、500ページの本書で
いよいよアルデンヌの森を突破・・となる場面は320ページからです。
しかし、予想以上に深く、広い視野で見た一冊で、
この「フランス戦役のみであった電撃戦」という結論も納得のいくものでした。

昔から知っている作家なので、彼に敬意を評してノンフィクションのもう一冊、
バトル・オブ・ブリテンを描いた「戦闘機」と
小説ながら面白そうな「爆撃機」も買ってしまいました。


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ドイツ参謀本部興亡史 [ドイツ陸軍]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ヴァルター ・ゲルリッツ著の「ドイツ参謀本部興亡史」を読破しました。

19世紀初頭のプロイセン王国時代に誕生した、世界に名だたるドイツ参謀本部。
その創設から第一次世界大戦、ワイマール共和国、そして第三帝国崩壊までを
時代ごとに、歴代の参謀総長を中心として解説したものです。

ドイツ参謀本部興亡史.JPG

上巻はほとんど戦艦としての名前でしか知らなかった2人の始祖、
シャルンホルストとグナイゼナウから始まります。
そしてこれまた戦記では良く登場する「戦争論」のクラウゼヴィッツや
大モルトケ。同じく「シュリーフェン・プラン」で有名なシュリーフェンなどが
当時の皇帝やその時代背景、さらには人格までを分析して
参謀本部が強大な勢力として確立していく様が描かれます。

Alfred_Graf_von_Schliefen.jpg

と、ここまで読んだのが実は半年前のこと・・。
いや~、いくら勉強とは言え、やっぱりプロイセンそのものの歴史を知らないので
キツカッタです。4ページも読めば睡魔が襲ってきて・・。
「図説 プロイセンの歴史」でも買って、まずはここら辺りを勉強するか・・
と思いつつ、早い話が挫折していました。。

ようやく先日、この止まっていた上巻の真ん中から再チャレンジを始めました。
ちょうどここからは第一次世界大戦に向けて小モルトケとファルケンハイン、
そしてヒンデンブルクとルーデンドルフによって大戦が終結するまでを
今度は結構楽しみながら、読破しました。
これは読み進むにしたがって、知っている話や人物が増えてくることに
比例していますね。

いよいよ下巻へ突入。
第一次大戦の敗戦によって参謀本部は廃止され、ワイマール共和国の10万人軍隊を
ゼークトが率いることになり、それと平行してヒトラーが台頭してきます。

seeckt with hitler.jpg

「隊務局」という名に姿を変えて生き続ける参謀本部は、
かつてのプロイセン貴族やユンカーからブルジョア中心となっていますが、
その理由も貴族が共和国に仕えるのを嫌がったことが要因の一つだったようです。

ナチス政権になるとブロムベルクやフリッチュのスキャンダルが・・。
何度も読んだことのあるこの話は特に他の本と違うことはありませんが、
この参謀本部中心の本書では、読んでいてとても重大な危機に感じさせます。

Keitel, v.Rundstedt, v.Bock, Göring, Hitler, v. Brauchitsch, v.Leeb, List, v.Kluge, v.Witzleben, Reichenau.jpg

またこの頃、完全復活を遂げた参謀本部の内部構成や
新設の国防軍統帥局との関係が詳細に書かれていて、大変タメになりました。
上層部は砲兵科出身の将軍で占められていたという話や
特に参謀本部第1部長がいわゆる参謀次長であり、
1935年当時はその第1部長だったのがフォン・マンシュタインで、
第2部長がハルダーだったという話。
そして参謀総長のルートヴィヒ・ベックが辞任した際にはすでに
マンシュタインではなく第1部長はハルダーだったということもなにか
運命的なものを感じますね。
ちなみに第4部長はシュテルプナーゲルです。すごい面子揃ってます。

Ludwig Beck1.JPG

一方の国防軍統帥局でも局長となるヨードル
国防軍最高司令部(OKW)総長のカイテルも彼らの立場と責任を明確にしていて、
第2次大戦に向かって行くなかでの陸軍総司令部(OKH)との対立や
このような上位の将軍たち個人個人の確執を知ることが出来ました。
まるで、殿であるヒトラーが御乱心した際の大奥みたいな感じです。

Keitel Brauchitsch halder hitler.jpg

第2次大戦勃発後は、参謀総長のハルダーと陸軍総司令官ブラウヒッチュが中心です。
やがてスターリングラードで降伏するパウルスが次長だったり、
そのパウルスがヒトラーに評価されていたことからヨードルの後任に目されていたり
という地味ながらも興味深い話が続き、
解任されたハルダーに代わってツァイツラーが登場してくると
再びマンシュタインも参謀本部最後の頭脳として、東部戦線の危機を救います。

Hitler,Heusinger, Friedrich Paulus und Georg von Sodenstern.jpg

最後はシュタウフェンベルクトレスコウを中心としたヒトラー暗殺計画です。
彼らも当然、生え抜きの参謀であり、また貴族でもあったことから
この事件について焦点を当てています。

von Stauffenberg7.jpg

この1944年7月20日以後、参謀総長に就任したのは
参謀経験のまったく無い「戦車おやじ」グデーリアン
とは言っても著者はグデーリアンの参謀としての能力を云々しているわけではなく、
如何にヒトラーが参謀本部と参謀将校を信用しなくなったのかということであって、
事実上、歴史ある参謀本部はこの時点で崩壊したという印象を受けました。
それは最後の参謀総長であるクレープスの登場シーンが最後のページでたった1行、
「自決した」だけであることからも伺えます。

guderian7.jpg

150年に渡るドイツ参謀本部の歴史ですが、
個人的には1930年代の平時の部分が一番楽しめました。
時期的に地味で書かれたものが少ないからかも知れません。
なお、著者は有名な元帥伝を三冊書いています。
「パウルス伝-本官は命令によりここにとどまる」
「カイテル-軍人か犯罪者か」
「防御の戦略-モーデル元帥伝」
凄いですねぇ!翻訳してもらえないかなぁ・・。







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ナチス・ドイツ軍の内幕 [ドイツ陸軍]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

リデル・ハート著の「ナチス・ドイツ軍の内幕」を読破しました。

1973年発行の古い本ですが、原著は戦後間もない1948年の
「ドイツの将軍たちは語る」というもので、ルントシュテット元帥をはじめ、
ほとんどの将軍たちが収容所に拘束されている時に、リデル・ハートの
インタビューに答えた、ドイツの将軍の目から見た第2次大戦史とも言える一冊です。
なお、同著者の「ヒットラーと国防軍」はこの本の改題であるようです。

ドイツ軍の内幕.JPG

実は「ロンメル戦記」しかリデル・ハートを読んだことがなかったんですが、
非常に面白い本で、以前読んだ「運命の決断」のような感じもしますけど、
ただ単に一つひとつの戦役について振り返るだけではなく
第2次大戦全般における「ボヘミアの伍長」と揶揄されていたヒトラーが
「史上最高の司令官」となっていくなかで、彼らの立場や考え方を探っています。
そのためか、登場する将軍は若干カブってはいますが、まったく気になりませんでした。

von Rundstedt, von Fritsch and  von Blomberg.jpg

まずは第1次大戦後のドイツ軍から重要な将軍たちがヒトラーの台頭に合わせて紹介されます。
ゼークトから始まり、ブロムベルクとフリッチュ、ブラウヒッチュとハルダー
「日なたの軍人」ロンメル、「日かげの軍人」たちとして、ツァイツラーにグデーリアン
さらにマンシュタインクルーゲモーデル
〆には、本書の主役と言っても良いルントシュテットです。
ハートはルントシュテットの人間性も含め、とても評価していて
第1次大戦のヒンデンブルクとルーデンドルフを足したより素晴らしい軍人と大評価しています。

hindenburg_ludendorff_2.jpg

この前半部分、ボリームはないですが、非常に客観的にこれらの著名な将軍たちを分析していて
また、現在の一般的な評価と相違ないことに驚き、かつ楽しめました。
まぁ、現在と相違ないというよりも、彼らの評価はこの本やハートによって
ある程度確立したのかも知れません。

Generalfeldmarschall Gerd von Rundstedt.jpg

中盤からはポーランド侵攻からアルデンヌ攻勢までを数多くの将軍たちが振り返ります。
特にダンケルクでの停止については、ルントシュテット、参謀のブルーメントリット、
さらにクライストがそのときの状況を語り、結論としては、
「ヒトラーが英国軍を救いたかった」として、その後に和平に持ち込む方向は、
ルントシュテットにしても「最善である」と思ったそうです。

北アフリカと地中海での戦いについて語るのは、エル・アラメインで捕虜となった
リッター・フォン・トーマとシュトゥーデントです。
ロンメルの戦いざまも楽しめますが、クレタ島の戦いを振り返るシュトゥーデントの話は
とても参考なりました。

Ritter von Thoma.jpg

東部戦線もフランス戦役のメンバーが主役です。しかし、1943年以後、
劣勢になってくるとハインリーチが登場し、防御戦の真髄を語ります。
一度も負けたことがないと自負する、この防御戦の達人は、
「1対18」の劣勢でも撃退したという話もしてくれます。
スターリングラード以降でもドイツ軍に勝機はあったか?の問いに
「柔軟な戦いが許されていればあった」と答えています。

G.Heinrici.jpg

7月20日事件は当時、西方司令部でクルーゲの参謀であったブルーメントリットが
非常に生々しく、自身もいつ何時ゲシュタポに捕えられるかという恐怖の時間を
詳細に解説します。
特にパリのシュテルプナーゲルとSSの一件については、
現場に居合わせた当人によるものなので、興味があっただけに勉強になりました。

Hasso_von_Manteuffel5.jpg

アルデンヌはフォン・マントイフェルです。
彼は若く斬新なアイデアを持つ将軍としてヒトラーから高い評価を得ていたそうで、
ある意味、ロンメル的なお気に入りだったように感じました。

Liddell Hart.jpg

今回、リデル・ハートものを読んでみて、とても気に入りました。
なんというか、敵味方関係なく戦いについて冷静かつ客観的に書かれていて、
特に英国人である彼はドイツ軍内部で起こっていたことに興味津々です。
そろそろ「第二次世界大戦」を購入しようかと思っています。







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忘れられた兵士 -ドイツ少年兵の手記- [ドイツ陸軍]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ギイ・サジェール著の「忘れられた兵士」を読破しました。

先日読破した「バルト海の死闘」に数回引用されていたので気になって探してみました。
ところが、これがとても素晴らしい内容で、ほぼ一気読みしてしまいました。

主人公の生まれ育ったドイツとフランスの国境にあるアルザス地方は
ワインと戦争」でも書かれていたように
両国に領土が行ったり来たりを繰り返すという歴史があり、
人々はドイツ/フランスどちらでもないアルザス人という認識もあるようです。

忘れられた兵士.JPG

アルザスに進軍してきたドイツ軍の格好良さに憧れ、16歳でドイツ国防軍に志願した
フランス人の父とドイツ人の母を持つサジェールは、輸送部隊に配属され、
東部戦線へ送られます。
酷いフランス訛りのドイツ語をからかわれながらも
若き戦友たち、特に親友となるハンスとの友情は読んでいて何度も胸が熱くなります。
また輸送部隊といっても、そこは1942年のロシア深くの戦線であり、
初めて経験する戦闘は大変恐ろしいものです。

そしてエリート師団「グロースドイッチュラント」の軽歩兵連隊へ入隊すると
そこでは過酷な訓練が待っており、大尉の強烈なシゴキに耐え、
無事、歩兵として一人前となって、改めて大尉に尊敬の念を抱くシーンは
リチャード・ギアとルイス・ゴセット・JRの「愛と青春の旅立ち」を思い出しました。

1943年、ハリコフでの戦いから徐々に戦況は不利となり、西方への撤退が始まります。
歩兵の彼らは当然のように徒歩での撤退が延々と続き、
勢いに乗って攻めてくるロシア軍との防衛戦は気も狂わんばかり・・というか、
若き戦友たちは半分、気がふれて泣き笑い状態です。
ともかく、この後半は敵の砲撃の雨を耐え忍ぶのみで、
以前に読んだ「最強の狙撃手」ばりの悲惨さです。

Katyusha.jpg

このような彼ら少年兵たちを引っ張るのは、スーパーマンのような「古参兵」です。
小隊長や中隊長といった下士官たちよりも、彼らはこの「古参兵」に全幅の信頼を置き、
彼の言うことを聞いていれば死ぬことはないと考えるようになるほどです。

実にシブイこの「古参兵」は映画「戦争のはらわた」のジェームズ・コバーン演じる
シュタイナー軍曹のような雰囲気をかもしだしています。

Cross of Iron.jpg

そしてその「古参兵」も思わず諦めるような
絶体絶命の窮地を救ってくれるのがメッサーシュミット!
読んでいる自分も思わず「ドイツ空軍万歳!」と一緒に叫んでしまいそうになりました。
このような読みやすい体験記は簡単に感情移入してしまうので、ホント疲れました・・。

実はかなり有名な本のようですが、なかなか手に入りづらく、
ヴィトゲンシュタインは神保町で2000円というソコソコの値段で購入できました。





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