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狐たちの夜 [戦争映画の本]

ど~も。酔っ払い気味のヴィトゲンシュタインです。

ジャック・ヒギンズ著の「狐たちの夜」を読破しました。

大作「ヒトラーの戦い」の後遺症から未だ抜け出せない日々が続いていて、
ちょっと軽めを欲しがっているヴィトゲンシュタインとしては、久しぶりに小説を選んでみました。
ヒギンズといえば個人的戦争小説No.1の「鷲は舞い降りた」の作家ですが、
本書は以前紹介したシェレンベルクのよりは大分面白い戦争小説で、
第2次大戦モノで言うところの「狐」・・、即ち、ロンメル元帥が絡んだ一冊です。
別に「狼」の次は「狐」・・という動物シリーズを目指すつもりはありませんので・・。

狐たちの夜.jpg

毎日の晩酌は決して欠かさないヴィトゲンシュタインですが、
読書とレビューは基本的に「シラフ」で実行します。
唯一の例外が、「小説」のレビューで、これは過去に「輸送船団を死守せよ」がそうでした・・・。
これは「小説」の場合、極力、細かい内容を書きたくない・・「印象」を書きたい・・
という「素直な気持ちを表現」するための手段なんですが、
その結果の良し悪しは今回も不明です・・。

大まかにストーリーを書いてみると、1944年4月28日、ノルマンディ上陸作戦の実施に向け、
「タイガー演習」を行った連合軍ですが、ドイツ海軍のEボートに攻撃されて、
650人のアメリカ兵を失います。
その中には、極秘情報である「本番の上陸場所と日時」を知る将校も含まれており、
工兵大佐ケルソゥが重傷を負いながらもドイツ軍占領下のジャージー島に漂着。
アイゼンハワーの承認を受けた、主人公である英陸軍大佐マーティノゥがドイツ兵に変装し、
彼の救出に向かう・・というものです。

eboat.jpg

ドイツ人の血を持ち、完璧なナチ風ドイツ語と態度を操るマーティノゥが化けるのはSS大佐です。
しかし、袖のカフタイトルは「ライヒスフューラー・SS」、その上に「SD」のパッチをつけ、
ヒムラーの委任状を持つ・・という最強のSS将校です。

「ライヒスフューラー・SS」とはもちろん「SS全国指導者」、つまりヒムラーのことですが、
カフタイトルでは第16SS装甲擲弾兵師団 「ライヒスフューラー・SS」が有名です。
本書の説明では、この武装SSのものではなく、「ヒムラー直属」という意味で
このカフタイトルは使われます。
確かに「アドルフ・ヒトラー」のカフタイトルも「ライプシュタンダルテ」だけではなく、
ヒトラー直属」の意味を持っていたと書かれたものもありましたね。

SD_RFSS.jpg

とにかくフランス人娼婦に化けたヒロインの女の子と共に
堂々とジャージー島に乗り込んだマーティノゥ。
工兵大佐ケルソゥを匿う、英国人や中立国アイルランドの元IRA闘士、戦争は負けたと知りつつも
未だにドイツ軍と共に戦うイタリア兵、フィンランド人の凄腕パイロット・・と
国際色豊かな人物たちが登場します。

当然、ヒギンズだけあって、主役が連合軍であったとしてもドイツ軍が悪役などということはなく、
主人公が嫌いなのは自らが演じる「ナチ」であって、例えば、島の臨時副司令官の少佐が
一級鉄十字章に銀の戦傷章、そして金の白兵戦章を身に着けているのを見て、
「彼は戦争の英雄なのだ」と好感を持ったりします。
この「英雄」と感じるのが「騎士十字章」ではなく、
「白兵戦章金章」というあたりが実に良いですねぇ。

Nahkampfspange Heer Gold.jpg

ところで「狐」はどうなった??とお思いの方、
主人公とは絡まないシーンでちゃんと前半から登場します。
西方B軍集団司令官のロンメル元帥は、すでに戦争の行く末を案じ、
ヒトラー暗殺を目論むグループと接触。
そのような動きを察知したヒムラーら、ナチ首脳にバレないよう、
フランス占領軍政長官フォン・シュテルプナーゲルと
ベルギー占領軍政長官フォン・ファルケンハウゼンと極秘の会議に挑みます。

Alexander von Falkenhausen.jpg

そこで思いついたのが「替え玉」作戦。ロンメルそっくりの芸を披露した軍曹を自身に仕立て上げ、
各地の防御陣地の視察で練習させますが、ロンメルの副官もタメ息をつくほどの完璧ぶり・・。
このロンメルの各部隊の視察に様子は、本物でも偽物でも、
まさに「ノルマンディのロンメル」そのまんまで、突然訪れる、
ドイツの誇るロンメル元帥の査察に各部隊はてんやわんやです。

Rommel_Friedrich Dollmann 1944.jpg

そして主人公マーティノゥがいるジャージー島にも45分後到着するという連絡が突然入り、
パニックに・・。本来の救出任務を進めるなかで、
ロンメル暗殺・・という千載一遇のチャンスも巡ってきたマーティノゥ・・。
「偽物」vs「偽物」の戦いは・・。
ですが、クライマックスはこのず~と後です。
「偽ロンメル」を殺して終わったら、単なる「間抜け」ですよね。

本書は戦争小説として、いろいろな共通点があることを発見しました。
ひとつ目は、主人公の名前「マーティノゥ」です。
本作でも「珍しい名前だな」と言われるマーティノゥですが、
「輸送船団を死守せよ」の主役の艦長と同じ・・。

Rommel_on_the_Channel_1944.jpeg

展開も、英軍の人間がドイツ人に化けて、ドイツの英雄殺害を目論むなんてのは、
「鷲は舞い降りた」の逆の展開ですし、「訳者あとがき」に書かれている
アリステア・マクリーンの「ナヴァロンの要塞」との比較も、
本書と一緒に買ったのが、まさしく「ソレ」だったり・・。
そういえば「ロンメル暗殺」ということでは「砂漠の狐を狩れ」もありましたね。

正直言って、ロンメルが出てこようが、あまり関係ないほど面白い戦争冒険小説でした。
さすがに「鷲は舞い降りた」には遠く及ばないものの、ヒギンズらしい男のロマンに満ちたものです。

ちなみに原題は「NIGHT OF THE FOX」で、いまこれで検索したら
1990年にTVムービーで製作されていたようです。
ロンメルを演じるのは、英国人のマイケル・ヨークです。聞いたことある名前ですが、
子供の頃観た「ドクター・モローの島」の主演の人みたいです・・が全然、憶えていません。

ERWIN ROMMEL_Michael York.jpg

主演のマーティノゥは「ティファニーで朝食を」のジョージ・ペパード・・。
原作ではヴィトゲンシュタインとほぼ同い歳のマーティノゥが、62歳になってしまいました。。
このパッケージ見ても、ちょっと年寄り過ぎですねぇ。

NIGHT OF THE FOX.jpg

ハイドリヒにしても、シェレンベルクにしても、シュトロープにしても
SS隊員が映画になると平気で20歳くらい歳喰った役者さんになってしまいます。
平時の軍隊では昇進が遅いことから、大佐や将軍が年寄りなのは理解できますが、
戦中や、特にSSは若くしてバンバン昇進してますから、
「62歳のSS大佐」じゃあ、ただの能無し古参党員みたいで、凄味がないですよね。

でも、良い例も思い出しました。
名作戦争映画「遠すぎた橋」です。
ビットリッヒSS中将を演じたのがマクシミリアン・シェルですが、彼は47歳で、
当時のビットリッヒが50歳です。

Maximilian Schell_A BRIDGE TOO FAR & Wilhelm Bittrich.jpg

また、ハルメル少将っぽい架空のルートヴィック将軍を演じたハーディ・クリューガーは
マクシミリアン・シェルより年上の51歳。
本物のハルメルは38歳ですが、まぁ若く見えるし、凄味もあるし、
個人的には映画での武装SS将軍、No.1の雰囲気ですね。

Hardy Kruger_A BRIDGE TOO FAR & Heinz Harmel.jpg



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ウィンザー公掠奪 [戦争映画の本]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ハリー・パタースン著の「ウィンザー公掠奪」を読破しました。

リッベントロップ伝「ヒトラーの外交官」を読んだときに知った本書は、
個人的戦争小説No.1「鷲は舞い降りた」のジャック・ヒギンズが
別名で書き下ろした小説で、主役はSD少将、"ワルター"・シェレンベルクです。
ようやく綺麗なものを見つけましたので、早速、読破しました。

ウィンザー公掠奪.JPG

本書のストーリーは1940年のフランス侵攻後の対英作戦・・・、
「バトル・オブ・ブリテン」から英国本土上陸の「あしか作戦」を控え、
英国占領後のナチ傀儡政権の君主とすべく、
英国民にも人気のあるウィンザー公を誘拐しようとするもので、
シェレンベルクの回想録も参考にしつつ、実話に基づいたという小説です。

まずは良く知らなかった、タイトルでもある「ウィンザー公」が如何なる人物かというと・・。
1936年1月、英国王ジョージ5世の後を継ぎ、
エドワード8世として王位を継承したのちのウィンザー公は、かねてからの恋人、
ウォリス・シンプソンとの結婚を検討しますが、彼女が人妻であることから、
離婚の禁じられているイングランド国教会首長兼務という立場もあって、政府や
一般市民の反発もあり、結局は即位から1年もしないうちに王位を返上することになります。

The Duke and the Duchess are greeted by Adolf Hitler on their visit to Germany in 1937..jpg

この「王冠を賭けた恋」と知られる出来事のあと、めでたくウォリスと結婚を果たし、
ウィンザー公の称号を与えられて、海外を歴訪しますが、
1937年にはベルヒテスガーデンに滞在するほど、親ドイツとなり、
英国政府からも煙たがれる存在となっていきます。

1940年のドイツによるフランス侵攻後はスペイン、ポルトガルと滞在し、
この波乱の時代に元国王としての己の存在をアピールしたいウィンザー公に
英国政府はバハマ総督という島流し的な扱いを打診。
それを知ったヒトラーはウィンザー公に接触を図ろうと画策・・。

このような状況下で本書は始まります。
外務大臣リッベントロップから特別な要請を受けたシェレンベルクですが、
直属の上司、SSのハイドリヒとヒムラーからも当然、
このウィンザー公に対する任務についての説明を求められます。

Heydrich & Himmler.jpg

それと平行して本書のヒロインであるドイツ生まれのアメリカ人女性をスパイ容疑から庇い、
ヒムラーとハイドリヒからはその女たらしぶりを責められますが、
シェレンベルクを実の弟のように可愛がるハイドリヒは容認気味・・。

一方、シェレンベルクを仕事の出来る男と買いつつも、誰も信用しないヒムラー
補佐を名目に屈強なゲシュタポ2人をシェレンベルクに付け、
リスボンでのウィンザー公との接触についても監視と報告に当たらせます。

schellenberg179.jpg

「シャンパン商人と鶏養家」とリッベントロップとヒムラーを陰で呼ぶほど
上官の彼らを信用していないシェレンベルク。

30歳にしてSSの少将、優男で頭が良く、その上ナチの思想は興味なし、
拳銃の名手であり、格闘も見事な腕前という、
ナチス・ドイツにおけるジェームズ・ボンドという役柄を思う存分演じています。

事実に基づいたストーリーですから、歴史的に有り得ない展開はありませんが、
最後までシェレンベルクは「イイ男」っぷりを見せつけています。
ですが、前半のヒムラーとハイドリヒたちとの絡みのシーンが最も楽しめました。

Himmler talking with Ribbentrop.jpg

ヒギンズの戦争小説としては「鷲は舞い降りた」には遥かに及びませんが、
シェレンベルク・ファンなら、そこそこ楽しめるでしょう。
案の定、ロバート・ワグナー主演で映画にもなっていますが残念ながら未見です。
いろいろ調べてみましたが、全体的に出演者の年齢が高い、
渋めのロマンティック・スリラーといった雰囲気の映画ですね。

TO CATCH A KING.jpg

ハリー・パタースン名義では他にも、ベルリンからの脱出に成功した
マルティン・ボルマンが登場するという「ヴァルハラ最終指令」や
ジャック・ヒギンズ名義でもノルマンディ上陸前夜を舞台に
ロンメルも登場するという「狐たちの夜」もあるようなので、
今度、読んでみようと思っています。





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ディファイアンス -ヒトラーと闘った3兄弟- [戦争映画の本]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ネハマ・テック著の「ディファイアンス」を読破しました。

1年半前にひっそりとロードショー公開された映画「ディファイアンス」の原作本です。
「現役007」ダニエル・クレイグ主演の第2次大戦モノ・・という理由だけで
詳細なストーリーも知らないまま観に行きましたが、まぁ、可も無く不可も無く・・という作品でした。
今回、たまたま古書で安く見つけましたので、「もうひとつのシンドラーのリスト!」という本書を
ちょっと思い出しながら読んでみました。

ディファイアンス.JPG

さすがにこの映画をご覧になった方はそれほど多くないと思いますので
簡単にストーリーを紹介すると・・・1941年のバルバロッサ作戦
ポーランドの東に位置するベラルーシ(白ロシア)をも占領したドイツ軍。
ここにも大量のユダヤ人が住んでいることから、ポーランドと同様
知識人や高位のユダヤ人を虐殺し、ゲットーを設置して迫害します。

そんななかユダヤ人の貧しい大家族のなかで育ったビエルスキ家のうちの3兄弟は
むざむざドイツ軍の手に落ちることを潔しとせず、銃を手に入れ、森に逃げ込みます。
同胞のユダヤ人が徐々に集まり出し、その人数も1000名を超え、
食料の調達に苦労しながらも、ナチス・ドイツ軍に対し
赤軍のパルチザン部隊として戦いを挑む・・といったものです。

本書では、まず、ダニエル・クレイグ演じたトゥヴィア・ビエルスキと兄弟の生い立ちから
その当時から存在していた反ユダヤ主義を紹介し、
ドイツ軍占領後も隣人たちや地元民による密告など、ベラルーシ人というものではなく、
あくまでユダヤ人としての生き残りを賭けた戦いとして進んでいきます。

Defiance Daniel Craig.jpg

ユダヤ人の同胞を救うことが目的のカリスマ性溢れるトゥヴィアは
女性や子供、老人もすべて受け入れますが、その食料の調達には実に苦労します。
食料調達班は銃を持って村へ忍び込み、農家などから分けてもらうわけですが、
どこも裕福なわけはなく、僅かな食料を「略奪」された彼らからすると
「山賊」というイメージでもあったようです。

人数も増え、パルチザン部隊として立ち上がりますが、当初の部隊名は
有名なソヴィエト/ロシアの将軍にあやかって「ジューコフ隊」としますが、
結局は「ビエルスキ隊」に落ち着きます。

In Poland the story of Bielski detachment.jpg

家族や知人をゲットーから救出する過程も紹介されますが、ソコよりも快適とはいえない
この森での共同生活に順応できず、「ブラジャーないと生きられない」と言って
ゲットーへと自ら戻っていくおばちゃんもいたりします(結局はゲットーで殺され・・)。

1943年~44年、ロシアの攻勢が始まると、ロシア軍からも正式なパルチザン部隊として
認められますが、このロシア軍にも反ユダヤ主義は多く存在し、
必ずしも、安眠できる状況ではありません。
また、「ビエルスキ隊」内部でも反乱分子が登場したりと、それらは特に
パルチザン部隊としては異常な数に上る「非戦闘員」の数、すなわち女性、子供、
老人の占める割合が多いことも、トゥヴィアが信用されない理由でもあったようです。

Tewje Bielski.jpg

中盤過ぎで、映画でのクライマックスの場面を迎えてしまいますが、
映画のような戦車も登場する派手な戦闘シーンはありません。
そして、映画では語られなかったその後の「ビエルスキ隊」が描かれ
終盤では、トゥヴィア・ビエルスキ本人を含む、多数の人物たちからのインタビューをもとに
この「ビエルスキ隊」というコミューンが果たして如何なるものだったのかを検証します。

映画を思い出しながら読んだ自分は、この終盤がとても興味深く読めました。
ただでさえ弱い立場のユダヤ人のなかで、特に女性は1人で生きていくことはほぼ不可能です。
それはこのコミューンでも例外ではなく、誰か強い男の特別な存在となって
守ってもらう必要があり、結果的に衣食住といった問題も、一気に解決します。
もちろん、そうなるにはその女性が若く、容姿も良いという条件が付きますが、
当然、男は見返りとして身体を要求します。

kol7.jpg

リーダーのトゥヴィアもかなりとっかえひっかえやっていたようですが、
これは強要ではなく、逆に女性からも憧れられていたことも要因の一つだったようです。
このような弱い女性の話は「ベルリン終戦日記」とまったく同じだと感じました。

ちなみに劇中でも淡い恋を演じるトゥヴィアの兄弟役のジェイミー・ベルは、
自分の大好きな映画「リトル・ダンサー」の子役で
ちょっと大きく逞しくなった彼の姿を見て嬉しくなったのも思い出しました。

Jamie Bell and Mia Wasikowska in Defiance.jpg

ドイツ軍が一方的に悪者として描かれているわけでもなく、前半にはユダヤ人を助けようとする
ドイツ人軍曹も登場しますし(その後、バレて死刑)、立場が逆転し、
敗走する腹を空かせたドイツ人が逆に殺されていくのも実に可愛そうです。
一番の悪役はドイツに協力して報酬をもらうベラルーシ人で、このような連中は
家族共々報復に遭います。

映画に比べ、このようなポーランドやロシアに隣接した地域におけるユダヤ人問題を
詳しく知ることのできた一冊で、ドイツだけではなく周りがすべて敵・・という
ユダヤ人の運命を少し理解できました。







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鼠たちの戦争 [戦争映画の本]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

デイヴィッド・L. ロビンズの「鼠たちの戦争」を再度、読破しました。

ジュード・ロウ、エド・ハリス主演の映画「スターリングラード」の元ネタともいえる小説です。
年に一回はBSなどで放映する度に観てしまうので、ちょっと再読してしまいました。
最初に読んだのは7年くらい前でしょうか?
ソ連のスナイパー対その抹殺のために派遣されたドイツ軍のスナイパーの戦いに
女性スナイパーと政治指導員との関係といった概要的な部分は同じですが、
本書と映画はほぼ別物と言ったほうが良いでしょう。
タイトルの「鼠たちの戦争」とは、この廃虚と化したスターリングラード市内での
瓦礫の下や地下を這いずり回るような戦いっぷりをドイツ兵士が
「ラッテンクリーク」と呼んだことにまつわるそうです。

鼠たちの戦争.JPG

シベリア出身でモンゴロイド系の丸くのっぺりした顔立ちのザイツェフ曹長は
この地でスナイパーとして頭角を現し、政治指導員ダニロフにより
英雄として新聞へ掲載され、さらに新設のスナイパー養成学校の校長として
30名もの新人たちを教育することになります。

zaicev.jpg

ザイツェフはこのようにジュード・ロウとは似ても似つかぬ雰囲気ですが、
ジョセフ・ファインズが演じたダニロフも、デップリと太ったチビで眉毛もしっかり繋がっている・・
という風貌です。

小柄なことから<兎>の仇名を持つザイチェフの親友は、大柄で<熊>と呼ばれるヴィクトールです。
以前に読んだときはややこしくて覚えられなかった名前は「メドヴェージェフ」で、
今ではすっかり有名な名前になっているところが時代の流れを感じました・・。

新人スナイパーたちのなかには女性も何人か含まれており、
ここにはレイチェル・ワイズが演じたターニャが・・・。
本書でも恋に落ちるザイツェフとターニャですが、映画「スターリングラード」での
2人の絡みのシーンは非常に印象に残っています。
特にレイチェル・ワイズの半ケツ状態は、数ある戦争映画のなかでも
上位にランクインするほどのセクシー・シーンでしょう。。。

Weisz Enemy at the Gates.jpg

モシン・ナガンM91/30狙撃銃で200名にも上るドイツ将兵を狩り続け、
すっかり英雄となったザイツェフには「レーニン勲章」が贈られことに・・。
彼に勲章を授与するのは、スターリングラード防衛を果たしたチュイコフ将軍です。
もちろん映画同様にフルシチョフも登場してきます。

chuikov1946.jpg

ザイツェフは後に、より有名な「ソ連邦英雄」も受章したそうですが、
この「レーニン勲章」にまつわる話は本書以外では読んだことがないので
印象に残った場面のひとつです。

Order of Lenin.jpg

一方、このソ連の英雄を抹殺すべくドイツから呼ばれたのは
エド・ハリス演じたケーニッヒ少佐ではなく、本書ではハインツ・トルヴァルトSS大佐
という名の狙撃学校の校長です。
ドイツ第6軍で彼を向かえるのも司令官パウルス上級大将ではなく、
参謀長のシュミット将軍というあたりは、なかなかシブイ人選ですね。

また、映画で彼のスパイを請け負って殺された少年サーシャは登場せず、
その代わり、この地獄ような最前線で生き延びる術を心得た、ニッキー・モント伍長が
トルヴァルトSS大佐の助手として、またはドイツ側のストーリーテラーとして
行き詰まりつつあるドイツ将兵の心境も代弁しています。

Major König.jpg

しかし、このトルヴァルトSS大佐、またはケーニッヒ少佐という人物は
本書ではその生い立ちから紹介され、ダンケルクでは脱出を待つ英仏将兵100人を
撃ち殺したとまで書かれていますが、
アントニー・ビーヴァーの「スターリングラード」でも検証されているように
ソ連のプロパガンダ的人物であり、実在していたかは不明です。

本書ではソ連側、ドイツ側の狙撃スタイルの違いも楽しめます。
昔TVでビートたけしがサンコンか誰かを相手に
「アフリカの狩りの名人は、どれほど遠くまで槍を投げて獲物を仕留められるのか?」
と聞くと「本当の名人はどれだけ獲物に近寄れるかだよ」
というような話があったのを思い出しました。
ザイツェフらソ連のスナイパーは前線を密かに超えて、ドイツ軍陣地に忍び寄り、
後方で安心している将校を殺害していきます。

strelki.jpg

クライマックスの対決の場面でも、著者の次作である「クルスク大戦車戦」のような
派手な展開はなく、逆に6日間もお互い壕の中で1発の銃弾を放たずに、
相手の些細なミスを待ち続けるというもので、
こういうのはリアルな感じで個人的には好きですね。

決着のついた翌日は1942年11月19日。。
第6軍の包囲/壊滅を目指すソ連の大攻勢、「天王星作戦」が始まります。
ザイツェフとターニャは、脱出を目論むであろう第6軍司令部の
パウルス上級大将ら首脳の殺害を命ぜられます。
いくら小説とはいえ、これが首尾よく成功することはありませんが、
この11月19日という日付は自分の誕生日なので(1942年生まれではありませんよ)、
スターリングラードものにつきものの、この日が紹介されると、
毎度「おぉ・・」と反応してしまいます。

Paulus_Arthur Schmidt.jpg

マンシュタインの救出作戦と元帥となったパウルスの降伏までもエピローグで書かれていて、
「序文」で著者が書いているように、創作であるニッキー・モント伍長以外は
歴史的事実に基づいているといった印象です。

それにしても、なおさらトルヴァルトSS大佐が気になりますね。
エド・ハリスがあまりにも格好良かったから・・という理由もありますが、
以前から自分なりにも調べていますが、見つけ出せません・・。
さすがスナイパーと言うべきでしょうか。。。




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ファーザーランド [戦争映画の本]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ロバート・ハリス著の「ファーザーランド」を読破しました。

第2次大戦にドイツが勝利していたら・・という「パラレル・ワールド」を舞台に
ベルリンの刑事であるSS少佐を主人公にした、サスペンス小説です。
もうカレコレ20年以上前になるでしょうか・・。当時、スパイ小説を愛読していた
ヴィトゲンシュタインは、レン・デイトン著の「SS-GB」という、やはり
ナチス・ドイツが勝利した後の占領下の英国を描いたものを
読んだ記憶がありますが、この手のものはそれ以来ですね。

ファーザーランド.JPG

このような小説はネタバレになりますので、ストーリーは概要程度に留めます。
1964年、ヒトラー総統の75歳の誕生日行事が近づくベルリンで
1人の老人の水死体が発見されます。
捜査に当たった刑事警察(クリポ)の捜査官マルヒは、上位の権限を持つ
秘密警察(ゲシュタポ)から妨害を受けはじめ、やがては命がけの捜査の末、
戦時中に行われたホロコーストの事実を知ることに・・・という
ある意味、典型的な巻き込まれ型サスペンスとも言えます。

fatherland.jpg

本書を原作としたTVムービー「ファーザーランド -生きていたヒトラー-」は
DVD化されていないので残念ながら未見です。。。
中古ビテオは売っていますが、なんせ、我が家のビデオデッキが先日、
お亡くなりになってしまいましたので・・・。

ひょっとしたら原作より、こちらをご覧の方が多いのかも知れませんね。
自分も、このTVムービーのタイトルを以前から知ってました。

主役のマルヒを演じるのは、これがまた大好きなルトガー・ハウアー!
「ブレードランナー」でのレプリカントの名演はハリソン・フォードを喰ってましたし、
「ヒッチャー」のサイコな雰囲気は最高でした。

Rutger Hauer fatherland.jpg

この独破戦線をご覧の方なら、本書の特徴である徹底した第三帝国的雰囲気を
思わずニヤニヤしながら楽しめると思います。
ベルリンは、シュペーアが完成させた「世界首都ゲルマニア」であり、
例えば、ベルリンの新空港「ヘルマン・ゲーリング空港」には
ハンナ・ライチュの像」が立っていたり、
「フリッツ・トート広場」や「ゼップ・ディートリッヒ士官養成学校」、
通りの名前も「シュトゥーデント通り」に「ライヒェナウ通り」、
モーデル通り」を右折すると「パウルス通り」、さらには
マントイフェル小路」なんかも出てきます。

Welthauptstadt Germania.jpg

最新鋭の原子力潜水艦は「グロース・アドミラル・デーニッツ」、
空母なら「グロース・アドミラル・レーダー」と細かい心遣いもなされていますね。
これが逆だったら、その時点で読むのやめてます・・・。

主人公のマルヒは戦時中は若きUボート艦長として活躍し、
戦後にクリポに入ったという経歴で、警察機関は当然のようにSSの一部であることから、
本書では「大隊指揮官」(=SS少佐)と呼ばれます。
この階級の呼び方は徹底していて、SS中将なら「○○師団指揮官」という表現です。

また、第2次大戦において、如何にドイツが勝利したのか、についてはこんな感じです。
1942年の夏季攻勢で見事コーカサス(カフカス)とモスクワを切り離すことに成功し、
スターリンの戦車軍団も燃料切れでお手上げ・・、
1944年にはエニグマの暗号を一新したことで、Uボートが大活躍、
遂に食料欠乏となった英国は屈服。
その後1946年、ニューヨーク上空で「V3ロケット」を破裂させたことで
アメリカも講和に応じたという設定です。

fatherland1.jpg

そして本書の中核となる組織、1964年の「親衛隊」はというと・・・、
その2年前にヒムラー長官の乗った飛行機が爆破されたことで
チェコでの暗殺の危機を乗りきったラインハルト・ハイドリヒが後を継いでいます。
主人公マルヒの上司であるクリポの長官は、いまだアルトゥール・ネーベが健在・・。

Arthur Nebe_Heydrich.JPG

敵役のゲシュタポ側ではポーランドの絶滅収容所の責任者でもあった
オディロ・グロボクニクが登場。
悪役としては最高で、強烈なまでにイヤなジジイです。。

globocnic.jpg

ハイドリヒが「ユダヤ人の最終的解決」の責任者として仕切ったことでも知られる
有名な「ヴァンゼー会議」は物語の鍵となる部分でもあり、
当時の実在の出席者、15名が尽く変死を遂げていきます。
それらのメンバーはヒムラーと共に墜落死したゲシュタポ長官ハインリッヒ・ミュラー
アドルフ・アイヒマンは心臓発作で、ローラント・フライスラー裁判長は
精神異常者にメッタ斬りにされて・・そして唯一の生き残りはハイドリヒ1人に・・。

Wannseekonferenz.jpg

サスペンス・スリラーとして、またはスパイ小説としても良い出来の一冊です。
付きもののロマンスもシッカリあり、また、偶然ですがマルヒが自分と同い年であったことも
感情移入しやすかった理由かも知れません。
英国の作家はアメリカの作家に比べ、派手なドンパチや大どんでん返しの
ハッピーエンドとならないので、読了後は暗い充実感に襲われます。
これは最近の映画についても言えることで、戦争モノじゃなくてもここ数年は
ハリウッドより、英国映画の方がお気に入りが多くなっています。

Haus der Wannseekonferenz.jpg

このヴァンゼー会議の様子はケネス・ブラナーがハイドリヒを演じた
「謀議」というTVムービーがDVD化されていますね。
以前に観ましたがアイヒマン役のスタンリー・トゥッチがイメージに合わずイマイチでした。。
まぁ、しかし名優ケネス・ブラナーは「ワルキューレ」では
トレスコウ少将を演じていたりと、なんでも巧くやる役者さんです。

Conspiracy branagh2.jpg

あ、ちなみに本書ではSS全国指導者のハイドリヒ爺さんは登場しません。
あくまでシチュエーションと、陰で強力なオーラを出しているだけですので、あしからず・・。









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