白い死神 [欧州諸国]
ど~も。ヴィトゲンシュタインです。
ペトリ・サルヤネン著の「白い死神」を読破しました。
先日の「流血の夏」を独破後に偶然発見した、今年3月に出たばかりの263ページの本書。
1939年から翌年の「冬戦争」で、542名のソ連兵を狙撃したという史上最強のスナイパー、
フィンランド人、シモ・ヘイヘを描いたものということで、早速、購入。
表紙は劇画調で一瞬「コレ、ひょっとしてマンガ??」という「ヒトラーを操った男」と同じ展開・・。
このヘイヘ(Häyhä)という発音は難しいようで、以前紹介した「雪中の奇跡」では
「ハイハ」となっていて、「ソ連兵219人を倒した狙撃手」と書かれてましたが、542名というのは・・?
ヴィトゲンシュタインが個人的に大好きなスナイパー物は、映画「スターリングラード」の原作、
「鼠たちの戦争」以来ですが、ノンフィクションとなるとあの強烈だった
「最強の狙撃手」以来となりますから、これはもう楽しみです。
本書はまずはシモ・ヘイヘの生い立ちを簡単に紹介します。
農夫の息子として生まれた彼は兄弟姉妹の多い大家族のひとりで、
17歳で民間防衛隊に入隊。1925年から15ヵ月間の兵役義務も自転車大隊で過ごします。
この新兵訓練は第1次大戦でドイツ軍に訓練を学んだイェーガー隊による過酷なモノですが、
農場での労働と民間防衛隊で鍛えていた彼にはたいしたものでもなかったようです。
その民間防衛隊ではロシア製のモシン・ナガンに親しみ、射撃大会にも参加。
練習では1分間に16発を放ち、同じ数を標的にも当てて注目され始めるのでした。
また、小銃だけではなく、フィンランドで開発されたドラム型弾倉の短機関銃、
スオミKP/31の扱いでも卓越した能力を発揮していたということです。
こうして1939年冬、攻め込んできた「ロシア野郎」を追い払うため、民間防衛隊の制服を着込み
小銃を担いだ33歳の予備役兵長の彼は、臨時招集の再訓練に向かうのでした。
第6中隊に配属されたヘイヘ。12月21日にはこの日だけで25人のソ連兵を屠り、
この3日間だけでもその数は51人に上ります。
しかしこれはヘイヘだけの幸運ではなく、他の戦区では44発で41名のソ連兵を倒した猛者も・・。
ソ連兵はすでに死体が山と重なる場所へ飽きもせずに現れ続け、あまつさえ、密集隊形を組んで、
フィンランド軍陣地に進軍・・。4列縦隊で進んでくる兵士たちを根こそぎ倒し、
断末魔の悲鳴が響き続けるなか、神経をやられて撃てなくなるフィンランド兵も出てきます。
確認戦果が136名になると、上官の中隊長ユーティライネン予備役中尉から
恐ろしく腕の良い敵の狙撃兵の排除を依頼されます。
スコープを使わず、単純なオープンサイトの小銃を使うヘイヘ。射撃時にスコープを覗くほど
頭を上げずに済み、レンズの光が相手に届くことも防げるというのがその理由です。
160cm程度の身長で物静かなヘイヘに対して、ユーティライネン予備役中尉は
「モロッコの恐怖」の異名を持つ、気性も激しい大男で、まさに好対照です。
そしてその男が語るフランス外人部隊でのエピソードを部下たちが
興味深く聞くシーンは印象的でした。
コッラー戦線でのヘイヘとその中隊の奮戦の様子が続きます。
ヘイヘの超人的な狙撃シーンもありますが、それはあくまで戦闘の一部でしかありません。
年も明けた1940年の1月、敵の射撃統制所からヒョコヒョコ突き出しては消える
双眼式潜望鏡の存在に業を煮やした第5中隊は名案を思いつきます。
「シモ・ヘイヘを呼ぼう」。
すっかり第12師団のなかでも有名人となった「コッラーの脅威」こと下級軍曹ヘイヘ。
師団長スヴェンソン大佐からは、「小銃のみで219名、さらに短機関銃でも同数の戦果」を讃えられ、
スウェーデンから寄贈された見事な小銃が贈られることに。
3月にはソ連軍の攻撃も激しさを増し、至近距離での激戦が・・。
1日がまだ半分過ぎたところだというのにヘイヘが殺した敵兵は40名。。
そして遂にヘイヘは敵の炸裂弾を顔に受け、左頬を吹き飛ばされてしまうのでした。
しかし護送された病院で休戦の報がもたらされて、ヘイヘの戦いも終わりを告げます。
ヘイヘは「コッラー十字章」と「第一級自由章」を受章したということですが、
前者はドイツ軍で言うところの「デミヤンスク・シールド」や「クリミア・シールド」のような感じですか。
「第一級自由章」というのは、「制服の帝国」でデメルフーバーSS中将が
「お情けで貰った」と書かれていたヤツと同じようですね。
結局、本書によると狙撃銃での戦果はやっぱり219名で、連射式の火器で300名強、
合計、542名・・ということですが、著者からインタビューを受けたヘイヘは
連射式の火器による戦果は拡張されていると語っています。
しかしスナイパーの戦果はスナイパー・ライフル(狙撃銃)によるものでなければいけないのか・・?
ということは考えたことがないのでなんともわかりません。
戦争で敵兵を殺す(戦果)のに、なんの武器を使ったのか・・が問題なのかという気もしますが、
最強のスナイパーは?となると、そういうわけにもいきませんか。。
また、「ウラー!」と叫んで、怒涛のように向かってくるソ連歩兵を片っ端から撃ち殺す・・
というシチュエーションは独ソ戦記でも御馴染みですが、
平気で1日に30人も殺していたヘイヘは、ある意味、コレ以上ない絶好の敵を相手に
戦果を挙げ続けたとも言えるのではないでしょうか。
帯には「敵兵を屠った数、世界一!」と書かれていますが、武器がなんでも良いのなら、
ソ連戦車500両を屠ったシュトゥーカ大佐のルーデルは、仮に1両につき2名を殺したとしても
1000人の敵兵を屠っているという計算になるわけで、さすが「ソ連人民最大の敵」です。
また、U-47のプリーンは戦艦ロイヤル・オークを撃沈し、英海軍将兵800余を屠っています。
まぁ、もちろん、パイロットや戦車乗り、Uボート艦長の戦果は人数では表しませんが、
逆に人数を戦果とするのはスナイパーだけ・・。
機関銃で殺しまくった一般歩兵は、人数のカウントはしないんでしょうか?
最後のページにはオマケとして「第1次大戦」、「第2次大戦」、「朝鮮戦争」、
「ベトナム戦争」ごとのスナイパー一覧が掲載されていました。
「第2次大戦」部門ではヘイヘの542人がトップですが、
その後は500人から400人のソ連スナイパーが10名続きます。
あの映画「スターリングラード」のヴァシリ・ザイツェフさえ、400人で13位、
ドイツ軍では、エルヴィン・ケーニッヒが同じく13位、ハインツ・トールヴァルト300人などと
エド・ハリスが演じた実在したのかどうかがハッキリしない同一人物も堂々ランクイン・・。
ソ連のスナイパーの戦果もプロパガンダ色が濃くてかなり怪しい・・と思ってます。
世間一般的にドイツ軍では、345名のソ連兵を屠ったマティアス・ヘッツェナウアーが第1位。
257名のヨーゼフ・アラーベルガーが第2位とされていますが、
このアラーベルガーが、あの「最強の狙撃手」でしたね。
しっかし・・、この本、いま書いてる時点で10万円超えてます。なんで??
本書はフィンランド軍好きなら読んでおかねばならない一冊ですが、
純粋なスナイパー物を求められると、ちょっとキツイかも知れません。
もともと映画「ジャッカルの日」を観て以来(ゴルゴ13ではないですよ・・)のスナイパー好きで、
フォーサイスの原作やスティーヴン・ハンターの小説もかなり読んできましたが、
本書のようなスナイパー・ノンフィクションがもっとあっても良いんじゃないでしょうか?
例えば史上最強の女スナイパーで本書でも触れられているリュドミラ・パヴリチェンコなんて、
女エース・パイロットのリディア・リトヴァクを超えている気がしますし、
充分一冊の本になると思います。
ペトリ・サルヤネン著の「白い死神」を読破しました。
先日の「流血の夏」を独破後に偶然発見した、今年3月に出たばかりの263ページの本書。
1939年から翌年の「冬戦争」で、542名のソ連兵を狙撃したという史上最強のスナイパー、
フィンランド人、シモ・ヘイヘを描いたものということで、早速、購入。
表紙は劇画調で一瞬「コレ、ひょっとしてマンガ??」という「ヒトラーを操った男」と同じ展開・・。
このヘイヘ(Häyhä)という発音は難しいようで、以前紹介した「雪中の奇跡」では
「ハイハ」となっていて、「ソ連兵219人を倒した狙撃手」と書かれてましたが、542名というのは・・?
ヴィトゲンシュタインが個人的に大好きなスナイパー物は、映画「スターリングラード」の原作、
「鼠たちの戦争」以来ですが、ノンフィクションとなるとあの強烈だった
「最強の狙撃手」以来となりますから、これはもう楽しみです。
本書はまずはシモ・ヘイヘの生い立ちを簡単に紹介します。
農夫の息子として生まれた彼は兄弟姉妹の多い大家族のひとりで、
17歳で民間防衛隊に入隊。1925年から15ヵ月間の兵役義務も自転車大隊で過ごします。
この新兵訓練は第1次大戦でドイツ軍に訓練を学んだイェーガー隊による過酷なモノですが、
農場での労働と民間防衛隊で鍛えていた彼にはたいしたものでもなかったようです。
その民間防衛隊ではロシア製のモシン・ナガンに親しみ、射撃大会にも参加。
練習では1分間に16発を放ち、同じ数を標的にも当てて注目され始めるのでした。
また、小銃だけではなく、フィンランドで開発されたドラム型弾倉の短機関銃、
スオミKP/31の扱いでも卓越した能力を発揮していたということです。
こうして1939年冬、攻め込んできた「ロシア野郎」を追い払うため、民間防衛隊の制服を着込み
小銃を担いだ33歳の予備役兵長の彼は、臨時招集の再訓練に向かうのでした。
第6中隊に配属されたヘイヘ。12月21日にはこの日だけで25人のソ連兵を屠り、
この3日間だけでもその数は51人に上ります。
しかしこれはヘイヘだけの幸運ではなく、他の戦区では44発で41名のソ連兵を倒した猛者も・・。
ソ連兵はすでに死体が山と重なる場所へ飽きもせずに現れ続け、あまつさえ、密集隊形を組んで、
フィンランド軍陣地に進軍・・。4列縦隊で進んでくる兵士たちを根こそぎ倒し、
断末魔の悲鳴が響き続けるなか、神経をやられて撃てなくなるフィンランド兵も出てきます。
確認戦果が136名になると、上官の中隊長ユーティライネン予備役中尉から
恐ろしく腕の良い敵の狙撃兵の排除を依頼されます。
スコープを使わず、単純なオープンサイトの小銃を使うヘイヘ。射撃時にスコープを覗くほど
頭を上げずに済み、レンズの光が相手に届くことも防げるというのがその理由です。
160cm程度の身長で物静かなヘイヘに対して、ユーティライネン予備役中尉は
「モロッコの恐怖」の異名を持つ、気性も激しい大男で、まさに好対照です。
そしてその男が語るフランス外人部隊でのエピソードを部下たちが
興味深く聞くシーンは印象的でした。
コッラー戦線でのヘイヘとその中隊の奮戦の様子が続きます。
ヘイヘの超人的な狙撃シーンもありますが、それはあくまで戦闘の一部でしかありません。
年も明けた1940年の1月、敵の射撃統制所からヒョコヒョコ突き出しては消える
双眼式潜望鏡の存在に業を煮やした第5中隊は名案を思いつきます。
「シモ・ヘイヘを呼ぼう」。
すっかり第12師団のなかでも有名人となった「コッラーの脅威」こと下級軍曹ヘイヘ。
師団長スヴェンソン大佐からは、「小銃のみで219名、さらに短機関銃でも同数の戦果」を讃えられ、
スウェーデンから寄贈された見事な小銃が贈られることに。
3月にはソ連軍の攻撃も激しさを増し、至近距離での激戦が・・。
1日がまだ半分過ぎたところだというのにヘイヘが殺した敵兵は40名。。
そして遂にヘイヘは敵の炸裂弾を顔に受け、左頬を吹き飛ばされてしまうのでした。
しかし護送された病院で休戦の報がもたらされて、ヘイヘの戦いも終わりを告げます。
ヘイヘは「コッラー十字章」と「第一級自由章」を受章したということですが、
前者はドイツ軍で言うところの「デミヤンスク・シールド」や「クリミア・シールド」のような感じですか。
「第一級自由章」というのは、「制服の帝国」でデメルフーバーSS中将が
「お情けで貰った」と書かれていたヤツと同じようですね。
結局、本書によると狙撃銃での戦果はやっぱり219名で、連射式の火器で300名強、
合計、542名・・ということですが、著者からインタビューを受けたヘイヘは
連射式の火器による戦果は拡張されていると語っています。
しかしスナイパーの戦果はスナイパー・ライフル(狙撃銃)によるものでなければいけないのか・・?
ということは考えたことがないのでなんともわかりません。
戦争で敵兵を殺す(戦果)のに、なんの武器を使ったのか・・が問題なのかという気もしますが、
最強のスナイパーは?となると、そういうわけにもいきませんか。。
また、「ウラー!」と叫んで、怒涛のように向かってくるソ連歩兵を片っ端から撃ち殺す・・
というシチュエーションは独ソ戦記でも御馴染みですが、
平気で1日に30人も殺していたヘイヘは、ある意味、コレ以上ない絶好の敵を相手に
戦果を挙げ続けたとも言えるのではないでしょうか。
帯には「敵兵を屠った数、世界一!」と書かれていますが、武器がなんでも良いのなら、
ソ連戦車500両を屠ったシュトゥーカ大佐のルーデルは、仮に1両につき2名を殺したとしても
1000人の敵兵を屠っているという計算になるわけで、さすが「ソ連人民最大の敵」です。
また、U-47のプリーンは戦艦ロイヤル・オークを撃沈し、英海軍将兵800余を屠っています。
まぁ、もちろん、パイロットや戦車乗り、Uボート艦長の戦果は人数では表しませんが、
逆に人数を戦果とするのはスナイパーだけ・・。
機関銃で殺しまくった一般歩兵は、人数のカウントはしないんでしょうか?
最後のページにはオマケとして「第1次大戦」、「第2次大戦」、「朝鮮戦争」、
「ベトナム戦争」ごとのスナイパー一覧が掲載されていました。
「第2次大戦」部門ではヘイヘの542人がトップですが、
その後は500人から400人のソ連スナイパーが10名続きます。
あの映画「スターリングラード」のヴァシリ・ザイツェフさえ、400人で13位、
ドイツ軍では、エルヴィン・ケーニッヒが同じく13位、ハインツ・トールヴァルト300人などと
エド・ハリスが演じた実在したのかどうかがハッキリしない同一人物も堂々ランクイン・・。
ソ連のスナイパーの戦果もプロパガンダ色が濃くてかなり怪しい・・と思ってます。
世間一般的にドイツ軍では、345名のソ連兵を屠ったマティアス・ヘッツェナウアーが第1位。
257名のヨーゼフ・アラーベルガーが第2位とされていますが、
このアラーベルガーが、あの「最強の狙撃手」でしたね。
しっかし・・、この本、いま書いてる時点で10万円超えてます。なんで??
本書はフィンランド軍好きなら読んでおかねばならない一冊ですが、
純粋なスナイパー物を求められると、ちょっとキツイかも知れません。
もともと映画「ジャッカルの日」を観て以来(ゴルゴ13ではないですよ・・)のスナイパー好きで、
フォーサイスの原作やスティーヴン・ハンターの小説もかなり読んできましたが、
本書のようなスナイパー・ノンフィクションがもっとあっても良いんじゃないでしょうか?
例えば史上最強の女スナイパーで本書でも触れられているリュドミラ・パヴリチェンコなんて、
女エース・パイロットのリディア・リトヴァクを超えている気がしますし、
充分一冊の本になると思います。
NASAに似ていますがまったく別モノです。 最初に聞いたときに本気でNASAだと間違えて、 「あぁ、壮大な宇宙に行けば、うつも治るのかな」と思いました。 <a href=https://jamedbook.com/1176-2/>https://jamedbook.com/1176-2/</a> 風邪の抗生剤の話にも通じますが、それを真面目にやる事への世論誘導や利害調整がなされないと難しいと思います。 僕はもっと安価なスポーツ環境が整って欲しいと思います。
by HeatherTraherne (2018-11-20 06:43)