我が足を信じて -極寒のシベリアを脱出、故国に生還した男の物語- [戦争映画の本]
ど~も。ヴィトゲンシュタインです。
ヨーゼフ・マルティン・バウアー著の「我が足を信じて」を読破しました。
今年の5月に出た405ページの本書は、何年か前にTVで見た映画
「9000マイルの約束」の原作です。
原著は1955年という古いもので、著者が脱獄の当事者である「フォレル」から
インタビューを行って出版したものが、ようやく日本語に翻訳されたわけですね。
脱獄映画で観てから原作を読むっていうのは、あの「大脱走」以来ですが、
なぜか日本で映画が公開されない「脱出記―シベリアからインドまで歩いた男たち」も
原作は凄かっただけに、今回も期待です。
匿名のクレメンス・フォレルの経歴は、兵役の時期となった1938年に山岳兵となり、
戦争が始まると降下猟兵として、ロッテルダムやエーベン・エメール要塞の落下傘降下。
そしてクレタ島の戦いで少尉に昇進。東部戦線で中尉に昇進。
しかしウラル山脈でコサック兵に包囲され、部隊は全滅し、彼は捕虜となることに・・。
やがて戦争も終わった、1945年秋、モスクワのルビヤンカ刑務所で
「シベリアでの重労働25年」の刑が宣告されます。
こうして本文が始まります。すでに26日も移送列車に揺られているドイツ兵捕虜たち。
フォレルの乗った定員40名の貨車には86名が詰め込まれ、横になることもままなりません。
モスクワを出発して61日目のクリスマス・イブ、ようやく終点のチタに到着。
3000人以上だったドイツ兵捕虜は1870名。8号車では91名のうち、
生き残ったのは55名という過酷な旅です。
行先はシベリアと言っても、ソ連の最東端で、イースト・ケープと呼ばれるデジニョフ岬。
ここからは酷寒の中、馬ぞりで40日間。さらにハスキー犬の引く犬ぞりに乗り換え、5週間・・。
これでもまだ、原生林のタイガに辿り着いたに過ぎません。
それから2ヵ月、3ヵ月と過ぎ、永遠に終わりがないかと絶望しかけた4ヵ月目に
最終目的地に到着します。最後まで生き残ったのは1236名。
本書は「西」へ向かう話ですが、このプロローグ的な「東」の話も凄まじいですね。
この収容所はあまりの寒さから地上の小屋ではなく、地下に掘られた洞窟が囚人たちの住居です。
毎日の労働は鉛鉱石の採掘作業。「鉛中毒」という恐怖とも戦わなければなりません。
フォレルは一度、脱走を試みるもあえなく失敗・・。
しかし鉛鉱山での3回目の夏、再度、チャンスが訪れます。
収容所のドイツ人医師であるシュタウファが用意していたサバイバル脱獄用具一式を譲り受け、
深夜に単独脱走を決行。
「木を見たら話しかけるんだ。さもないと声が出なくなるからな」と、
シュタウファ医師が教える心構えは印象的です。
ちなみにこのシュタウファ医師を映画で演じるのはミハエル・メンドルという役者さんですが、
ど~も見覚えがありますねぇ。
おそらく「ヒトラー ~最期の12日間~」のベルリン防衛軍司令官ヴァイトリンク将軍で
あるのは間違いないでしょう。
コンパスを頼りにスキーを履いて、一路、西を目指すフォレル。
途中、地元のトナカイ番と出会い、彼らの村にしばらく滞在。
その後は収容所から脱走してきたロシア人犯罪者3人組との旅をしながらの生活。
食べるためだけではなく、金にするために熊とも戦い、毛皮もたっぷり・・。
しかし彼らの仲違いにも巻き込まれて怪我をし、リュックも失い、また一人ぼっちになるのでした。
実は映画「9000マイルの約束」はあんまり印象に残ってないんですね。。
大雑把なストーリーと、しつこく追いかけてくる所長?カメリアフ中尉の、
ひとりの囚人を捕らえるために収容所の仕事を3年もほったらかして追跡する執念に
違和感があったことは思い出すんですが・・。
ということで、今回は読みながら、「あぁ・・、そんなシーンもあったな・・」と結構、思い出しました。
満身創痍のフォレルが狼の群れの襲われると、この危機に現れるのはヤクート人です。
彼らのテントで怪我を癒し、魚の捕え方も学び、ハスキー犬を一頭、譲り受けます。
そして再び、出発。「ヴィレム」と名付けたハスキー犬とともに西へ・・。
モンゴルの国境沿いに進み、遂にイランとの国境越えを決意しますが、
本書で唯一、アイドル的な存在の「ヴィレム」の悲しい最後が。。
ユダヤ系アルメニア人の手助けもあって、最後の難関、カフカス山脈にも挑みます。
途中では数ヶ月前に読んだ、1860年のオーストラリア大陸縦断を描いた、
アラン・ムーアヘッドの「恐るべき空白」や、
映画「復活の日」で、最後に草刈正雄がホワイトハウスから南極までボロボロになりながらも
ひたすら歩くシーンなんかも思い出しました。
無事、テヘランで保護されたところで本書は終わりますが、フォレルはその後、
イスタンブール、アテネ、ローマを経由して、1952年12月、
家族が待つミュンヘンへと辿り着きます。
405ページですが、2日間で読み終わりました。
予想していたとおり、執念の追跡を見せる収容所のオッサンは登場しませんでしたし、
ロマンス的な話も一切なし。熊と戦うにしても、「ヘルレイザー」のごとき、
19世紀の「シベリア熊狩りスーツ」 ↓ を着込んだりもしません。
知り合う人間も多いですが、彼らに自分の本性を明かすべきか・・? という毎度の展開も
NKVDへ密告されることを恐れる主人公の気持ちを理解できれば、ドキドキ感も増すと思います。
しかし映画ではそれが観客に伝わりづらいことから、
収容所のオッサンの追跡劇になっているのかもしれません。
同じ捕まるにしても、10日後と3年後では、それまでの苦労が違いますから、
ハッピーエンドになるのはわかっていても、最後になるほど緊張感が増してきますね。
映画「9000マイルの約束」は多少肉付けしていますが、
どうも1959年に最初の映画化がされていたようです。
ということで、映画もシンプルだった印象がありますが、実際はもっとシンプルなストーリーであり、
それをツマラナイと感じるか、ノンフィクションらしいと感じるかは、読まれる方次第でしょう。
個人的には「脱出記―シベリアからインドまで歩いた男たち」の方が面白かったですが、
これは映画を観た、観てない(ストーリーを知っているか、知らないか)ことも大きいですね。
ヨーゼフ・マルティン・バウアー著の「我が足を信じて」を読破しました。
今年の5月に出た405ページの本書は、何年か前にTVで見た映画
「9000マイルの約束」の原作です。
原著は1955年という古いもので、著者が脱獄の当事者である「フォレル」から
インタビューを行って出版したものが、ようやく日本語に翻訳されたわけですね。
脱獄映画で観てから原作を読むっていうのは、あの「大脱走」以来ですが、
なぜか日本で映画が公開されない「脱出記―シベリアからインドまで歩いた男たち」も
原作は凄かっただけに、今回も期待です。
匿名のクレメンス・フォレルの経歴は、兵役の時期となった1938年に山岳兵となり、
戦争が始まると降下猟兵として、ロッテルダムやエーベン・エメール要塞の落下傘降下。
そしてクレタ島の戦いで少尉に昇進。東部戦線で中尉に昇進。
しかしウラル山脈でコサック兵に包囲され、部隊は全滅し、彼は捕虜となることに・・。
やがて戦争も終わった、1945年秋、モスクワのルビヤンカ刑務所で
「シベリアでの重労働25年」の刑が宣告されます。
こうして本文が始まります。すでに26日も移送列車に揺られているドイツ兵捕虜たち。
フォレルの乗った定員40名の貨車には86名が詰め込まれ、横になることもままなりません。
モスクワを出発して61日目のクリスマス・イブ、ようやく終点のチタに到着。
3000人以上だったドイツ兵捕虜は1870名。8号車では91名のうち、
生き残ったのは55名という過酷な旅です。
行先はシベリアと言っても、ソ連の最東端で、イースト・ケープと呼ばれるデジニョフ岬。
ここからは酷寒の中、馬ぞりで40日間。さらにハスキー犬の引く犬ぞりに乗り換え、5週間・・。
これでもまだ、原生林のタイガに辿り着いたに過ぎません。
それから2ヵ月、3ヵ月と過ぎ、永遠に終わりがないかと絶望しかけた4ヵ月目に
最終目的地に到着します。最後まで生き残ったのは1236名。
本書は「西」へ向かう話ですが、このプロローグ的な「東」の話も凄まじいですね。
この収容所はあまりの寒さから地上の小屋ではなく、地下に掘られた洞窟が囚人たちの住居です。
毎日の労働は鉛鉱石の採掘作業。「鉛中毒」という恐怖とも戦わなければなりません。
フォレルは一度、脱走を試みるもあえなく失敗・・。
しかし鉛鉱山での3回目の夏、再度、チャンスが訪れます。
収容所のドイツ人医師であるシュタウファが用意していたサバイバル脱獄用具一式を譲り受け、
深夜に単独脱走を決行。
「木を見たら話しかけるんだ。さもないと声が出なくなるからな」と、
シュタウファ医師が教える心構えは印象的です。
ちなみにこのシュタウファ医師を映画で演じるのはミハエル・メンドルという役者さんですが、
ど~も見覚えがありますねぇ。
おそらく「ヒトラー ~最期の12日間~」のベルリン防衛軍司令官ヴァイトリンク将軍で
あるのは間違いないでしょう。
コンパスを頼りにスキーを履いて、一路、西を目指すフォレル。
途中、地元のトナカイ番と出会い、彼らの村にしばらく滞在。
その後は収容所から脱走してきたロシア人犯罪者3人組との旅をしながらの生活。
食べるためだけではなく、金にするために熊とも戦い、毛皮もたっぷり・・。
しかし彼らの仲違いにも巻き込まれて怪我をし、リュックも失い、また一人ぼっちになるのでした。
実は映画「9000マイルの約束」はあんまり印象に残ってないんですね。。
大雑把なストーリーと、しつこく追いかけてくる所長?カメリアフ中尉の、
ひとりの囚人を捕らえるために収容所の仕事を3年もほったらかして追跡する執念に
違和感があったことは思い出すんですが・・。
ということで、今回は読みながら、「あぁ・・、そんなシーンもあったな・・」と結構、思い出しました。
満身創痍のフォレルが狼の群れの襲われると、この危機に現れるのはヤクート人です。
彼らのテントで怪我を癒し、魚の捕え方も学び、ハスキー犬を一頭、譲り受けます。
そして再び、出発。「ヴィレム」と名付けたハスキー犬とともに西へ・・。
モンゴルの国境沿いに進み、遂にイランとの国境越えを決意しますが、
本書で唯一、アイドル的な存在の「ヴィレム」の悲しい最後が。。
ユダヤ系アルメニア人の手助けもあって、最後の難関、カフカス山脈にも挑みます。
途中では数ヶ月前に読んだ、1860年のオーストラリア大陸縦断を描いた、
アラン・ムーアヘッドの「恐るべき空白」や、
映画「復活の日」で、最後に草刈正雄がホワイトハウスから南極までボロボロになりながらも
ひたすら歩くシーンなんかも思い出しました。
無事、テヘランで保護されたところで本書は終わりますが、フォレルはその後、
イスタンブール、アテネ、ローマを経由して、1952年12月、
家族が待つミュンヘンへと辿り着きます。
405ページですが、2日間で読み終わりました。
予想していたとおり、執念の追跡を見せる収容所のオッサンは登場しませんでしたし、
ロマンス的な話も一切なし。熊と戦うにしても、「ヘルレイザー」のごとき、
19世紀の「シベリア熊狩りスーツ」 ↓ を着込んだりもしません。
知り合う人間も多いですが、彼らに自分の本性を明かすべきか・・? という毎度の展開も
NKVDへ密告されることを恐れる主人公の気持ちを理解できれば、ドキドキ感も増すと思います。
しかし映画ではそれが観客に伝わりづらいことから、
収容所のオッサンの追跡劇になっているのかもしれません。
同じ捕まるにしても、10日後と3年後では、それまでの苦労が違いますから、
ハッピーエンドになるのはわかっていても、最後になるほど緊張感が増してきますね。
映画「9000マイルの約束」は多少肉付けしていますが、
どうも1959年に最初の映画化がされていたようです。
ということで、映画もシンプルだった印象がありますが、実際はもっとシンプルなストーリーであり、
それをツマラナイと感じるか、ノンフィクションらしいと感じるかは、読まれる方次第でしょう。
個人的には「脱出記―シベリアからインドまで歩いた男たち」の方が面白かったですが、
これは映画を観た、観てない(ストーリーを知っているか、知らないか)ことも大きいですね。
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