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ロケット・ファイター [ドイツ空軍]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

M・ツィーグラー著の「ロケット・ファイター」を読破しました。

Me-163、通称「コメート」と呼ばれるロケット戦闘機についての本、
「ドイツのロケット彗星」を読んだ感想の最後に
「朝日ソノラマ/航空戦史シリーズの「ロケット・ファイター」も読んでみますかねぇ。」
なんて、お気楽に書いていました。。
結局それから2年近く経ってしまいましたが、1984年発刊の本書をやっと購入・・。
著者はこのMe-163のテスト・パイロットだった人物で、
こういう当事者の回想録っていうのは、個人的に大好きなんですね。

ロケット・ファイター.jpg

1943年7月、著者であるツィーグラー中尉がオルデンブルクにある
「第16テスト攻撃隊(第16実験飛行隊)」に出頭するところから始まります。
Bf-109戦闘機乗りだった彼は35歳。戦闘機乗りの水準ではすでに「老人」です。
部隊長は柏葉騎士十字章拝領者のシュペーテ。とても友好的な彼に早速、惹かれますが、
このシュペーテは、もちろん「ドイツのロケット彗星」を書いた人物です。

Wolfgang Spate.jpg

翌日からは銀行の金庫室のような扉の小部屋で低圧訓練が始まります。
8000mの高度の気圧で死の一歩手前を体験しますが、
映画「ライト・スタッフ」でもこんな訓練があったような・・。
そして30人のひよっこロケット・パイロットたちは連日、グライダーによる着陸訓練も・・。

いよいよMe-163Aでの訓練を開始。
ロケットエンジンは完ぺきではなく、まだまだ多くの問題を抱えています。
特に燃料となるT液はちょっと触れただけで燃え上がり、人間をも溶かしてしまう恐ろしいもの・・。
離陸と同時に車輪を落とし、機体下部の「橇」で着陸するというこのロケット戦闘機。
ツィーグラーはこの2000馬力の怪物での初飛行を冷や汗をかきながら成功しますが、
シュペーテ隊長の副官で騎士十字章を持つヨッシは、落とした車輪が跳ね返って当たり、
ロケットエンジンが止まるというトラブルに見舞われ、墜落・・。
爆発はしなかったものの、駆け付けたときには操縦席にヨッシの姿はありません。
T液が操縦席に浸み出して、彼を生きながら消滅させてしまったのでした・・。

me163-006.jpg

数週間後、肥満体に近い流線型のMe-163Bが遂に到着。
すると伝説的女流パイロットでドイツ航空界のアイドル、ハンナ・ライチュもやってきます。
このハンナが「新型機に乗せて!」という話は、シュペーテが「我がまま女」と語っていましたが、
本書でも「飛行禁止」命令を受けて、泣きじゃくるハンナをツィーグラーが慰める・・
というシーンが登場します。
しかし、前日にも離陸時に爆発し、乗り込んでいたヴァルターの膝から下の片足しか
見つからなかったという事故が起こった後では、コレもしょうがありません。

Hanna Reitsch.jpg

ツィーグラー自身もMe-163Bのテスト飛行中に操縦室に蒸気が立ち込める異変に遭遇します。
なんとか着陸し、安全ベルトを外すと同時に爆発。
全力で飛び出して九死に一生を得ますが、眉毛と一緒に髪の毛も1/3は消え失せて・・。

me163 cockpit.jpg

このような命がけのテストを繰り返し、遂に実践部隊として「第400戦闘航空団」が編成。
連合軍爆撃機を迎撃するためには、スピードだけではなく、火力も必要です。
そこで登場してくるのはラングヴァイラー博士。彼はあの「パンツァーファウスト」の発明者で、
ここでも、感光性電池を引き金として、翼の付け根に垂直に発射する武器を発明。
爆撃機の下を猛スピードで通過しつつ、50㎜高性能爆薬弾を発射するというこの兵器。
気球の下を400㌔のスピードで通り過ぎるテストを繰り返し、上々の結果を得ます。

Me163-B1.jpg

通じないことがあきらかな冗談にも礼儀正しく笑う、日本人視察団一行のエピソードや
事故を目撃し、転属願いを出してきたひよっこパイロット28人を集めて
すでにベテランとなったツィーグラーが訓示を述べるものの、
何人もが恐れをなしてたった7名しか残らなかった話・・。
そして陽気で図太く、「われらが戦闘機隊の将軍」ガーランド似のフランツの着陸時の事故。
「おれの身体に水をぶっかけろ!」と突っ立ったまま叫び声をあげるフランツ。
その顔には眉毛も髪もなければ皮膚もなく、自慢の口髭のあたりはボロボロの切り株のように・・。

me163B.jpg

基地の上空に現れたB-17の編隊に向けて緊急出撃するシーンも印象的でした。
ツィーグラー自身は発進しませんが、2機を撃墜し、コメートは3機とパイロット2名を失います。
というようなところで、割とあっけなく230ページの本文は終わってしまいますが、
このあと、多賀一史氏の「日本のロケット・ファイター」の章が・・。

ME163Komet3.jpg

35ページほどのこの章は、昭和19年(1944年)のベルリンで、日本人にロケット戦闘機と
ジェット戦闘機の説明資料が配られるところから始まり、
巌谷英一海軍技術中佐が伊29潜水艦で無事、資料を持ち帰って、
陸海軍を通して、初めての共同開発としてロケット戦闘機が選ばれた話などが紹介されます。
陸軍では「キ-200」、海軍では「J8M」と付けられますが、コレが「秋水」なんですね。

秋水.jpg

昭和21年までに3600機を大量生産し、東京を中心とした防空戦力の主力機にしようという
計画が立てられ、T液(日本では「甲液」)製造の触媒としてプラチナが必要なことから、
国民にその用途を知らされることもなく、全国的な「白金供出キャンペーン」を展開・・。
そしてドイツからの資料到着後、わずか1年でオレンジ色に塗られ、垂直尾翼に
小さい日の丸が描かれた試作機が完成。いよいよ初飛行のとき・・。

陸海の特別部隊では訓練を開始し、陸軍の特兵隊には「秋水」の他、
ジェット戦闘機Me-262の日本版の準備も・・。
これは陸軍では「火龍」、海軍では「橘花」というそうですが、
もう、日本の話にはまったく疎いので、楽しめた・・というより、正直ビックリしました。

Mitsubishi J8M.jpg

ちょっと調べてみても、「秋水」もいろいろ本が出ているようで、
「有人ロケット戦闘機 秋水―海軍第312航空隊秋水隊写真史」なんか読んでみたいですねぇ。
第二次世界大戦ブックスでも「ロケット戦闘機―「Me163」​と「秋水」」というのがありますし、
オスプレイの「第400戦闘航空団: ドイツ空軍世界唯一のロケット戦闘機、その開発と実戦記録」も
大変気になります。

シュペーテの「ドイツのロケット彗星」よりも、「空対空爆撃戦隊」とか、「U‐ボート977
などに似た印象で、事故死していく仲間、一刻も早くコメートを駆って戦いたい願望など、
青春モノの苦悩が大きなウェイトを占めている一冊でしたが、
これは少佐の隊長と、いちパイロットの中尉という立場の違いも大きいでしょう。
同じコメート回想録でも、観点が全然違いますので、
この「コメート」に興味のある方なら、どちらも別の読み物として楽しめると思います。











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りかの配偶者

たしか秋水のテスト飛行は追浜の先、日産自動車の奥の方、夏島貝塚あたりの
秘密トンネルから発進して結局失敗、テストパイロットが殉職されたと読んだ
記憶があります。杉田に住む私としてはビックリな身近さなのでした。
by りかの配偶者 (2012-03-17 19:57) 

ヴィトゲンシュタイン

おろっ。りかの配偶者さんの地元ネタだったとは・・。
本書では、「横須賀航空隊の滑走路」としか書かれてませんでした。そしてテストパイロットの犬塚大尉が事故死・・。秋水はオマケのような話でしたが、非常に印象的で、ちょっと勉強したくなりましたね。

by ヴィトゲンシュタイン (2012-03-17 21:01) 

グライフ

こんにちは、
秋水でしたら 「異端の空」渡辺洋二 文春文庫 短編ですが
濃い内容でお奨めです。秋水と神様の関係は戦争末期の日本
の精神世界が感じられます。
by グライフ (2012-03-18 16:00) 

ヴィトゲンシュタイン

ど~も。グライフさん。
日本の航空機についてもお詳しいんですねぇ。
渡辺洋二氏は過去に「ドイツ夜間戦闘機」を読みましたが、とても読みやすかったです。実はおととい、氏の「ジェット戦闘機Me262」を買いました。「異端の空」は知りませんでしたが、今度、読んでみたいと思います。

by ヴィトゲンシュタイン (2012-03-18 18:03) 

ハッポの父

ヴィトゲンシュタイン様こんばんは!

この本も読んでみたいのですが、U977のレヴュー読ませてもらい、即注文してしまいました。
いつもいつも、ありがとうございます!!
by ハッポの父 (2012-03-18 21:49) 

IZM

あはは、たった今ワタシも渡辺洋二氏の「ジェット戦闘機Me262」を買おうか買うまいかと考えていたところでしたwww じゃあ、レビュー楽しみにしてますw
ロケットの形が無骨というか、なんか子どもの玩具みたいな形状なのですね。
by IZM (2012-03-19 00:25) 

ヴィトゲンシュタイン

ハッポの父さん。こんにちわ。
「U‐ボート977 」とか、古いレビューも気に入って戴けてうれしいですねぇ。コレは2回読んでるほどですから、なかなか楽しめるんじゃないでしょうか。
でも自分の好きなようにやってるBlogですから、そんなに感謝されると困ってしまいます。。

by ヴィトゲンシュタイン (2012-03-19 12:02) 

ヴィトゲンシュタイン

IZMさん。ど~も。
>渡辺洋二氏の「ジェット戦闘機Me262」を買おうか買うまいかと考えていたところでしたwww 
うぉぉ。。まるで日本から念を送ってたかのようですね。買っても平気で2年くらい読まなかったりするんですが、そういうことならなるべく早めの仕事にします。
>なんか子どもの玩具みたいな形状なのですね。
ロケット戦闘機なんていうとなんとなく細身の感じがしますが、ムッチリ系の肥満体というか、ボクも初めて写真を見たときには「ホントかよ・・」と思いました。こんな姿した鳥もいますよね。

by ヴィトゲンシュタイン (2012-03-19 12:12) 

IZM

特攻機として使用された日本の桜花なんかかなり細身ですしねえ。
そこからすると、かなりムッチリwww
>こんな姿した鳥もいますよね。
吹いてしまいましたwww
by IZM (2012-03-24 08:01) 

ヴィトゲンシュタイン

IZMさん。
あっちの話ですけど、「急降下爆撃」はなんで廃刊なのかですねぇ。
いまもヤフオクで3冊出てますが、1000円以上の値が付いています。ボクは朝日ソノラマの古いのを250円で買えたのでラッキーでした。
では、お気をつけて・・。
by ヴィトゲンシュタイン (2012-03-24 13:28) 

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