最後の100日 -ヨーロッパ戦線の終幕-〈上〉 [戦記]
ど~も。ヴィトゲンシュタインです。
ジョン・トーランド著の「最後の100日〈上〉」を読破しました。
「ヨーロッパにおける第2次大戦最後の100日間ほど、重要な意味と影響力を持つ100日間は、
おそらく歴史上なかったのではないか」と前書きの書かれた、
「バルジ大作戦」の著者による、1965年に発刊された最終戦を描いた本書は
21カ国にも及ぶ関係者からリサーチをした、上下巻あわせて1000ページを超える大作です。
1945年1月27日から始まる上巻は、ロコソフスキー、チェルニャホフスキー、
そしてジューコフらの名だたる将軍率いるソ連方面軍の大攻勢の前に戦線を突破、蹂躙され、
その結果、ドイツ陸軍参謀総長グデーリアンが信頼する、ラインハルト上級大将らの
軍集団司令がヒトラーから罷免され、代わってレンドリック、シェルナーなど
ヒトラーが信頼する人選が進み、遂にヒムラーのヴァイクセル軍集団司令官任命・・
という絶望的な戦線の経緯が解説されます。
東プロイセンの大管区指導者エーリッヒ・コッホの命によって
西への避難が禁じられた市民の中にソ連の戦車部隊が・・。
そして婦人たちはソ連兵に輪姦されるという地獄絵が繰り広げられます。
東部の全戦線で繰り返される、このような一般市民への暴行と殺戮ですが、
コーネフの方面軍が開放したアウシュヴィッツの悲惨な現状や、
過去4年にわたる復讐心の表れだとしています。
一方、西部戦線では、アイゼンハワーを部下に持つジョージ・C・マーシャル米国参謀総長と
モントゴメリーを部下に持つアラン・ブルック英国参謀総長の合同参謀本部が顔を合わせて
今後の作戦を検討します。しかし、英米どちらが主力となるのかについて、
さまざまな思惑が交差し、結論が導き出せず、双方イライラが募るばかり・・。
アラン・ブルックが登場する本は初めて読んだ気もしますが、ここでは特に
彼がアイゼンハワーよりも戦争に勝つ方法を知っていると自負していたり、
マーシャルに対しても不審を抱いていて、
最高の軍人マッカーサーが参謀総長であるほうが遥かに良い・・と思っていたようです。
いや~、フジ出版の彼の回想録?「参謀総長の日記」も読みたくなりました。
既に空襲に見舞われているベルリンでは、前年7月20日に起きた
ヒトラー暗殺未遂事件の裁判が百人をも超える有罪判決を出しながらも、まだ続いていました。
重い棍棒で殴られ、爪の間に針がねじ込まれ、剥き出しの両足にジリジリとネジを刺す・・という
拷問にも耐え、口を割らずにいた被告席のフォン・シュラーブレンドルフは、
B-17フライング・フォートレス、1000機の空襲により、裁判所が爆撃され、
大きな梁の下敷きになった裁判長が自分の証拠書類を握ったまま、
こと切れているのを目撃し、苦い勝利を味わいます。
そして連行されたプリンツ・アルブレヒト通りのゲシュタポ本部で
すれ違った囚人、カナリス提督に叫びます。「フライスラーが死んだ!」。
その頃、連合軍3カ国の首脳、ルーズヴェルト、チャーチル、スターリンは
有名な「ヤルタ会談」で早くも戦後のドイツ分割問題や
ポーランド政府の主権争いについて連日、議論を交わします。
この会談の様子は詳細で、特にここでも英米がソ連に対して一枚岩とはなっておらず、
ルーズヴェルトとスターリンの関係の良さがチャーチルを苛立たせている感じです。
その後、チャーチルは再びスターリンの元を訪れ、バルカン諸国についての提案を行います。
それはギリシャを90%英国が取る換わりに、ルーマニアを90%ソ連に、ブルガリアも75%、
そしてユーゴとハンガリーを50%づつというもので、スターリンもこれに満足します。
「スポーツをやらせても漫画にしかならない男-
一度などケチなブロンズのスポーツメダル目当てに競走に出場してぶっ倒れた-」
と紹介されるヒムラーと外相リッベントロップがスウェーデンと、
そしてイタリアではSS大将カール・ヴォルフも和平交渉を始めます。
この上巻のハイライトとも言えそうな、映画で有名な「レマゲン鉄橋」も
なかなか詳しく書かれていて勉強になりました。
レマーゲンとかレーマーゲンとか(本書ではレイマーゲンです)いろいろ訳されるこの橋ですが、
実は「ルーデンドルフ橋」という名の橋だそうで、レイマーゲンは近くの町の名前だそうです。
この橋の警備隊長ブラートゲ大尉は元教師で几帳面だけが取柄という人物ですが、
ヒトラー・ユーゲントやロシア人志願兵を含む1000名の部下のうち、
彼の中隊36名は前線から帰ってきた傷病兵であり、
対空砲部隊220名も多数がいつの間にか姿を消し、国民突撃隊500名も、
踏み止まっているのは、わずか6人という有様です。
この西部の天然の要塞でもあるライン河に架かるこの橋に米軍の大部隊が近づいてきたことを
司令部に警告しますが、モーデル元帥は「そんなはずはない」とあっさり無視・・。
工兵大尉フリーゼンハーンとも爆破する、しないで押し問答を繰り広げますが、
「必要以上に早く橋を爆破した者は軍法会議」という難しい問題も抱えています。
結局ドイツ軍は見事、橋の爆破に失敗し、米軍に橋頭堡を築かれ
怒り狂ったヒトラーによって関係者は即刻死刑・・。
スコルツェニーの潜水工作員(フロッグマン)が爆破任務を与えられる一方、
V2ロケットで破壊を試みるものの、近くの農家にいた米兵3人を葬ったに留まり、
パリを破壊するためにヒトラーが指示したこともある化け物のようなカール自走臼砲まで持ち出すも、
これまた橋には1発も当たらず、修理のため、早々と後方に引き上げてしまいます。
スコルツェニーにV2 、カールという3つはヒトラーにとっての三種の神器みたいなものですから
これらの派遣を言い出したのは間違いなく彼でしょうね。。
映画の「レマゲン鉄橋」は昔、1回観ただけですが、「荒野の七人」で
キザなガンマンを演じたロバート・ボーンが確かドイツ軍人役だったと・・。
皮肉にも米軍による補修工事の際に、橋は倒壊し、数十名の死者を出しますが、
最大の責任者モーデルにはヒトラーのお咎めはなく、
西方軍総司令官ルントシュテットが再び罷免され、
イタリア戦線司令官のケッセルリンクが後釜に据えられます。
米軍の橋頭堡を抹殺する使命が与えられたケッセルリンクですが、
傷だらけの軍隊でどうやってそれを成功させるのか・・・。彼の気分は
「大勢の聴衆を前にして、古ぼけてガタのきた調子の狂ったピアノで
ベートーヴェンのソナタを弾くことを要求されたピアニスト」だそうで・・。
そして再び、東部戦線。ハインリーチとブッセに最後を託して、去っていくグデーリアン。
ヒトラーは副官たちにウラソフ将軍のロシア人部隊やウクライナ人部隊、そして
インド人義勇兵にまで言及して、いかに彼らが信用できないかを説明してみせます。
そして自動車事故で入院中の参謀次長ヴェンクの容態をしきりに気にし、
ヒトラーが彼をグデーリアンの後任の参謀総長にしようとしたのは間違いないとしています。
しかしこの時期、クレープスではなくヴェンクであったとしても、
結果的にはなにも変えられなかったでしょう。
ヒトラーが望んでいるのは、イエスマンの参謀総長ですからね。。。
ジョン・トーランド著の「最後の100日〈上〉」を読破しました。
「ヨーロッパにおける第2次大戦最後の100日間ほど、重要な意味と影響力を持つ100日間は、
おそらく歴史上なかったのではないか」と前書きの書かれた、
「バルジ大作戦」の著者による、1965年に発刊された最終戦を描いた本書は
21カ国にも及ぶ関係者からリサーチをした、上下巻あわせて1000ページを超える大作です。
1945年1月27日から始まる上巻は、ロコソフスキー、チェルニャホフスキー、
そしてジューコフらの名だたる将軍率いるソ連方面軍の大攻勢の前に戦線を突破、蹂躙され、
その結果、ドイツ陸軍参謀総長グデーリアンが信頼する、ラインハルト上級大将らの
軍集団司令がヒトラーから罷免され、代わってレンドリック、シェルナーなど
ヒトラーが信頼する人選が進み、遂にヒムラーのヴァイクセル軍集団司令官任命・・
という絶望的な戦線の経緯が解説されます。
東プロイセンの大管区指導者エーリッヒ・コッホの命によって
西への避難が禁じられた市民の中にソ連の戦車部隊が・・。
そして婦人たちはソ連兵に輪姦されるという地獄絵が繰り広げられます。
東部の全戦線で繰り返される、このような一般市民への暴行と殺戮ですが、
コーネフの方面軍が開放したアウシュヴィッツの悲惨な現状や、
過去4年にわたる復讐心の表れだとしています。
一方、西部戦線では、アイゼンハワーを部下に持つジョージ・C・マーシャル米国参謀総長と
モントゴメリーを部下に持つアラン・ブルック英国参謀総長の合同参謀本部が顔を合わせて
今後の作戦を検討します。しかし、英米どちらが主力となるのかについて、
さまざまな思惑が交差し、結論が導き出せず、双方イライラが募るばかり・・。
アラン・ブルックが登場する本は初めて読んだ気もしますが、ここでは特に
彼がアイゼンハワーよりも戦争に勝つ方法を知っていると自負していたり、
マーシャルに対しても不審を抱いていて、
最高の軍人マッカーサーが参謀総長であるほうが遥かに良い・・と思っていたようです。
いや~、フジ出版の彼の回想録?「参謀総長の日記」も読みたくなりました。
既に空襲に見舞われているベルリンでは、前年7月20日に起きた
ヒトラー暗殺未遂事件の裁判が百人をも超える有罪判決を出しながらも、まだ続いていました。
重い棍棒で殴られ、爪の間に針がねじ込まれ、剥き出しの両足にジリジリとネジを刺す・・という
拷問にも耐え、口を割らずにいた被告席のフォン・シュラーブレンドルフは、
B-17フライング・フォートレス、1000機の空襲により、裁判所が爆撃され、
大きな梁の下敷きになった裁判長が自分の証拠書類を握ったまま、
こと切れているのを目撃し、苦い勝利を味わいます。
そして連行されたプリンツ・アルブレヒト通りのゲシュタポ本部で
すれ違った囚人、カナリス提督に叫びます。「フライスラーが死んだ!」。
その頃、連合軍3カ国の首脳、ルーズヴェルト、チャーチル、スターリンは
有名な「ヤルタ会談」で早くも戦後のドイツ分割問題や
ポーランド政府の主権争いについて連日、議論を交わします。
この会談の様子は詳細で、特にここでも英米がソ連に対して一枚岩とはなっておらず、
ルーズヴェルトとスターリンの関係の良さがチャーチルを苛立たせている感じです。
その後、チャーチルは再びスターリンの元を訪れ、バルカン諸国についての提案を行います。
それはギリシャを90%英国が取る換わりに、ルーマニアを90%ソ連に、ブルガリアも75%、
そしてユーゴとハンガリーを50%づつというもので、スターリンもこれに満足します。
「スポーツをやらせても漫画にしかならない男-
一度などケチなブロンズのスポーツメダル目当てに競走に出場してぶっ倒れた-」
と紹介されるヒムラーと外相リッベントロップがスウェーデンと、
そしてイタリアではSS大将カール・ヴォルフも和平交渉を始めます。
この上巻のハイライトとも言えそうな、映画で有名な「レマゲン鉄橋」も
なかなか詳しく書かれていて勉強になりました。
レマーゲンとかレーマーゲンとか(本書ではレイマーゲンです)いろいろ訳されるこの橋ですが、
実は「ルーデンドルフ橋」という名の橋だそうで、レイマーゲンは近くの町の名前だそうです。
この橋の警備隊長ブラートゲ大尉は元教師で几帳面だけが取柄という人物ですが、
ヒトラー・ユーゲントやロシア人志願兵を含む1000名の部下のうち、
彼の中隊36名は前線から帰ってきた傷病兵であり、
対空砲部隊220名も多数がいつの間にか姿を消し、国民突撃隊500名も、
踏み止まっているのは、わずか6人という有様です。
この西部の天然の要塞でもあるライン河に架かるこの橋に米軍の大部隊が近づいてきたことを
司令部に警告しますが、モーデル元帥は「そんなはずはない」とあっさり無視・・。
工兵大尉フリーゼンハーンとも爆破する、しないで押し問答を繰り広げますが、
「必要以上に早く橋を爆破した者は軍法会議」という難しい問題も抱えています。
結局ドイツ軍は見事、橋の爆破に失敗し、米軍に橋頭堡を築かれ
怒り狂ったヒトラーによって関係者は即刻死刑・・。
スコルツェニーの潜水工作員(フロッグマン)が爆破任務を与えられる一方、
V2ロケットで破壊を試みるものの、近くの農家にいた米兵3人を葬ったに留まり、
パリを破壊するためにヒトラーが指示したこともある化け物のようなカール自走臼砲まで持ち出すも、
これまた橋には1発も当たらず、修理のため、早々と後方に引き上げてしまいます。
スコルツェニーにV2 、カールという3つはヒトラーにとっての三種の神器みたいなものですから
これらの派遣を言い出したのは間違いなく彼でしょうね。。
映画の「レマゲン鉄橋」は昔、1回観ただけですが、「荒野の七人」で
キザなガンマンを演じたロバート・ボーンが確かドイツ軍人役だったと・・。
皮肉にも米軍による補修工事の際に、橋は倒壊し、数十名の死者を出しますが、
最大の責任者モーデルにはヒトラーのお咎めはなく、
西方軍総司令官ルントシュテットが再び罷免され、
イタリア戦線司令官のケッセルリンクが後釜に据えられます。
米軍の橋頭堡を抹殺する使命が与えられたケッセルリンクですが、
傷だらけの軍隊でどうやってそれを成功させるのか・・・。彼の気分は
「大勢の聴衆を前にして、古ぼけてガタのきた調子の狂ったピアノで
ベートーヴェンのソナタを弾くことを要求されたピアニスト」だそうで・・。
そして再び、東部戦線。ハインリーチとブッセに最後を託して、去っていくグデーリアン。
ヒトラーは副官たちにウラソフ将軍のロシア人部隊やウクライナ人部隊、そして
インド人義勇兵にまで言及して、いかに彼らが信用できないかを説明してみせます。
そして自動車事故で入院中の参謀次長ヴェンクの容態をしきりに気にし、
ヒトラーが彼をグデーリアンの後任の参謀総長にしようとしたのは間違いないとしています。
しかしこの時期、クレープスではなくヴェンクであったとしても、
結果的にはなにも変えられなかったでしょう。
ヒトラーが望んでいるのは、イエスマンの参謀総長ですからね。。。
こんばんは。
いつも楽しく拝見しております。
私の蔵書ベクトルに完全に合致してますので日々励まされております。
おかげさまでリデル・ハート著「ヒトラーと国防軍」、ベネット著「国防軍とヒトラー」など立て続けに購入、独破中です。
シュタールベルクの「回想の第三帝国」は買いそびれました。またヤフオクとにらめっこです。
高校生のころなけなしの小遣いでフジ出版「失われた勝利」を買って読んでチンプンカンプン、また本棚から引っ張り出して見ます。
しかし21世紀になってようやく第三帝国をタブー視する傾向が減ってきました。映画「ヒトラー~最後の12日間」や「ワルキューレ」など、ドイツ=絶対悪という構図が崩れて非常に愉快です。歴史を善悪二原論で論じたり現在の価値観で判断したりすると歴史の真実は理解できませんね。
これからも楽しいブログを期待しております。
by レオノスケ (2010-11-02 23:00)
レオノスケさん。はじめまして。
このようなコメントをいただくと、こちらも大変励みになります。
高校生のころに「失われた勝利」を買われた・・とは、格好良いですねぇ。
自分は1年半前に読みましたが、それから200冊、
いったい何冊にマンシュタインが登場し、また、このブログでも何度「マンシュタインが・・」と書いたことか・・。
正直、もう一度読み直して、再レビューを書きたいくらいです。
>歴史を善悪二原論で論じたり現在の価値観で判断したりすると歴史の真実は理解できませんね。
おっしゃるとおりですね。自分は特に捕虜やパルチザンに対する国防軍の行為や武装SSの事件についても、双方の当時の立場を踏まえて、客観的に理解したいと常々、思っています。
「ヒトラーと国防軍」、「国防軍とヒトラー」も独破後には、ぜひ感想もお聞かせください。
by ヴィトゲンシュタイン (2010-11-03 07:13)