SSブログ

最後の100日 -ヨーロッパ戦線の終幕-〈下〉 [戦記]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ジョン・トーランド著の「最後の100日〈下〉」を読破しました。

下巻は1945年3月も終りに近づいたバルト海の都市、ダンツィヒがロコソフスキーに包囲され、
ドイツ軍兵士、そして市民の絶望的な状況・・・からとなります。

最後の100日〈下〉.JPG

「最後の一兵まで戦うべし」の死守命令のなか、SS部隊は見せしめのため、
「わたしは卑怯者です」、「わたしは上官に反攻しました」などと書かれた札を掛けて
脱走兵を木の枝に吊るします。
このような行為に憤慨する国防軍兵士との間では公然とした同士討ちが起こりかねない気配です。

King Tiger in Danzig.jpg

市内に突入したソ連軍は一般市民にも降伏を呼びかけ、丁寧な態度で水を求めたり、
タバコを勧めたり・・。しかし、それも束の間、後続の酒瓶片手に酔っ払った部隊は、
「時計!」、そして「女、来い!」。
地下室から引き出された女性たちには、いつもの運命が待っています。
初老の未亡人に少年兵が襲い掛かり、「わたしはおばあちゃんだよ!」と哀願するも
「おばあちゃん、言うことを聞け!」と少年兵は何度も叫ぶのでした・・。

西部戦線もすでに壊滅的な状況が出来上がっています。
パウル・ハウサーのG軍集団はブラッドレーに、
ブラスコヴィッツのH軍集団はモントゴメリーに蹂躙され、
パットン、ホッジス、シンプソンの米3軍がモーデルのB軍集団打倒を目論見ます。

Generalfeldmarschall Walter Model.jpg

モーデルに撤退の許可が出せない西方軍総司令官ケッセルリンクですが、
兵士たちはすでに弱気となっていて、ある夜、最前線の森では米軍曹2人に対して
100名のドイツ兵があっさり降伏・・。幾日もまともに寝ていない2人の米軍曹は
見張りの際についウトウトすると「しっかりしろ!」と捕虜のドイツ兵に気合を入れられます。

ハンガリーではヘルマン・バルクの新生第6軍とゼップ・ディートリッヒ第6SS装甲軍による
「春の目覚め作戦」が失敗し、ヒトラーによる有名な「カフタイトル剥奪命令」が紹介されます。
これに猛烈に腹を立てるのは「ライプシュタンダルテ」のフリッツ・ハーゲンSS中佐ですが、
実は彼はヨッヘン・パイパーですね。
本書は全員、実名となっていますが、なぜか、パイパーだけ「仮名」です。
バルジ大作戦」ではちゃんと実名だったんですけどねぇ。不思議です。

Joachim Peiper_hitler.jpg

ヴォルフガング・パウルの「最終戦」で印象的だった、オーストリア人によって
ウィーン市内の無血開城を試みるという、ウィーン陥落話もかなり詳細に書かれています。
ヒトラー暗殺未遂事件にも関与したオーストリア人参謀将校、スツォコル少佐によって計画され、
ウィーン郊外に迫ったトルブーヒンのソ連軍と接触。市内の防衛体制を伝えて、
双方の被害を最小限に抑えながら、ウィーンを明け渡そうとするものです。

しかし結局はSS部隊とゲシュタポの知るところとなり、警備隊長ビーダーマンらが
街灯に吊るされますが、スツォコル少佐はうまく立ち回り、ソ連占領後の
ウィーン市民軍指揮官に任命されるものの、その後、結局はソ連の収容所送りとなります。
彼については戦後も賛否両論あったそうで、ナチスの手から解放した「英雄」である反面、
別の見方からすればウィーンを共産主義者に売り渡した「裏切り者」ということだそうです。
実に難しいですね・・。

niemieckie-zbrodnie.jpg

パットンの近づく、ブッヘンヴァルト強制収容所では、所長が囚人たちに
米軍に自分が親切だったと話してくれるよう哀願したかと思うと、
暴動を恐れて47人の処刑を決定したりと、激しく動揺するありさまです。

噂に聞く強制収容所の現実を初めて目の当たりにしたアイゼンハワーの顔からは
血の気が引き、ブラッドレーも言葉を失い、強気のパットンもその場を離れてゲーゲーと・・。

Buchenwald_Bradley and George Patton.jpg

4月、米国大統領ルーズヴェルトが死去・・。ここでは当時の日本の鈴木貫太郎首相が
米国民に対して「深い同情の念」を表明する一方で、日本の一部の宣伝屋が
ルーズヴェルトの最後の言葉、「ひどく頭が痛い」を、「私はひどい誤りを犯した」に改ざんした・・
という話が出てきました。

ヒムラーの和平交渉も、部下である国家保安本部(RSHA)長官カルテンブルンナーに嗅ぎつけられ、
ヒトラーに報告されることを怖れるあまり、なかなか進展しません。
業を煮やしたシェレンベルクはヒムラー抜きの計画を模索しますが、
結局は怖気づいて頼りない言い訳を述べ続ける、SS全国指導者の尻を叩くしかない、
という結論に達します。

KZ_Mauthausen,_Himmler,_Kaltenbrunner,_Ziereis.jpg

ザルツヴェーデルの町では看守に置き去りにされ、収容所から開放されて出てきた人々と
この町のドイツ人の住人たちとの間で狂乱状態が始まっています。
ロシア人、ウクライナ人、ルーマニア人、ポーランド人、
イタリア人にフランス人のボロを着た強制労働者たちが復讐のために町をうろつき回り、
負傷して隠れていたSS隊員を引きずり出しては寄って集って踏み殺し、
その死体にまで噛み付くという常軌を逸した凄まじさ・・。
ほとんど、ゾンビの群れに襲われているドイツの町といったイメージです。

そのドイツ人町長は墓石に縛り付けられ、目の前で奥さんと娘さんの服が剥ぎ取られ、
ロシア人たちに押し倒される様に身をよじり、叫び声をあげ、そして・・。
特に名の知れた人物の出てこないこのくだりは、上下巻を通じて、最も印象的でした。

イタリアではムッソリーニが愛人クラレッタ・ペタッチとともにパルチザンに処刑され、
ベルリンの総統地下壕でもヒトラーが新妻エヴァ・ブラウンとともに自殺。
この数ある「ヒトラー 最期の12日間」的な話のストーリーテラーは
ヒトラーの専属運転手を務めたエーリッヒ・ケンプカです。

Erich Kempka2.JPG

以前からマルティン・ボルマンを毛嫌いしていたケンプカは、
エヴァの死体を抱いて運ぶボルマンから彼女を奪い取ります。
そして共に脱出し、戦車の左横を進むボルマンとナウマン博士が
戦車と共に吹き飛ばされた姿を目撃したことから、
直後に気を失ったケンプカは2人とも死んだと思い込みます。
しかし実際、ナウマン博士は生き延びており、アクスマンが「ボルマンの死体を見た」と
主張しているものの確証はなく、著者のトーランドは彼がナチの高官のなかで
一般市民に最も顔が知られていない人物であり、
生まれながらにして、常に生き延びる男だったとしています。

Heinrich Himmler, S_A_ Brigadier Gen_ Franz Ritter von Epp & Nazi Reichsleiter Martin Bormann attending Reichs Veterans Day.jpg

このケンプカの証言では、お馴染みフェーゲラインの逮捕が笑ってしまいました。
一般的に自宅やら愛人宅で泥酔しているところをフェーゲラインは捕まりますが、
彼によるとヒトラー警護隊、RSD隊長のラッテンフーバーの話として、
フェーゲラインが革のコートにハンチング帽、スカーフを巻き、スリッパという格好で
総統地下壕1階の「ゴミ箱」で発見された・・。

Gen Johann Rattenhuber.jpg

ムッソリーニとヒトラーが死んでも戦争は続きます。
ソ連軍に包囲されながらも西への突破を図るブッセの第9軍。
2両しかなくなったティーガー戦車を先頭に立て、砲身が焼けるほどの攻撃と前進を続けます。
そして歩兵部隊と、ピストルや弾薬を持った数百人の女性もその後方に続いて行きます。

Mädchen_Wehrmacht.jpg

最後の各戦線における降伏交渉では、イタリア戦線が詳細で楽しめました。
数ヶ月間も隠密にCIAの前身であるOSSのアレン・ダレスと接触し、
コモ湖ではパルチザンからの逮捕を間一髪で逃れたSS大将カール・ヴォルフ
南方軍集団司令官のシュルツ大将や海空の司令官たちに休戦計画を打ち明けます。

friedrich schulz.jpg

賛否あるなか、前南方軍集団司令官のケッセルリンクが「勝手な行動」と電話で罵倒。
激しい応酬の末、精魂尽きた2人に代わった副官同士の第2ラウンドも延々2時間続き、
最終的にケッセルリンクの許可が下りたヴォルフは、ベッドにのめり込んで勝利を味わいます。

SS in Italia Karl Wolff.jpg

何冊か読んでいるこの最終戦モノ。知っている話ばっかりだったらどうしよう・・と心配でしたが、
率直に言って余計な心配でした。
本書の登場人物は多士に渡り、とても書き切れませんが、特に西側連合軍の内情や
ベルリンを巡るスターリンとの駆け引きなどは勉強になりました。

またドイツ側でも初めて聞いたときには、まるでプロレスの空中殺法の名前みたいだなぁと思った
フライターク・フォン・ローリングホーフェン少佐がグデーリアンクレープスという
最後の参謀総長2人の副官を歴任し、ちょくちょく登場するので印象に残った一人です。

Bernd Freiherr Freytag von Loringhoven.jpg

トーランドは更に強烈な「アドルフ・ヒトラー①~④」が本棚で待っていますので、
今度、挑戦します。
でも、フェストの「ヒトラー」もあるし、アーヴィングの「将軍たちの戦い」も読みたくなったし・・。



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コメコン

末期戦本と聞くと体がウズくコメコンです。
こんなのもあったんですね、知りませんでした。
とりあえず下巻(表紙デザインが違うS42年版)だけ安価なものを見つけたので先行入手しておきました。
下巻からでも速攻読み始めたいくらい気になってます。

ではでは。
by コメコン (2010-11-08 09:17) 

ヴィトゲンシュタイン

ど~も。コメコンさんにガブガブ喰いついて頂けたとは嬉しいですねぇ。
自分は、去年の8月に上下巻セットを1890円で購入しました。
1年以上も本棚でほったらかしにしていたとうのもなんですが、こういった古書は、定価より高くなっている時もあれば、
突然、叩き売りで出たりして、買い時?が難しいですね・・。


by ヴィトゲンシュタイン (2010-11-08 19:13) 

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