トレブリンカ -絶滅収容所の反乱- [収容所/捕虜]
ど~も。ヴィトゲンシュタインです。
ジャン=フランソワ・ステーネル著の「トレブリンカ」を読破しました。
本書を吉祥寺の古書店で900円で購入したのが、ほぼ3年前です。
いわゆる「ホロコースト」もの・・、数ある絶滅収容所のなかでも、このトレブリンカが
アウシュヴィッツに次ぐ70万人もの人々を葬った収容所であることを考えると
なかなか読破しようという勇気が起きず、ズルズルと時間が経ってしまいました。
ただ、トレブリンカの特徴である、収容者たちの反乱による集団脱走というテーマが
今回、やっとこさ手をつけた理由でもあり、この収容所の所長でもあったシュタングルの
「人間の暗闇」も読破したことで、双方を客観的に理解できる自信もついたことが、
今回の独破に至った経緯です。
「千年帝国の建設者たちは、厄介払いしようとしたユダヤ人を残らず移住させることが
遂にできなかったので、皆殺しにすることを決めた」。から始まる本書は、
この「最終的解決」の第1段階である「ゲットー」の様子とそのシステムを解説します。
そして、その「ゲットー」から「収容所」への移送と「処理」方法・・、当初の銃殺にしても
古典的な12歩離れた銃殺隊によるものから、首筋に一発ぶち込むだけ・・
という新しく効率的な方法が優勢となりますが、執行人にとっても耐えがたいものでもありました。
このようなことから、世界で初めて「百万単位の人間をどのように消すか」という問題に
真剣に取り組むこととなり、その発明は「ガス・トラック」として1942年春に登場します。
しかしこの方法も、扉が開いた際の光景があまりに恐ろしいことからSS隊員たちは、
その衝撃に耐えるため、酒に酔っていなければならない・・など、問題点も多いものです。
1942年7月、いよいよポーランドのワルシャワから完成したトレブリンカに向けて、第1陣が出発。
20両編成の列車から降ろされたユダヤ人たち・・、女性と子供は、そのまま「シャワー室」へ、
男性たちは丈夫な者を選び出そうとする、マックス・ビエラスSS少尉の
容赦ない暴力的な選抜テストを受けることに・・。
2つの区画から成るこのトレブリンカは、ガス室から死体を取り出し、金歯を抜き、
壕へ運ぶ作業に従事する200名のユダヤ人たちの第2収容所と、
到着したユダヤ人たちの品物や衣類の選別したり、収容所内の建築に関わる者たち、
SS隊員の身の回りの世話や靴や衣料品の製造班、そして医師といった
収容所の運営に必要なユダヤ人たちの住む第1収容所に分かれています。
前者は衣食住、すべてにおいて非常に劣悪な環境で、「最終的解決」の目撃者でもある彼らは
どちらにしても生き残ることは許されず、また、彼らの交代要員はいくらでもいるという
常に死の1歩手前で生き延びている状況です。
それに引き替え、幸運にも後者に選ばれた者たちは、その技術と体力が
トレブリンカを維持するためにも、運営にあたる20名程度のドイツ人SS隊員と
100名程度のウクライナ監視兵とともに必要とされる存在であり、
そして、このような組織作りと人員の選抜を行うのは、クルト・フランツSS曹長です。
やがて第1収容所の3名のユダヤ人によって密かに組織された「トレブリンカ抵抗委員会」。
ここからは、脱走モノのサスペンス小説のような展開になるので
あまり細かいことは書きませんが、列車での脱走や
極悪人のSS隊員マックス・ビエラスSS少尉を刺し殺し、
宿敵であるはずのウクライナ監視兵との交流など、様々な話が興味深く、楽しめます。
ドイツ側の主人公はクルト・フランツで、途中、彼の生い立ちからも紹介されます。
トレブリンカの所長、イルムフリート・エベールと、続くフランツ・シュタングルは
単に司令官とい名で登場するだけで、事実上、クルト・フランツが取り仕切っており、
最終的にはSS少尉として、所長としてもトレブリンカに君臨します。
ガス室も13戸へ増やし、熟練したユダヤ人によって完璧に調整された殺人工場と化した
トレブリンカ・・。ヨーロッパ中から莫大な数のユダヤ人を率先して受け入れ、
適切に「処理」していきます。
しかし、1943年には訪れたヒムラーから「閉店」の命令が・・・。
アウシュヴィッツのような焼却炉を持たないトレブリンカの大地には、すでに70万人もの
死体を埋蔵しており、証拠隠滅のためには、これらも消し去る必要にクルト・フランツは迫られます。
1日千体を処理しても、まるまる2年はかかるという窮地・・。
掘り返した壕の死体にガソリンをかけたところで、すべてを燃やし尽くすことはできません。
そこでヘルベルト・フロスと名乗る、死体火葬の専門家が派遣され、彼によって
巨大なクレーンを使って死体が掘り起こされ、人海戦術を用いた流れ作業によって
積み上げられた死体が連日、燃え続け、壕は空になっていきます。
反乱を計画していたユダヤ人たちは、単に逃げ出すことだけが目的ではなく、
この絶滅収容所の生き証人になることも重要な使命です。
しかし、そうこうしているうちにトレブリンカはそれ自体の痕跡すら消そうとする、時間との闘い・・。
そして、遂に彼らは「武器庫」を襲い、反乱に成功します。
前半は、毎夜バラックで起きる首つり自殺など、悲惨な話で気が滅入りますが、
後半は、クルト・フランツによって提案されたリクリエーション・・、
音楽好きの彼のためのオーケストラや日曜日のボクシングなどの催し、さらに結婚までと
あくまで「奴隷」ではあるものの、意外な絶滅収容所生活を知ることができました。
1938年にパリで生まれた著者は、ユダヤ人であった父親を強制収容所で亡くした過去を持ち、
本書を書くにあたって、脱出して生き残った生存者を訪ね歩くなどして、
ドラマチックな小説のような雰囲気に仕上げています。
ジャン=フランソワ・ステーネル著の「トレブリンカ」を読破しました。
本書を吉祥寺の古書店で900円で購入したのが、ほぼ3年前です。
いわゆる「ホロコースト」もの・・、数ある絶滅収容所のなかでも、このトレブリンカが
アウシュヴィッツに次ぐ70万人もの人々を葬った収容所であることを考えると
なかなか読破しようという勇気が起きず、ズルズルと時間が経ってしまいました。
ただ、トレブリンカの特徴である、収容者たちの反乱による集団脱走というテーマが
今回、やっとこさ手をつけた理由でもあり、この収容所の所長でもあったシュタングルの
「人間の暗闇」も読破したことで、双方を客観的に理解できる自信もついたことが、
今回の独破に至った経緯です。
「千年帝国の建設者たちは、厄介払いしようとしたユダヤ人を残らず移住させることが
遂にできなかったので、皆殺しにすることを決めた」。から始まる本書は、
この「最終的解決」の第1段階である「ゲットー」の様子とそのシステムを解説します。
そして、その「ゲットー」から「収容所」への移送と「処理」方法・・、当初の銃殺にしても
古典的な12歩離れた銃殺隊によるものから、首筋に一発ぶち込むだけ・・
という新しく効率的な方法が優勢となりますが、執行人にとっても耐えがたいものでもありました。
このようなことから、世界で初めて「百万単位の人間をどのように消すか」という問題に
真剣に取り組むこととなり、その発明は「ガス・トラック」として1942年春に登場します。
しかしこの方法も、扉が開いた際の光景があまりに恐ろしいことからSS隊員たちは、
その衝撃に耐えるため、酒に酔っていなければならない・・など、問題点も多いものです。
1942年7月、いよいよポーランドのワルシャワから完成したトレブリンカに向けて、第1陣が出発。
20両編成の列車から降ろされたユダヤ人たち・・、女性と子供は、そのまま「シャワー室」へ、
男性たちは丈夫な者を選び出そうとする、マックス・ビエラスSS少尉の
容赦ない暴力的な選抜テストを受けることに・・。
2つの区画から成るこのトレブリンカは、ガス室から死体を取り出し、金歯を抜き、
壕へ運ぶ作業に従事する200名のユダヤ人たちの第2収容所と、
到着したユダヤ人たちの品物や衣類の選別したり、収容所内の建築に関わる者たち、
SS隊員の身の回りの世話や靴や衣料品の製造班、そして医師といった
収容所の運営に必要なユダヤ人たちの住む第1収容所に分かれています。
前者は衣食住、すべてにおいて非常に劣悪な環境で、「最終的解決」の目撃者でもある彼らは
どちらにしても生き残ることは許されず、また、彼らの交代要員はいくらでもいるという
常に死の1歩手前で生き延びている状況です。
それに引き替え、幸運にも後者に選ばれた者たちは、その技術と体力が
トレブリンカを維持するためにも、運営にあたる20名程度のドイツ人SS隊員と
100名程度のウクライナ監視兵とともに必要とされる存在であり、
そして、このような組織作りと人員の選抜を行うのは、クルト・フランツSS曹長です。
やがて第1収容所の3名のユダヤ人によって密かに組織された「トレブリンカ抵抗委員会」。
ここからは、脱走モノのサスペンス小説のような展開になるので
あまり細かいことは書きませんが、列車での脱走や
極悪人のSS隊員マックス・ビエラスSS少尉を刺し殺し、
宿敵であるはずのウクライナ監視兵との交流など、様々な話が興味深く、楽しめます。
ドイツ側の主人公はクルト・フランツで、途中、彼の生い立ちからも紹介されます。
トレブリンカの所長、イルムフリート・エベールと、続くフランツ・シュタングルは
単に司令官とい名で登場するだけで、事実上、クルト・フランツが取り仕切っており、
最終的にはSS少尉として、所長としてもトレブリンカに君臨します。
ガス室も13戸へ増やし、熟練したユダヤ人によって完璧に調整された殺人工場と化した
トレブリンカ・・。ヨーロッパ中から莫大な数のユダヤ人を率先して受け入れ、
適切に「処理」していきます。
しかし、1943年には訪れたヒムラーから「閉店」の命令が・・・。
アウシュヴィッツのような焼却炉を持たないトレブリンカの大地には、すでに70万人もの
死体を埋蔵しており、証拠隠滅のためには、これらも消し去る必要にクルト・フランツは迫られます。
1日千体を処理しても、まるまる2年はかかるという窮地・・。
掘り返した壕の死体にガソリンをかけたところで、すべてを燃やし尽くすことはできません。
そこでヘルベルト・フロスと名乗る、死体火葬の専門家が派遣され、彼によって
巨大なクレーンを使って死体が掘り起こされ、人海戦術を用いた流れ作業によって
積み上げられた死体が連日、燃え続け、壕は空になっていきます。
反乱を計画していたユダヤ人たちは、単に逃げ出すことだけが目的ではなく、
この絶滅収容所の生き証人になることも重要な使命です。
しかし、そうこうしているうちにトレブリンカはそれ自体の痕跡すら消そうとする、時間との闘い・・。
そして、遂に彼らは「武器庫」を襲い、反乱に成功します。
前半は、毎夜バラックで起きる首つり自殺など、悲惨な話で気が滅入りますが、
後半は、クルト・フランツによって提案されたリクリエーション・・、
音楽好きの彼のためのオーケストラや日曜日のボクシングなどの催し、さらに結婚までと
あくまで「奴隷」ではあるものの、意外な絶滅収容所生活を知ることができました。
1938年にパリで生まれた著者は、ユダヤ人であった父親を強制収容所で亡くした過去を持ち、
本書を書くにあたって、脱出して生き残った生存者を訪ね歩くなどして、
ドラマチックな小説のような雰囲気に仕上げています。
こんにちは!
収容所モノが続いてますね、私はこちら方面はアンタッチなので参考にさせていただいてます。手持ちのものではこちらくらいですね。
「ホロコースト全証言―ナチ虐殺戦の全体像」これレヴューありましたか?
例のクノップ先生の本です、しんどいですねこの手の話は。
高橋慶史「武装SS写真集」2が発売予告でましたよ、今度はSS9,10師団
でアルンヘム話がメインのようですが後の超マイナー師団は良く資料集めてると感心してしまいます。
学研M文庫のロンメル本著者、山崎氏もバルバロッサ本を出版するそうで
どれだけ新資料使っているかチェック楽しみです。(意地悪な読み方ですね)
by グライフ (2011-01-23 15:50)
ど~も。グライフさん、こんばんわ。
なるほど、「ドイツ武装SS師団 写真史 2」、amazonではまだですけど、楽天に出てました。1月下旬予定ですね。
前作、ちゃんと定価で買った甲斐がありました。。
副題が「遠すぎた橋」というのも良い感じです。
ホーエンシュタウフェンのハルツァ中佐の写真が載ってれば嬉しいですね。
山崎氏は、とりあえず手持ちのロンメルと西部戦線をやっつけなきゃならないですねぇ。それにしてもバルバロッサは1冊で収まるのか・・。
クノップ先生の「ホロコースト全証言」はまだ未購入です。
もともとタイトルに「ホロコースト」と付いているものは、どうしても暗い気分なるので苦手です。
今回でも読むまで3年かかりましたしねぇ。
まぁ、でも近々(次々回くらい?)、収容所モノもう1冊行きます。
収容所モノというより、アイヒマン本ですけど・・。
by ヴィトゲンシュタイン (2011-01-23 18:23)