始まりと終り -栄光のドイツ空軍- [ドイツ空軍]
ど~も。ヴィトゲンシュタインです。
アドルフ・ガーラント著の「始まりと終り」を読破しました。
原題は「ルフトヴァッフェ-栄光と壊滅の回想記」。
1953年発刊の英語版を翻訳したもので、ガーランド個人の回想録というより、
ルフトヴァッフェという組織そのものの回想録という位置づけです。
ですから、回想録にありがちな「生い立ち」から「入隊の経緯」、
「恋人や結婚」というようなプライベートな話は語られません。
しかしなにも客観的にルフトヴァッフェを総括しているだけではなく、
ガーランド個人の戦いの記録、それはフランス電撃戦から
バトル・オブ・ブリテンの空戦、その後の「戦闘機隊総監」としてゲーリングやヒトラー、
その他、ルフトヴァッフェ内の様々な勢力との絶望的な戦い、
そしてジェット戦闘機によるプライトをかけた最後の戦いまでを熱く語りつつ、
戦争の全般的な情勢から連合軍の戦力/戦術分析も含め、
ルフトヴァッフェの始まりから終りを回想しているといったものです。
出だしは「ダンケルク」の空戦です。この有名な戦役は陸軍から書かれたものは
多いですが、空軍からの視点というのは珍しいですね。
その後は、シュトゥーカ急降下爆撃機を主役とした英国本土爆撃までの
西方での作戦とガーランド自身の戦果と続きます。
盟友メルダースからは「貴様はルフトヴァッフェのリヒトホーフェンなるんだ」
と言われたり、ゲーリングに欲しい物は?と聞かれ「ならばスピットファイアを」
と答えた有名な話などが随所に出てきます。
バルバロッサ作戦が始まると東部戦線にはメルダースが向かい、
ガーランドは手薄になった西方で英国と戦い続けます。
この時期は東部戦線の陰に隠れ、西部の戦いはあまり知られていません。
ここではゲーリングと脱出した敵パイロットを撃つという命令を仮定とした
騎士道精神の問題や、英国で勇名を轟かせていたパイロット、ダグラス・ベイダーを
捕虜としたことにまつわる話に1章割いています。
技術局長のウーデットが自殺をし、メルダースも墜落事故で死亡するという
悲劇の後にガーランドを待っていたのは、メルダースの後任としての
「戦闘機隊総監」の地位でした。同じ、優秀な戦闘機乗りながらも、
新たな戦術の立案や部隊の運用に長けていたメルダースと違い
デスクワークが大嫌いで30歳にして将軍となったガーランド。
トラウトロフト大佐やリュッツォウ大佐を補佐に据えますが、
活発となってきた英米軍による、ドイツ本土戦略爆撃に対抗すべく
戦闘機の生産を増やし、爆撃機の迎撃を提案しますが、
ヒトラーによる報復爆撃戦略の前になすすべもなく、
その戦略に効果が現れないことを逆に護衛としての戦闘機の責任とされ、
悩み苦しみます。
このあたりでは、西側連合軍の爆撃戦略と高射砲や夜間戦闘機、
そしてレーダーによる迎撃戦術について、かなり詳細に解説しています。
ハンブルク大空襲は特に大きな脅威をルフトヴァッフェ内に与え、
ゲーリングを筆頭に、爆撃機隊など反目しあっていたサークルも
初めて一致団結して、戦闘機による迎撃強化をヒトラーに提案します。
しかし悲しいかな、すっかり信用の失墜しているゲーリング提案はヒトラーから
あっさり却下されてしまうことに・・。
絶望したガーランドは辞任を要請するも、適当な後任者がいないことから、
信用を失ったまま、飼い殺し状態に置かれてしまいます。
せっかく承認された予備軍もガーランドの知らないうちに
アルデンヌ攻勢に使用され、ほぼ壊滅。
部隊の退却一つを取っても、通信部隊の女性たちの安全も考慮しなければならず、
その責任と苦労は大変なものですね。
こんな戦闘機隊総監時代の唯一とも言える勝利が「サンダーボルト作戦」です。
グナイゼナウとシャルンホルスト、そしてプリンツ・オイゲンから成る
ブレスト艦隊のドーバー海峡突破を空から援護するという大作戦ですが
作戦立案からその指揮に至るまでが詳細に書かれ、かなりの読み応えがあります。
海軍側視点の「高速戦艦脱出せよ」と併せて読むと良いかも知れませんね。
まぁ、しかしこの大作戦も決して攻勢ではないところが寂しいところです。
そして1945年1月、やっと戦闘機隊総を解任されますが、リュッツォウ大佐を中心とした
将校団のゲーリングに対する反乱、Me-262ジェット戦闘機部隊の創設と続いて行きます。
これまでの不遇な時代から、中将にして飛行隊の中隊長に戻ったガーラントの喜びは
文面から伝わってきますが、ノヴォトニー、リュッツォウ、シュタインホフら
スーバー・エースたちが、はかなく一花咲かせます。。。
Me-262についてはヒトラーの「電撃爆撃機」としての命令が発せられた経緯、
その他、ロケット戦闘機Me-163や、単発ジェット戦闘機のHe-162の開発も
平行して語られ、とても勉強になりました。
また、スッカリ引きこもり、頼りにならなくなったゲーリングに代わり
軍需大臣シュペーアが登場し、ガーランドの窮地を救おうと懸命です。
ガーランド自身もシュペーアを尊敬すらしているようですね。
日本では1972年に初版が発売されましたが、
この重厚な製本の本書は当時の定価1100円です!
ヴィトゲンシュタインは良い状態のものを5000円で購入できました。
・・・昨日、アカデミー作品賞を「ハート・ロッカー」が受賞しましたね。
コレは面白そうです。しかもちゃんと「映画館」で観るべき映画でしょう。
今日、観に行こうかな~。
アドルフ・ガーラント著の「始まりと終り」を読破しました。
原題は「ルフトヴァッフェ-栄光と壊滅の回想記」。
1953年発刊の英語版を翻訳したもので、ガーランド個人の回想録というより、
ルフトヴァッフェという組織そのものの回想録という位置づけです。
ですから、回想録にありがちな「生い立ち」から「入隊の経緯」、
「恋人や結婚」というようなプライベートな話は語られません。
しかしなにも客観的にルフトヴァッフェを総括しているだけではなく、
ガーランド個人の戦いの記録、それはフランス電撃戦から
バトル・オブ・ブリテンの空戦、その後の「戦闘機隊総監」としてゲーリングやヒトラー、
その他、ルフトヴァッフェ内の様々な勢力との絶望的な戦い、
そしてジェット戦闘機によるプライトをかけた最後の戦いまでを熱く語りつつ、
戦争の全般的な情勢から連合軍の戦力/戦術分析も含め、
ルフトヴァッフェの始まりから終りを回想しているといったものです。
出だしは「ダンケルク」の空戦です。この有名な戦役は陸軍から書かれたものは
多いですが、空軍からの視点というのは珍しいですね。
その後は、シュトゥーカ急降下爆撃機を主役とした英国本土爆撃までの
西方での作戦とガーランド自身の戦果と続きます。
盟友メルダースからは「貴様はルフトヴァッフェのリヒトホーフェンなるんだ」
と言われたり、ゲーリングに欲しい物は?と聞かれ「ならばスピットファイアを」
と答えた有名な話などが随所に出てきます。
バルバロッサ作戦が始まると東部戦線にはメルダースが向かい、
ガーランドは手薄になった西方で英国と戦い続けます。
この時期は東部戦線の陰に隠れ、西部の戦いはあまり知られていません。
ここではゲーリングと脱出した敵パイロットを撃つという命令を仮定とした
騎士道精神の問題や、英国で勇名を轟かせていたパイロット、ダグラス・ベイダーを
捕虜としたことにまつわる話に1章割いています。
技術局長のウーデットが自殺をし、メルダースも墜落事故で死亡するという
悲劇の後にガーランドを待っていたのは、メルダースの後任としての
「戦闘機隊総監」の地位でした。同じ、優秀な戦闘機乗りながらも、
新たな戦術の立案や部隊の運用に長けていたメルダースと違い
デスクワークが大嫌いで30歳にして将軍となったガーランド。
トラウトロフト大佐やリュッツォウ大佐を補佐に据えますが、
活発となってきた英米軍による、ドイツ本土戦略爆撃に対抗すべく
戦闘機の生産を増やし、爆撃機の迎撃を提案しますが、
ヒトラーによる報復爆撃戦略の前になすすべもなく、
その戦略に効果が現れないことを逆に護衛としての戦闘機の責任とされ、
悩み苦しみます。
このあたりでは、西側連合軍の爆撃戦略と高射砲や夜間戦闘機、
そしてレーダーによる迎撃戦術について、かなり詳細に解説しています。
ハンブルク大空襲は特に大きな脅威をルフトヴァッフェ内に与え、
ゲーリングを筆頭に、爆撃機隊など反目しあっていたサークルも
初めて一致団結して、戦闘機による迎撃強化をヒトラーに提案します。
しかし悲しいかな、すっかり信用の失墜しているゲーリング提案はヒトラーから
あっさり却下されてしまうことに・・。
絶望したガーランドは辞任を要請するも、適当な後任者がいないことから、
信用を失ったまま、飼い殺し状態に置かれてしまいます。
せっかく承認された予備軍もガーランドの知らないうちに
アルデンヌ攻勢に使用され、ほぼ壊滅。
部隊の退却一つを取っても、通信部隊の女性たちの安全も考慮しなければならず、
その責任と苦労は大変なものですね。
こんな戦闘機隊総監時代の唯一とも言える勝利が「サンダーボルト作戦」です。
グナイゼナウとシャルンホルスト、そしてプリンツ・オイゲンから成る
ブレスト艦隊のドーバー海峡突破を空から援護するという大作戦ですが
作戦立案からその指揮に至るまでが詳細に書かれ、かなりの読み応えがあります。
海軍側視点の「高速戦艦脱出せよ」と併せて読むと良いかも知れませんね。
まぁ、しかしこの大作戦も決して攻勢ではないところが寂しいところです。
そして1945年1月、やっと戦闘機隊総を解任されますが、リュッツォウ大佐を中心とした
将校団のゲーリングに対する反乱、Me-262ジェット戦闘機部隊の創設と続いて行きます。
これまでの不遇な時代から、中将にして飛行隊の中隊長に戻ったガーラントの喜びは
文面から伝わってきますが、ノヴォトニー、リュッツォウ、シュタインホフら
スーバー・エースたちが、はかなく一花咲かせます。。。
Me-262についてはヒトラーの「電撃爆撃機」としての命令が発せられた経緯、
その他、ロケット戦闘機Me-163や、単発ジェット戦闘機のHe-162の開発も
平行して語られ、とても勉強になりました。
また、スッカリ引きこもり、頼りにならなくなったゲーリングに代わり
軍需大臣シュペーアが登場し、ガーランドの窮地を救おうと懸命です。
ガーランド自身もシュペーアを尊敬すらしているようですね。
日本では1972年に初版が発売されましたが、
この重厚な製本の本書は当時の定価1100円です!
ヴィトゲンシュタインは良い状態のものを5000円で購入できました。
・・・昨日、アカデミー作品賞を「ハート・ロッカー」が受賞しましたね。
コレは面白そうです。しかもちゃんと「映画館」で観るべき映画でしょう。
今日、観に行こうかな~。
はじめまして、第三帝国入門者のコメコンと申します。
毎回愉しく、幾度となく読み返しては購入の参考にさせてもらっております。
「始まりと終り」はレアかつかなり高価だったので今までなかなか手が出ませんでしたが、
ついに昨夜オーダーしました〜。
フジ出版社いいですね。惚れました。
全部集めたいと思って今さらコツコツ買い揃えておるところです。
どれもこれも面白そうなのばかりでソソられます。
しかも製本は良いし、付録は気が利いているし、掲載写真も豊富。
妥協しない感じが、他の出版社とは一線を画している気がします。
しかし、まだ読んでないのがフジ山となっており、いわゆる「積ん読」状態デス・・・
ではまた!
by コメコン (2010-03-12 09:18)
ど~も。コメコンさん、はじめまして。
最高に嬉しいコメントありがとうございます。
この「始まりと終り」はホント特別な製本ですよ!
フジ出版社は、良く行く神保町の軍事専門店ではコーナー?になっていて、古書ですが、かなり壮観です。
このブログで紹介した本でも、もともとはフジ出版社というのが結構ありますね。カレルなんかもそうですし・・。
今、未読の「203の勝利」に入っていた1983年8月の「図書目録」を見たら、「ブラッドレイ欧州戦記(仮題)」とか「ヒムラー(仮題)」なんてのがありました!
by ヴィトゲンシュタイン (2010-03-12 19:57)
おはようございます。
神保町のフジコーナーうらやましいです・・・
いっぱい在庫あるのでしょうね。
東京へ行く機会があれば是非とも訪れてみたいです。
「ヒムラー(仮題)」未完なのが残念ですね〜
Amazon USで検索して表紙だけ眺めていました。
私は昨日から「203の勝利」読み始めましたー
ではでは。
by コメコン (2010-03-13 09:12)
この本、実はオリジナル独語版だと、ガランドが空軍に入隊するまでの経緯やスペイン内戦への参加状況などが約10章に渡って紹介されているのですが、日本語版の元となった英語版ではそれが全て削除されているので、いきなり対オランダ・ベルギー戦から始まる形となっています。「始まり」の前には、本当の始まりがあったのでした。
by 某訳者 (2010-06-05 15:44)
いや~、やっぱりそうでしたかぁ。
あえて「英語版を翻訳」と書いてあったりしたので、なにか臭いとは思っていましたが・・。
こうなったら、なんとか「独語完全版」を翻訳、出版していただけませんか?
by ヴィトゲンシュタイン (2010-06-05 19:46)
>なんとか「独語完全版」を翻訳、出版していただけませんか?
やっぱりそうきましたか(笑)
「完全版」 そうですよね、私もそう思います。でも・・・・
あまり詳しいことは言えないのですが、ある理由により、本書の再販(再翻訳などあらゆる形態の出版)は現在のところ可能性ゼロです。良書なのに残念ですね。
でも、その分、お手持ちの本の価値が上がりますね。
by 某訳者 (2010-06-29 21:48)