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戦場の狙撃手 [世界の・・]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

マイク・ハスキュー著の「戦場の狙撃手」を読破しました。

最初の頃にショボいレビューを書いた「最強の狙撃手」を再読しようかな・・と思いつつ、
本棚の整理をしていたら2006年に出た285ページの本書が出てきました。
買った記憶も、読んだ記憶もハッキリしませんが、パラパラと読み進めてしまいました。
最近も「カラシニコフ自伝」を読みましたし、狙撃銃という観点からも勉強になりそうです。

戦場の狙撃手.jpg

第1章は、1775年のアメリカ独立戦争から始まります。
射撃術に優れた開拓者から成る狙撃兵部隊が10個編成され、
なかでも「モーガン・ライフル隊」の活躍などを紹介します。
ナポレオン戦争に入ると、英陸軍がベーカー・ライフルを装備。
本書は兵士のカラー図版や、ライフルのカラー写真が掲載されていてわかりやすいですね。

Loading and Firing the British Army Baker Rifle, 1799-1815.jpg

19世紀の後半になると前装式ライフルに代わって、連射速度の速く、製造コストも安い
レバーアクション式のウィンチェスター・ライフルが西部開拓を象徴する銃になります。
子供の頃「荒野の七人」や、「OK牧場の決闘」、「真昼の決闘」などの西部劇を良く観ましたし、
ジェームズ・スチュアートの「ウィンチェスター銃'73」という映画もありましたね。
それになぜかレバーアクション・ライフルのモデルガンが我が家にあって、
ジョン・ウェインの如き早打ちの練習に励んでいたことを思い出しました。

winchester-73-james-stewart-1950.jpg

第2章は「塹壕戦」。第一次世界大戦の狙撃兵です。
長年狩猟をしてきた者や、貴族の広大な所領で猟場管理人を務めてきた者たちが、
優秀な狙撃兵として、中隊レベルにまで配置されていたドイツ軍が狙撃戦で有利に立ちます。
彼らにはモーゼルのボルト・アクション式ライフルを改造した
「シャルフシュッツェン・ゲヴェール98(Gew98)」という狙撃用ライフルが
特別に望遠照準器とともに支給されたいうことですが、新たなドイツ語にちょっと混乱します。
まずモーゼル(Mauser)は最近だと、「マウザー」と言うのが一般的ですね。
そして「ゲヴェール」は歩兵銃のドイツ語読みのようで、「シャルフシュッツェン」は狙撃かな?

Scharfschützengewehr (sniper-rifle).jpg

一方、英軍は狙撃学校を開校して、狙撃兵の育成に当たります。
連合軍で圧倒的に多くの敵兵を射殺したのはカナダ軍のフランシス・ペガハマガボー伍長で、
その数、終戦までに378人。

F.Pegahmagabow_378.jpg

ガリポリ上陸作戦」ではトルコ軍狙撃兵が活躍しています。
本書にはオーストラリア・ニュージーランド兵に捕らわれたトルコ軍狙撃兵の写真がありました。
ギリースーツというか、枝葉で偽装したその姿は何とも言えません・・。
囚われた宇宙人の写真のようですね。。

turkish_sniper.jpg

いよいよお楽しみ、第2次大戦の章へと進みます。
SSのヒムラーの命により、ベルリン郊外のツォッセンに狙撃兵学校が設立されたそうで、
1935年当時からドイツ軍は「ゲヴェール98」を短く改良した「カラビナー98クルツ」を装備。
「カラビナー」は騎兵銃を意味し、「クルツ」は短いですか。
後にワルサーの「ゲヴェール43」が制式狙撃用ライフルとして採用されたものの、
ドイツ軍狙撃兵の評価は低く、Kar98kが使われ続けるのでした。

ss_snipers.jpg

ノルマンディの戦いでは映画「プライベート・ライアン」のバリー・ペッパー演じる狙撃兵に
触れていますが、あ~、彼は良かった。あの映画で一番印象的でした。
この時期の米軍狙撃銃は「M1ガーランド」なんですね。

Barry Pepper_PRIVATE RYAN.jpg

そしてドイツ軍はノルマンディで全面的な狙撃戦術に出て、
林の中、建物の中、残骸の山の中とあらゆる場所に身を潜め、米兵を狙い撃ち。
身内からは尊敬される狙撃兵も敵からは憎悪の対象ですから、
捕虜となった狙撃兵を憎しみのあまり無断で処刑するのを米軍上層部も黙認します。

American soldier killed by German snipers, Leipzig, Germany, April 18, 1945.jpg

そして地獄の東部戦線・・。
まずは映画「スターリングラード」でお馴染みのザイツェフを紹介します。
「モシン・ナガン・モデル1891/30」を愛用した彼の回想を数ページ掲載し、
本人以外にも、ジュード・ロウのカラー写真付き。
アントニー・ビーヴァーはザイツェフの戦果について否定的でしたね。

ただし、エド・ハリス演じたドイツ狙撃兵の存在については、
ソ連のプロパガンダ機関による「捏造」説も挙げ、曖昧としていますが、
個人的には完全な架空人物だと考えています。
映画のエド・ハリスはとても良かったですけどね。。

dragon Duel at Stalingrad figures.jpg

その映画でも登場したソ連女性スナイパーにも触れられており、
トップのリュドミラ・パヴリチェンコのスコアは309名ですが、
第2次大戦で出撃した女性狙撃手2000名のうち、約500名が戦死したということです。

Roza Shanina.jpg

フィンランド軍の狙撃兵として、あの「白い死神」ことシモ・ヘイヘも写真付きで登場。
しかし、この写真はまったくの別人でしょう。
いい男過ぎて、実物のザイツェフと、彼を演じたジュード・ロウぐらい違いますよ。。

Finnish sniper.jpg

また、スコ(スロ)・コルッカという冬戦争の3ヵ月間で400人以上を射殺した人物も出てきますが、
いろいろと調べてみると、ど~もこの人は、その存在自体が怪しいです。
今のところ、実在していないプロパガンダの産物のように感じますね。

1967年に軍事雑誌に掲載された3人の旧ドイツ軍狙撃兵のインタビュー。
第3山岳師団の同じ狙撃兵部隊に所属していたこの3人とは、
345人を射殺したマティアス・ヘッツェナウアー
257人の「最強の狙撃手」こと、ゼップ・アラーベルガー、
64人のヘルムート・ヴィルンスベルガーは、その22人の狙撃兵部隊の隊長です。

Helmut Wirnsberger.jpg

700~800m離れた場所から立っている人間に銃弾を命中させることができると断言する
ヘッツェナウアーは、最高で1000mくらいから狙ったこともあるそうで、
「確実に当てるのは無理でも、場合によっては敵にその距離でも安全ではないと
わからせるために、撃たなきゃならないこともあったよ」と語っています。

German sniper team.jpg

続いての章は「太平洋戦域」です。
偽装の達人であり、自ら進んで死地に踏み込み、ジャングル戦に熟練した日本兵。
望遠照準器を装着した6.5㎜口径の九七式狙撃銃や7.7㎜口径の九九式狙撃銃で、
粘り強く任務を遂行し、そのしつこさに敵兵も不本意ながら舌を巻きます。
火薬の量が少ない6.5㎜口径の弾薬と銃身長の長いライフルを使うと
狙撃兵の居場所を教えてくれるはずの硝煙がほとんど上がらず、
一般に単独で行動する日本軍狙撃兵は、発見されたら逃げ場ないために、
連合軍やドイツ軍狙撃兵が消極的だった木を狙撃のプラットフォームに利用することも多く、
自分の身体を枝に縛り付け、たとえ撃たれても木から落ちず、敵に悟られずに済むのです。

Type 99 Japanese sniper.jpg

映画「高地戦」でも描かれた朝鮮戦争の狙撃兵が紹介された後、
「ベトナム戦争」がやってきました。
ホー・チミンの北ベトナム軍はザイツェフも使っていたモシン・ナガンを使用し、
狙撃兵を集めて中隊規模の専門部隊を編成。
全員が志願兵であり、2ヶ月に及ぶ厳しい訓練を受けていて、
その活躍によって米兵は士気を削がれ、疲弊することも多いのです。

Woman NLF Fighter in Cu Chi 1966.jpg

死傷者の増えた米軍、特に海兵隊は狙撃兵訓練に取り組みます。
こうして戦前、各種大会を総なめにしていた超一流の狙撃手であり、
北ベトナム軍から、その首に「懸賞金」までかけられた伝説のカルロス・ハスコックが登場。
確認戦果は93名で、望遠照準器を装着した50口径(12.7㎜)ブローニングM-2重機関銃で、
2300mの距離からベトコンの兵器運搬係を撃って、長距離狙撃の記録も打ち立てます。

Vietnam War-M2.jpg

このカルロス・ハスコックはヴィトゲンシュタインが大好きなスティーヴン・ハンターの
スナイパー小説シリーズの主人公、ボブ・リー・スワガーのモデルとも云われており、
以前から気になっていた人物です。

carlos-hathcock-marine-sniper_93k.jpg

なかでも「狩りのとき」は最高ですね。
今まで読んだ小説のなかでも、間違いなくBest10に入るでしょう。
スナイパー物やベトナム戦争物の小説に興味のある方はぜひ読んでみてください。



海兵隊のトップは103人を射殺したチャック・マウニーです。
米軍の全狙撃兵だと陸軍のアデルバード・ウォルドロンの113名が最高記録だそうですが、
本書ではなぜかこのベトナムの3人の狙撃手の写真が掲載されていません。
ドイツ軍第3山岳師団の3人も同様で、残念です。

Chuck Mawhinney_103,Adelbert Waldron_113.jpg

後半はボスニア内戦でのセルビア人狙撃手によってサラエヴォ市民が犠牲となり、
チェチェン紛争では、チェチェン軍狙撃兵がロシア軍に多大な被害を与えます。
崩れた建物に潜んで戦うという、まるでスターリングラード戦のような戦い、
双方とも狙撃銃は「ドラグノフ SVD」というのが、如何にも内戦らしいですね。

それにしても、「ソチ・オリンピック」は何も起こらないことを祈るばかりです。

SVD (Dragunov) soldier.jpg

クウェートに侵攻したイラクに対する「砂漠の嵐」作戦や、その後のイラク戦。
狙撃銃も進化し、米英では新たな狙撃銃が制定されますが、
50口径の対物ライフル「マクミラン Tac-50」で1400m先の給水塔にいる標的を撃つと、
「体の上半身だけが給水塔から落ちてきて、下半身は塔に残ったままだったんだ」
といった話や、「被弾した標的がバラバラになった」という話も・・。

uk_sniper tac-50.jpg

進化するのは照準器も同じです。暗視スコープから、感熱照準器へと変わり、
このようなハイテク赤外線装置は多くの軍隊で使用されています。
こうなってはギリースーツでいくら偽装しようにも狙撃兵の位置はバレバレ・・。
そこで最新式の熱線映像装置にも探知されない「ティック・スーツ」が開発され、
狙撃手はコレを着込んで、再び姿を消すのです。
なんとも、Uボートvs駆逐艦の戦いが繰り返されているかのようですね。

Starlight scope.jpg

このように本書は、有名な狙撃手に焦点を当てたものではなく、
狙撃銃そのものを詳しく解説しているわけでもありません。
まさにタイトルどおり、戦場における狙撃手とはどういう存在か・・?
ということを戦争の歴史とともにエピソードを交えて綴った一冊です。
ふと思ったんですが、「ビッグフット」ってギリースーツを着た狙撃兵を見誤ったんじゃないかなぁ??

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著者は米国在住の「第2次大戦ヒストリー・マガジン」の編集者だそうですが、
読んでいて気になったのは、「ギルバート著の『スナイパー』によると・・」と、
邦訳はされていない1994年の参考文献からの抜粋が多いこと多いこと。。
十数回はあったと思いますが、一冊の史料からこれだけ抜粋する本を読んだのは初めてです。

ちなみに「訳者あとがき」には狙撃に関する技術的問題や訓練の詳細については、
同じ原書房から出ているブルックスミス著の「狙撃手」を参照されたいとのことです。
本書と別の角度から狙撃兵の実像に迫った傑作で、本書と縦糸と横糸の関係にあると、
思わず読みたくなるほど営業チックにオススメしていますね。

russiche.jpg

原書房は2011年に「狙撃手列伝」も出版していますし、
大日本絵画からは「ミリタリー・スナイパー―見えざる敵の恐怖」という大型本も出ています。
どれも歴史的なスナイパーが出てくるんでしょうが、個人的には特定の人物・・、
例えばカルロス・ハスコックや、マティアス・ヘッツェナウアーの伝記だったり、
あるいは「出撃!魔女飛行隊」のような、ソ連の女スナイパー戦記が読んでみたいところです。





















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戦争の世界史 大図鑑 [世界の・・]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

R・G・グラント著の「戦争の世界史 大図鑑 」を読破しました。

2年ほど前に「ヴィジュアル版 「決戦」の世界史 -歴史を動かした50の戦い-
という本を紹介しましたが、今回は、世界史シリーズの第2回目です。
2008年に出た360ページの大型本で、しかもオールカラー。
お値段、14940円のデカくて、重い、セレブ的な一冊です。
5000円まで古書価格が下がったら買おうと思っていましたが、
amazonでも9000円までしか下がらないので、諦めて図書館で借りてみました。

戦争の世界史 大図鑑.jpg

まずは「古代世界の戦争」です。
紀元前2450年ごろのシュメール文明の都市国家ラガシュと隣国ウンマの戦い。
続いてエジプト新王国の「カデシュの戦い」、ギリシャの「トロイ戦争」と続きます。
日付、兵力、死傷者等、場所と地図が最初に掲載され、
各々の戦いの推移が書かれていますが、単なる戦記ではなく、
重要な人物、例えば「カデシュの戦い」ならラムセス2世が別枠で紹介されたり、
エジプトの武器も、解説付きの現物写真と、カラーならではです。

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ギリシャ・ペルシャ戦争なら歴史家ヘロドトス、
「テルモピュライの戦い」なら、映画「300」のレオニダスの像も写真で登場。
アレクサンドロス大王から、ローマ帝国の時代へ・・。
「典型的なローマ軍司令官であり、大胆で素早く主導権を握り・・」と紹介されるのは
ユリウス・カエサルです。
しかし、まぁ、興味はあってもそれほど詳しくない古代史ですから、
悲しいかな、半分も理解できないですね・・。

戦争の世界史 大図鑑2.jpg

次の章は「中世の戦争」です。
6~7世紀のビサンチン帝国(東ローマ帝国)の戦いでは、「ギリシャの火」という武器が。
石油化合物を使った爆発物ナパームの原型だそうで、
海上戦において、敵艦目掛けて噴霧するそうです。絵が良い感じ・・。

greekfire.jpg

まだまだフランク族のカール大帝(シャルルマーニュ)に、ヴァイキングの登場と、
ナチスドイツ・ファンであっても、武装SSの勉強になりますね。
さらにこの頃にはイスラム国家が成立し、ペルシャやエジプトを征服。
「コンスタティノープル包囲戦」などが紹介された後、
11世紀にはエルサレム奪還を目指す「十字軍」の戦いへと進みます。

第1回十字軍の「ドリュラエウムの戦い」では、士気をくじくために包囲された街中に
オスマン軍兵士の生首を投石器で打ち込んだ・・というのが、なんとも言えません。。
絵の生首がちょっとカワイイのが良くない。

ニカイア攻囲戦.jpg

そして13世紀にはチンギス・ハーンとその子孫たちによるモンゴルが大活躍。
西はロシアからポーランドまで遠征し、中東のバグダッドも陥落。
ドイツ人・ポーランド人らと対峙した「ワールシュタットの戦い」では、
モンゴル軍は戦勝記念品として倒れた敵の耳をそぎ落として集め、
首を槍に刺して掲げた・・と、その様子を描いた版画が掲載。
耳がザル一杯に溜まってますね・・。コレをどうするかは不明です。
フカヒレみたいな調理をイメージしてしまいますが・・。

ワールシュタットの戦い.jpg

東アジアの戦争では、チンギス・ハーンの孫、フビライが登場します。
中国へと攻め込み征服。いわゆる「元」ですか・・。
その後は「明」が台頭・・、あ~、子供の頃、もっとシッカリ勉強しとけば良かったなぁ。。
この時代に「万里の長城の西の果てに建設された要塞」の写真が出てきました。
コレは恐らく「山海関」だと思います。
ナゼ知っているかというと、ココに行ったことがあるからです・・。
ヴィトゲンシュタイン初の海外旅行は北京で、万里の長城見学がメインだったのでした。

戦争の世界史 大図鑑3.jpg

その他、アジアの戦いでは1177年、「アンコール・ワットの破壊」。
いよいよ日本も登場し、「源平合戦」と、源義経、武士の鎧が3ページで紹介。
武士の刀も2ページぶち抜きで迫力ありますねぇ。

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12世紀からのヨーロッパは、教皇、フランス、神聖ローマ帝国による三つ巴権力争い。
「ホーエンシュタウフェン家のフリードリヒⅠ世は赤い顎鬚を持つことから
バルバロッサ(赤髭王)として知られ、1152年に神聖ローマ皇帝に即位した」。
出ました。バルバロッサ。金箔貼りの頭部像でのご登場です。

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ブリテン島ではイングランドvsウェールズ、イングランドvsスコットランドが定番です。
もちろん「ブレイブハート」のウィリアム・ウォレスも・・・、あ~、また観たくなってきた。

braveheart.jpg

イングランドvsフランスの百年戦争ではエドワード黒太子とジャンヌ・ダルク
日本の武士の鎧に対して、「中世の甲冑」が詳しく解説されていました。
実際、チャンチャンバラバラ戦ったら、どっちが強いんでしょうね。
そんなSFアクション映画があってもよさそうなモンですけど。。

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「近代の戦争」は1492年~1750年が対象となっています。
最初はオスマン帝国の栄光と衰退。
16世紀のオスマン帝国の歩兵はマスケット銃を使って正確に射撃していたそうで、
銀メッキに彫刻も美しい銃と、剣・・。いやいや、近くで実物を見てみたくなりますね。

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そして戦争は遂に「アメリカ大陸」でも繰り広げられることになります。
それはスペインによるメキシコとペルーの征服。
わかりやすく言うと「アステカ帝国とインカ帝国の征服」です。
さらに北アメリカでは英国などが入植者として、先住民と戦います。
まだこの17世紀の時点では、今の米国人は存在しません。
米国人と言えるのはアメリカ・インディアンですね。

日本では「戦国時代」の真っ只中。
織田信長に徳川家康も紹介されつつ、1600年の「関ヶ原の戦い」、1615年の「大阪夏の陣」も。
序文にも書かれていますが、「アングロサクソンの視線」で書かれた本書ですから、
少し気にしつつ読みましたが、実は日本史もまったくダメなヴィトゲンシュタインですから、
まったく違和感ありませんでした。
ちなみに織田信長の紹介はこんな感じです。
「最初に天下統一の歩を進めた偉大な覇者」。

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ちょうど真ん中、180ページから「帝国と革命」。1750年~1914年まで。
フランス、オーストリア、ロシアvsプロイセンの対決、「七年戦争」です。
主役はプロイセン王、フリードリヒ2世、またの名はフリードリヒ大王です。
音楽の才能に恵まれ、絵画を愛好した教養人ですが、戦術の天才としての評判は
今尚、賛否両論があるそうですが、いずれにしてもヒトラーのアイドルであり、
ベルリン総統ブンカーの小さく質素な執務室に肖像画が掛けられていたほどです。

Friedrich der Große.jpg

アメリカ独立戦争も始まって、ヨーロッパではナポレオンが台頭します。
1812年6月4日にロシアへ侵攻。
しかし10月、ロシアは敗北を認めず、やむなくモスクワから撤退することに・・。
こうして1941年にロシアに侵攻したドイツ軍の将官たちも本を読んで恐れていた、
冬の悪夢のような撤退で多くの兵が飢えと寒さで野垂れ死にするのでした。
う~む。。コレはなにか本を読んでみたいですね~。

La Campagne de Russie menée par Napoléon en 1812.jpg

1860年のアメリカ南北戦争。
リンカーン大統領も紹介されていますが、今回、気になった人物は、
南部連合の軍司令官、ロバート・E・リーと、北軍最高司令官ユリシーズ・S・グラント、
そしてウィリアム・T・シャーマンです。もちろん、3人とも戦車の名前。。
スピルバーグの映画「リンカーン」見逃したんですよねぇ。

「帝国主義支配下の紛争」も興味深かったですね。
西欧列強は原料と資源を求めて、米国、オーストラリア、アフリカ、インドへ。
当然、先住民の抵抗を招きます。
1857年にはインドで大反乱が起こり、デリーを奪還した英国軍は、
反逆者を絞首刑に・・。こういう写真を見ると、ナチス・ドイツの先例にしか思えません。

戦争の世界史 大図鑑9.jpg

日本も明治維新から「西南戦争」、「戊辰戦争」、「日露戦争」と紹介。
最近、ここら辺にも興味あるんですね。靖国神社の「遊就館」で思いましたが、
第2次大戦の日本軍を理解するには、ここからやっていかないとダメな気がするんです。

まだまだ、以前から知りたいと思っていた「イタリアの統一」に、
「ドイツ帝国の誕生」、これは"鉄血宰相"ビスマルクに、普墺戦争と普仏戦争ですね。

戦争の世界史 大図鑑6.jpg

いよいよ最後の章、「世界大戦の時代」1914年~現在。
第一次大戦の「タンネンベルクの戦い」など、数々の戦役も勉強になりますが、
各国の手榴弾やガス砲弾、迫撃砲(ミーネンヴェルファー)といった、
はじめて見る兵器のカラー写真に思わず目が行ってしまいます。
ちなみに来年は2014年、第一次大戦勃発から100周年です。勉強しないとなぁ。。

戦争の世界史 大図鑑12.jpg

トルコではパシャが登場し、「ガリポリの戦い」。
ガリポリ・スターっていう勲章も凄いですね。
フジ出版社の「ガリポリ―第一次大戦における最大の勇気と最大の愚行」読むか・・。
おっと、著者はアラン・ムーアヘッドでしたか。。

Tuerkischer Eiserner Halbmond.jpg

大戦が終わると、「ロシア内戦」、「日本軍の中国侵攻」、「スペイン内戦」と続き、
ヒトラーの戦争が始まります。
「電撃戦」ではグデーリアンが紹介され、北アフリカではロンメルモントゴメリー
海戦も「ラプラタ沖海戦」に、「戦艦ビスマルクの撃沈」、
バルバロッサ作戦」から、モスクワレニングラードスターリングラードクルスク
コンパクトに重要な会戦が書かれていました。

戦争の世界史 大図鑑13.jpg

ドイツ爆撃」ではハンブルクドレスデンの空襲
英空軍爆撃機軍団を指揮したアーサー・ハリスのコメントも紹介します。
そして西部戦線はノルマンディ侵攻、アルンヘムの戦い、バルジの戦い、ラインラントの戦いと
史上最大の作戦」、「遠すぎた橋」、「バルジ大作戦」、「レマゲン鉄橋」といった
映画の題材が目白押し。。

太平洋戦争は「ベルリンの戦い」の後に、詳しく書かれます。
真珠湾攻撃から、シンガポールとフィリピンの戦いと日本の絶頂期。
次のミッドウェー海戦を読んでみると、この戦いの結果は、
東部戦線のクルスク戦より、スターリングラードと似ているような気がしました。

戦争の世界史 大図鑑10.jpg

第2次大戦後は「中国の内戦」です。
若い毛沢東の共産党・人民解放軍に大量の兵器が渡るのを恐れた国民党の蒋介石は
空軍に対し、自軍の部隊を爆撃するよう命じ、多数の自軍兵士を犠牲にした・・
とありますが、これはとんでもない話ですね。
ヨーロッパ戦線ではこんなムチャクチャな命令は聞いたことがありません。

次の「朝鮮戦争」も最近、気になっているヤツです。
南の国連軍は解任されたマッカーサーに代わってリッジウェイが・・。
ははぁ、あの「空挺」のリッジウェイがこんな役目を担っていたとは・・。
去年、ヒッソリと公開された「高地戦」という映画がとても評判が良いので、
ぜひ観ようと思っていたところです。

THE FRONT LINE 2011.jpg

ヴェトナム戦争、中東戦争、米国同時多発テロ事件。
フォークランド紛争に湾岸戦争、チェチェン紛争、ボスニア内戦、
アフガニスタン侵攻にイラク戦争で終了します。

ふ~・・、「大図鑑」の名に恥じぬ、ボリューム満点の巨大本でした。
オールカラーなのも良い理由のひとつですが、
大きな戦争は「有名なひとつの戦役」だけを紹介するのではなく、
戦争となった経緯と、前後の戦役、そしてその終焉にまでしっかりと言及しています。
通して読むと「戦争の世界史」ではなく、「世界は戦争の歴史によって成り立っている」
ということを改めて認識できました。

そして当然ですが、その戦争の勝者によって正当化され、世界史は語られるのであり、
敗者は野蛮人として這いつくばって生きるか、或いは、絶滅する運命のようです。。
アレクサンドロス大王にしろ、ナポレオンにしろ、チンギス・ハーンにしろ、
「英雄」として描かれることが多くとも、見方を変えれば
世界史に名を残す「侵略者」であるわけですね。









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決定版 世界の最強軍人FILE [世界の・・]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

白石 光 著の「決定版 世界の最強軍人FILE」を読破しました。

ここ2回、内容的に重いモノが続きましたが、
せっかくのGWですから、ちょっと軽めの本でお気楽にやってみましょう。
確か去年の夏ごろに本屋さんで見かけた本書は、表紙がパットン・・、
ということで気になっていました。
2年ほど前に出た254ページのソフトカバーで、定価は600円。
「5つ星式「最強ポイント」付き!」と書かれていますが、
表紙のパットンは、「ワシは3つ星で良いよ・・」とヘルメットで語っています。。
果たして、いかなる評価でしょうか?

決定版 世界の最強軍人FILE.jpg

まずは「最強」と銘打っているものの、「大きな活躍をした軍人」と解釈して欲しい旨と、
「5つ星評価」は、作戦等の局面でどのような貢献があったのかを
編集部が独自に評価したものであることが書かれていました。
ですから、表紙下のマルセイユは「アフリカ軍団の快進撃を空から支えた」として
★★★★の最強ポイントを貰っている・・ということです。

Jochen Marseille.jpg

最初は「空の最強軍人」のなかの「空のエース」。
File 1は、前人未到の352機撃墜男、エーリッヒ・ハルトマンです。
最強ポイントは文句なく★★★★★ですが、これは撃墜数という観点ではなく、
「ドイツ劣勢の東部戦線で空から味方を支え続け」たことでの評価ですね。
生没年月日と出身地、戦後も含めた最終階級も書かれ、
カラーのポートレートに白黒写真2枚、愛機のカラーイラストも掲載。
本文は愛称の「ブービ」から簡単な生い立ち、所属部隊に戦果、
そして終戦~戦後まで、コンパクトに書かれています。

erich-hartmann.jpg

続いてはマルセイユ、3番目は「ラバウルの魔王」西澤広義という方です。
★★★★ですが、日本人は全然知らないんですよ。。
次も日本人で「大空のサムライ」坂井三郎。この人は聞いたことありますね。
この後は米国人パイロットが3人続き、英国のダグラス・バーダー(ベイダー)
ソ連のイワン・コジェドブは62機のスコアを持つトップ・エースだそうですが、知らないなぁ・・。
イタリア人のルッキーニ、フランス人のグローンと初めて聞く名前が続きます。
この順番も星順やアルファベット順、国順でもなく、良くわかりませんね。

Ivan Kozhedub.jpg

16番目で夜間戦闘機エースのシュナウファーが登場。見事★★★★★です。
「B-29撃墜王」と紹介されるのは遠藤幸男ですが、乗機は「月光」。
日本の戦闘機もまったく無知なヴィトゲンシュタインですが、
夜戦の双発機なんですね。名前はカッコいい。。

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バルクホルンラルとドイツの大エースが出てきたかと思えば、
いきなり、「夜の魔女」リディア・リトヴャク(リトヴァク)が・・。
そして自由フランス軍のクロステルマンは、朝日ソノラマから「撃墜王」という
彼が書いた本が出ているので知っていました。コレ読んでみたいんですよね。

撃墜王.jpg

フィンランドのユーティライネンも★★★★★、
彼も「フィンランド空軍戦闘機隊」という本を書いてますね。
30番目で「空のエース」のトリを務めるのは、やっぱりルーデル大佐でした。
そして2人が紹介される「空のヒーロー」では、「星の王子様」こと、サン=テグジュペリです。
「前線勤務を熱望し、故国偵察中に戦死」として★★★の評価。
敵であるドイツ側も、できるなら彼とは遭遇したくないと考える者も多かった・・
という話もありました。
もう一人のヒーローは、★★★★ハンナ・ライチュです。

saint exupery.jpg

「空の指揮官」という括りの一発目は、★★★★★ガーランドです。
新装版「始まりと終わり ドイツ空軍の栄光―アドルフ・ガランド自伝」も
読まなきゃなりませんね!
続いて英国のダウディングに、"ボマー"・ハリス
「夜間爆撃に手腕を振るうが、"民間人殺戮"の批判も」として★★★です。
しかし思うんですが、確かに彼がドイツ本土無差別爆撃戦略を進めたにしても、
最終的にOKを出したのはチャーチルなど、トップの政治家なんですよね。
この後に、メルダースカムフーバーケッセルリンクとドイツ人が連発し、
米国のスパーツ、英国のテッダーとヨーロッパ連合軍の重鎮が登場して終了。

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「海の最強軍人」に入る前に、「ハリウッドの第二次大戦」として中休み。。
大好きな「グレン・ミラー物語」のジェームズ・スチュアートがB-24のパイロットとして
ドイツ本土爆撃に参加し、その後、第453爆撃航空群の作戦士官になったなど、
クラーク・ゲーブルも当時の軍服での写真付きで楽しめます。

BG_James_M_Stewart.jpg

その他、カーク・ダグラスの話に、チャールズ・ブロンソンはB-29の尾部機銃手として
太平洋戦争で25回出撃・・。う~ん、マンダム。。

Charles Bronson_mandom.jpg

「海のエース&ヒーロー」と一緒くたになった最初の人物は「JFK」。。
あの偉大な大統領ですが、真っ二つになった魚雷艇からサバイバルの末、生還した・・
という理由で★★★★★です。エースじゃなくてヒーローとしての評価ですか。
Uボート・エースとしてはギュンター・プリーンから。しかし★★★★かよ。。
でも「ロイヤル・オーク」を撃沈後、巡洋戦艦シャルンホルストに迎えられる写真は
初めて見ましたが、なかなか良いですね。

scharnhorst_and_u47.jpg

次のクレッチマーは★★★★★でした。まぁ当然ですね。
伊29の木梨鷹一艦長は空母ワスプを撃沈し、ロリアンでロケット戦闘機Me-163
資料を積んで、「秋水」開発のために日本を目指したという人物でした。
こういう人はとても気になりますね。

クレッチマーとシェプケを沈めたマッキンタイアは★★★★★。しょうがないですな。
アドミラル・シェア艦長のクランケ提督に、アトランティス艦長のロッゲ(ローゲ)提督が連発。
特にロッゲ提督はユダヤ系ドイツ人という厳しい状況でも
軍務に制約を受けることがなかったそうです。
この人、ドイツの提督で一番、ホンワカした顔しているので前から好きなんですよね。

Bernhard Rogge.jpg

「海の指揮官」は山本五十六が★★★★。
次のニミッツが★★★★★ですから、特に日本人を贔屓しているわけではないようです。
デーニッツ先生も★★★★★ですが、レーダー提督は★★★。
巨大戦艦ビスマルクと共に沈んだ艦隊司令リュッチェンスは、「意地を見せて」★★★★。
海軍のトリは、なぜかアプヴェーアのカナリス・・。まぁ、確かに提督ですけどね。。

Günter Lütjens.jpg

ここで再び、「ハリウッドの第二次大戦」のPart2です。
ロック・ハドソンにジョージ・C・スコット、チャールトン・ヘストン、ウィリアム・ホールデン、
アーネスト・ボーグナイン、ヘンリー・フォンダ、リー・マーヴィン・・と、
戦争映画でお馴染みの名優たちが当時、軍務に就いた話です。
ポール・ニューマンもグラマン・アベンジャー雷撃機の無線手兼機銃手として、
沖縄戦にも参加してたなんてのは初めて知りました。写真も可愛い。。

US Navy portrait of Paul Newman.jpg

最後の陸も「エース&ヒーロー」を一緒くたに紹介します。
まずは、★★★★ヴィットマン。コレは東部戦線での評価のようで、
次のカリウスは最高評価の★★★★★です。"泥まみれの虎"での評価ですが、
だったらヴィットマンも"ヴィレル・ボカージュ"で★★★★★にしてよ・・。
パイパー★★★★に、バルクマン★★★★★とドイツ装甲兵が頑張っています。

Ernst Barkmann.jpg

空挺部隊では、まず最初に英国のフロスト
この人は「遠すぎた橋」のアンソニー・ホプキンスです。
孤立して力尽きたこの戦いによって★★★★★。
次のポーランドのソサボフスキーは同じく、ジーン・ハックマンですね。
スコルツェニーも「最も危険な男」と云われるくらいですから、当然★★★★★。

john_frost.jpg

「指揮官」では、★★★★★のロンメル
そして表紙の★★★パットンはというと、しっかり★★★★★頂戴していました。
「緻密な計画で”砂漠の狐”に勝つ!」と紹介されてるわりには★★★のモンティ・・。
「解放の戦いを指導」という理由でドゴールが★★★★★っていうのはどうかなぁ。。
グデーリアンとジューコフが★★★★★で続くのは、まぁ、文句ありませんがね。
でもジューコフは賛否ありそう・・。

Zhukov_Eisenhower.jpg

ブラッドレーアイクマーシャルといった米国軍団も全員★★★★★。
ルントシュテット★★★★、マンシュタインは★★★★★、シュトゥーデント★★★★、
アラン・ブルック栗林忠道も★★★★★、マッカーサーが★★★★。
イタリアのグラツィアーニはたったの★・・。
★★っていうのは1人だけいましたが、コレは酷すぎる・・。
そもそもそんな評価の低い軍人がこの本に載ってて良いのか・・?

douglas-macarthur.jpg

「特殊部隊のヒーロー」には、「悪魔の旅団」のフレドリックが登場。
スコルツェニーの入る場所はココじゃないかなぁ?
そして大トリ、File 107は、ウィリアム・マーティン少佐★★★★★です。
あのヒトラーを騙した「ミンスミート作戦」の架空の人物(死体)ですね。
なかなか洒落が利いてますな。。

skorzeny and Girls.jpg

コンパクトながら、結構シッカリした一冊でした。
全員とも2ページの同じ扱いで、カラー写真も極力使用していました。
さすがにドイツの最強軍人はアレですが、てんで知らない日本の軍人、
その他、連合軍などのプロフィールは大変、勉強になりました。
この値段ならまったく文句はありませんし、自分と評価が違っていたとしても、
本気で目くじら立てることなく、「あぁ~ん?」とか、「おいおい・・」などと
突っ込みながら楽しむべきでしょう。

ドイツ軍に限定したい方なら、「ドイツ軍名将列伝」をお勧めしますが、
アチラは将軍のみでしたね。でも、とても重宝しています。

シリーズとして「世界の秘密兵器FILE」と、「世界の最強兵器FILE」も
あるようなので、気が向いたら読んでみるかも知れません。





















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世界軍歌全集 -歌詞で読むナショ​ナリズムとイデオロギーの時代- [世界の・・]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

辻田 真佐憲 著の「世界軍歌全集」を読破しました。

先日の「ニセドイツ〈2〉」のコメントでオススメいただいた本書は、
2011年の発刊、424ページという結構なボリュームで、
300曲がオリジナルの歌詞、翻訳、解説されているものです。
ソフトカバーながら表紙は重厚な雰囲気で、
世界軍歌・・といいながら真ん中上にはナチス・ドイツの「アドラー(鷲)」が・・、
と思いましたが、良く見ると、丸の中がハーケンクロイツじゃなくて、
ソ連の「ハンマーと鎌」になっていました。。
ということは、「軍歌独ソ戦」が中心となっているのでしょうか・・?

世界軍歌全集.jpg

「はじめに」ではこの軍歌の定義を分析し、愛国歌、国民歌、戦時歌謡、革命歌、
闘争歌、宣伝歌といったものも本書に含まれるとしています。
そして18世紀後半からのフランス革命、アメリカ独立戦争などを扱った、
第1章、「ナショナリズムの目覚め」へ・・。

1曲目はいきなり「ラ・マルセイエーズ」です。
以前にこのBlogでも紹介したことのある、超有名なフランス国歌ですが、
フランス革命当時に生まれた、その血なまぐさい歌詞でも良く知られています。
7番まである歌詞とその翻訳、さらには1ページに渡ってこの歌の歴史を紹介しており、
すでに単なる歌本ではない雰囲気ですね。
また、この誰でも知っている歌を1発目に持ってくるあたりは、掴みとしてOKでしょう。

la marseillaise.jpg

以降は興味深かった「軍歌」をいくつか紹介していきたいと思いますが、
まずはフランスで生まれた「インターナショナル」。
翻訳をちゃんと読んだのも初めてですが、ソ連の初代国歌して有名ですね。

ドイツ軍の伝統的な追悼歌、「我には一人の戦友がいた」は歌詞が良いですね。
ヒンデンブルク大統領も好み、フィンランド人SS部隊、フランス外人部隊などでも
替え歌として親しまれたそうです。2番からを・・。

飛び来る弾丸の狙いは我か、またお前か
弾丸は戦友を貫き、その身は足許に倒れた
片割れのごときお前が

戦友は手を伸ばすも、我は弾を込めるのみ
「手はやれぬぞ、安らかに眠れ。
我が良き戦友よ!」

german-infantry-attacking-at-the-battle-of-verdun-15th-of-march-1916.jpg

1944年の「バルジの戦い」、ドイツ軍で言う「ラインの護り作戦」の元となった
「ラインの護り」も登場した後は、「世界に冠たる我がドイツ」です。
これも現在3番がドイツ国歌になっていることで有名ですね。

国歌ということでは「神よ王を護りたまえ」、いわゆるGod save the Kingです。
現在はエリザベス女王ですから、God save the Queenであり、
ヴィトゲンシュタインはSex Pistolsの曲のどちらも歌えますが、
このオリジナルは3番まであったんですねぇ。

God save the Queen.jpg

「星条旗」はもちろんアメリカ国歌です。
コレも1番は歌えますが、4番まであったのか・・。
そして106ページには一番気になっていた「ロシアのウラー」が登場します。
コレは1837年、皇帝ニコライ1世がヴォロネジを訪れた際の民衆の様子・・
ということで、「ロシアの民は沸き立ちて叫び奉る。ウラー!」とか、
「ツァーリ一家の御前に兵士は雷の如く叫び奉る。ウラー!」という感じです。
どんな曲かと探してみましたが、残念ながら見つからず・・。残念。。
他には「英国軽竜騎兵」の作曲者がベートーヴェンという異色の英国軍歌も。。

Ура!.jpg

第2章は第1次大戦前後の軍歌です。
章の間には本書では取り上げていない日本の軍歌についての解説も。
この章でも1発目は有名なあの曲です。「希望と栄光の国」というタイトルだと
良くわかりませんが、Land of Hope and Glory、「威風堂々」と言えば、
英国第2の国歌とも云われる個人的に大好きな曲です。
やっぱり大好きな映画「ブラス!」のエンディングにも使われました。
歌はないですが、曲はこちら ↓




「全てに冠たるアイルランド」というのは、「世界に冠たる我がドイツ」の替え歌です。
アイルランドの独立闘争歌として英語の替え歌になっていて、
「Für das deutsche Vaterland」(祖国ドイツのために)のところは、
「For our Irish Fatherland」(祖国アイルランドのために)なっています。。

タイトルだけで笑えるのは「ブジョンヌイ行進曲」ですかねぇ。。
まぁ、ブジョンヌイが革命の際に第1騎兵軍を指揮したのは知っていましたが、
ヴォロシーロフを絡めた歌詞はこんな感じです。

兄と仰ぐはブジョンヌイ、全人民が我らと進む
下る命令は、地面を向くな、前を見据えよだ!
我らには最高の赤軍将校、ヴォロシーロフがついている
ソ連のため、我らは血戦に当らん!

Будённый Ворошилов.jpg

第3章は「イデオロギーの時代」。いや~、歌詞もアツくなりそうですね。
「コミンテルンの歌」、「赤軍騎兵隊歌」、「ボルシェヴィキ党歌」と続きますが、
ココではやっぱり1938年作の「スターリンの歌」が印象的です。

今やソヴィエト全土は
世界一太陽の輝く国となった
スターリン式の大収穫で
コルホーズの野は満たされる

この曲が作られたのは、まさに「大飢饉」後、「大粛清」の時ですからねぇ。。
グラーグ -ソ連集中収容所の歴史-」で気になっていた、
「ベリヤの歌」とか、「スターリンのバラード」は残念ながらありませんでした。

Kolkhoz Farmers! Make a Rich Harvest from the Plantations and Gardens!.jpg

対するナチスといえば、党歌「ホルスト・ヴェッセルの歌」の他にも、
最初の闘争歌である「ドイツよ目覚めよ!」や、「ヒトラー万歳」、「突撃隊は行進す」などなど。
「進め、進め!」は、「ヒトラー・ユーゲント旗の歌」というサブタイトルのとおりですが、
作詞は全国青年指導者のフォン・シーラッハその人です。

ユーゲント、ユーゲント! 僕らは明日の兵士
ユーゲント、ユーゲント! 来る使命の担い手だ
総統よ、僕らは貴方のもの
僕らは貴方の戦友なのです!

Hitlerjugend Recruiting Poster -Even You !-.jpg

個人的にも大好きな「パンツァーリート」、映画「バルジ大作戦」ですね。
「戦車の歌」とも訳されるこの名曲ですが、解説では、作詞されたのが1933年であり、
Ⅰ号戦車の生産が始まったのは1934年であることから、
「Panzer」は戦車のことではなく、「装甲兵の歌」だと推測しています。

panzer.jpg

ソ連では「カチューシャ」、ドイツでは「エリカ」など、娘さんの名前で知られた曲に、
リリー・マルレーン」も当然のように出てきます。
ドイツの軍歌には女性名を冠したものが実に多い・・として、
ローゼマリーやゾフィー、ヴェローニカ、モーニカ、イレーネなどを挙げていますが、
やっぱりイルザとか、オルガとか、イルゼといった悪女看守風はダメなんですね。。

lili marleen.jpg

「ホルスト・ヴェッセルの歌」は世界のファシストの替え歌にもなっていて、
オズワルド・モズレーの「英国ファシスト連合行進歌」に、
スペインのファランヘ党でも「青シャツ」というタイトルで使われています。

Falange.jpg

第4章は、いよいよ第2次大戦時の軍歌です。
急降下爆撃機シュトゥーカを題材にした軍歌も多かったようですが、
本書で取り上げているのはズバリ、「シュトゥーカの歌」です。

我らは空より急襲し、攻めかかる
地獄を恐れず、休みもしない
敵を平伏させるまでは
英国を、英国を、英国を屠り去るまでは
シュトゥーカ、シュトゥーカ、シュトゥーカ!

ju87-dive-bombers.jpg

「戦車はアフリカを驀進す!」と、「我らがロンメル」はアフリカ軍団歌。
「潜水艦の歌」はもちろん、Uボートですが、
「メルセデス・ベンツと共に進め」っていうのはちょっと変わっています。
ヒトラー専用車がベンツなのは有名ですが、
空軍や海軍にもエンジンを供給しているわけですね。
ですから、3番まであるこの軍歌は、

1番・・運転手よ、エンジンの響きが聴こえるか
2番・・航空兵よ、エンジンの響きが聴こえるか
3番・・水兵よ、エンジンの響きが聴こえるか

と、3軍の兵士たちをそれぞれ歌っているんですね。

A Sdkfz troop transport here being used by the Afrika Korps.jpg

「親衛隊は敵地へ進む」という、武装SSの軍歌。
実はコレも替え歌で、オリジナルは「コンドル軍団分列行進曲」です。
ついでにフランス語の替え歌、「悪魔の歌」になると、
フランス人SS師団「シャルルマーニュ」の歌になっています。
さらにデンマーク語ならデンマーク人SS義勇兵
ノルウェー語ならノルウェー人SS義勇兵。
言語と歌詞は若干違いますが、サビで「ハハハ・・」と笑うのがお約束です。

そして悪魔が嘲笑う
ハ、ハハハハハ!

Viking.jpg

「元帥よ、我らここにあり!」はなんと、ヴィシー政府のペタンを讃える歌・・。
と来れば、ドゴールの自由フランスの抵抗歌、「パルチザンの歌」も。

英語の歌なのにムッソリーニを題材にしたものもありました。
「統帥はびっくり仰天」です。
「あわれなムッソリーニ・・」で始まるドゥーチェをおちょっくったこの歌。

ああ、統帥は、統帥はびっくり仰天
ギリシャ人に勝てないなんて!
ああ、統帥はびっくり仰天
何週間もスパゲッティが喉を通らないってさ!

Italian fascist dictator Benito Mussolini leads his officers in a spirited run in full military regalia.jpg

以前に紹介したディズニーの反ナチス映画、「総統のお顔」まで出てきましたが、
おちょくりシリーズはフィンランドでも作られています。
1939年のソ連との冬戦争を題材にしたもので、
タイトルは「モロトフはダメだ」。。

Molotov Cocktail.jpg

まだまだドイツ軍の義勇兵となったスペインの「青師団の歌」。
クロアチアの「ウスタシャ行進曲」、
ユーゴの「チトー元帥と共に」、
カミンスキー旅団の「RONA 旅団行進歌」、
ウラソフ将軍の「ロシア解放軍の歌」、
と、その筋のマニアな方々も喜びそうなタイトルが並びます。

Ustasha Youth.jpg

1944年に新しく制定された「ソヴィエト連邦国歌」、
米国では「チビで汚いジャップを引っ叩きに行かなきゃ」に
「原爆が落ちたとき」。

最後の第5章は戦後の軍歌で、「ガガーリン行進曲」、
東ドイツのドイツ社会主義統一党の党歌は、
「党は、党は、党は常に正しい」
と、なかなか強烈です。

お終いは「金日成将軍の歌」に、
「我等の親善永遠なれ」という北方方面の曲、
「金正日、プーチン、プーチン、金正日」と連呼します。

Jong-il_Putin.jpg

予想していたより、とてもシッカリした一冊でした。
単に軍歌だけを掲載しているだけでなく、解説が勉強になります。
戦争の歴史だけでなく、その時代、各国の紛争やイデオロギーにまで言及し、
読み終えて、改めて本書の副題、「歌詞で読むナショ​ナリズムとイデオロギーの時代」
なるほどねぇ・・と感心しました。

おじいちゃんのように難しい文字を駆使する著者ですが、1984年生まれと若く、
西洋軍歌蒐集館」というWebサイトを運営しています。
実は以前にこちらのサイトでドイツ軍歌を物色したことがあるんですね。
ヒトラーとスターリン -死の抱擁の瞬間- 〈上〉」のコメントでもリンクを紹介していました。
そうですか、その節はお世話になりました。

ただし、本書に掲載されている軍歌すべてが「西洋軍歌蒐集館」にあって、
曲が聞けるわけではなく、その逆もまた然りです。
何度か手を止めて、気になった曲をWebで探してみましたが、
「ロシアのウラー」をはじめ、見つからなかったのが悔しいですね。
やっぱり読みながら、聴く・・のが楽しそうです。なにかCDでも買ってみようかな。
できれば、その国のお酒で一杯やりながら・・。









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図説 死刑全書 [世界の・・]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

マルタン・モネスティエ著の「図説 死刑全書」を読破しました。

先日の「女ユダたち」を読んで、本棚に仕舞いっぱなしだった本書にとうとうチャレンジしました。
購入したのは5年以上は前ですが、なんでこんな本を買ったのか、良く覚えてません。。
まぁ、「死刑」に興味があったのは間違いありませんが・・。
1996年発刊で405ページの本書を読むに当たって、第三帝国関連の記述がない限りは
記事としてUPするつもりはありませんでしたが、やっぱり・・というか、
所々で「ナチス・ドイツは・・」と紹介されてしまいましたので、
今回、本書の内容ほど「グロ」くならないように書いてみますが、
果たして、どうなることやら・・。

図説 死刑全書.jpg

「はじめに」では本書の目的を、多数出版されている「なぜ?」ではなく、
「どのように?」という疑問に答えようというものとしています。
例えば、斬首刑で使われた斧は、どのようにして剣にとって代わられたのか?
世界中に広まっていた十字架刑は、なぜ突然行われなくなったのか?

第1章は「動物刑」です。
文明の歴史と同じくらい古くから行われてきたという動物刑。
紀元前のエジプト人は、囚人にワニを襲わせていたという話からです。
インドでは象によって踏み潰され、スペイン人は何百人ものインカ人を犬に食い殺させます。
ローマの競技場でも、飢えさせられたライオンに虎、熊などあらゆる猛獣が囚人を襲ったそうで、
コレなどは映画「グラディエーター」のようなイメージですね。

Gladiator.jpg

「喉切りの刑」から「腹裂きの刑」と続き、ココでは日本の「切腹」についても触れていますが、
ペルシャでは切った腹から腸を全部巻き取ったり、生かしたまま内臓を摘出する・・というものです。
そしてこれらは180点余の版画などを掲載して具体的に理解できるようになっています。
「餓死刑」ではルーベンスの「ローマの慈愛」に似た版画も出てきました。

ローマの慈愛.jpg

「磔刑」はキリストの有名な十字磔が知られていますが、
「聖アンデレ十字」と呼ばれる、X十字による磔刑の版画がありました。
コレはスコットランドの国旗「セント・アンドリュース・クロス」のことなんですねぇ。
そしてナチス・ドイツがソ連でユダヤ人を磔にした・・という話も紹介されていました。
う~ん。。そんな話は聞いたことがないですけどね。。

murillo_martyrdom_of_st_andrew.jpg

続く「生き埋め」でも、ナチのいくつかの部隊はレジスタンスやパルチザンに対して、
恐ろしい見せしめとなるように生き埋めを行うことがあった・・としています。
銃殺したつもりがまだ生きていて、結果、生き埋めに・・ということならありそうですが、
埋めちゃったら、その場限りですし、たいした見せしめにならないと思います。
ユダヤ人を磔に・・にしても、そんな面倒くさいことを組織的にやったとは
あまり考えられませんね。

einsatz41.jpg

第10章はヴィトゲンシュタインが一番苦手なヤツ、「串刺し刑」です・・。
1917年に赤軍兵士たちによって串刺しにされたポーランドのロジンスキー将軍の写真が
いきなり1ページフルフルで出てきてビックリ・・。
まぁ、この写真でも、串刺しってドラキュラや串刺し公で知られるヴラド・ツェペシュの
有名な版画のようにお腹から背中に突き刺すのではなく、お尻からいくんですね。。

VladTepes.jpg

そういえば「最強の狙撃手」でも赤軍兵士はやってましたか。
中学生のときにビビって観に行けなかった「食人族」のポスターもそんな感じ。。

食人族.jpg

執行人は途中でお腹なんかを突き破ることなく、口に抜ける技術が必要とされ、
しかも先が尖ったものより、丸いもののほうが臓器を傷つけることなく、
数日かけて苦しめられる・・という・・・イタタ。。もうダメ・・。

Empalement.jpg

しかしココから「皮はぎ刑」と「切断刑」、「解体刑」、「切り裂き刑」と
かなりエグイ刑が容赦なく連発。。
「火刑」では有名なジャンヌ・ダルクの場合も詳しく解説します。
一般的には縛り付けて、足元から火をつけるこの処刑ですが、
クレーンみたいなシーソーを用いて吊るして焼き、苦痛を長引かせるため、
時々、火から引き上げたりという責め苦パターンもあったそうです。

Bûcher.jpg

「火刑」の次は「肉を焼く」です・・。もう、章タイトルがエグくて困りますねぇ。
2年ほど前に確か「ヒストリー・チャンネル」で観た「ペリロスの雄牛」の版画が・・。
古代ギリシャで真鍮で作った雄牛のお腹に人間を入れ、下から火を焚く・・という残酷なもの。
外から中は見えませんが、雄牛の口から叫び声が聞こえる仕組みとなっております。
その他、この章で紹介されるのは火刑とは違う、グリルのベッドで両面こんがり焼いたり、
油の中に放り込まれたり・・と、ロースト、グリル、フライといった洋食屋さんのような処刑です。。
そして最後には「ナチスは死体を焼却しただけでなく、生きている女性と新生児を度々、
炉の中に投げ込んだのである」。

Brazen bull.jpg

「ノコギリ引き」は、「串刺し刑」に匹敵するキッツい処刑方法です。
コレもお腹から真っ二つ・・というのは優しい方法で、
基本は逆さにして足を開かせ、お股から引いていきます。
そしておヘソを通り過ぎるまで意識を失わないそうで、あ~、も~、イテーな~。。
ですから、頭から引いてあげるのはすぐに死ぬので、まだ、良いほうなんですね。

「突き刺す」ではやはりTVで観た「悲しみの聖母」、「ニュルンベルクの処女」と
名の付いた棺が登場。
「四つ裂き」はヴィトゲンシュタインの好きな映画Best10にランクインする「ブレイブハート」で
最後にメル・ギブソンがやられてしまうヤツです。
日本では「八つ裂き」と言いますが、四肢を無理やりバラバラにするので「四つ裂き」。。
八つに裂くという刑は実際には無いようですね。

Virgin of Nuremberg.jpg

中盤からは写真も多くなってきます。
主に1900年代、そして現在でも続いている絞首刑に斬首刑、鞭打ち刑などの写真ですが、
結構、デカイ生首写真なんかが予告もなく出てくるので「うおっ・・」となりました。
しかもほとんど電車のなかで読んでいましたから、隣に座ってるおばちゃんや
前に立ってる女子高生に見られないよう、身体をよじったり・・と気を使って大変。。

そしていよいよ「ギロチン」が・・。
先日の「女ユダたち」でナチス・ドイツの処刑の話から本書を読むことになってしまったわけですが、
本書で一番印象に残ったのは、ヨハン・ライヒハルトという人物です。
彼は第三帝国の「死刑執行人」として、3,165人を処刑したという世界記録保持者です。
基本的には「ギロチン」専門で、あの「白バラ」のショル兄妹も彼の手にかかったんでしょう。
ヒトラー暗殺未遂事件でのピアノ線を使ったと云われる絞首刑もそうかも知れません。

Johann Reichhart.jpg

しかし、本書をここまで読み進めていればわかるように
ライヒハルトが残酷な人間・・というわけではなく、18世紀から続く執行役人の家系の最後の
処刑人という必要不可欠で重要な仕事に就いていただけで、彼がフライスラーと手を組み、
フランス革命のギロチン王、シャルル=アンリ・サンソンの持つ、2700人の記録を
破ろうとしていたなんてことではありません。

死刑執行人は、特に19世紀以降、より人道的に苦しませないように処刑せねばならず、
手際の良く、確実な処刑を行なえるプロフェッショナルが求められます。
それはある意味「職人技」であり、戦後、ライヒハルト自身も「死刑執行人の義務を果たしただけ」
ということで無罪となって、彼はニュルンベルク裁判でも、カイテルヨードル
戦犯を絞首刑にした連合軍の死刑執行人であるウッズ曹長のお手伝いもしたというほどです。

Nazi guillotine.jpg

また、切断された頭部がいつまで意識を持っているのか・・?
についても数ページに渡って、様々な実験の報告などを紹介しながら検証しています。
本書の後半はナチスの大量虐殺にも言及した「ガス室」、
そして「電気椅子」、「薬物注射」といった現在の米国で見られる処刑と続きます。

ただ「銃殺刑」では本書で唯一、感動的な処刑がありました。
ヴィシー政府の内務大臣で、首相のラヴァルと共に死刑となったピエール・ピュシュー。
彼は自分で銃殺隊を指揮する許可を与えられ、銃殺隊長は隊員をひとりずつ紹介。
ピュシューは隊員たちに語りかけます。「諸君はこの政治的殺人には関係がない」。
そして右腕を真っ直ぐに上げ、「構え!」・・・「撃て!」
ピュシューが腕を組んだまま倒れると、兵士たちは泣いた・・。

Pierre Pucheu.jpg

日本でも死刑が廃止にならないのは「犯罪抑止力」の効果のためと言われていますが、
本書のさまざまな死刑も、根本的には同様のような気もします。
犯した罪の種類によって方法が違ったり、数万人という多くの見物人を集めた公開処刑や
四つ裂き刑という惨いものも、死刑の恐ろしさを知らしめる効果でもある気がします。
もちろん、自白目的の拷問を兼ねた処刑という別の形もありますが・・。

2002年に551ページの「完全版」というのも出ていました。
150ページ増量で図版も100点ほど多いようですが、どこら辺が「完全版」なのか・・?
本書に載せられなかったほどのエグい処刑や図版が掲載されているのかは不明ですが、
今回、万が一、興味を持たれた方がいるなら、そちらのほうが良いかも知れません。。











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