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英国王女を救え [戦争小説]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

スチュアート・ホワイト著の「英国王女を救え」を読破しました。

1989年発刊で475ページの本書は、なんらかの拍子に偶然見つけてしまった小説です。
舞台はフランスが降伏し、今まさに「バトル・オブ・ブリテン」が始まろうという
1940年夏の英国とドイツであり、「SS-GB」のようなパラレルワールドではありません。
そこでSSのハイドリヒが考えついた作戦は、「英国王のスピーチ」こと
ジョージ6世の2人の娘を誘拐し、英国を屈服させようというものです。
この娘の1人はもちろん今のエリザベス女王ですね。
いくら小説でも首尾よく作戦完了なんて、あまりにも現実味がありませんから、
英首相チャーチルの誘拐をテーマとした「鷲は舞い降りた」くらいの力量がないと
「トンデモ小説」に分類されてしまう恐れがあります。。

英国王女を救え.jpg

1940年5月、ダンケルクに追い詰められた英国大陸派遣軍の様子から始まります。
6人の偵察隊の前に「降伏したい」と姿を現すドイツ軍将校がひとり。
第2装甲師団に所属するハンス・カイラー大佐です。
林のなかに死んだ部下がいる・・と何人かをそちらに向かわせたスキに、
見張りの一等兵をあっさりと殺し、武器を奪って残りの5人も片づけてしまいます。
実は彼はSD(SS保安部)のスパイであり、本名はウーヴェ・アイルダース。
殺した中尉の軍服を奪い、海上からの脱出を待つ数万人の英軍兵に紛れ込んで
英国本土上陸を果たすのでした。

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上官であるSDの親玉、ラインハルト・ハイドリヒが立てた計画は、
数週間前にベルギーのエーベン・エメール要塞を攻略した実績のある、
クルト・シュトゥーデント将軍降下猟兵グライダーによって
14歳のエリザベスと10歳のマーガレットという2人の王女を誘拐し、
何も知らないヒトラーの前に「戦利品」としてプレゼントして取り入り、
英国が講和に応じた暁には、威張りくさっているルドルフ・ヘスの代わりに
総統代理の地位を奪取しようというものです。

Fallschirmjager.jpg

国王の誘拐は英国民にとって打撃があまりにも強すぎるし、
チャーチルを誘拐したところで、伝統ある議会はすぐに後任の首相を任命する・・、
2人のリトル・プリンセスがドイツからラジオで講和を訴え、
父親のジョージ6世の代わりに、兄のウィンザー公を再び王位につけて
友好的な新政府をつくろうというところまで考えているハイドリヒ。

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ウィンザー公の友人であり、ドイツ側へ協力をしているブラッキントン侯爵と接触する
オランダ船員に変装した27歳のアイルダース。
彼の任務は、大嫌いな英国人で貴族でホモであるブラッキントン侯から
リトル・プリンセスの居場所に関する情報などを引き出すことで、
13歳から数年間、ロンドンの孤児院で過ごし、英語は堪能ですが、
英国人に対して異常なまでの嫌悪感を持っているのでした。

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その時ドイツでは、SDのライバルである国防軍防諜部(アプヴェーア)のカナリス提督
このハイドリヒの作戦を嗅ぎつけます。
ケチで有名な夫人のリナ・ハイドリヒに対するジョークを交えながら、
いつか総統が引退したら、ハイドリヒが後継者になるということを憂慮・・。
早速、この件をヒトラーにチクリに向かうのでした。

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こうして必要以上に英国の敵意を煽りたくないと考えていたヒトラーに呼び出され、
口から泡を飛ばして喚き散らす総統の姿に縮み上がるハイドリヒ。。
「お前が送り込んだスパイを呼び戻すんだ。ただちにだ!」

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作戦中止、緊急帰国の連絡を受けたアイルダースは憤慨します。
旧友であるハイドリヒのガッツはどこへ行ったんだ? と、
もはやグライダーも、王女を連れ去る戦闘機も来ないことを悟った彼は、
王女を暗殺し、憎き英国人を悲観に暮れさせてやろうと決断します。
ブラッキントンからバッキンガム宮殿の平面図を奪い、メイドにも手をかけ、
逃亡するアイルダース。

この想定外の事態にヒトラーとチャーチルの電話会談が実現します。
「SSの脱走者でドイツ人らしくない狂気に陥ったその男は、王女の暗殺を企てている」。
不撓不屈の通訳官シュミットが話を繰り返します。
そしてアプヴェーアのウルリッヒ・フォン・デア・オステン大佐を派遣して
捜査協力を提案するのでした。。

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ウルリッヒ・フォン・デア・オステンと共に捜査を行うのは
スコットランドヤード(ロンドン警視庁)のハリー・ジョーンズ警視です。
しかし彼はつい先日、ノルウェー戦で一人息子をナルヴィクで失ったばかり。。
ドイツ人対する憎しみでいっぱいのジョーンズは
「いまいましいゲシュタポ野郎」と組むという命令に気絶寸前です。
「警視、私は防諜部の人間で、ゲシュタポじゃありませんよ」と
否定するウルリッヒにジョーンズは肩をすくめます。
「失礼・・、それじゃ、ナチと言おう」。

王女が滞在している場所はウィンザー城。
要塞であり、この城にいる限りはリトル・プリンセスたちは安全です。
しかし各国大使たちを招いたバッキンガム宮殿でのレセプションには
彼女たちも出席することをドモリの父王は決定します。

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一方、パブでティリーという名の女性をナンパすることに成功した美男のアイルダース。
まんまと彼女の部屋へと転がり込み、警察の追及の手から逃れます。
最近、ポール・ニューマンの「ハスラー」を久しぶりに観たばかりなので、
なんか同じようなシーンだな~と思ったり。。

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しかし新聞に手配写真が掲載されると、彼に惚れて面倒を見てくれたティリーも
邪魔者として殺されます。
この殺人鬼のアイルダースはサディストでもあり、嫁さんにも暴力を振るい、
片目と脊髄を損傷させ、車椅子生活にさせたうえ、離婚。
その嫁さんを以前から愛し、介護していたのはウルリッヒであり、
彼にとってアルダースを殺すことは個人的な復讐でもあるのです。

やがてベルンハルト作戦の偽札を持たされていたアイルダースは偽札所持で逮捕。
護送車から逃亡し、ウルリッヒたちの追跡もかわします。
ドイツ軍将校と英国人警視の関係も、時間が経つごとに信頼感が芽生え、
着任したばかりの南米の若い大使に変装して、バッキンガム宮殿に向かい、
国王、王妃に続き、エリザベス王女も「おはよう、大使閣下」。
そしてお辞儀をして、その小さい手を握る殺人鬼アイルダース・・。

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と、まあ、いろいろな要素があった本書ですが、個人的にはまあまあでした。
興味深かったのは、首尾よくアイルダースを捕えた後のウルリッヒの運命を
ジョーンズと語り合うところですね。
ロンドン中をこれだけ敵の防諜部員に見せておいて、そのままドイツに帰すのか??
ウルリッヒは、最後にはジョーンズが自分を殺すのかも・・と思っていますし、
良くても戦争が終わるまで刑務所送りか、マン島へ島流しです。

チャーチルから直々に警視総監にも命令できる権限が書かれた書類を受け取り、
言うことを聞かない相手に見せる・・というのは、
鷲は舞い降りた」であったヒムラーの・・というのを思い出しましたが、
重要人物の暗殺を阻止するという展開は、「鷲は舞い降りた」というよりも、
ドゴール暗殺を目論むフォーサイスの「ジャッカルの日」に近いですかね。
それでも逃げるまでの緻密な計画を立てていたプロのジャッカルに対して、
本書の暗殺者は単なるサディストなので、そのあたりが・・。

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しかし時代と舞台を移して、北○○の工作員が日本へ潜入し、
愛○さまとか、○○宮の佳○さまを誘拐するなんてストーリーは、
日本の出版業界では許されないんでしょうね。

戦争小説ということではちょっと話はそれますが、
このBlogの読者さんで、度々、コメントしていただくリントさんが、
「弾道」という小説を発表されました。
昨年、原稿?? を読ませていただきましたが、面白かったですねぇ。
小説『弾道』の全て」というBlogも開設されました。
ソ連赤軍の若い女性狙撃手と、グロース・ドイチュランドの凄腕狙撃手との戦いと
運命を描いたもので、実在した伝説のスナイパー、シモ・ヘイヘ
リュドミラ・パヴリチェンコも登場。
amazonの電子書籍、Kindle版でダウンロードが可能となっております。
100円と格安ですから、興味のある方は是非ど~ぞ!









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爆撃機 [戦争小説]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

レン・デイトン著の「爆撃機」を読破しました。

ここのところ、「戦闘機」、「SS-GB」と著者デイトンの本を楽しんできましたが、
4年前に買っていたハードカバーの上下2段組、569ページの「戦争小説巨編」に挑んでみました。
四発爆撃機小説としては、去年に「戦う翼」という映画化もされた小説を紹介していますが、
あちらが米軍のB-17"フライング・フォートレス"の話だったのに対して、
英国人の書く本書は、当然、アブロ・ランカスター爆撃機が主役です。
しかし、訳者あとがきを先に読んでみると、英独あわせて100人もの人物が登場し、
メインの主人公もおらず、これだけのボリュームなのに、たった24時間の話・・という、
なんとなく「いちばん長い日」、つまり「史上最大の作戦」のドイツ無差別爆撃版といった趣です。

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まず登場するのは英国に基地を持つ、爆撃機の飛行小隊の面々です。
小隊長は若干22歳のスイート大尉。
そして4つ年上のランバートは軍曹ですが、部下たちの人気を得ようとやっきのスイートに対して、
ドイツの都市を爆撃することを公然と嫌だと語るランバートが主役の雰囲気です。
毎度小説を読む時はその顔をイメージするヴィトゲンシュタインは、
今回その名前から、現在アストン・ヴィラの監督を務め、1995年にヨーロッパ・チャンピオンに輝いた
ドルトムントでセンターハーフだったスコットランド人、ポール・ランバートをイメージして読み進めます。

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「1943年6月31日夜のドイツ空襲に参加したある英空軍爆撃機の最後の飛行をめぐる出来事」
というのが原書の副題になっているそうですが、この存在しない架空の日の目標に選ばれたのは
やはり架空の町であるルール地方のクレフェルトです。
一方、ドイツ側ではその架空の町クレフェルトの西に位置するオランダ国境に近い
人口5千人の田舎町アルトガルテンの様子。
46歳のアウグスト・バッハ家の朝、旦那様と10歳の息子の朝食を作る
22歳のアンナ=イルザの姿があります。
彼女は「RAD/wJ」、すなわち女子勤労奉仕隊の制服隊員であるわけですが、
「わたし旦那様が好きです」と告白してしまうと、空襲で妻を失っていたバッハも
「あんたが好きだよ。わしと結婚しておくれ」となって、すぐさまベッドへ直行。。
アンナ=イルザは可愛らしくて、ヒロインの雰囲気ですね。

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また、オランダにあるドイツ空軍夜間戦闘機の基地では、
金髪で背が高く、優雅な身のこなしの男爵フォン・レーヴェンヘルツ中尉が登場。
確認戦果28機で、いつ騎士十字章を受章してもおかしくない夜戦エースです。
こういう人物はどうしても「プリンツ・ヴィトゲンシュタイン」を想像してしまいますね。

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大きく以上の3つが舞台となって、24時間の物語が入れ代わり立ち代わり進みます。
7人乗りのランカスター爆撃機の小隊の基地にある全16機が出撃準備に入り、
小隊長のスイートはランバートの腕利き搭乗員を自機に引き抜こうと画策。

レーヴェンヘルツは部下が手に入れたダッハウ強制収容所で行われている
ドイツ空軍医務局のジークムント・ラシャー博士の悪名高い「実験」の報告書を目の前にして、
彼の信念を揺るがせるほどの衝撃を受けます。

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その頃、爆撃機基地では最終ブリーフィングが。
爆撃機700機を投入する大作戦であり、ランカスターの他、ウエリントン、ハリファックス、
スターリングといった各爆撃機も参加することに古強者たちは歓声をあげます。
これはランカスターの喪失率5.4%に対して、旧式のスターリングは
低い上昇限度でのろのろ飛ぶことから、その喪失率は12.9%という甚大なものであり、
対空砲火の矛先がそちらに向かってくれることを知っているからです。

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オランダにあるドイツ軍のレーダー基地では、その巨大なフライヤ・レーダーのアンテナが
英爆撃機が飛び立ったことを早くも探知。
そしてその基地の指令は、「旦那様が好きです」ことアウグスト・バッハ中尉です。
このレーダーの役割については細かく書かれていて、広い範囲をカバーするフライヤ以外にも
ヴュルツブルクという2基のレーダーがあって、1基は味方夜間戦闘機の位置を捉え、
もう1基は英爆撃機の進路を1機ずつ捉える・・というものです。

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すぐさま夜間戦闘機の基地に迎撃要請が伝えられ、3人乗りのJu-88に乗り込むレーヴェンヘルツ。
ちなみに彼の乗機の名は「猫1号」です。。
同乗するレーダー員と観測員の仕事も詳しく書かれた夜間戦闘機の戦闘方法っていうのは、
大変珍しいと思いますね。真っ暗な中、計器を頼りに受け持ちの空域を旋回しながら待機し、
レーダー基地からの指示によって、敵爆撃機が飛ぶ方向へ誘導され、
近づいてきたら自機のレーダーによってさらに接近。
最終的には目視で巨大な四発重爆の姿を捉えるのです。

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海峡を渡ろうとする爆撃機の方でも、それぞれ1機ごとに名前があり、
オレンジのO、シュガーのS、ラブのL、ゼブラのZというのが正式名称ですが、愛称があります。
ランバートのランカスターは何度も傷ついて、修理を重ねた機であることから「がたぴしドア」、
スイート大尉は「スイートのS」、そして「フォルクスワーゲン」に「ジョー・フォー・キング」。。
特に「ジョー」というのはヨシフ・スターリンのことですから、「スターリンを王に」という
基地司令の大佐からも目を付けられている危険な爆撃機なのでした。

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やがて「フォルクスワーゲン」の背後に迫った「猫1号」。
20㎜機関砲180発が「フォルクスワーゲン」の下腹に吸い込まれます。
「脚をやられた!ああ、母さん母さん母さん!」と叫ぶフレミング機長。
爆発によって無傷のまま暗闇に放り出される無線手。ですがパラシュートは抜き・・。
しかし、たった3機の夜間戦闘機が、700機の重爆全てに同じ目を合わせられるハズもありません。

Wireless_Operator.JPG

アルトガルテンでは空襲警報が鳴り、クリスマス・ツリーのように美しい照明弾を眺めるアンナ。
本来、もっと東の町クレフェルトを狙った照明弾が街の片隅に、誤って落ちてきたのです。
爆撃機隊員たちは、あとで恥をかかなくて済む程度に、出来るだけ早く爆弾を投下したがります。
そうすれば少し先のルール地区の高射砲とサーチライトの密集陣を横目に旋回して、
無事、帰路につくことができるからです。

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こうして目標ではない田舎町アルトガルテンに爆弾の雨が降り注ぎます。
子守の少年と共に、貴重品の詰まった頑丈な地下壕へ逃げたアンナ=イルザ・・。
しかし建物が崩れて、出口は塞がれてしまうのでした。

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第1波に続いて、第2波が襲ってくると、住人だけではなく消防隊員たちですら、
精神と肉体の限界を超えた精神症に侵されていきます。
現れた白髪の老人は「頼むから、わしを死なせてくれ」と訴えますが、
上級小隊長のボドは「黙れ、死ぬ時が来たら、俺がそう言ってやる!」と一喝。
すると老人は第1次大戦時の軍隊口調で答えます。
「はっ、わかりました。少尉殿」。

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人望のないスイート大尉の「スイートのS」もやられます。
なんとか体勢を整えようと奮闘するスイート機長ですが、部下たちは勝手に脱出を始めたりと
機内は混乱状態に。。やがてスイートはアルトガルテンに墜落するのでした。

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ようやくアンナ=イルザの埋まった地下壕に救援が辿り着きます。
「わたしきっとバッハさまの良い奥さんになってみせますわ」と喜ぶ彼女。
そのとき、頭上の爆発延期装置付きの600ポンド爆弾が爆発。
彼女の体の一部でさえ、発見されないほど、木端微塵に・・。
う~ん。彼女は生き残るかなぁ・・?と思ってましたが、デイトンはやっぱり容赦ありません。。

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88㎜高射砲の射程外の高さを飛び、帰路についたランバートの「がたぴしドア」には、
夜戦エース男爵操る「猫1号」が迫ります。
その時、ドイツ海軍の放った105㎜高射砲弾が炸裂。
双方の機に重傷を負わせたこの1発により、3名の死者を出した「がたぴしドア」は
海峡を越えて英国の基地をなんとか目指します。
そして味方の高射砲の破片が腹に食い込んだレーヴェンヘルツも部下に脱出を命じ・・。

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1979年発刊の大ボリュームの一冊でしたが、英独双方に良い人間もいれば、
ムカつく人間もいて、それらに関係なく死んでしまう小説です。
例えば、第12SS「ヒトラー・ユーゲント」の編成のために東部戦線からやってきた
ライプシュタンダルテの将校は、一時避難した地下壕から貴重品を持ち去ろうとしたところを
アンナ=イルザに邪魔されると、顔面に1発お見舞いし、彼女は前歯が吹き飛びます。
そしてそんな腹立たしいSS将校には、対ソ戦で生き延びてきた術があり、
街を襲う爆撃なんてどこ吹く風とばかりに、サイドカーで走り去っていくのです。

今回イメージしたポール・ランバートがルール地方のドルトムントで活躍したというのも
なにかの因縁のようにも感じましたし、
戦争という大きなうねりの中では善も悪もなく、人間は、ただ悲惨な死に巻き込まれているだけ・・、
というようなことを改めて感じさせる一冊でした。



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SS‐GB [戦争小説]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

レン・デイトン著の「SS‐GB」を再度、読破しました。

1940年のバトル・オブ・ブリテンのノンフィクション「戦闘機 -英独航空決戦-」を読んだ勢いで、
同じレン・デイトンの本書を20年ぶりに再読です。
本書はナチス・ドイツが英国に勝利していたら・・という、いわゆる「パラレルワールド小説」で、
同じようなものでは2年以上前にロバート・ハリスの「ファーザーランド」も紹介しています。
当時はスパイ小説家デイトンの本ということで読んでいたんですが、
今回はもちろん「独破戦線」的視点での再読で、訳者あとがきをまず読んでみると、
タイトルの「SS」は親衛隊であるのは当然ですが、「GB」はグレート・ブリテンではなく、
「グロース・ブリタニアン」と、ドイツ語読み。。
なので、この「英国本土駐留親衛隊」と訳される本書は、
「エスエス・ジービー」じゃなくて、「エスエス・ゲーベー」と発音するようです。。

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1987年発刊で上下巻あわせて619ページの文庫を本棚から引っ張り出しましたが、
原著は1978年で、日本では1980年にハードカバー、389ページで発刊されています。
今でこそ良く見かけますが、上下巻を並べるとひとつの絵になるっていうのは
格好良いですね。当時、ちょっと感動した記憶があります。
洋書でも、この「SS‐GB」をイメージしたデザインの表紙がいろいろあってまた楽しい。。

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1941年2月、英国とドイツで調印された「降伏文書」から始まります。
そしてその年の11月に発生した殺人事件の捜査を開始する主人公のダグラス・アーチャー。
彼はロンドン警視庁、スパイ小説風に書くと「スコットランド・ヤード」の敏腕警視です。
しかし、すでにドイツによって占領された英国ですから、警察庁長官はドイツ人。
気の良さそうな風貌のSS中将のケラーマンです。

例の殺人事件の捜査を進めるうち、ドイツ本国からSD(親衛隊保安部)大佐が派遣されることに・・。
SSの制服も着ずに、アーチャーらにも友好的なケラーマンSS中将に対して、
35歳のSD大佐フートは、パリッと着込んだSSの制服の袖には「RFSS」のカフタイトル。
これはお馴染み「ライヒスフューラー・SS」という
親衛隊全国指導者ヒムラー直属であることを物語っています。
いつも小説を読むときには登場人物の顔をイメージして読むんですが、
今回はフートという名前から、イングランドのストークでプレーするドイツ人CB、
ロベルト・フートをイメージして読み進めます。
日本でこんな使われ方されるのを知ってか知らずか、ドクロTシャツがお見事。。

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英国がどのようにしてドイツに屈服したのか・・?
「バトル・オブ・ブリテン」で敗北したのか、本土上陸の「あしか作戦」が実現したのかは
不明なまま、話は進んでいきますが、主人公との会話の中で、徐々に明らかになっていきます。
例えば「英国王のスピーチ」こと、ジョージ6世はロンドン塔に幽閉。

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当時、周りからの反対の声を無視して、英国空軍の軍服を着ていたチャーチル首相
ドイツ空軍の軍事法廷で裁かれる羽目となり、ヒトラーの命令によって銃殺。。
目隠しを断り、「Vサイン」を掲げて執行された・・という噂も・・。

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そしてレジスタンス組織による「国王奪還計画」を教えられるアーチャーですが、
ドイツ国防軍は、これには反対の姿勢を取らないことも知らされます。
すなわちこの1941年という時代、「SS」はまだ発展途上の組織であり、
前年のフランス占領でもそうだったように、国防軍とSSとの権力争いがあるわけですね。

貴族の多い国防軍と陸軍参謀本部からしてみれば、英国王を保護しているのが
自分たちではないことは、名誉に関わることであり、面白くありません。
もし、レジスタンスによって成功すれば、責任者のケラーマンはお払い箱、
さらに成り上がり者のSSの信用が失墜することも望んでいるわけです。

う~ん。なるほどねぇ。こりゃ、ナチス・ドイツに詳しくなかった20年前の小僧では
とても理解できない展開ですね。

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下巻に入ると、レジスタンス側の大物である元英国軍防諜部の大佐であるメーヒューが、
ドイツ軍防諜部(アプヴェーア)のカナリスの幕僚で、徹底した反ナチの少将フォン・ルッフと対談。
アーチャーは自分の捜査する殺人事件が、原爆研究に絡んだものであり、
イングランド南西部デヴォンの研究施設をドイツが接収し、核を生産しようとしていることも知ります。
そして殺人事件捜査のボスであるフートも、核研究を国防軍からSSのモノにするという
任務を背負っているのです。

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気の良い"おやじ"ケラーマン長官、厳格な直属のボス、フートも、お互いを嫌い合う関係。
刑事として最高の能力を持つアーチャーを自分の味方に引き入れようと、脅したり、なだめたり・・。
さらにレジスタンスとも協力するアーチャーは、3方向に良い顔を見せていなければなりません。

爆撃で妻を亡くしたアーチャーには息子がいますが、
「パパはゲシュタポの手先なの?」と聞かれる始末。。
しかし子供たちの学校ではナチス・コレクションが流行っていて、
どうにか友達の誰も持っていない「SD」のバッチを手に入れられないか・・とせがむのでした。。。

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こういうマニアックな話では、途中で登場する酔っ払ったドイツ軍兵士も面白かったですね。
彼が胸に付けている勲章は「英本土戦闘従軍章」です。
ドーヴァー海峡を渡った敵前上陸の第一波で負傷し、しかもそれが「金章」であることを自慢します。
もちろん、こんな勲章は存在しませんが、「あしか作戦」が成功していたら間違いない話でしょう。

ロンドンにはソ連関係者もいたりします。
特に記述はありませんが、英国が降伏したので「バルバロッサ」は発動されておらず、
独ソ不可侵条約が守られたままの友好国なんですね。
そして亡命先のロンドンで葬られているカール・マルクスの遺体を掘り起こし、
レーニン廟へと運ぶため、リッベントロップ外相モロトフ首相立会いの下、
ゲッベルスの手による大々的な催しがハイゲート墓地で始まりますが、その時、爆弾が爆発。
PK(宣伝中隊)映画撮影班と、「ホルスト・ヴェッセルの歌」を新作の歌詞で合唱する
任務を与えられていた赤軍合唱隊の兵士たちがばらばらに・・。

スターリンが首相になったのは「バルバロッサ」直前の独ソ緊張状態の最中ですから、
このモロトフ首相兼外相というのも正しいと思います。
また、ヒトラーやスターリンが出席しないのもリアルな感じがしますし、
そもそも本書に2人の独裁者は登場しません。

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このテロ事件によってロンドン市民は片っ端から検挙されます。
ロンドン西部地区の拘禁センターとなったのは「ウェンブリー・スタジアム」。
東部地区なら「ロイヤル・アルバート・ホール」が逮捕された人々の連行場所です。
ヴィトゲンシュタインがロンドンに行ったとき、「ウェンブリー・スタジアム」の取り壊しが決まっていて、
一度その姿を見ておきたかったんですが、時間が無くて・・。いまだに後悔しています。
「ロイヤル・アルバート・ホール」といえば、大好きな映画「ブラス!」ですね。
コレ書き終わったら、クイーンの「ライヴ・アット・ウェンブリー・スタジアム」のどっちか観ますか。。

queen live at wembley stadium_Brassed Off.jpg

敵か味方かわからないフートは、珍しく酔っ払って「長いナイフの夜」において、
レームに次ぐ大物SA隊長、カール・エルンストを逮捕した過去も語り、
スパイのような米国人女性ジャーナリスト、バーバラと恋に落ちるアーチャーも
逮捕された友人の刑事部長ハリーを救出に向かう最中、
「魚とじゃがいもを揚げたのだって?」と異常なまでに惹かれ、揉め事まで起こします。
この食料が配給制となっているロンドンのジャンクフードにまつわる話が8ページも続くと、
「あ~、フィッシュ・アンド・チップスか・・」と納得。。まぁ、ちょっと古い本ですからねぇ。
ちなみにヴィトゲンシュタインはイングランドとスコットランドに滞在した10数日間で
フィッシュ・アンド・チップスを食べなかった日はありません。

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英国王を救出した暁には米国に連れ出そう・・という計画が立てられるものの、
ルーズヴェルト大統領にとっては「お荷物」にしかならない。
国王にホワイトハウスの一室を与えるのか? 宮殿を建ててやらねばならないのか?
といった情報も米国からもたらされます。
もはや偉大な英国王の価値は「原爆データ」とセットにしかならないのです。

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遂に「ロンドン塔」から国王を連れ出すことに成功するアーチャー。
しかし米海兵隊が急襲したデヴォンの研究施設で、
独米軍による激しい銃撃戦に巻き込まれるのでした。

と、まぁ、小説なのでこんなところで終わりにしますが、
主人公のアーチャーこそ無事に生き残りますが、本書のヒロインであるバーバラは、
ゲシュタポによって殴り殺され、国王ジョージ6世も、銃撃戦の犠牲となります。
こういう惨さはやっぱり英国の作家だなぁ・・と思いますね。
今度読む予定の「爆撃機」も、おめでたい展開ではない気がしてきました。

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最後にはアーチャーが従えた3人、ケラーマン、フート、そしてメーヒューの運命。
誰が最高の策士だったのか・・?
アーチャーは最後に言います。「さようなら、連隊指揮官殿」。













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反逆部隊〈下〉 [戦争小説]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ガイ・ウォルターズ著の「反逆部隊〈下〉」を読破しました。

予想していたよりも遥かに面白かった上巻。。
ヒトラーの希望する30名の英国人部隊を編成するため、ドイツ国内の捕虜収容所を巡って
祖国を裏切る兵士を徴集することとなった主人公の「イギリス自由軍」指揮官ロックハートSS大尉。
仲間集めっていうのは子供の頃、映画「荒野の七人」を観て以来、好きな展開ですし、
祖国を裏切ってドイツ軍にっていうのも「幻影」でのロシア人義勇兵の話を彷彿とさせます。

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そのロックハートの収容所巡りでは、数人の裏切り者が確保できたものの、
野次と罵声と混乱のなか、出口へと向かう途中に襲撃され、入院する羽目に・・。
SS本部長のベルガーは、効率の悪い「説得工作」を中止して、現在の隊員たちの訓練を命じ、
1944年の4月には、精鋭SS師団「ダス・ライヒ」のシュトラッサーも満足するまでのレベルに
鍛え上げられるのでした。

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そんな裏で上巻に出てきた「サリン」を阻止すべく、情報収集するロックハートは、
偶然見つけた書類に「A4計画」と「ハンス・カムラーSS少将」と書かれていたことから
この2つが繋がって、サリンを弾頭に乗せたV2ロケットをロンドンに向けて発射する・・
と推測するわけですが、まぁ、このあたりはひょっとすると
著者がこの2つの秘密兵器について書かれている「V1号V2号 -恐怖の秘密兵器-」を
読んで思いついたのかも・・。

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ベルリンではシュトラッサーが足繁く通う「サロン・キティ」の娼婦、レニとも知り合いますが、
SD(SS保安部)のスパイでありながらも、ソ連の軍情報部GRUのスパイも兼務する2重スパイで
ユダヤ人の父を救うべく、あらゆる手段を使っている彼女は、ロックハートに協力を・・。
レニにうっかり秘密を漏らしていたシュトラッサーも、「SDに報告するわよ」と脅されて、
しぶしぶロックハートに従うことを約束させられます。

そういえば「サロン・キティ」は昔、映画になっていたなぁ・・と調べてみると
1976年のイタリア映画でした。しかもあの「カリギュラ」の監督です。。
当時は結構流行ったこのカリギュラですが、「カリギュラ」って口に出すことがイヤラシイ・・というか、
子供にとっての「エロの代名詞」だったことを思い出します。。。

POSTER Salon Kitty.jpg

で、この映画「サロン・キティ」は日本でも公開されていて、DVDも出てるんですねぇ。
DVDは「サロン・キティ」ですが、公開当時は洋ピン扱いですから、タイトルがスゴイ・・。
「ナチ女秘密警察 SEX親衛隊」。そして、<若い隊員の"エキス"を集めよ!>
果たして、ホントにそんな映画なのか・・??

ナチ女秘密警察 SEX親衛隊.jpg

ノルマンディに連合軍が上陸し、このままでは「裏切り者」のまま終戦を迎えることになると、
隊員たちに彼の立てた無謀な「計画」を打ち明け、参加を要請するロックハート。
「SSルーンの入った袖なしTシャツ」を着た彼らは、「俺たちを皆殺しにする気ですか?」

このTシャツは結構知られたものですが、実は池袋のミリタリー・ショップで手に入るんです。
何枚かドイツ軍関連のTシャツ持っているヴィトゲンシュタインですが、コレはちょっと・・。
今年の夏はコレを着て街を闊歩したいと思われる方は、
「ビンテージ・タンクトップシリーズ”SSルーンマーク”」でググってみてください。

wikingfreiwillige.jpg

また「イギリス自由軍」が出てくる小説としては「鷲は舞い降りた」のプレストン少尉が
真っ先に思い浮かびますが、本書のろくでもない隊員たちを鍛え上げ、
ナチスの基地を襲おうとする展開になると、1967年の映画「特攻大作戦」を思い出しました。
「服役中の12人の兵士たちによる特殊部隊を組織し、ドイツ軍司令部を壊滅させる」・・
という内容ですが、指揮官にリー・マーヴィン、その他にアーネスト・ボーグナイン、
ジョージ・ケネディ、チャールズ・ブロンソン、テリー・サヴァラス、ドナルド・サザーランドといった
一癖も二癖もある超個性派俳優揃い踏み・・という大好きな映画です。
本書はこの映画にもインスパイアされているのかも知れません。

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厳しい訓練を課してきたとはいえ、部下13人の「イギリス自由軍」に心もとないロックハートは、
生粋のドイツ人SS将校である、シュトラッサーにすべてを話し、
彼の理性に訴えかけて、作戦への協力を求めます。

最終的にはV2ロケット組立工場でもあるミッテルバウ=ドーラ強制収容所
武装して乗り込み、地下の奥深くにあるサリン保管施設を強襲しようとするものの、
収容所警備兵である髑髏部隊との激しい銃撃戦に・・。
一目散にサリン保管所を目指すロックハート・チームと
彼らの背後を守るシュトラッサー・チーム。

Mittelbau-Dora.jpg

己の信じてきたナチスに対して心揺らぎ、ロックハートを信じることにしたシュトラッサーは、
イギリス自由軍を指揮し、続々と応援に駆けつけてくる髑髏部隊を相手に、
ロシア戦線で戦い抜いてきた百戦錬磨の「ダス・ライヒ」将校の実力を見せ付けるのでした。

原題が「裏切り者」であるように、英国人ロックハートらの「裏切り者」としての苦悩が
充分に書かれた本書ですが、それまで冒して来た罪を悔い改め、
ドイツや英国といった国のためではなく、多くの一般市民の命を救うために
自らの命を捨てることにしたシュトラッサーもまた、「裏切り者」でもあるわけです。

Poster British Freikorps.jpg

ラスト・シーンはさすが英国の作家だけあって、超人的な能力で首尾よくミッションを完了し、
愛する妻と抱き合うようなハッピーエンドにならないのが良いですね。
ロックハートが流全次郎、シュトラッサーが高柳秀次郎という、
男組」の彼ら2人の最期をも髣髴とさせ、もちろん第三帝国ネタと
ヴィトゲンシュタインの好きな要素がたくさん詰まった、とても面白い冒険小説でした。







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反逆部隊〈上〉 [戦争小説]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ガイ・ウォルターズ著の「反逆部隊〈上〉」を読破しました。

「悪名高きアイヒマン、メンゲレなど、「ナチ・ハンター」による執念の追跡劇の真相とは?」 
という興味深い内容の『ナチ戦争犯罪人を追え』が、今年の3月に出ましたが、
この著者について調べていたところ、デビュー作であるこの小説にに辿り着きました。
「1943年、イギリス軍情報部員がドイツ占領下のクレタ島に潜入するも捕らえられ、
武装SSの外国人部隊≪イギリス自由軍≫の指揮を執らされることに・・」。
まぁ、コレだけの情報があれば、もう読まざるを得ません。。
2003年発刊で419ページの表紙を見てみると、そういえば何年か前に本屋さんで見たような・・。
同じハヤカワ文庫でクリス・ライアンの「襲撃待機」や「偽装殱滅」、「孤立突破」といった
漢字四文字シリーズを読み倒していたときだったようです。

反逆部隊上.jpg

1943年11月の深夜、小型ボートでドイツ軍が占領しているクレタ島に上陸をするのは
主人公の英陸軍大尉ジョン・ロックハートです。
学生時代にこの島で遺跡の発掘調査を行い、この島の住人であるパルチザンとも
友人であることからの特殊工作員としての任務です。
ドイツ軍の武器集積所を破壊する・・という作戦ですが、あえなく失敗・・。
捕虜となり、冷酷なディートリヒ中佐の執拗な拷問の前に、スパイとなって
パルチザン壊滅の手伝いをするか、然らずんば死か・・、の選択を与えられます。

Cretan Guerillas attacking German soldiers.jpg

祖国の裏切り者となることを良しとはせず、死も恐れないロックハートですが、
彼には大きな心配事があるのです。
それはオランダで捕えられ、ベルギーの強制収容所送りとなっている最愛の妻・・。
その妻の釈放を条件にドイツのスパイになることを了承するのでした。

ドイツ側の主人公は、第2SS装甲師団「ダス・ライヒ」の兵士として1941年からロシアで戦い続け、
怪我を負ってベルリンに召喚されてきた、カール・シュトラッサーSS大尉です。
いきなりSS本部長のゴットロープ・ベルガーSS大将から呼び出しを受け、
英国人捕虜から成る部隊を編成し、武装SSに編入して共産主義との戦いに参加させるため、
シュトラッサーを指揮官兼ベルガーの連絡将校に任命する・・というものです。

Gottlob Berger.jpg

ベルガーSS大将は実際に武装SS義勇兵部隊の編制の中心人物ですから、
ここまで違和感ない展開です。
架空のシュトラッサーSS大尉は、いかにも悪人のドイツ人でございます・・
という感じの名前ですが、なかなか男前のようで
小説を読むときは、映画を撮っている監督になりきるヴィトゲンシュタインは
ヴィーキング」のヴァルター・シュミットSS大尉の風貌をイメージして読み進めます・・。

Walter Schmidt.JPG

ベルリンにオフィスを確保したものの、すでに20名のメンバーが集められているという
通称「セント・ジョージ部隊」が、たった6人しかいないことに驚くシュトラッサー。。
総統命令では30名の部隊を編成するということになっています。
彼ら英軍捕虜と顔を合わせますが、まず部隊名にクレームが・・。

「セント・ジョージは英国の偉大な英雄ではないか」と語るシュトラッサーに
「英国といってもそれはイングランド人だけです。スコットランド人やウェールズ人、
アイルランド人はセント・ジョージのために武器は手にしません」。
すったもんだの挙句、ようやく「イギリス自由軍(British Free Corps)」で全員が納得・・。

post- British Freikorps.jpg

英国の歴史に詳しい方やサッカー、ラグビーがお好きな方はご存じのとおり、
イングランドは白に赤の「セント・ジョージ・クロス」、
スコットランドなら青に白の「セント・アンドリュース・クロス」など、
いろいろと別れていますし、対抗心も旺盛ですから、こういう細かいところが楽しいですね。

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同じころ、ゲシュタポによってベルリンへ連行されていたロックハート。
尋問するのは長官のハインリッヒ・ミュラーです。
デスクのペーパーナイフを奪って、首筋に突き立ててやれば、
英国にとっては「ハイドリヒ暗殺」に次ぐ勝利となる・・。
しかし今の彼にとっては妻との再会ために無謀なことを犯すことは出来ません。。
そしてやっと受け取った妻からの手紙・・。独房で何度も読み返し、
隣りの独房のソ連GRU情報部員からの壁を叩く暗号によって、
ドイツ軍が毒ガス「サリン」を用いた新兵器を開発していることも知るのでした。

Heinrich Müller_42.jpg

こうしてこれまで平行に語られていた英独の主人公同士が対面。
シュトラッサーはロクなやつのいない「イギリス自由軍」の指揮をロックハートに依頼します。
真新しい武装SSの軍服には「イギリス自由軍」のカフタイトル、
前腕盾形徽章にはユニオン・ジャックが描かれ、左襟は金属製のピプが3つに2本の線。
シュトラッサーと同じSS大尉であることを表します。

M36_British_Free_Corps_Tunic.jpg

しかし右襟には「SSルーン」ではなく、英国王旗のデザインである「スリー・ライオン」が・・。
自分は裏切り者ではないと心に誓いつつ、王や祖国に対する侮辱にまみれた、
この軍服に袖を通すロックハートSSハウプトシュトルムフューラー。
本書はこのような徽章類の描写がこまかいのも良いですね。
ヴィトゲンシュタインもロンドンで買ったスリー・ライオンのTシャツを持っています。
サッカーのイングランド代表もコレなんですね。
もうすぐ、EUROも始まります。楽しみだなぁ。関係なくてスイマセン・・。

Gascoigne Euro1996.jpg

ところどころでロックハートの妻、アンナの強制収容所での様子も出てきます。
政治犯のために赤い三角マークを付けているなど、
先日の「母と子のナチ強制収容所」を思い出しました。

また、シュトラッサーは独身ですが、こちらの女関係といえばベルリンの娼婦、ニナです。
お互い惹かれあっているものの、SS将校としてのプライドが許さず、客と娼婦の関係のまま・・。
でもホモとか変態じゃないので、Hシーンはとても助かります。。
彼女の勤める娼館は、ゲシュタポもので有名な「サロン・キティ」。
ハイドリヒが内外の要人をこの娼館でもてなし、ウッカリ重要な情報を喋らせるように仕組んだ
SD(SS保安部)が経営する売春宿です。
そして厳選された50名の若い女性の中から選抜され、様々な訓練を受けたニナは
やっぱりSDのスパイなのでした。

salon-kitty.jpg

1944年になると、いまだ10名程度の「イギリス自由軍」はヒルデスハイムの
「ゲルマン人の家」へと移動。ここは「アーネンエルベ協会」の一部で、
この施設でSS隊員として、アーリア人種についての知識と訓練を積むのです。
各捕虜収容所から集まった隊員たちの志願した理由も様々。
日和見主義者に問題を抱えていたり、虐められていたり・・。
なかでも一番多いのが、オズワルド・モズレー率いる英国ファシスト同盟党のメンバーです。
そしてこのような黒シャツを着て、暴力にモノを言わせていたような連中を
ロックハートはまったく信用できません。

British Union of Fascists Sir Oswald Mosley.jpg

敵同士であるロックハートとシュトラッサーはお互いを理解し始めますが、
ベルガーからの突っつきもあって、宣伝ビラを作っての捕虜収容所を巡る
大々的なリクルートを指示するシュトラッサー。
その代わりに妻に合わせろと要求するロックハート。
これまでは強気だったシュトラッサーも、任務が不首尾に終われば即刻東部戦線行き。。
いやいやながらもロックハートに頼らざるを得ないのでした。

著者は英国人ですが、「英国人はドイツ人と同じく国を裏切ることをしない。
フランス人は得意だが・・」と、国防軍所属のフランス義勇軍に触れ、
「武装SSが引き取る話もある」など、武装SSの「シャルルマーニュ」も絡めた
英仏の義勇兵についての考え方も楽しめます。

原題は「裏切り者」で、主人公のロックハートが祖国への裏切り行為と
妻への想いの狭間で苦しむ展開はとても人間味があって、感情移入してしまいますし、
シュトラッサーとニナもとても良く描かれていて、もう下巻が楽しみです。
このあとすぐに読みますよ。







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