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ヒトラーの呪縛(下) - 日本ナチ・カルチャー研究序説 [ナチ/ヒトラー]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

佐藤 卓己 編著の「ヒトラーの呪縛(下)」を読破しました。

普通は上下巻の文庫を読もうと思ったとき、まとめて入手するんですが、
本書は果たしてどんなモンなのか?? と少し不安で、まずは上巻だけを試し読み・・。
しかしそんな不安をよそになかなか楽しめましたので、早速、下巻に挑みます。

ヒトラーの呪縛下.jpg

第6章から始まるこの下巻はまず、「コミック&アニメ」です。
ヒトラー自身を主人公とする娯楽マンガとしては、戦後少年マンガの巨匠として双璧を成す、
手塚治虫の「アドルフに告ぐ」と、水木しげるの「劇画ヒットラー」を詳しく比較。
前者はフィクションであり、後者は史実に基づいて描かれているという相違はあるものの、
戦時中は銃後にいた手塚と、戦地で片腕を失った経験のある水木との違いも指摘します。

「週刊少年ジャンプの友情とナチス」として・・、「リングにかけろ」からはJr世界大会準決勝、
対戦相手の総統スコルピオン率いるドイツチームは「Jrナチス親衛隊」であり、
メンバーはゲッペルス、ヒムラー、ゲーリングとそのまんまで何の捻りもナシ。。

ヒムラー. ゲッペルス. リングにかけろ1.jpg

「サーキットの狼」では、暴走族ナチス軍ポルシェ隊総統のカレラには鈎十字が・・。

サーキットの狼プラモデル「ポルシェ・カレラRS(早瀬左近.jpg

「キン肉マン」になると、「ブロッケンマン」が口から吐き出す毒ガス攻撃にラーメンマンも悶絶。
実況も思わず、「ま、まさにナチスガス室の恐怖を再現しております!!」。
ん~・・。そう言われてみると、なんとなくそんなことも記憶の片隅に・・。

ブロッケンマンの毒ガス攻撃.jpg

この章はタイトルが「デスラー総統はドイツ人か」というくらいあって、
当然、「宇宙戦艦ヤマト」も分析します。
副総統の名前がレドフ・ヒス、
勇将ドメルとゲールに至っては最初のうちロンメル、ゲーリングと呼ばれていたと。。
それでも松本零士曰く、「デスラーはヒトラーと関係ない」。

レドフ・ヒス.jpg

しかし総統デスラーと聞いて、彼を善玉だと思う読者や視聴者は皆無であり、
容赦なき侵略者としてピッタリのイメージで、正義の味方がぶっ殺しても後腐れが無く、
なにより名前の響きが「カッコいい」のであって、
総統ピーターソンや総統ワタナベでは「サマにならない」と分析。

2008年にはヤマト公開30周年を記念して、「デスラー総統ワインセット」が発売され、
13650円も完売。。特典としてデスラー勲章と、
デスラー総統の訓示を書いたリーフレットも付いていたそうな・・。

ヤマトデスラー総統ワインセット.jpg

それから「ガンダム」のナチスチックな部分についても解説してますが、
ヴィトゲンシュタインはまったく見てないので割愛・・。
また、ミリタリー・マニアたちに熱烈な支持を受けるマンガ家として、小林源文も紹介。

そして1990年代、日本マンガ文化の「国際化」によって、海外輸出文化となり、
ポケモンカードの卍がユダヤ系団体から抗議を受け、回収するような環境です。
グローバル化するマンガ市場がある一方、ローカル化する「同人マンガ」という二極化が進み、
コミケにおける「ナチ・パロディ」、ナチスの少女マンガ化へと話しは移っていきます。
あ~、この世界は全然だめだ・・。



第7章は「トンデモ本」・・。
イヤな予感がしますが、予想どおり落合信彦の「第四帝国」からです。
コレは「ジョーク本」というカテゴリーがある独破戦線でさえ、紹介しなかった、
というか、半分まで読むのがやっとこさ・・という、超トンデモ本ですね。
何というか、馬鹿らしいのに真面目にやってて、ソコに笑いが無いのがいけません。。

しかし矢追純一 著の「ナチスがUFOを造っていた」には笑いがあります。3回は爆笑できます。
本書でもドコがどうトンデモなのか、同じような指摘をしてますねぇ。

hqdefault.jpg

もう1人著名な作家としては出ました、ノストラダムスの大予言で知られる御大、五島勉の
「1999年以後 -ヒトラーだけに見えた恐怖の未来図」で、この本でヒトラーは、
後藤久美子や今井美樹、菊池桃子に中山美穂といった1980年代後半のアイドルまで予言。。
7月にコレが加筆、改題され「ヒトラーの終末予言 側近に語った2039年」として復活しました。



そして五島勉を遥かに上回る超絶なトンデモ本も存在するそうで、
それは「滅亡のシナリオ―いまも着々と進む1999年への道」。
このタイトルには「原作:ノストラダムス 演出:ヒトラー」と書かれているように、
ノストラダムスがヒトラーを予言したのではなく、ヒトラーはノストラダムスの予言を
成就させるために全ての行動を起こしていたのだ・・と主張。
著者は精神科医の川尻徹氏・・。

この人は栄えある第一回「日本トンデモ本大賞」の受賞者であり、
かの麻原彰晃も熱心な読者だったそうです。ソコまで曰くつきだと読んでみたくなりますね。。

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ヤコブ・モルガンなる人物が書いた「誰も書かなかった昭和史」は、
ヒトラーはフリーメーソンだった説を展開。
大戦はドイツや日本などの非ユダヤ国家を壊滅させるために、
米英仏のユダヤ国家が仕組んだ陰謀・・だという論理を貫くこの本では、
スターリングラードでのドイツ軍の敗戦も、
ヒトラーがあらゆる戦局で勝たないよう予定通りに指導したから・・というもの。
この論理でいくと、失敗した作戦を立案した将軍は、全員フリーメーソンです。



トンデモ本作家はまだいました。大川隆法先生です。
7月にも「赤い皇帝 スターリンの霊言」を刊行していますが、
2010年には「国家社会主義とは何か」という本でヒトラーの言霊との対話記録を掲載。
本書でも中国が日本に侵攻する場合の具体的な戦略を気楽に語る
ヒトラー(の言霊)との対話を1ページ抜粋しています。
ヒトラー・・「やはり電撃戦しかないね。基本的には電撃戦を勧めてる」。
あまりにアホらしいんでカッツアイ!



昨年、ちょっとした話題になった「眠れなくなるほど面白いヒトラーの真実」の話もありました。
ドイツとイスラエルの大使館から抗議を受けて、ローソンが早速店舗から撤去。
このようなヒトラーとナチスの「すごい」ところだけに焦点を当てた出版物に目を光らせているのが
サイモン・ヴィーゼンタール・センター(SWC)であり、2003年に戦犯追及の終了を宣言した現在、
ユダヤ陰謀論などを提唱する団体の摘発、つまり「歴史パトロール」機関と化しています。
まぁ、個人的には閉鎖してもらって構いません。。

第8章は「文芸」・・。上巻からここまできて、「文芸」とは何ぞや?? と思いましたが、
帚木蓬生の「ヒトラーの防具」といった日本人作家によるナチス小説をまず紹介。
続いては三島由紀夫の戯曲として有名な「わが友ヒットラー」。

わが友ヒットラー.jpg

実のところヴィトゲンシュタインはですね・・、日本人作家の小説類は全然読まないんですよ。
なのでこの章では、幻の兵器「超カルル砲」の謎を追うという五木寛之「ヒットラーの遺産」を
読んでみたくなりましたが、佐々木 譲の冒険小説「ベルリン飛行指令」を購入してみました。



最新の演劇としては去年、再演された三谷幸喜作「国民の映画」が詳しく紹介されています。
ベルリンを舞台に、ゲッベルズと映画人たちとの間で繰り広げられる人間ドラマで、
ゲッベルス役に小日向文世、ヒムラーは段田安則、そしてゲーリングに渡辺徹・・。
このメンツだけで笑えてきます。。

小日向文世_渡辺徹.jpg

第9章は「架空戦記」です。
このジャンルにもあまり手を出したことがありませんね。早い話が「たられば戦記」であり、
思い浮かぶのはリチャード・コックス著の「幻の英本土上陸作戦」くらいでしょうか?
本書ではその筆頭格として以前に「ヒトラー時代のデザイン」だけは読んだ柘植久慶の 
一連の軍事シミュレーションである「逆撃シリーズ」の解説を読むと、
独善的社長のヒトラーや、体面だけを気にする重役ボルマンと積極的にわたり合い、
サバイバルを試みるよう促す物語であるそうで、何だか余計にわからなくなってきました。。

思うに、架空戦記と一口に言っても、大きく分けられるような気がしますね。
1つは歴史のちょっとした「IF」、あの戦役の勝者が逆であったら?? というようなもの、
もう1つには、この章でも紹介されているような、どうやってか「日独決戦」になってしまうもの・・。
まぁ、確かに日本人ですから、日本人の立場で、ヒトラー率いるナチスと戦いたい。。
いわゆる宇宙戦艦ヤマトの第2次大戦版のような戦記であり、
日本軍の武器でティーガー戦車に戦いを挑んでみたい・・という願望を
理解できなくもありませんが、そこまで何でもアリとなると、
読んでいて「だったらもっとこういう展開にしろよ・・」と文句を言いたくなってしまいそうです。

本書では広義の意味での「架空戦記」は現在、
インターネット・ゲームの「艦これ」に見ることができるとして、
戦艦ビスマルクは、プライドの高い金髪の美少女で、育成が難しい戦艦うんぬん・・と解説付き。
どーですか? いまコレをお読みのお父さん方は、話について来れていますか?

艦これ- ビスマルク.jpg

最後の第10章はその「インターネット」です。
1999年時点でも、3000件以上の日本語のヒトラー関連ページが存在する世界。
ナチスを中心とした「軍装店」がネット上にいくつも存在し、ヒムラーの1/6フィギアも買える時代。

また「ヒトラー 最期の12日間」は、映画そのものよりも動画の素材として大人気になったとして、
YouTubeのあの「総統はお怒りのようです」まで紹介します。
確かにナチカルとして確立してますな。

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率直な感想として上巻の方が楽しめましたが、それは個人的にドコのナチカルに属しているか
といったことが理由でしょう。「海外ノンフィクション文庫」、「映画」、「ロック音楽」は
ナチスに限らず、ヴィトゲンシュタインの人生の大半を占めていますし、
逆に若い人や女性なら、下巻の方が楽しめる要素が多いように感じました。

単にナチカルをジャンル分けして面白おかしく紹介している本ではなく、
日本におけるヒトラー、ナチスとは何なのか?
その文化への浸透具合の時代による遍歴を洗い出しながら、
今の時代、どのように向き合うべきなのかにも言及した、考えさせられるものでした。











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