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劇画ヒットラー [戦争まんが]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

水木 しげる著の「劇画ヒットラー」を読破しました。

1年数ヵ月ぶりとなる「独破戦線まんが」の第5弾は、
以前からコメントでもちょくちょく話題になっていた本書になりました。
水木 しげるといえば、子供の頃に家にあった「墓場の鬼太郎」と、「悪魔くん」ですね。
特に悪魔くんのオドロオドロシイ感じは何とも言えない世界でした。
この「劇画ヒットラー」は1971年に『週刊漫画サンデー』に連載され、
1972年以降、「ヒットラー 世紀の独裁者」など、タイトルも変えながら出版。
今回選んだのは1990年の276ページ、ちくま文庫です。

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1908年のオーストリア・リンツ。
親友ヒトラーの下宿先に一緒に住むことになったクビチェク くん。
しかしヒトラーは美術学校にスベッていて、自尊心だけは強い彼に翻弄されてしまいます。
やがて宝くじが当たることを夢見てアレコレと語るヒトラーですが、
アドルフ・ヒトラー 五つの肖像」にあった、こんなエピソードまであるんですねぇ。
でも個人的には夢破れて半狂乱に陥り、自己憐憫に耽るところまで欲しかった・・。

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浮浪者同然の生活から、絵を描いて多少の収入も・・。
第1次大戦が始まると熱狂的に志願して、1級鉄十字章を貰うほど・・。
ヒトラー1人で15人ものフランス兵を捕えた逸話が挿入されていますが、
15人は盛り過ぎじゃないかなぁ・・。
それでもカルダンという名のフランス兵がモロにねずみ男なのが笑えます。。

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1919年、「ドイツ労働者党」に潜入するヒトラー。
このナチ党の最初期主要メンバーが何人か登場しますが、
ディートリヒ・エッカートは、「モルヒネ中毒で精神病院にも入っていたこともある・・」と
化け物のようなアホ面で登場・・。

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また、変人経済学者と紹介されるゴットフリート・フェーダーの口髭を見たヒトラーが、
「カッコいいなあ・・」と真似したと、多くの歴史家は見ている・・という説は初めて知りました。
それにしても、このフェーダーの顔も口髭以外は酷いですね。
1971年当時には、フェーダーの顔写真なんて手に入らなかったのかも知れません。

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念のため、ヒトラーの口髭ビフォーアフターはこんな感じ。。

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党首のドレクスラーも出てきた後には、後の副総裁ルドルフ・ヘスが・・。
コレは激似です・・。まぁ、前から薄々思っていましたが、まんが顔なんですね。

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1923年の「ミュンヘン一揆」はタップリと描かれていて、ルーデンドルフを筆頭に
エーベルト大統領に首相のシュトレーゼマン、バイエルン州の総督カールに
陸軍司令官のフォン・ロッソウ、警察長官フォン・ザイサーらまで登場。

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ランツベルク刑務所出所後、ナチ党の立て直しを図るヒトラーですが、
強力なライバルであるグレゴール・シュトラッサーと対立が起きます。
秘書をやめて本業の養鶏に精を出したい・・と言いだすヒムラーに、
その後任の秘書となったゲッベルス
ゲッベルスはほとんどマッドサイエンティストの風貌です。

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そしてベルヒテスガーデンの山荘にやって来た姪のゲリ
かなり可愛い女の子に描かれていて、ヒトラーは隙を見ては「チューッ」と溺愛・・。
そんなタイミングで「総統、用意ができました」と入って来る気の利かないヘス。
「ヘスくん。開けるときはノックをしたまえ、ノックを・・」。

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全部で17章から成る本書。
その章扉の絵はなかなか印象的なもので、
例えば第9章は有名な写真がモチーフです。
シルクハットのヒトラーとフォン・パーペン、それからブロムベルクです。

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ゲリが自殺し、半狂乱となったヒトラー。
そんなときに首相になるかならないか・・という大事な問題が・・。
ヒンデンブルク大統領と面会し、陰謀家と紹介されるフォン・シュライヒャー
シュライヒャー将軍・・、ほとんど妖怪ですね。。

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遂に首相となったヒトラーですが、レームとSAの粛清「長いナイフの夜」へと進みます。
"お前と俺"の仲であるレームに苦言を呈するヒトラー。
「お前はSAを野放ししすぎやしないか。苦情が絶えないじゃないか。
それとホモもやめてくれ。
いやしくも一国の大臣がホモなんて話、聞いたこともない」。

「量より質」がモットーのSS指導者ヒムラーに、ゲシュタポを創設したゲーリング
この2人が首謀者なわけですが、ゲーリングも怪人だな、こりゃ。。

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ドゥーチェ(親方)と称されるムッソリーニの出番も多くなってきました。
典型的なまんが顔なのか、先生の筆もノッテル感じすらします。

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そしてチェンバレンの活躍する「ミュンヘン会談」から、チェコの併合へ・・。
呼び出したハーハ大統領を恐喝し過ぎて、失神させてしまうと、
「気絶してる。モレル、強心剤を・・」と、ヤブ医者が「はい」と登場です。
いや~、この話はいろいろな本に書かれていますが、思わず吹き出しました。

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西方電撃戦は実にあっさりと過ぎると、降伏しない英国首相チャーチルの出番です。
「われわれは最後の勝利を確信している。サインはV!」。
ここで2回目の爆笑・・。
TVドラマの放送が1969年からですから、コレは間違いなく意図的でしょう。

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不可侵条約を結んでいる友好国であるソ連との会談の様子も・・。
リッベントロップはいまいち似ていませんが、モロトフは強烈です。
まさにキャラが立っています。

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そのソ連に対して「バルバロッサ作戦」を開始。
モスクワで立ち往生すると陸軍総司令官ブラウヒッチュを解任し、自らが総司令官に。
劇画調に描かれたヨードルカイテル

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元ネタの写真はコレかな?

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スターリングラード戦では「一歩も引くな」と言うスターリンに、陣頭指揮をとるフルシチョフ
一方、文句の多い参謀総長のハルダーは「クビだ! 後任はツァイツラーを任命する」。

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幽閉されていたムッソリーニをスコルツェニーが救出したころ、
出てこないと思っていたボルマンが姿を現します。
「ナチ党の権力を一手に握ろうという、妖怪ボルマン。
こいつがヒトラーが喜ぶようなことしか報告しなかった」。

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1945年となりベルリンの総統ブンカーから指揮を執り続けるヒトラー。
ゲーリングがボルマンの計略によって失脚し、空軍総司令官に任命されたフォン・グライム
ハンナ・ライチュがやって来ます。
ちょっと残念なナチ女という扱いでしょうか・・。

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こうして最期のときが近づいてきます。
エヴァと結婚をし、秘書のユンゲに遺言を口述・・。
「運転手がヒトラーの遺体を焼いた」とまで書かれていますが、
残念ながら、好きなケンプカは描かれていませんでした。。

Traudl Junge.jpg

いや~、コレはまったく馬鹿に出来ない一冊でした。
とても子供向けのまんがではありませんし、ほとんどが事実でしよう。
多少驚きだったのは、思っていたより青年時代のヒトラー、
ナチ党創成期のヒトラーについて詳しく描かれていることです。

個人的にはヒトラー伝となると、大きく3部に分かれると思っていて、
1900年代~1910年代の青年時代と1920年代にのし上がろうとするヒトラー、
1930年代のナチ党政権奪取~ドイツ国民のアイドルたる総統時代、
最後に1940年代の戦争指導者としてのヒトラーです。

戦記マニアなら1940年代のヒトラーの軍事的関与に興味があるでしょうし、
ドイツ国民のナチ化やヒトラーの外交政策に興味があるなら1930年代、
しかしヒトラーの人間性を知りたいなら、やはり1900年代~1920年代でしょう。
人格形成は少年~青年期にかけて成されるものであり、
その当時の出来事や、総統に上り詰めるまでに重点が置かれた本書は
ヒトラーがどんな悪いことをしたか?? ではなく、
なぜヒトラーのような人間が誕生したか?? がテーマのように思いました。

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その意味では、ヨアヒム・フェスト著の超大作「ヒトラー」に通じるものがありますね。
実は「ヒトラー 最期の12日間」でも知られるドイツ歴史界の重鎮が書いた、
この1975年の函入りの上下巻、計1100ページを読破したのが1年前のこと・・。
何度もレビューを書こう・・と思いつつも、いつも挫けていました。

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第一にジョン・トーランドの「アドルフ・ヒトラー」を先に読んでしまいましたし、
本書の上下2段組み、小さい文字でビッチリ・・を見る度に、
どう考えたって、トーランドのより文字数多いだろ。。文庫にしたら6冊分はカタい・・、
と、読む前から気合が削がれてしまったほどです。

このヒトラーの生涯をトーランドの「アドルフ・ヒトラー」と比較すれば、
当時のドイツ(ワイマール共和国)の状況・・、政治だけでなく、人々の考え方など、
米国人のトーランドとは別の視点、ドイツ人がドイツ人向けにヒトラー伝を書いている・・
といった印象を持ちました。
そういう意味で奥深さは感じるものの、現在の日本人が率直に理解できるかというのは
別の話であり、ややもすれば冗長すぎると考える読者もいるでしょう。

結局、1年悩んでこの有名な超大作ヒトラー伝のレビューを書くことは諦めました。
悪い本ということではなく、トーランドが書いたヒトラーの人生とは、
基本的には変わらないということです。
こちらの方が出版は早いですし、もしヒトラーの人生が全然違って書かれていたら、
どちらかがペテン師ということになって、それはそれで大問題ですね。

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もう一冊、つい最近に出版されたヒトラー本も楽しめましたのでご紹介。
タイトルは「ヒトラー サラリーマンがそのまま使える自己PRとマネジメント術」。
表紙を見るとなんとなく、日本を舞台にした「帰ってきたヒトラー」みたいな印象がありますね。
面白いのはちゃんとしたビジネス書なのに、ヒトラーの戦略を参考にする・・という視点です。
例えば「ミュンヘン一揆」の失敗で裁判にかけられたヒトラーが、「責任は私一人で負う」として、
徐々に人気が上がっていった件を紹介したうえで、
プロジェクトの失敗もこのようにチャンスに変えるのだ・・といった展開で、
その他、アルゲマイネSSの黒の制服・・などのイメージ戦略からも、
第一印象は大事ですから清潔で、ある程度上等のスーツを着て、靴も磨きましょう・・と解説。
レームやヒムラー、ゲッベルスのような部下を持ったときにどうすべきか・・など、
ヒトラー戦略は関係なくてもヴィトゲンシュタインが共感する部分も多く、
逆にその関連性に思わず何度か笑ってしまいました。

ナチス関連の写真も掲載された176ページの本書は一日でも読破できるボリュームですが、
カバーもせずに通勤電車で読むのには、それなりの度胸が必要でしょう。
ナチス好きのサラリーマンなら、昼休みに自席でコッソリ読んで、ニヤつける一冊です。



最後に「劇画ヒットラー」に戻りますが、巻末には参考文献が挙げられており、
ヒトラー伝としてはヴェルナー・マーザーの「ヒトラー」と、
アラン・ブロックの「アドルフ・ヒトラー」など。
独破戦線で紹介したものなら、「ヒトラー最後の戦闘」、「第三帝国の興亡」、
ゲシュタポ -恐怖の秘密警察とナチ親衛隊-」、「ゲシュタポ・狂気の歴史」、「国防軍とヒトラー」、
ナチス狂気の内幕」、「バルバロッサ作戦」、「砂漠のキツネ」、「Uボート作戦」です。

水木 しげるの最高傑作との評判もある、「総員玉砕せよ! 」もつい買ってしまいました。










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