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パンツァータクティク -WW2ドイツ軍戦車部隊戦術マニュアル- [パンツァー]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ヴォルフガング・シュナイダー著の「パンツァータクティク」を読破しました。

2002年に大日本絵画から出た、定価6200円の423ページ大型本。
ドイツ軍戦車部隊の「戦術運用マニュアル」という専門的な内容ということもあり、
コレに手を出すことはないだろうな・・と思っていましたが、つい手が出ました。
ドイツ連邦軍の戦車大隊長を務めた経歴を持つ、「重戦車大隊記録集〈1〉陸軍編」と、
重戦車大隊記録集〈2〉SS編」の著者ですから、悪いことはないだろう・・と。。
正直言って、「西方電撃戦: フランス侵攻1940」読んだら怖いモン無しです。 
それでは気合を入れて、以前に紹介した「赤軍ゲリラ・マニュアル」に続く、
独破戦線マニュアル・シリーズ第2弾を早速いってみましょう。

パンツァータクティク.jpg

「序章」では、最初に留意しなければならないこととして、
「戦車は何より攻撃的に使用してこそ、卓越した戦果をあげる」と、
マンシュタインが総退却の一環として、「反攻攻撃」に戦車部隊を投入して、
目覚ましい成功を収めたことを一例として紹介します。
コレは「第3次ハリコフ攻防戦」のことでしょうか。

von Manstein.jpg

そんな第1章は「攻撃」です。
かなり本格的な本文を少し抜粋してみましょう。
「大隊は「逆楔形」(Breitkeil)隊形で応急攻撃を遂行する例が非常に多い。
攻撃中は中隊の前進継続のため、援護射撃が確実に行わなければならない。
付け加えれば、中央の中隊は戦区から戦区を移動して前進する。
先頭とそれに続く部隊の繋がりは崩されてはならない」。

本書は特定の名詞は"英語/ドイツ語"でも表記されていてマニアには嬉しいところ。
章タイトルである「攻撃」も、英語の"Offensive Operation"と、
ドイツ語の"Der Angriff"が併記されています。
そういえば「デア・アングリフ」っていうゲッベルスの新聞がありましたねぇ。

Der_Angriff.jpg

そして「緊急攻撃の例」、「要塞化陣地攻撃の例」、「防御地域への浸透の例」といった
"略図"が所々に掲載されており、コレはドイツ語の「第16戦車師団史」やら、
第4、第5戦車師団史からのものですが、キチンと日本語の解説付きです。
「小隊の前進方法」も、"尺取り虫方式"と、"馬跳び方式"などわかりやすいですね。

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また、写真も数多く掲載されており、本文の作戦状況に応じた写真が選ばれています。
すべて白黒ですが主に1940年の「西方電撃戦」、そして1941年以降の東部戦線が中心で、
戦車の鮮明さよりも、「見事な逆楔形で展開したパンター大隊」といった具合です。
キャプションも「クルスク戦における武装SSトーテンコープのⅢ号戦車」など、
可能な限りの情報が書かれています。

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攻撃の進路、遭遇戦、夜間攻撃、渡河、地雷原、追撃、指揮統制と詳しく書かれた後、
この章の最後は「兵站業務」について触れられます。
攻撃における弾薬と燃料の消費量は凄まじく、戦車戦での兵站計画は最も重要であると強調。
攻撃の最中に燃料不足で動かなくなる前、50%程度の燃料が消費された時点で、
折を見て給油を行うしかない戦車部隊。
しかし兵站部隊から攻撃部隊まで距離は遠大で、補給車両の運転手は寝る暇もないほど、
明けても暮れても走り続ける・・という大変な苦行を強いられるそうです。

Ladungsleger Pz1.jpg

そして1940年にクライスト装甲集団が極めて早く前進できたのは、
ベルギーとフランスのガソリンスタンドが発展していたからだそうな・・。
章の後半は10数ページの写真特集。
上のⅠ号戦車車体の爆薬敷設車、下の赤外線暗視装置付きパンターの写真など、
8割くらいは未見の写真で楽しいですね。

panther-g.jpg

こうして83ページから第2章「防御」。
戦車中隊長たる者、陣地に到達した敵を可及的速やかに粉砕することに
全精力を傾けなければなりません。
担当戦区の奥行きを利用して相手の不意を衝き、その後、強力な突き返しを繰り出すのです。
まさにマンシュタイン戦術の戦車中隊版のようですね。
ですから、「防御」というより、「反攻攻撃」がこの章の主眼なのです。

窪地に身を潜めるヘルマン・ゲーリング戦車師団のパンターG型といわれる写真もいい感じ。
まさに今か今かと獲物を待つ豹のような凄味を感じます。

Hermann Göring Division PANTHER.jpg

第3章は「行軍」、英語はユニット・ムーブメントですが、ドイツ語なら、"Der Marsch"。
あの「パンツァー・マールシュ!」ですね。
舗装道路の場合、ティーガーは昼間なら10~15㌔、夜間は7~10キロ走破。
ポントゥーンブリッジを渡ったり、列車移送の写真、あるいは、船舶輸送で・・。
トリポリで船から積み下ろされるⅡ号戦車を見つめるロンメルの写真も。

WW2-Chronology Pontonbrücke .jpg

次の章は「偵察」。
同じように舗装道路を進むのでも、いつ接敵するかもわからない状況では、
戦車の行軍の仕方も違ってきます。
戦車同士の車間距離は約100mで、接敵時の回避運動の空間的余地を残しつつ、
互いに援護可能な距離。また、道路の日陰側を走行し、主砲は反対側に向け、
千鳥隊形で進む・・と、パンターやⅢ号戦車といった数枚の写真からも解説します。

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木の枝を使った偽装についてもこの章で解説。
ぞんざいに済ませたり、怠ったりする「たるんだ」乗員は懲戒対象と厳しいですね。

Camouflaged Panzer V.jpg

第5章は「指揮統制」で、戦車大隊の指揮・戦闘要領の最後の一文を強調します。
「敢然と部隊を集中投入し、一気呵成に決定的な地点を突破すること」。
各種指揮戦車や、兵員輸送車Sd Kfz 251の指揮車両などが登場すると、
「ヴィーキング」の戦車連隊長であるミューレンカンプといった戦車指揮官の写真も。
そういえば、「ヴィーキング写真集」と同じ写真も何枚かありました。でもこちらが先か・・。

「無線交信」のあり方については、具体的な階級や職位はNGですべて暗号化が原則。
しかし、個人のファーストネームを使うなどの違反が実際に行われていたことから、
戦車兵総監グデーリアンによって、コレを非難する命令が出されます。
「司令官、部隊長、個人の実名並びに公然たる部隊名の使用を即刻中止せよ」。
おそらく全文だと思いますが、細かく書かれてますねぇ。そして、
「違反者はすべての階級職位の如何を問わず即刻調査の上、
有罪が認められる場合には何らかの懲戒処分が下されよう」。
いや~、怒ってんなぁ。。ちなみに本書にはこの"戦車の鬼"の写真はありません。

General Oberst Heinz Guderian.jpg

続いて「兵站と整備」の章が出てきました。
第1章でも書きましたが、「兵站」って興味があるんですよね。
ここでは冒頭に警句から始まります。
「補給がすべてではない。しかし、補給がなければ、すべてがない!」。

大量の燃料携行缶(ジェリカン)に、200㍑のドラム缶から補給する戦車兵たち。
珍しい写真では「軍用に転用されたフォルクスワーゲン」。
自動車化砲兵部隊の1両のようですが、キューベルワーゲンじゃないのがあったとは。。

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その他、FAMO18㌧牽引車の活躍もタップリです。

Sdkfz 9 FAMO towing Panzer III Russia 1941.jpg

後半に入って291ページからは「共同作戦」。
本書の主役である戦車部隊と共同作戦に従事するのは、「装甲擲弾兵」です。
ドイツ語でパンツァーグレネーダーと呼ばれるこの兵科は、自動車化歩兵から発展し、
戦車部隊に所属。管轄も戦車兵総監部であり、米軍の機械化歩兵や、
ソ連軍の自動車化狙撃兵とは一線を画していたと述べられます。
彼らは単に「歩兵」から、「擲弾兵」に名称変更になった兵士とは別物ですね。

Sd Kfzシリーズの装甲兵員車に重火力を搭載し、高度な機動性、全地形走破力、
装甲防御力をもって、可能な限り乗車して戦い、降車戦闘はできるだけ短時間で・・。
具体的にはスピードと奇襲をもって、障害物、防壁を制圧。
見通しのきかない地域や、戦車の通過が困難な地域を奪取。

Narva 1944.jpg

それから「戦闘工兵」も重要な兵科です。
装甲兵員車が配備された「機甲工兵」部隊も誕生し、戦車攻撃に随伴。
架橋用器材に爆薬、地雷で戦車の前進を直接支援します。
いや~、敵の砲火のなか、職人魂を発揮する工兵というのは実に男らしい。
もしヴィトゲンシュタインが戦争小説を書くとしたら、主役は彼ら戦闘工兵でしょう。

Ⅳ号架橋戦車というのが1940年に20両ほど作られたそうです。

Brückenlegepanzer IV.jpg

大隊の対空小隊にも言及していますが、数が充分ではなく、
特定地点の防空が可能なだけであり、その場合、補給部隊が優先となります。
ヴィルベルヴィントの写真も掲載され、このような車両は有益だったとしています。

Wirbelwind_carefully_disguised_branches.jpg

第8章は「戦車兵の日常」。
何故、兵士は戦うのか? 勲章と名誉のためか。それとも自由、または祖国のため?
兵士が戦う真の動機は下級部隊の連帯感のなかに存在する・・。
このような出だしで始まるこの章は、死と隣り合わせの極限状態によって、
固く結束した中隊、小隊、分隊の戦友意識を説明し、
こと戦車部隊の場合に分隊は、すなわち戦車の乗員を指すとします。

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興味深いのは、例えば、小隊長が少尉、中隊長が中尉、大隊長なら大尉ないしは少佐と
部隊のなかに階級は存在するものの、将校であっても自身の搭乗車の車長でもあり、
いざ戦闘においては、曹長の車長と同様、自分を証明する必要があるということです。
大隊長といえども本部で地図を見ているばかりでなく、
前線で車長として、部下の4人の乗員と結束して戦う必要があるのです。

Oberst Richard Koll german tank commander_Panzer-Regiment 11/6.Panzer-Division.jpg

彼らの役割、砲手は軍曹が多く、副長も兼ねているということに、
操縦手は走るだけでなく、整備にも関わるため、歩哨任務からは外されます。
装填手は技術的には簡単ながらも、肉体を酷使し、
無線手は暗号解読など特殊技術を持つものの、「何でも屋」を引き受けるのです。
有名どころではオットー・カリウス中尉の初見の写真もありましたし、
戦車砲に洗濯物を干している写真など、戦車兵の日常生活の数々を紹介。

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「訓練と射撃法」では、当初の2年に及ぶ訓練から、1943年以降の短縮訓練。
特にグデーリアンによる短縮訓練計画要求では「射撃訓練に重きを置くべし」と書かれ、
夜間戦闘やカモフラージュの訓練を優先することとし、
教室演習、パレードのための行進練習は禁止されます。
また、シュヴァッペンブルク将軍によるさらに詳細な訓練の基本原則も・・。

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最後の第10章は「戦車戦術 -その現在と未来」と題して、
最新のレオパルト2A6戦車の写真を掲載しながら、
現在の戦車訓練では高価な砲弾を使用する代わりに
シミュレーターを使った訓練が行われていることなどを簡潔に紹介します。

Leopard-2A6.jpg

あ~~、疲れました。。
マニュアルを読むにあたっては、当事者に成りきる・・というのが個人的楽しみ方で、
赤軍ゲリラ・マニュアル」でも「新米パルチザン」になった気分で読みましたが、
本書の場合は戦車大隊長から、中隊長、小隊長、そして車長と、
様々な視点から解説されているため、一介の戦車兵に成りきることがことができませんでした。

german panzertruppen panzer beret map reading discussing strategy black uniform.jpg

大隊長視点になろうとも、訓練中の新米がソレを理解出来るはずもなく、よってどうしても、
写真とキャプション、または小隊レベルでの簡単な戦術に注意が行ってしまいました。
もちろん、それは戦車運用に関する読者の知識によって大きく左右されるものであって、
興味のある方はチャレンジしても良いのではないでしょうか。
古書価格が高いのがイタイですが、「ドイツ軍戦車写真集」としても大変立派な一冊で、
独破後には「パンツァーリート」を熱唱したくなること請け合いです。




未読の大日本絵画の大型戦車写真集では、「フンクレンクパンツァー」というのもありますね。
コレは副題が「無線誘導戦車の開発と戦歴」というだけあって、
クルスク戦でも活躍したボルクヴァルトIVといった無線誘導戦車の未公開写真集です。
定価6000円ですが、 447ページで1000枚の写真・・という危険な雰囲気。。
さすがにこんなマニアックな本には手を出さないつもりですけど、
人生、何が起きるかわかったもんじゃありません。








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