ナチスと動物 -ペット・スケープゴート・ホロコースト- [ナチ/ヒトラー]
ど~も。ヴィトゲンシュタインです。
ボリア・サックス著の「ナチスと動物」を読破しました。
2002年に出た310ページの本書の存在に気が付いたのは、
「健康帝国ナチス」を読んだ時だったでしょうか。
ただ、どこにも書評が書かれていなく、面白いのかどうなのか・・??
とりあえず、以下のamazonの情報だけを頼りに。
「生き物を偏愛し、ペット愛玩から屠殺法まで、詳細を極めたナチスの動物愛護の仕方。
その生命観が、なぜ極端な人種差別と死の強制収容所へと走らせたのか。
『血と大地』というヒトラーの純血主義の陥穽を、動物という身近な視点から大胆に解明―。 」
これだけ読んでもいまいち内容が伝わってきませんが、はたしてどんなもんでしょう。
冒頭で著者は、「動物に対するナチスの複雑かつ時には辻褄の合わない態度に焦点を当て、
ナチスが従来概念の「人間」と「動物」の区別ではなく、「主人」と「奴隷」の区別を持っていたとし、
アウシュヴィッツ所長のルドルフ・ヘースがロシア人戦争捕虜について語った言葉、
「やつらはもう人間ではない。食うことしか頭にない獣になり果てやがった」や、
トレブリンカのクルト・フランツが囚人に犬をけしかける際に怒鳴った言葉、
「おい、人間ども、犬に噛みつけ!」を紹介します。
「人間と類人猿の間の過渡的存在」とする見識まであったというユダヤ人については、
機関誌「デア・シュテュルマー」の風刺漫画を掲載して、その猿顔に描かれたユダヤ人の姿や、
編集者のナチズムの狂犬、シュトライヒャーのユダヤ人を「人殺し民族」とみなす奇怪な妄想と、
その飼い主である「菜食主義者」ヒトラーにとって、手に負えなくなっていたことにも言及します。
フランケンの大管区指導者でもあった彼は、ユダヤ商人250人に対し、
「牛として自分の歯で草を噛み取る作業」を命じたり、悪名高い好色家の本領を発揮して、
「アーリア人の処女を奪う架空のユダヤ人を妄想」して、身代わりの悦楽に耽るのです。
ついに「指導者として不適」との烙印を押されて、権力を奪われ、田舎に引っ込むことに・・。
絶対に近い純潔の理想を掲げながらも、そんな退廃の汚辱にまみれていたとして、
マチアス・パドゥアの「レダと白鳥」がポルノまがいの獣姦の描写で評判になると、
ヒトラーは直ちにコレを購入したとか、蛇との抱擁に耽る女を描いたお気に入りの画家、
フォン・シュトレックの作品を眺めては悦に入った・・と書かれていますが、
古典的な裸体の絵画をヒトラーは好んでいただけで、エロい悪趣味と考えるのはどうかなぁ・・?
第6章は「生贄の豚」です。
ヒムラーにも大きな影響を与えたヴァルター・ダレを取り上げて、
単純で誠実で大地と深く結びついた農民たちの世界を夢見た彼の「血と土」に言及。
そしてダレはドイツ人にとって豚が最良の動物と推奨します。
「豚は北方の森林のドングリなどを食べて大いに繁殖する。
生贄の豚は古代アーリア人の女神に最も好まれた動物だった」。
次の章は「アーリア人の狼」で、これにピンと来た方は第三帝国マニアですね。
それはヒトラーが好んで使ったニックネームが「狼」であり、「ヴォルフおじさん」とか、
独ソ戦の大本営が「ヴォルフスシャンツェ」などが有名です。
第三帝国を象徴する動物である「アドラー(鷲)」を含めて、イメージは捕食動物であり、
いくらダレが推奨したからといって、「豚」ではよろしくありません。
そして「犬」。
20世紀の初頭、「原始のゲルマン犬」と称する品種が交配によって再現され、
今日「ジャーマンシェパード」と呼ばれることとなります。
競走馬のサラブレットのように純血な交配は各国でも行われてきており、
ナチスも切手にするなど、力を入れていますが、
「馬やロバの品種改良に熱心な人々が、人間のそれにまったく無頓着なのは、
悲劇的としか言いようがない」と語るのは、ローゼンベルクです。
現代社会でもサラブレットがレースを制し、雑種はしばしば捨てられるか「安楽死」処分。
ナチスもこれと同様に、人種的に純粋でない人間は安楽死処分して当然と考えたとしています。
第1次大戦の塹壕の中、迷い込んできた犬を溺愛したヒトラーは、
ブロンディと名付けたジャーマンシェパードを自殺の間際まで可愛がり、
寂しさを訴えるエヴァには2匹のテリアをプレゼントします。
ココではそんな犬好きヒトラーのエピソードもいくつか紹介。
前線の兵士たちも常時、犬を同行しています。
勇敢さや攻撃性向などの資質は兵士の模範とされ、犬の飼育、訓練、品種改良には、
SSが当たり、強制収容所の囚人監視にも犬は駆り出されます。
しかし兵士たちの戦友といえば、やはり「馬」です。
強いが野蛮でも獰猛でもない馬は、規律正しいプロの軍人のシンボルでもあり、
「物言わぬ戦友、忠実な手助け、あらゆる義務を果たす馬こそ我らの武装した戦友である」。
第2次大戦では騎兵だけでなく、輸送用として兵4人に対し、1頭が与えられます。
占領したソ連からは100万頭を奪い、ポーランドやその他の占領地からも徴用。
またナチスとしては馬を記念牌的な彫像の対象にも採用し、アルノ・ブレーカーの他、
ヨゼフ・トーラックの手による巨大な彫像がニュルンベルクのマース広場に姿を現します。
本書では所々で写真や新聞の挿絵が掲載されていて、
1938年に掲載されたトーラックの「世界最大のアトリエ」の絵入り新聞も載っていました。
このような犬や馬といった軍務についた動物たち。
あの「図説 死刑全書」のシリーズに、「図説 動物兵士全書」がありました。
ソ連の「地雷犬」とか出てくるんでしょうか?? ちょっと気になります。
「健康帝国ナチス」の最後でも触れられていた「ペルンコップ解剖学」問題も紹介した後、
「動物の扱いに関するナチスの法律」へと進みます。
1933年4月には、早くも動物の屠殺に関する法律を議決し、
屠殺に先立っては動物に麻酔をかけるか、特殊なハンマーなどによる頭部への一撃で
気絶させることを定めます。
ユダヤ人の伝統的な喉を切り裂いて放血させるという「コーシャ屠殺」はこれによって禁止。
動物好きでライオンまで飼っていたゲーリングは、次々と法律を改定し、
動物保護法の禁止事項は詳細を極め、慣れた動物を野生に放つこと、
動物を公共の娯楽で使うことなどが禁止となっていきます。
1936年には「魚類」も哺乳類と同様に、殺す前に麻酔をかけるよう定められます。
やり方は目の上に強い打撃を与えるか、電流を用いること・・。
ウナギ目は皮に切れ目を入れて心臓を摘出して殺しても良いとされ、
生きている甲殻類を水から沸騰させて、その内臓を抜くことは禁止。
ただし、ロブスターなどの甲殻類は沸騰状態の湯銭に入れて、
絶命を瞬時にかつ確実に行うことはよいとされます。
最近、「魚に怖くて触れな~い」とか、「こっち見てる気がしてさばけな~い」なんて言う、
女の子が(日本男子も!)たまにいるようですが、まったく困ったもんですね。。
著名な動物学者が実験で麻酔をかけたミミズを切ったところ、わずかに動いたミミズが一匹。
それを目撃した学生のひとりが密告し、内務省(ゲシュタポ?)から叱責される学者・・。
もちろん列車や自動車による馬、牛、豚、鶏の輸送方法もこと細かく定められ、
求められる空間の容量に、適切な清掃、充分な食料を与えることに加え、
動物虐待行為があった場合には、徹底的な責任追及が行われます。
そして、コレと真逆な輸送方法が、人間の強制収容所への輸送方法なのです。
狩猟大好きゲーリングは、「自然保護法」を定めて、帝国狩猟長官と帝国森林長官を兼任。
罠を仕掛けることや、非人道的とみなされた弾薬類は使用禁止。
17世紀初頭に絶滅したヨーロッパ野牛、オーロックを復活させることを目指し、
米国のバッファローを含む、各種ウシ属を交配して、オーロックの再現に成功したと主張するも、
一頭も生き長らえることはなかったそうな・・。
この狩猟についてはヒトラーのナチス政策というより、完全なゲーリングの趣味だと思いますね。
ヒトラーは「猟銃でウサギを殺すのは男らしくない」という考え方ですし、
ヒムラーも「罪のない動物を欲望のために殺するのは可哀そう・・」という立場です。
戦時体制に入った食肉産業。
ドレスデンの巨大な食肉処理場は空前の活況を呈し、前線の兵士に向けて
24時間体制での操業を続けます。
動物の大半が占領地域から運び込まれただけではなく、労働者も占領地域から強制的に・・。
あのクルスクからだけでも28万頭の牛、25万匹の豚、42万匹の羊を強奪したそうです。
屠殺は閉め切った空間のみで肉職人が行うこととされ、麻酔を使用しなくても良いケースは、
ナイフの一振りで首を切り落とすことができる「鶏」のみです。
この意図的に一般大衆の目から遮断された食肉処理場。
従業員の行動様式は、殺しを楽しむように動物をじっくりといたぶる者、
しかし大多数はこの仕事を心理的に切り離し、機械的に屠殺を行い、
また、儀式などの助けを得て、動物の苦痛を進んで軽減しようとする者に分かれ、
このような行動は「普通の人びと -ホロコーストと第101警察予備大隊-」に書かれていた
「ユダヤ人狩り」に進んで参加する者、これを避けようとする者とずばり一致するとしています。
アル・カポネが牛耳っていたシカゴでも食肉処理場は特に暗黒の部分であり、
殺し屋は牛と豚の屠殺から闇の人生をスタートさせる、非公式の訓練場だったいう話まで・・。
そういえば、最近観た「ゴッド・オブ・バイオレンス/シベリアの狼たち」という映画で、
吊るされた精肉相手にジョン・マルコヴィッチがナイフの使い方を教えるシーンがありました。
この「屠殺」の章では、子供の頃に聞いた千住にあったという屠殺場のことを思い出しました。
「あそこで働いている人は○○だから、行っちゃいかん・・」みたいな怖い話だったですが、
○○が何だったのか覚えていなくて、ちょっと調べてみると、
「賤民」や「部落」などという差別問題なんですね。
本書は章ごとにナチスに触れる前に、古代ローマ時代から中世の動物にまつわる話が多く、
それはそれで勉強にはなりますが、興味がなければ、結構、読み飛ばしてしまうでしょう。
それはともかく本書では、ナチスが定めた人道的な法律の多くについて、
「正しかったと私たちは認める必要があり、動物には優しく、人間には時に残酷という、
ナチスの心理構造は、西欧文化に広く見られる傾向であった」としています。
最終的に本書が「ガス室はナチスの言う『安楽死』を目的としていた」と言いたかったのであれば、
その動物愛護と慈悲深い屠殺方法が「ホロコーストの手順」にも影響していたと納得できます。
ただ、ハッキリとそうだと宣言しているわけではないのがスッキリしませんね。
またガス室での大量殺害方法に至った経緯は、
「静かに、素早く、大量に、確実に」を突き詰めたものであり、
①被処刑者をパニックに陥れることなく、
②処刑者が面と向かって手を下す精神的負担を減らす・・、
ということが、まず大きな理由だと、個人的には思っています。
ですから、慈悲深い措置という思いがいくらかはあったにせよ、順番としては3番目以降でしょう。
ニューヨーク出身の著者による西洋の肉食文化が基準になっているとはいえ、
スーパーで売っている肉片しか見たことのない日本人も、
まるでタブー視されているかのような屠殺現場を知ったうえで、
改めて料理する、そして動物を食するという意味を考える必要があるとも感じた一冊でした。
ボリア・サックス著の「ナチスと動物」を読破しました。
2002年に出た310ページの本書の存在に気が付いたのは、
「健康帝国ナチス」を読んだ時だったでしょうか。
ただ、どこにも書評が書かれていなく、面白いのかどうなのか・・??
とりあえず、以下のamazonの情報だけを頼りに。
「生き物を偏愛し、ペット愛玩から屠殺法まで、詳細を極めたナチスの動物愛護の仕方。
その生命観が、なぜ極端な人種差別と死の強制収容所へと走らせたのか。
『血と大地』というヒトラーの純血主義の陥穽を、動物という身近な視点から大胆に解明―。 」
これだけ読んでもいまいち内容が伝わってきませんが、はたしてどんなもんでしょう。
冒頭で著者は、「動物に対するナチスの複雑かつ時には辻褄の合わない態度に焦点を当て、
ナチスが従来概念の「人間」と「動物」の区別ではなく、「主人」と「奴隷」の区別を持っていたとし、
アウシュヴィッツ所長のルドルフ・ヘースがロシア人戦争捕虜について語った言葉、
「やつらはもう人間ではない。食うことしか頭にない獣になり果てやがった」や、
トレブリンカのクルト・フランツが囚人に犬をけしかける際に怒鳴った言葉、
「おい、人間ども、犬に噛みつけ!」を紹介します。
「人間と類人猿の間の過渡的存在」とする見識まであったというユダヤ人については、
機関誌「デア・シュテュルマー」の風刺漫画を掲載して、その猿顔に描かれたユダヤ人の姿や、
編集者のナチズムの狂犬、シュトライヒャーのユダヤ人を「人殺し民族」とみなす奇怪な妄想と、
その飼い主である「菜食主義者」ヒトラーにとって、手に負えなくなっていたことにも言及します。
フランケンの大管区指導者でもあった彼は、ユダヤ商人250人に対し、
「牛として自分の歯で草を噛み取る作業」を命じたり、悪名高い好色家の本領を発揮して、
「アーリア人の処女を奪う架空のユダヤ人を妄想」して、身代わりの悦楽に耽るのです。
ついに「指導者として不適」との烙印を押されて、権力を奪われ、田舎に引っ込むことに・・。
絶対に近い純潔の理想を掲げながらも、そんな退廃の汚辱にまみれていたとして、
マチアス・パドゥアの「レダと白鳥」がポルノまがいの獣姦の描写で評判になると、
ヒトラーは直ちにコレを購入したとか、蛇との抱擁に耽る女を描いたお気に入りの画家、
フォン・シュトレックの作品を眺めては悦に入った・・と書かれていますが、
古典的な裸体の絵画をヒトラーは好んでいただけで、エロい悪趣味と考えるのはどうかなぁ・・?
第6章は「生贄の豚」です。
ヒムラーにも大きな影響を与えたヴァルター・ダレを取り上げて、
単純で誠実で大地と深く結びついた農民たちの世界を夢見た彼の「血と土」に言及。
そしてダレはドイツ人にとって豚が最良の動物と推奨します。
「豚は北方の森林のドングリなどを食べて大いに繁殖する。
生贄の豚は古代アーリア人の女神に最も好まれた動物だった」。
次の章は「アーリア人の狼」で、これにピンと来た方は第三帝国マニアですね。
それはヒトラーが好んで使ったニックネームが「狼」であり、「ヴォルフおじさん」とか、
独ソ戦の大本営が「ヴォルフスシャンツェ」などが有名です。
第三帝国を象徴する動物である「アドラー(鷲)」を含めて、イメージは捕食動物であり、
いくらダレが推奨したからといって、「豚」ではよろしくありません。
そして「犬」。
20世紀の初頭、「原始のゲルマン犬」と称する品種が交配によって再現され、
今日「ジャーマンシェパード」と呼ばれることとなります。
競走馬のサラブレットのように純血な交配は各国でも行われてきており、
ナチスも切手にするなど、力を入れていますが、
「馬やロバの品種改良に熱心な人々が、人間のそれにまったく無頓着なのは、
悲劇的としか言いようがない」と語るのは、ローゼンベルクです。
現代社会でもサラブレットがレースを制し、雑種はしばしば捨てられるか「安楽死」処分。
ナチスもこれと同様に、人種的に純粋でない人間は安楽死処分して当然と考えたとしています。
第1次大戦の塹壕の中、迷い込んできた犬を溺愛したヒトラーは、
ブロンディと名付けたジャーマンシェパードを自殺の間際まで可愛がり、
寂しさを訴えるエヴァには2匹のテリアをプレゼントします。
ココではそんな犬好きヒトラーのエピソードもいくつか紹介。
前線の兵士たちも常時、犬を同行しています。
勇敢さや攻撃性向などの資質は兵士の模範とされ、犬の飼育、訓練、品種改良には、
SSが当たり、強制収容所の囚人監視にも犬は駆り出されます。
しかし兵士たちの戦友といえば、やはり「馬」です。
強いが野蛮でも獰猛でもない馬は、規律正しいプロの軍人のシンボルでもあり、
「物言わぬ戦友、忠実な手助け、あらゆる義務を果たす馬こそ我らの武装した戦友である」。
第2次大戦では騎兵だけでなく、輸送用として兵4人に対し、1頭が与えられます。
占領したソ連からは100万頭を奪い、ポーランドやその他の占領地からも徴用。
またナチスとしては馬を記念牌的な彫像の対象にも採用し、アルノ・ブレーカーの他、
ヨゼフ・トーラックの手による巨大な彫像がニュルンベルクのマース広場に姿を現します。
本書では所々で写真や新聞の挿絵が掲載されていて、
1938年に掲載されたトーラックの「世界最大のアトリエ」の絵入り新聞も載っていました。
このような犬や馬といった軍務についた動物たち。
あの「図説 死刑全書」のシリーズに、「図説 動物兵士全書」がありました。
ソ連の「地雷犬」とか出てくるんでしょうか?? ちょっと気になります。
「健康帝国ナチス」の最後でも触れられていた「ペルンコップ解剖学」問題も紹介した後、
「動物の扱いに関するナチスの法律」へと進みます。
1933年4月には、早くも動物の屠殺に関する法律を議決し、
屠殺に先立っては動物に麻酔をかけるか、特殊なハンマーなどによる頭部への一撃で
気絶させることを定めます。
ユダヤ人の伝統的な喉を切り裂いて放血させるという「コーシャ屠殺」はこれによって禁止。
動物好きでライオンまで飼っていたゲーリングは、次々と法律を改定し、
動物保護法の禁止事項は詳細を極め、慣れた動物を野生に放つこと、
動物を公共の娯楽で使うことなどが禁止となっていきます。
1936年には「魚類」も哺乳類と同様に、殺す前に麻酔をかけるよう定められます。
やり方は目の上に強い打撃を与えるか、電流を用いること・・。
ウナギ目は皮に切れ目を入れて心臓を摘出して殺しても良いとされ、
生きている甲殻類を水から沸騰させて、その内臓を抜くことは禁止。
ただし、ロブスターなどの甲殻類は沸騰状態の湯銭に入れて、
絶命を瞬時にかつ確実に行うことはよいとされます。
最近、「魚に怖くて触れな~い」とか、「こっち見てる気がしてさばけな~い」なんて言う、
女の子が(日本男子も!)たまにいるようですが、まったく困ったもんですね。。
著名な動物学者が実験で麻酔をかけたミミズを切ったところ、わずかに動いたミミズが一匹。
それを目撃した学生のひとりが密告し、内務省(ゲシュタポ?)から叱責される学者・・。
もちろん列車や自動車による馬、牛、豚、鶏の輸送方法もこと細かく定められ、
求められる空間の容量に、適切な清掃、充分な食料を与えることに加え、
動物虐待行為があった場合には、徹底的な責任追及が行われます。
そして、コレと真逆な輸送方法が、人間の強制収容所への輸送方法なのです。
狩猟大好きゲーリングは、「自然保護法」を定めて、帝国狩猟長官と帝国森林長官を兼任。
罠を仕掛けることや、非人道的とみなされた弾薬類は使用禁止。
17世紀初頭に絶滅したヨーロッパ野牛、オーロックを復活させることを目指し、
米国のバッファローを含む、各種ウシ属を交配して、オーロックの再現に成功したと主張するも、
一頭も生き長らえることはなかったそうな・・。
この狩猟についてはヒトラーのナチス政策というより、完全なゲーリングの趣味だと思いますね。
ヒトラーは「猟銃でウサギを殺すのは男らしくない」という考え方ですし、
ヒムラーも「罪のない動物を欲望のために殺するのは可哀そう・・」という立場です。
戦時体制に入った食肉産業。
ドレスデンの巨大な食肉処理場は空前の活況を呈し、前線の兵士に向けて
24時間体制での操業を続けます。
動物の大半が占領地域から運び込まれただけではなく、労働者も占領地域から強制的に・・。
あのクルスクからだけでも28万頭の牛、25万匹の豚、42万匹の羊を強奪したそうです。
屠殺は閉め切った空間のみで肉職人が行うこととされ、麻酔を使用しなくても良いケースは、
ナイフの一振りで首を切り落とすことができる「鶏」のみです。
この意図的に一般大衆の目から遮断された食肉処理場。
従業員の行動様式は、殺しを楽しむように動物をじっくりといたぶる者、
しかし大多数はこの仕事を心理的に切り離し、機械的に屠殺を行い、
また、儀式などの助けを得て、動物の苦痛を進んで軽減しようとする者に分かれ、
このような行動は「普通の人びと -ホロコーストと第101警察予備大隊-」に書かれていた
「ユダヤ人狩り」に進んで参加する者、これを避けようとする者とずばり一致するとしています。
アル・カポネが牛耳っていたシカゴでも食肉処理場は特に暗黒の部分であり、
殺し屋は牛と豚の屠殺から闇の人生をスタートさせる、非公式の訓練場だったいう話まで・・。
そういえば、最近観た「ゴッド・オブ・バイオレンス/シベリアの狼たち」という映画で、
吊るされた精肉相手にジョン・マルコヴィッチがナイフの使い方を教えるシーンがありました。
この「屠殺」の章では、子供の頃に聞いた千住にあったという屠殺場のことを思い出しました。
「あそこで働いている人は○○だから、行っちゃいかん・・」みたいな怖い話だったですが、
○○が何だったのか覚えていなくて、ちょっと調べてみると、
「賤民」や「部落」などという差別問題なんですね。
本書は章ごとにナチスに触れる前に、古代ローマ時代から中世の動物にまつわる話が多く、
それはそれで勉強にはなりますが、興味がなければ、結構、読み飛ばしてしまうでしょう。
それはともかく本書では、ナチスが定めた人道的な法律の多くについて、
「正しかったと私たちは認める必要があり、動物には優しく、人間には時に残酷という、
ナチスの心理構造は、西欧文化に広く見られる傾向であった」としています。
最終的に本書が「ガス室はナチスの言う『安楽死』を目的としていた」と言いたかったのであれば、
その動物愛護と慈悲深い屠殺方法が「ホロコーストの手順」にも影響していたと納得できます。
ただ、ハッキリとそうだと宣言しているわけではないのがスッキリしませんね。
またガス室での大量殺害方法に至った経緯は、
「静かに、素早く、大量に、確実に」を突き詰めたものであり、
①被処刑者をパニックに陥れることなく、
②処刑者が面と向かって手を下す精神的負担を減らす・・、
ということが、まず大きな理由だと、個人的には思っています。
ですから、慈悲深い措置という思いがいくらかはあったにせよ、順番としては3番目以降でしょう。
ニューヨーク出身の著者による西洋の肉食文化が基準になっているとはいえ、
スーパーで売っている肉片しか見たことのない日本人も、
まるでタブー視されているかのような屠殺現場を知ったうえで、
改めて料理する、そして動物を食するという意味を考える必要があるとも感じた一冊でした。