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戦時広告図鑑 -慰問袋の中身はナニ?- [日本]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

町田 忍 著の「戦時広告図鑑」を読破しました。

去年の6月に「戦う広告 -雑誌広告に見るアジア太平洋戦争-」という本を紹介していますが、
1997年、219ページ本書も同じく、戦時中の広告を集めた一冊です。
大きな違いといえば、アチラが雑誌広告が対象だったのに対して、
コチラは新聞広告であり、その数、500点。
また、第2次大戦だけでなく、日清戦争、日露戦争時の広告にも触れられているということで、
このような広告は、銃後の世界が垣間見えるので、大好きですね。

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まずは「日清戦争」の広告が8ページほど。
明治28年には、陸軍軍医推薦の「印度 大麻煙草」がいきなり登場します。
大麻っていつまで合法だったんだっけなぁ??

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日露戦争だと明治38年の高野鐡道が「汽車賃全線六銭以上なし」とアピールしますが、
コレは「露苦戦(六銭)」のシャレになってるんですね。
「酒」の項ではそんな日露戦争時の新聞に掲載されていた酒にまつわる話を紹介しています。

ロシア軍が退去した後の人家で水瓶を見つけて、垢流しをしようと飛び込んだ将校。
「アッ」と叫んで飛び出したので、兵士が「どうなさいました」と言うと、
「イャどうも失敬失敬、水だと思ったら焼酎ぢゃった。
こうと知っていたら、入らないうちに飲むのであったのに、残念なことをした。
実はインキン・タムシへ浸みて痛かったので焼酎ということが判った」。
「オイオイ汚い、それでは飲めない」という兵士があると、
「ナニ、かまふものか、タムシが伝染する気遣いはないから、飲め飲め」と両手ですくったり、
水瓶の中へ首を入れてズーズーすする人もありまするし・・。

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他にも「斜面に散乱している両軍将校の屍を収容しよう」と休戦の約束がなされ、
ロシア軍の塹壕近くにあった多くの日本兵の屍をロシア兵が運んでくると、
両軍の将校たちは歓談し、酒杯を交わし、肩を叩きあいながら奮戦ぶりを称え、
旅順は陥落しない」と言うロシア人将校と、「否、必ず攻め落としてみせる」と言う日本人将校。
約束の時間になると、一人一人握手を交わし、今後の健闘を誓い合って別れていった・・と、
面白い話ですね。「戦場のクリスマス」を思い出しました。

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あっと言う間に昭和に入り、「銃」や「飛行機」といったテーマごとに広告が。
昭和13年9月には艦爆5機による「海軍機編隊急降下爆撃戦闘公開」なんてのも出てきました。

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「慰問袋」には仁丹とメンソレータムの広告が数多く、
正露丸は以前に、ロシアに勝ったから「征露丸」、戦後に「正露丸」になったと書きましたが、
実は最高裁判決で「一般的普通名詞とみなす」となって、いろんな会社が作っているそうです。
そして現在でも「征露丸」を販売する会社も存在しているのでした。
ロシア嫌いでお腹の弱い方は、コレを買いましょう。

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「果てしなき中・南支の湿地帯を征く皇軍将兵の足を悩ますのは大陸独特の頑固な水虫だ」。
というわけで、「水虫と兵隊」がキャッチコピーの「ポンホリン」。
慰問袋に入れましょう・・ということですね。

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空爆にキャラメル持って!」は森永ミルクキャラメルです。
「わが荒鷲部隊は、爆撃に行く時に、必ずキャラメルを持って行く。
機上では一番の、楽しい御馳走だ。慰問袋に感謝する!」
う~ん。商売は薬もお菓子も「慰問袋」に絡めた広告じゃないと厳しい時代なんですね。

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同じ森永ミルクキャラメルでは、「ドイツ・イタリーへ送る親善図画。四百万枚突破!」。
「親善図画の募集は6月末日を以て〆切りましたところ、別記の通り、
空前にして恐らくは絶後であらうと云われる膨大な・・」。

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コレは一体なんだろう??と調べてみると、良くできた作品は独伊に親善として送るというもので、
非売品のスパイラル綴じのものや、絵葉書などが出回っていて、
古書店でも10数万円で売っていました。

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「映画」についても、当時のプロパガンダとしての映画論が書かれていて勉強になりますね。
映画広告も「チョコレートと兵隊」やら、「潜水艦第1号」など、
ちょっと観てみたい作品も紹介されています。

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「音楽」では、「造船音頭」はまだしも、ニッチクレコードの「陸軍現用機爆音集」が凄い。
コレはいわゆるテッチャンが列車の音を録音して聞いたりするのと同じ感覚なんでしょうか??

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そして良く知られた決戦の歌、「進め一億火の玉だ」を聴いてみました。
戦後のバージョンをちょっと紹介してみますが、オリジナルは最後に
「一億!どおんと行くぞお~!」と絶叫のセリフが入ってて怖い怖い。。
片面の「頑張りどころだ」という若干弱気なタイトルが何とも言えません。。

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途中、「大東亜の建築」として、1920年代後半から10年間に集中した
「帝冠様式」と呼ばれる、洋風ビルに日本風屋根の建築物を紹介。
上野の「国立博物館」はもともとは明治時代にコンドルの設計で建てられますが、

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関東大震災で本館が大破して、使用不能に・・。

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そして昭和12(1937)年、復興本館がコンペによって選ばれますが、募集規定には、
「日本趣味ヲ基調トスルコト」と書かれており、現在の姿になるのでした。

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本書では昭和9(1934)年建設された「九段会館(旧軍人会館)」も写真で紹介。
確かにココも好きな雰囲気なんですよねぇ。

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阪急西宮球場では「国防科学博」の閉場が迫っています。
武装落下傘降下実演」と、「新鋭戦車より火焔放射実演」とスリル満点。
その他、豆戦車無線操縦に、なぜか漫才、奇術も。。やっぱり関西だから??

灯火管制用電球」はまるでスポットライトですね。

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戦時下の国民生活では、昭和20年7月に新聞に掲載された「排尿から食塩が取れる」方法。。
「製法は簡単。尿をすのこ屑に吸収させ天日で乾燥した後、不燃性の容器に入れて燃焼し、
有機物を炭化させ、少量の水を加え、再びこれを普通の製塩法のように天日・・・」って、
全然簡単じゃありません。。ともかく場合によっては淡黄色を帯びたこの食塩が、
この方法で一人一年五キログラム作れるそうです。

まぁ、冗談みたいな話ですが、こういうのを真剣に考えてしまう悪い癖があります。
作り方はわかっても、イザ実行に移そうとすればいろいろ問題があり、
例えば、オシッコは尿瓶にして溜めとくか、母さんと姉さんのも使うのか・・とか、
その場合フレンドはしないで、母さんのやつは母さん用の塩にするのか・・とか、
何日分くらい溜めてから作業をするのか、当時は冷蔵庫もないし、夏は早く傷むのか・・とか。。

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国民服」は国防色で背広型の甲号と、詰襟制服型の乙号(青少年用)の2種類。
一応、陸軍被服協会が公募によるデザインを参考に制定したとされていますが、
本書では、当初からデザインは決まっていたと推測しています。
昭和15年の「主婦の友 付録」にも国民服の作り方が・・。 

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ナショナルは「ラヂオ普及率 世界第29位で満足すべきか・・」と挑戦的。
386万、53人に一台の普及率で、盟友ドイツが1000万の聴取者を動員して
大ドイツ帝国の建設に・・と、謳っています。
またゲッベルスの顔写真付きで「ドイツのラヂオ政策」を紹介したり・・。

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このようなドイツとの比較では、「ヒットラー・ユーゲントを見て、明日のドイツの輝かしさを思う
という「講談社」の広告もありました。
やっぱり彼らの来日はインパクトがあったんでしょうね。
それにしても、ラジオなのに「テレビアン」とはコレ如何に。。

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昭和12年当時、全国には3つの婦人団体があったという話は一番、面白かったですね。
陸軍省下の「大日本国防婦人会」、
内務省下の「愛国婦人会」、
文部省下の「大日本連合婦人会」です。

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いずれも目的はほとんど同じで、防空訓練、慰問品募集、傷病軍人や遺族の支援、
国防献金推進運動などですが、それぞれの勢力拡大のためにトラブルも多くなり、
戦争も泥沼化してきて昭和17年に統合され、「大日本婦人会」が発足したそうです。

各婦人団体の会員章がイラストで掲載されていたりと、
こういうのは大好きなので、いろいろと調べてしまいました。
大日本国防婦人会の会員章は色違いがあるんですが、残念ながら詳しいことは不明。。

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愛国婦人会は形は一緒ですが、コレは特別有功章です。

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愛国婦人会の「処女団」の会員章。
要は「未婚」女性という意味でしょう。婦人=「女性」ということかな??  
未婚=「処女」って、アイドル・オタクの妄想みたいですが、当時はそんな感じなんでしょう。

愛国婦人会「処女団」.jpg

大日本連合婦人会はこんな感じ。

大日本聯合婦人会之章.jpg

そして統合された大日本婦人会。
戦争末期の物資不足なのか、素材もちゃっちくなった気がしますね。

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このような当時の女性たちの生活そのものに、とても興味があるんですが、
ニセドイツ」の共産趣味インターナショナルVOL4が近々、出るようです。
『共産主婦―東側諸国のレトロ家庭用品と女性たちの一日』というこの本は、
旧共産圏、東ドイツ・ソ連・ポーランド・ハンガリー・チェコスロバキア・ルーマニア・ブルガリアの
主婦がどういう生活を送っていたか、当時の雑貨と、各国を代表するドールを用いて、再現・・、
という内容だそうで、オールカラーで実に楽しそうです。ただ、発売日が不明なり。。

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戦時中の広告で面白いのは、どんなメーカーでも商品を沢山売りたいわけですが、
国策として節約を奨励しているため、その線に沿ったキャッチコピーに苦慮していることです。
他国と比較してみたり、慰問袋に入れると兵隊さんが喜ぶよ・・といった具合ですね。

実は「独破戦線」で密かな人気を誇る、「嘘八百 -明治大正昭和変態広告大全-」や、
資料が語る戦時下の暮らし -太平洋戦争下の日本:昭和16年~20年-」、
戦う広告 -雑誌広告に見るアジア太平洋戦争-」といった日本の銃後生活や広告もの。
次は「世情を映す昭和のポスター -ポスターに見る戦中・戦後の日本-」を読んでみる予定です。








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