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コンドル兵団 -スペイン内戦に介入したドイツ人部隊- [ドイツ空軍]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

カルロス・カバリェロ・フラド著の「コンドル兵団」を読破しました。

今年の一発目、「スペイン戦争」を読んで以来、ちょこちょこ関連本を探しましたが、
オスプレイ・ミリタリー・シリーズの本書を発見して早速購入しました。
この「世界の軍装と戦術」シリーズは以前に、「第二次大戦のドイツ軍婦人補助部隊」と、
第二次大戦の連合軍婦人部隊」で、薄い本ながらも大変勉強になりました。
本書は2007年のシリーズ第1弾で、67ページの薄さでも2415円。。
綺麗な古書をなんとか半額で購入できました。

コンドル兵団.jpg

まずは1936年7月から始まったスペイン内戦を簡単に解説します。
フランコ反乱軍は自らを「民族主義者」と呼び、本書では一般的という「ナシオナリスタ」を使い、
対する政府側は彼らのことを単に「ファシスタス」と呼びますが、
そんな敵を「ナシオナリスタ」は、「アカども(ロホス)」と呼ぶのです。

そしてヒトラーのドイツがこの内戦に介入した理由を3つ挙げます。
フランスにおいても人民戦線政府が選出され、ソ連と軍事同盟を結ぼうという動きがあり、
それにスペインを含めた軍事的包囲に置かれるのでは・・という懸念。
次にイタリアとの強固な同盟関係を築くためのナシオナリスタ支援。
最後に、前年から公けになった再軍備における、兵器、戦術の実質的な試験場・・です。

A surrendered rebel led to a summary court-martial July 27, 1936 in Madrid..jpg

とりあえず、Ju-52輸送機を20機、アフリカ軍司令官フランコ将軍のスペイン領モロッコに送り、
18000名を超えるスペイン・アフリカ軍の最精鋭部隊である「スペイン外人部隊」と、
モロッコ人から成る「正規軍」をスペインの地へ送り届けます。
1日に4回も飛び、17人乗りのJu-52に40名もの将兵と武器、装備品を詰め込みます。
そしてこれが史上初めての戦略的な兵員輸送となるのです。

Guardia Mora Legion condor.jpg

ドイツ人パイロットには戦闘任務を避けるよう厳命されていますが、
ジブラルタル海峡を哨戒する共和国政府海軍艦艇から砲火を浴びせかけられると、
8月13日、お返しとばかりに爆撃機型Ju-52で「ハイメ一世」を攻撃して、損傷を負わせます。
これが男爵フォン・モロー中尉によるスペインにおけるドイツ人最初の戦闘行動だそうです。

JU-52  LEGION CONDOR.jpg

また、スペイン人パイロットにHe-51戦闘機の訓練を行うも、戦意旺盛なドイツ人は
「スペイン人はハインケルを飛ばすことができない」と嘘の報告をベルリンに送り、
彼ら自身が「戦ってよい」という許可を得るのでした。
この策士は不明ですが、限りなくガーランドがやりそうな手口ですね・・。
ちなみに後に送られてきたBf-109による最初の勝利は、
ギュンター・リュッツォウによるものだそうです。さすがだなぁ。。

Gunther Lutzow.jpg

スペイン語が話せた指揮官、フォン・シューレ少佐の後任としてやってきたのは、
前途有望な陸軍将校、その名もヴァルター・ヴァーリモント中佐です。
敵がソ連から武器の供給を受け始めたことを知り、彼はより多くの飛行機と対空砲に加え、
戦車と対戦車砲も必要と報告します。
こうしてⅠ号戦車2個中隊と3.7㎝対戦車砲を送ることが決まり、
リッター・フォン・トーマ中佐が「ドローネ(雄蜂)」の暗号名の戦車大隊指揮官に任命されます。

Wilhelm von Thoma.jpg

しかしソ連の強力なT-26戦車などの兵器によってマドリードへの攻撃が阻止され、
ドイツはナシオナリスタの弱点を補うために一層、戦闘部隊を派遣することとし、
これによって「コンドル軍団(兵団)」が創設されます。

本書には1ページに1枚の割合で写真が掲載されており、キャプションも勉強になります。
例えば、コンドル軍団所属の航空機に書かれた数字の意味・・。
黒丸を挟んで左側の数字が飛行機の形式を表し、右は個々の機の就役番号。
形式は、2=He51、6=Bf109、22=Ju52、25=He111、27=Do17、29=Ju87など。

He51 Condor Legion.jpg

コンドル軍団の構成も詳しく解説し、指揮官も初代のウーゴ・シュペルレ
その後任はヘルムート・フォルクマン、最後はフォン・リヒトホーフェンです。
写真は一番知られていないフォルクマンがありました。
リヒトホーフェンは表紙の右で敬礼していますね。

続いて「制服」。
ドイツ人だと気づかれないようにスペイン陸軍伝統のオリーブないし、カーキ・ブラウンが選ばれ、
黒ネクタイにドイツ空軍型の野戦帽に略帽。将校は銀色のパイピング付きです。
ドローネ戦車大隊ではスペイン製の黒いベレー帽をかぶり、
後にトーテンコップと銀のハーケンクロイツがピンで留められます。

Condor Lgion Panzer Baskenmütze.jpg

戦闘機隊は「88戦闘大隊(JG88)」と呼ばれ、ガーランドやエーザウなど、
100機以上のスコアを挙げた大エースを7名排出しています。
スペインでのトップは第3中隊長だったメルダースの14機。
この中隊マークは「ミッキーマウス」で、前任者はガーランドですね。
メルダースのBf109は「6●79」のようです。

Condor Legion_Werner Mölders_Bf 109.jpg

最近、そのメルダースが2005年に名誉剥奪されていたというのを知ったんですが、
その理由は、メルダースが「ゲルニカ爆撃」を行ったコンドル軍団に志願していたことを
当時のペーター・シュトルック国防相が問題視して決定したんだそうです。
メルダースがスペインへ行ったのは、「ゲルニカ爆撃」の後ですから、直接の責任はなく、
あくまで、そんな「非人道的な軍団に志願した」ことが問題なんでしょう。
ドイツ連邦軍の将軍数名がこの決定に反対したそうですし、
このシュトルック元国防相も1年前に亡くなってますから、名誉回復もあるかも知れませんね。
それにしても1998年に制定されたコンドル軍団参加者の名誉剥奪法ってのがよくわからん。。
ソートー」に怒られるよ。

Werner Mölders in Spain.jpg

そして第2中隊のマークは「シルクハット」。

Condor Legion 2.J/88.jpg

本書には出てきませんが、第1中隊のマークの「Holzauge」ってなんなんだろう・・?
「木目」って意味のようですが、「あっかんベー」にしか見えません。。

Condor Legion 1.J/88.jpg

爆撃機隊は「88爆撃大隊(KG88)」と、「88急降下爆撃隊」です。
悪名高い「ゲルニカ爆撃」はこの爆撃機隊によって行われますが、
本書のスペイン人著者は、死者は300人前後と推定されるものの、
当時、世界のメディアは「何千人」もの死者が出たと誇大に報じたとします。
そして敵が退却するルート上の市内に架かる橋は軍事目標として合法的であり、
ナシオナリスタ軍当局が「ゲルニカ破壊はアカどもの仕業」だと非難するという
不器用なやり方が余計に共和国政府側のプロパガンダに繋がったとしています。

legion_condor He-111.jpg

また有名な「爆弾を掴んだ鷲」マークは、もともとパーソナル・マークのようで、
後に第53「コンドル兵団」爆撃航空団」マークとなったそうです。

Legion Condor propagandistic plaque.jpg

次は「高射砲大隊(F88)ですが、面白いのはこの部隊がコンドル軍団最大の部隊で、
1400名の人員を擁していたということです。
20㎜の軽高射砲隊と、88㎜重高射砲隊。さらにはサーチライト小隊まで・・。
特に部隊名と同じ88㎜高射砲は61機の敵機を屠っただけでなく、
完全自動車化ですから、攻勢の際には地上部隊に追随。地上目標も撃破します。
スペイン人も大喜びして、自国軍の9個中隊に装備できるほどドイツから買い入れるのでした。
1940年にロンメルがフランスで初めて水平射撃させたとか書いた奴はいったい誰だ??

Condor Lgion_flak88.jpg

ドイツ陸軍の地上部隊、「ドローネ」戦車大隊は、1個中隊にⅠ号戦車16両の3個の
戦車教育・実験中隊から成り、整備班などを合わせて兵員300名の小ぶりな組織です。
1937年にはナシオナリスタ軍が購入したⅠ号戦車も含めると、122両がスペインで働きますが、
最も強力な戦車中隊は、悲しいかな「鹵獲T-26」装備なのです。
そんなT-26の操作方法をスペイン人に教えるのも、ドローネ隊員の重要な役目。。

legion_condor pz1.jpg

ドイツ軍はⅢ号、Ⅳ号戦車を大量に生産する必要と、装甲部隊の集中使用を認識しますが、
非力なドイツ軍戦車のスペインでの不成績を知ったフランスは、
装甲と火力に勝るフランス戦車に自信を持ち、歩兵の支配下に置くようになるのです。
それにしてもフォン・トーマが部隊のために作らせた415個の特製「戦車バッジ」
戦争が終わるまで非公認だったそうですが、「戦車突撃章」のような基準はなかったんでしょうか。

ドイツ海軍にも4ページほど触れられています。
ポケット戦艦のドイッチュラントだけではなく、アドミラル・シェアグラーフ・シュペー
その他の艦艇に、Uボート14隻が交代しながら配置されたそうです。
そして「スペイン戦争」に書かれていたドイッチュラントがやられた報復として、
アドミラル・シェアが地中海岸の都市、アルメリアに砲撃を加えたり、
U-34がマラガ沖で政府軍潜水艦C-3を魚雷攻撃により撃沈・・。
へ~、スペイン内戦のUボートなんて、初めて知った気がします。
何かに書いてあったかなぁ??

Spanish Civil War_u34.jpg

数十名の海軍将校がスペインに派遣されますが、その暗号名は「北海集団」です。
地中海なのに「北海」・・。
超重戦車「マウス」に、ミニ戦車「ゴリアテ」と同様の、ドイツ得意のセンスですね。。

1939年4月、ナシオナリスタ側の勝利でスペイン内戦は幕を閉じ、
5月、大規模な観閲式が行われます。
ドイツとイタリアのパイロットたちにはスペインの勲章が授与され、
フランコ将軍はコンドル軍団の働きに感謝して、「栄誉の軍旗」を贈ります。
本書の中盤には表紙のようなカラーイラストが8ページ、
軍服だけでなく、この軍旗や各種勲章がイラストで描かれていました。
表面はドイツ空軍の鷲と鉄十字、四隅のうち2つはスペイン国章とファランヘ党章
裏面はスペイン国章になっています。

Condor Legion Standarte.jpg

コンドル軍団軍楽隊の振鈴木旗だと、表面がスペイン国章になるようです。

Parade of Legion Condor having returned from Spain.jpeg

全員が帰国した6月、ヒトラー主催によるパレードに1万4千人が参加します。
新たに制定された「スペイン十字章」が一括して授与されますが、
スペインで授与された各種勲章の解説が細かくて、勲章好きには嬉しいですね。

legion-condor-on-its-return-from-spain-in-berlin-6-june-1939a.jpg

スペイン十字章はまず、剣付きと剣無しに分けられ、
剣付きは金、銀、銅の3等級、戦闘員に対して贈られます。

1. Klasse Spanienkreuz in Gold mit Schwertern.jpg

そして剣無しは「非戦闘員」向け。等級は銀、銅のみです。

Spanienkreuz in Bronze.jpg

端折りましたが、階級章についても詳しく書かれていて、
1本の金色横条を左胸と略帽に付けたこの兵士は、伍長となります。

Condor Legion 1939.jpg

スペインの最高位勲章「聖フェルナンド月桂冠十字章」を受けた者はいませんが、
2番目に高い勲章「個人軍事勲章」がパイロットを中心として63名に与えられます。
最後の参謀長だったハンス・ザイデマンも授与されたそうで、左襟に付けていますね。
そして3つの八茫星は大佐であることを現しています。

oberstleutnant-hans-seidemann-stabschef-of-legion-condor-in-parade-ceremony.jpg

また、3代の司令官、シュペルレ、フォルクマン、リヒトホーフェンには、
ダイヤモンド飾りを施した、特製の「個人軍事勲章」が贈られたそうで、
スペインの伝統から全く外れたこのデザインは、ドイツ人の好みに譲歩したもの・・と、
推測しています。

その次の高位勲章は「戦争十字章」で、1000人ほどが受章。

CROSS Legion Condor, Spain 1936_badge.jpg

続いて5500人以上が受章したのは「軍功赤色十字章」です。
また、全員に与えられたのが「1936-1939出征勲章」で、
早い話、この勲章と「スペイン十字章」は、ほぼ全員がもらったということですね。
下 ↓ は左から個人軍事勲章、軍功赤色十字章、1936-1939出征勲章となります。

str-spa.jpg

逆にスペイン十字章の最高位「剣・ダイヤモンド付きスペイン黄金十字章」は27名。
63名が受章した「個人軍事勲章」と両方を受けたのは、ガーランドら、わずか15名で、
メルダースでさえ「個人軍事勲章」は受章してないんですね。

最後にカフタイトルにも簡単に触れています。後の第53「コンドル兵団」爆撃航空団、
及び、第9高射砲連隊などが使用を許されたそうです。

legion-condor-cuff-title.jpg

もうひとつ、初めて見た赤いカフタイトルはドイツ陸軍の記念袖章で、
戦車教導連隊、もしくは通信教導大隊に参加した者だけが付けることを許されたと・・。

1936-1939 SPANIEN_Cuff Title.jpg

本書では"Legion Condor"を「コンドル兵団」とし、そのドイツ語名称となった経緯も
解説していますが、確かに"Legion"はドイツ軍でも外国人義勇兵部隊に付けられ、
「軍団」であれば複数師団から成るアフリカ軍団のように、"korps"でしょう。
実際、コンドル軍団は1個師団にも満たないので、「兵団」が正しいかな。
ではなぜ日本語で「コンドル軍団」と一般的に呼ばれているのかというと、
推測ですが、先日、「第九軍団のワシ」という映画を観ていてふと思ったことに繋がり、
帝政ローマ時代の"legion"という基本的な戦闘単位が「軍団」とされているんです。
最強の「ローマ軍団」というヤツですね。
そのため、この「レギオーン・コンドル」が"軍団"と和訳されたのかなぁ・・と
思っているところです。

eagle-of-the-ninth.jpg

いや~、でもこの「世界の軍装と戦術」シリーズは本当に薄いんですけど、良い本です。
余計な話は一切ヌキで、知りたかったことが実に詳しくギュッと詰まった感じです。
あえて言えば、このページ数なら定価が1000円台にならないものか・・ということと、
これ以上、読みたい本がないことです。
オスプレイの別のシリーズに手を出してみようかな・・。
対決シリーズの「ティーガーIIvs IS-2スターリン戦車: 東部戦線1945 」とか、
ヴィットマンの最期、「ティーガー1重戦車vsシャーマン・ファイアフライ 」なんて
そこそこ気になります。








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消滅した国々 -第二次世界大戦以降崩壊した183ヵ国- [世界の・・]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

吉田 一郎 著の「消滅した国々」を読破しました。

去年、「世界軍歌全集」の際にコメントでもオススメいただいた本書。
本屋さんで手に取ったこともありましたが、711ページという分厚さにたじろいでいました。
まぁ、それでもず~と気になっていましたし、社会評論社の「ニセドイツ」ファンでもあります。
ソ連や東ドイツなど、今や存在しない183ヵ国を気楽に勉強してみましょう。

消滅した国々.jpg

巻頭の8ページは本書の国々の国旗がカラーで掲載されています。
ソ連、東ドイツ、チェコスロバキア、ユーゴスラビアなど有名な国旗もありますが、
ほとんどは初めて見る国旗の数々・・。
一般人よりは国旗には詳しいつもりですが、コリャ参ったな。。
ちなみに次の3つ国旗、上からマリ連邦、東カプリビ、そしてミゾラムです。

mali_Caprivi_Mizoram.jpg

たまにTVで国旗マニアの小学生が登場したりしますが、あの子たちでも全部は判らないでしょう。
1年前に出た、「国旗 その“隠された意味"に驚く本」が本文に入る前に欲しくなってきました。



「まえがき」では、国連加盟国の数は2012年時点で193。
国連に加盟していないものの、日本と国交がある国がバチカン、コソボ、クック諸島で、
国連加盟国なのに日本が承認していない北朝鮮・・ということで、
日本政府の公式見解は、「世界には195ヵ国ある」。
しかし、台湾やソマリランドなど、存在していながらも世界の大半が承認していない国に、
パレスチナのように世界の大半が承認していても、
日本や西側主要国が承認していない国があるなど、世界の国の数はかなり曖昧だと解説します。

最初の国は「南ベトナム」です。
1954年にフランスから独立し、ベトナム戦争の結果、首都サイゴンが陥落・・。
簡単な年譜に地図などが掲載され、ホー・チミンの写真も登場しながら10ページ。
1国のボリュームとしてはちょうど良いですね。

Hồ Chí Minh_time-16-7-1965.jpg

続いては「マラヤ連邦」。。もう、聞いたこともない国が出てきました。
1957年に英国から独立したこのマラヤ連邦の首都はクアラルンプールで、
1965年にシンガポールが分離独立したという経緯です。

こんな調子で5番目には来ました、「ソ連」です。
ソヴィエト社会主義共和国連邦の「ソヴィエト」は、「労農兵評議会」という意味であり、
社会主義共和国の集まった連邦で、構成するのはウクライナベラルーシなど15の共和国、
ロシア自体も連邦であり、国内に18の「自治共和国」があった・・と、解説します。
レーニンスターリン、ゴルバチョフの写真も掲載しながら、ソ連における社会主義の意味、
そしてペレストロイカにグラスノスチによってソ連が消滅するまでを簡潔ながらわかりやすく・・。

Gorbachev Yeltsin.jpg

6番目は「東ドイツ」。
1953年に生産性向上を狙って労働者のノルマの引き上げを発表すると、各地で暴動が起こり、
この年だけで33万人がベルリン経由で西ドイツへ逃げ出し、
49年~60年まででは、東ドイツの人口の1/4にあたる250万人が亡命。
そのような危機に建設されたのが「ベルリンの壁」です。

Berliner Mauer 1961.jpg

しかし1987年、ホーネッカー書記長が東西ドイツの平和共存をアピールして西ドイツを訪問し、
フランス国境に近い生まれ故郷のノインキルヒェンに里帰りしたことがTV中継されると、
「一番エライ人が西ドイツに行ってるんだから、俺たちにも行かせろよ!」と不満が爆発。
出国申請者が急増するのでした・・。そして2年後の壁の崩壊へ。

Berliner Mauer 1989.jpg

「チェコスロバキア」の歴史では、ヒトラーによるズデーテンラントの併合などにもシッカリと触れ、
戦後の「プラハの春」や、チェコ人とスロバキア人の関係も説明しています。
「協議離婚」と例えられるほどに平和裏に解体し、連邦大統領だったハヴェルが
新生チェコの初代大統領に就任します。おぉ・・あの金髪若奥さんジョークの人。。
面白いのは、"CZECHO"の"O"は、"SLOVAKIA"に続くための接続助詞で、
単独なら、"CZECH"であり、「チェック共和国」となるはずなのが、外務省もそう呼んでおらず、
「チェコ」はあくまでチェコスロバキアの略であるというのが正しいようですね。

Československá.jpg

「ユーゴスラビア」は旧と新に分かれて登場しています。
まず「旧ユーゴスラビア」は、いわゆるチトーのユーゴスラビアであり、
クロアチア、スロヴェニア、マケドニア、ボスニアが独立して消滅。
「新ユーゴスラビア」は残った、セルビアとモンテネグロによって誕生した連邦で、
後に「セルビア・モンテネグロ」と改称されますが、結局、モンテネグロが独立して消滅します。

この当時、ユーゴのサッカー好きでしたから、このような独立の推移は興味深く見守っていました。
要は、代表選手の誰がセルビア人で、誰がモンテネグロ人なのかを知っていないと、
ただでさえクロアチア人がいなくなり、どっちがどう弱くなるのかが心配だった・・ということです。
セルビア・モンテネグロサッカー協会の会長に就任したのはセルビア人のストイコヴィッチで、
代表監督がモンテネグロ人のサビチェヴィッチという構図でもありましたから・・。
本書を読んでいると、そんなことを思い出しました。

Stojković Savićević.jpg

「パレスチナ」や、「チベット」といった国々が紹介された後、気になったのは「ブガンダ王国」です。
1962年、英国から独立した「ウガンダ」。ブガンダはウガンダ内の王国ですが、
1966年5月20日に、そのウガンダからの独立を宣言します。
しかし5日後、アミン大佐に率いられた部隊が宮殿を急襲。
国王ムサテ2世は英国へと亡命し、ブガンダ王国は独立からわずか5日で消滅します。
こんな話だけでも十分面白いですが、このアミン大佐は、あの「アミン」なんです。
そう、日本でも1984年に封切られた「食人大統領アミン」です。

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本書では彼がボクシングのヘビー級(東アフリカ)チャンピオンで、
アントニオ猪木と異種格闘技戦を開催する予定だったという話から、
30万~40万人を粛清したと云われ、気にくわない裁判官を公開処刑にしたり、
囚人に他の囚人をハンマーで撲殺させ、死んだ囚人の肉を食事に出したり・・といった
食人大統領っぷりも紹介します。「食人族」はパスしましたけど、この映画、観たなぁ。。
フォレスト・ウィテカー主演の「ラストキング・オブ・スコットランド」もアミンでした。知らなかった。。
「スコットランドの黒い王様」という原作もあるんですね。

the-last-king-of-scotland.jpg

「ソ連崩壊で生まれた国」という章も興味深いですね。
まずは「クリミア共和国」。
独ソ戦好きなら「知らなきゃモグリ」と言われちゃう、セヴァストポリのあるクリミア半島です。
もともとソ連時代はロシアの一部だったクリミアは、
1954年に地続きのウクライナへ所属替えとなり、1991年にウクライナが独立すると、
翌年、クリミア議会がウクライナからの独立を宣言します。
クリミアではロシア人が半数以上を占めているのも要因の一つですが、
黒海艦隊の母港もあり、支援したいロシア自身もチェチェンの独立を阻止すべく、軍事弾圧中・・。
クリミアに独立をそそのかすのでは立場が矛盾するために、正式承認できず。。

それにしても国旗も限りなく、ロシア風ですね。

flag-Qırım Muhtar Cumhuriyeti.jpg

その後、セヴァストポリだけはロシアが租借している形ですが、
現在のウクライナ情勢を鑑みると、再度の「独立」に発展するかも知れません。
特にプーチンが「ロシア国民、ロシア軍の要員の安全を守るため」という理由で、
軍事介入しようとしているのは、まさに「ドイツ人が脅かされている・・」と言って
ヒトラーがズデーテンラントの併合と、その後にチェコスロバキアに侵攻したことや、
ドイツから切り離された飛び地となっていた「ダンツィヒ」の帰属を求めるヒトラーによって、
ポーランド侵攻が行われたこととソックリの展開な気がします。。
そしてプーチンを非難しているオバマは、それこそチェンバレンとダラディエですね。

Ukraine EU_Students kiss.jpg

そんな「チェチェン」も当然、出てきます。
ロシア軍による首都グロズヌイへの爆撃に、チェチェン側が起こしたテロ事件も紹介。
2002年のモスクワ劇場占領事件(死者130人)、
2004年のモスクワ地下鉄爆破事件(死者240人)、
ロシア旅客機同時墜落事件(死者90人)、北オセチア学校占領事件(死者386人)。
特に占領事件は検証したTVも見ましたが、人質の死者の数はハンパじゃないですよね。

Moscow theater hostage crisis.jpg

「オマーン・イマーム国」もなかなか楽しめました。
英国の力でオマーンを再統一したものの、サイード王は首都から遠く離れた離宮に、
黒人奴隷500人とハーレム女性150人とともに引き籠り、暗殺事件が起きると、
生きているのか、死んでいるのかさえ「国家機密」にしてしまいます。
徹底した鎖国政策で、議会も存在せず、国内に学校は3ヵ所、病院は1ヵ所、
新聞、TV、ラジオもなく、国民の文盲率は95%・・と中世さながら。。
英国が援助したロケット砲などの兵器類も、「軍隊に渡したら反乱に使われる」と恐れて、
離宮の奥に隠され、英国で訓練を受けた皇太子まで離宮に幽閉してしまいます。
1970年、呆れ果てた英国の支援で皇太子がクーデターを起こし、サイード王を追放・・。

Said bin Taimur.jpg

第2次大戦後、南北に分かれる前の、統一「朝鮮人民共和国」も勉強になります。
1945年9月6日に建国を宣言するも、南朝鮮に上陸した米軍には認められず・・。

最後に紹介したいのは「マーチャゾ共和国」です。
ルワンダとその隣のブルンジという国名は知っていますが、
このマーチャゾは1972年5月1日にブルンジから独立した国です。
フツとツチという民族の殺し合いの歴史がここでは詳しく描かれ、
フツだけの独立国を築こうと、ツチを殺して建国したものの、8日後には、
ツチ主体のブルンジ軍によって制圧されて消滅。8月までに25万人のフツが殺されます。
そして1994年、今度はルワンダでフツが大虐殺を行い、
3ヵ月間で人口の一割、80万~100万人を殺害するという「ルワンダ大虐殺」が起こるのでした。

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ひゃ~、しかし、大変な労作ですね。
印象としてはアフリカ大陸と東南アジア、アラブ諸国で半分以上を占めていると思いますが、
それらの国も、もとは西欧列強国の植民地だったり、第2次大戦の結果による独立や消滅、
一ヵ国の問題、民族対立や近隣諸国との問題だけではない、世界規模の影響を感じました。

近代の世界史は大国を中心にして、もっと言えば、
第2次大戦の勝利国側から語られるものとすれば、
本書のように歴史に名を留めないような消滅した国々から見た世界史という意味で、
大変、面白かったですね。「ふたつの戦争を生きて」で書かれていたように、
歴史家が書いた戦記や将軍が書いた回想録ではなく、
兵士たち、パルチザン、テロリストから見た戦記のようなイメージでしょうか。

著者は「世界飛び地大全―不思議な国境線の舞台裏」や、
「国マニア 世界の珍国、奇妙な地域へ!」といった本も書いている、
完全な国フェチの方のようです。
「世界飛び地領土研究会」というサイトも運営する、さいたま市議でもあるそうで、
この2冊も気になりますね。










pat
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世界の紛争地ジョーク集 [ジョーク本]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

早坂 隆 著の「世界の紛争地ジョーク集」を読破しました。

過去に「ヒトラー・ジョーク」、「スターリン・ジョーク」と紹介しているジョーク集。
ジョークというのはその対象(ネタ)の本質がわかっていて初めて笑えるものですが、
ヒトラーにしてもスターリンにしても、ナチス、ボルシェヴィキについて
ある程度理解しているからこそ楽しめたジョーク集でした。
2004年に出た200ページの本書は、タイトルどおり「世界の紛争地」です。
世界中で起こっていた紛争をどれだけ理解しているのか試される気もしますね。
前回のようなシンドい大作を読んだ後には、そんな本でリハビリが必要です。
それにしても「悲しみの収穫」、アクセス数が凄いなぁ・・と思っていたら、
「Yahoo!ニュース Buzzコーナー(口コミ?)」で取り上げられていたようです。
Twitterでも結構、呟かれたようですが、む~、Yahoo! 恐るべし・・。

世界の紛争地ジョーク集.jpg

著者は中東や東欧を中心に取材活動をしているルポライター。
本書のジョークは現地蒐集がほとんどのようで、各国のジョークだけでなく、
その国の紛争状況についても端的に解説しています。

最初の「紛争地」はイラク・・。
本書の出版時にサダム・フセインが捕えられるかという時期ですね。
そんなイラクのジョークを紹介してみましょう。

ある時、サダム・フセイン大統領が何者かによって誘拐された。
数日後、犯人グループから大統領宮殿に脅迫電話がかかった。
「いますぐに100万ドル用意しろ。
さもなければ大統領を生かして帰すぞ」

Saddam Hussein.jpg

続くバレスチナのジョーク解説では、イスラエルとの泥沼の紛争下でも
決してジョークはなくならず、笑いの粒子は戦火でも砕けないとして、
第2次大戦下での英国のエピソードを紹介します。

ロンドンのとあるデパートがドイツ軍による爆撃を受けた時のこと。
翌日にはデパートの壁にこのようなポスターが・・。
「このたび入口を拡張いたしました」

Bombs Hit London Stores 1940.jpg

また、戦時下の日本でも街のあちこちで見られた張り紙。
「足らぬ足らぬは、工夫が足らぬ」
そして当時、この張り紙の「工」を塗りつぶすのが流行ったそうな。。

tarinu.jpg

イスラエルのユダヤ人ジョークにトルコ、シリアのジョークと続き、
アフガニスタン、レバノン、イランとアラブ中東ジョークが連発します。
では戒律の厳しそうなイランのジョークをひとつ・・。

ある結婚前のカップルが道を歩いていたら、突然、女性の方が叫んだ。
「いけない! 前からお父さんが歩いてきたわ。父はとっても厳しい人なの。
あなた急いでどこかに隠れて!」
すると男は言った。
「大丈夫。バレやしないさ。僕に妙案がある」
「どうすればいいの?」
「僕をきみの弟だってことにすればいい」

Iranian-police-women.jpg

ロシアのジョークは一発目からスターリン関連です。

酔っ払いが酒場でこう叫んだ。
「スターリンの大馬鹿野郎め!」
すぐさまやって来たKGB(NKVD)の手によって酔っ払いは取り押さえられた。
「ちくしょう! 俺が何をしたって言うんだ!」
「機密漏洩罪だ」

Stalinator.jpg

中東と違って「酒のネタ」が多いのがロシアジョークの特徴ですね。
エリツィン大統領も呑兵衛で有名だったらしく、当然ネタになります。

エリツィンとその息子が喋っていた。
息子「お父さん、酔っ払うってどういう感じなの?」
エリツィン「そうだな。そこにコップが2つあるだろう?
それが4つに見えたら酔っ払っているということだ」
息子「なるほど。でもお父さん、コップは1つしかないけど?」

Boris Yeltsin.jpg

エストニア、リトアニアとバルト三国のジョークに続いて、同じく旧ソ連のアルメニアのジョーク。

問い:共産主義者とは何か?
答え:マルクスとレーニンの著作を読んだ者のこと
問い:それでは反共主義者とは?
答え:その著作を理解した人のこと

The State and Revolution.jpg

チェコでは「金髪娘=性に開放的」というイメージのジョークが多いようで、
なかなかエロ楽しいのもありました。

中年看護婦 「あの202号室の患者さん。ペニスにアダムって入れ墨してるのよ」
若い看護婦 「あらそう? 私が見たときにはアムステルダムって書いてあったけれど・・」

ヴィトゲンシュタインは笑うまでに7秒かかりましたが、みなさんいかがでしょうか??
コレはアルファベットでもカタカナでもイケるところが素晴らしいと思います。
そしてコレだけ書いても、「え~、わかんな~い[黒ハート]」とかのたまう女の子が好きです。。

Czech Nurse.jpg

ハヴェル大統領は30代の若くて金髪の女性と結婚したことで、やっぱりネタに・・。

ある日ハヴェル大統領が新妻に言った。
「なぁおまえ、たまには料理をしてくれないか?
そうすれば公邸料理人をクビにできて、出費が減るんだよ」
「いいわ、わかったわ」
またある日ハヴェル大統領が新妻に言った。
「なぁおまえ、たまには掃除をしてくれないか?
そうすれば公邸の掃除婦たちをクビにできて、出費が減るんだよ」
「いいわ、わかったわ」
数日後、新妻がハヴェル大統領に言った。
「ねぇあなた、少しは夜の生活も頑張ってくださらない?
そうすれば公邸のガードマンたちをクビにできて、出費が減るわ」

Václav Havel and his wife.jpg

ポーランド、ハンガリー、ルーマニアの東欧ジョーク。
若干、自虐的なジョークが多いように感じます。
その中からルーマニア・ジョークをひとつ。

食人族の族長が黒海に面したリゾート地、コンスタンツァへやって来た。
浜辺で寝っころがっている人々を見た族長は驚いてガイドに聞いた。
「いったいこれは何をしているんだ?」
「何をって? ビーチでのんびり寝ているだけですよ」
「何のために?」
「肌を焼くんですよ」
族長は不思議そうな顔をして、こう聞いた。
「ルーマニア人は生じゃ美味しくない?」

Constanța girl.jpg

まだまだマケドニアにアルバニアのジョークまで出てきます。
特にアルバニアは先日、「アルバニアインターナショナル」という本を読んで勉強しましたが、
本書の解説でも1990年まで鎖国政策をとり、国策として「ネズミ講」、
80年代後半までヨーロッパでTVのカラー放送がなかったのはアルバニアとルーマニアだけ・・。
そして現在でもこの地域で最も発展が遅れている国の一つとして、
「似た者同士」や、「最下位争いのライバル」として、笑い飛ばされているそうです。



もの悲しいアルバニア軍ジョークがいくつか紹介されていますが、
飛行機ネタを紹介してみましょう。

アルバニア初の国産飛行機がついに完成した。
国民は大いに喜んだが残念なことに、初フライトで墜落してしまった。
翌日の新聞はこの事件をこう報道した。
「アルバニア1号機、あえなく墜落。死者は100人を超える模様。
原因は石炭の不燃・・・・」

Albania Lips.jpg

この後、セルビア、クロアチア、ボスニア、コソヴォと旧ユーゴの紛争地ジョーク。
ジプシー(ロマ)、クルド人、北朝鮮、ミャンマー、カンボジア、モンゴル、中国などが登場します。
第2次大戦後に紛争地となったことがある国々のジョーク集ということですね。

それでもまぁ、なかなか良くできたジョーク集ですね。
「笑いのツボ」は個人それぞれですから、どれが最高などというつもりはありません。
古くはスターリン時代から、サダム・フセイン時代までの解説は勉強になりますし、
なによりもジョークで学ぶっていうのは、実に楽しめます。
シリーズの「世界の日本人ジョーク集」、「世界反米ジョーク集」も読んでみたくなりました。







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