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帰ってきたヒトラー (下) [ナチ/ヒトラー]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ティムール・ヴェルメシュ著の「帰ってきたヒトラー (下)」を読破しました。

上巻は出演したTV番組が「YouTube」にUPされ、大人気を博したところまででした。
本人はいたって真面目に政治演説をしているつもりが、周りはブラックジョークととり、
その双方の誤解っぷりが本書をユーモラスなものにしていますね。
例えば、会社とは「ユダヤ人をジョークのネタにしないこと」という取り決めになりますが、
ヒトラーは喜んで納得します。
なぜなら、「ユダヤ人問題は冗談ごとではない・・」と思っているからです。

帰ってきたヒトラー 下.jpg

この下巻は、そんな人気の出たヒトラーを非難するタブロイド紙との戦いからです。
表紙にはヒトラーの顔写真がデカデカと載り、大げさな見出しが・・。
「狂気のユーチューブ・ヒトラー 全ドイツが混迷 -いったいあれはユーモアなのか?」
悪趣味で奇怪なコメディアンと紹介して、その芸風にも言及。
・トルコ人は文化と無縁だ。
・毎年国内で、10万件もの堕胎が行われているのは許しがたい事態だ。
 将来、東方で戦争が起きたときには、4個師団分の兵士が不足することになろう。

このタブロイド紙とは、ドイツで最も有名な「ビルト」紙です。
日本でいえば東スポみたいなもんでしょうが、実際にヒトラーのUFOネタとかやっている新聞。。

BILD_Hitler_Ufos.jpg

ホテルの食堂ではラインハルトという名の可愛らしい少年がサインをもらおうとやって来ます。
「私も昔、ラインハルトという男を知っていた。
とても勇敢な男だった。たくさんの悪い奴らが君や私に悪さをしようとしても、
ラインハルトのおかげで奴らは何もすることができなかった」。
下巻でもすぐに昔を思い出すヒトラー。
ちなみにハイドなんとか・・という名前は出てこないのがミソですね。
その他、前半だけでもリッベントロップハンフシュテングルハインリヒ・ホフマンの名も・・。

Hitler_HeydrichTrauerfeier.jpg

過激さの増す「ビルト」紙。秘書のクレマイヤー嬢と会社を出たところを隠し撮りされ、
翌日には、「狂気のユーチューブ・ヒトラー 寄り添う謎の女はだれだ?」
なんだかんだと上手くやっていた24歳の現代っ子女性のメアドまで紙面で晒され、
嫌がらせメールに「サイアク・・」と落ち込む彼女をヒトラーは優しく励まします。
そしてトラウデル・ユンゲの代わりを彼女が務めていることに気付くのです。

Unter Hitler Traudl.jpg

若い社員、ザヴァツキくんはやる気満々の上に宣伝の才能もある心強い味方。
総統のホームページをちゃっちゃと作成し、過去のTV出演の映像に、
「最新情報」、「総統に質問!」といったコンテンツの他、「年譜」では、
1945年から<復活>までの空白年月が、<バルバロッサ作戦休止中>と表示されています。
まぁ、洒落っ気のある現代版ゲッベルスのようなイメージですね。

ナチスの継承者を自称する「ドイツ国家民主党(NPD)」に突撃取材を敢行するヒトラー。
ミュンヘンの最初のナチ党本部である「ブラウン・ハウス」の足元にも及ばない、
「カール=アルトゥール・ビューリンク・ハウス」と書かれたオンボロ小屋に吐き気を覚えます。

NPD-Hauptquartier.jpg

暫くして姿を現したのは、むっくり太って苦しげに息をする無気力そうな人物。
「私はホルガー・アプフェル。NPDの党首です。あなたの番組は興味深く拝見していますよ」。
そして党の活動について鋭く質問するヒトラー。
「見たところ、親衛隊には所属していたことはないようだな。
だが、少なくとも、私の本は読んでいるのだろうな?」
不安げな目つきで答える党首。
「いや、あの本は国内での出版が認められていないので、そう簡単には・・」
「いったい何が言いたいのだ? 私の本を読んでいないことに対して謝罪したいのか?
それとも読んで理解できなかったことを謝罪したいのか?」

こんな調子で、ボコボコにされてしまうNPD党首ですが、
調べてみたら、この人、実在の人物なんですねぇ。

Holger Apfel_NPD.jpg

「ビルト」紙との戦いはヒトラー側の完全勝利に終わったころ、
クレマイヤー嬢とザヴァツキくんのただならぬ雰囲気に気が付きます。
「彼のことをソートーは・・・男性としてどんなふうに見てるかなって・・」。
そしてやっぱり昔の若き秘書トラウデルと、従卒のハンス・ユンゲとの結婚を思い出し、
「私の執務室の隣で2つの心が惹かれあうのは、これが初めてではない」。

Traudl and Hans Junge.jpg

ヒトラーが自殺した日、1945年4月30日を第2の誕生日としたかったものの、
年齢と合わないためにしかたなく、1954年4月30日生まれとして住民登録も完了。
会議室に急いでくるように言われても、カフェテリアにラムネ菓子を買いに行くヒトラー。
「ほんとに度胸があるんですね。あなた」
「私のような度胸がなければ、ラインラントに進むことなどできない」
「またまた大げさな。こんなところでのんびりしていて、平気なんですか?」
1941年の冬も、誰もがそう言った」。
総統との会話は、基本的にこんな感じです。。

hitler1.jpg

「ドイツ国家民主党(NPD)」突撃取材の特番が、「グリメ賞」を獲得したという知らせに
フラッシュライト社は社長以下が総出でお祭り騒ぎになります。
この「グリメ賞」というのはドイツ最高のTV番組に与えられるもののようで、
ヒトラーは急遽、全員の前で受賞の挨拶をすることに・・。

grimme preis.jpg

「私はこの身が神によって使命を授けられたことを強く自覚している。
それはこのフラッシュライト社に自由と名誉を再び取り戻すことだ。
22年前、パリ近郊のコンピエーニュの森で強いられたあの敗戦の恥辱。
それを今、また同じ場所で・・・、失礼、
このベルリンの地において拭い去るのだ。
ドイツの素晴らしき将校として、あるいは兵士として・・・、いや、
ドイツの素晴らしきカメラマンとして、照明係として諸君は犠牲を捧げた。
そしてわれらは勝利した。ジーク・ハイル(勝利万歳)!」



ヒトラー人気もさらに高まって、新しい番組も始まります。
ヒトラーがホストとなり、政治家をゲストに招いた討論番組です。
独ソ戦の大本営ヴォルフスシャンツェにそっくりのセットが作られ、
ドアを開けてくれるようなアシスタントを決めることに・・。

「では、その役は党官房長官のボルマンに決まりだ」
「誰です、それは? 聞いたことがないですな」
「君はヒムラーが毎朝、私の制服にアイロンがけをしていたとでも思っているのか?」
「その名前なら、少なくとも知られていますからね」
「例えば、ゲッベルス、ゲーリング、それからヘスくらいかしら・・」
ヘスはダメですよ。同情されるキャラですから」
ゲッベルスは呼び鈴が鳴っても私のためにドアを開けたりしない」
ゲーリングを出した方が、お客は笑ってくれるんじゃないかな」

Goebbels_Goring_Hess.jpg

緑の党の元党首、レナーテ・キュナスト女史をゲストに招いた本番では、
机の下になぜかブリーフ・ケースが置いてあり、カチカチと時計の音を立てるという演出付き。
「ところで、シュタウフェンベルクはどこに行ったのだ?」

Valkyrie briefcase.jpg

こうして復活してから2回目の冬を迎えたころ、ベルリンの裏道を歩いていたヒトラーの前に
2人の男がぬっと立ちはだかります。
「お前がドイツを侮辱するのを、俺たちが黙って見ているとでも思うのか?」
次の瞬間、キラリと光った拳が驚くほどのスピードで飛んで来るのでした・・。

と、新しい小説ですから、こんなところで終わりにしましょう。
個人的にネガティブ・エンディングというか、主人公が死ぬとか、救いのないラストが好きなので、
本書もテーマからして、そうなるのでは?? 1945年4月30日にタイムスリップするのでは??
と想像しながら後半読み進めましたが、まぁ、うまいこと外されましたね。
上下巻で500ページ超えですが、あと数ページとなると、寂しい気持ちにもなりましたし、
ひょっとしたら、続編を想定しているのかも知れません。

hitler-chief-gruppenfuhrer-schaub-inspect-damage-fuehrerbunker_1945.jpg

「訳者あとがき」では、ナチス礼賛が禁止、「わが闘争」が発禁されているドイツで、
本書が電子書籍等を含めて、130万部を売り上げるベストセラーとなり、
38か国で翻訳、さらに映画化も決定していると解説。
ヒトラーが首相となった1933年に因み、19.33ユーロだったとか。。

もちろん批判もあり、特にヒトラーが悪者ではなく、人間的魅力のある人物に描かれていること。
著者はこれに対し、「人々は気の狂った男ではなく、魅力的に映った人物を選んだのだ」
と語っているそうです。まぁ、同意見ですね。

Haus Wachenfeld1.jpg

同意見といえば、ヒトラーはこんなことも考えています。
「なぜ電話が、カレンダーにカメラ、その他モロモロの機能を備えていなければならないのか?
なぜわざわざ、こんなに愚かでかつ危険なものをつくりあげたのか?
多くの機能が盛り込まれているおかげで、若者らは画面に見入りながら道路を歩く。
そのせいで、たくさんの事故が起こるに違いない。
劣等民族にはそれを義務化するほうが、むしろ好ましいかも知れない。
そうすれば数日のうちにベルリンの大通りには、車に轢かれたハリネズミのように、
やつらの遺体がゴロゴロと転がっているはずだ」。

そして上巻でも気が付いた登場人物や戦役などに関する(注)が一切ない件についても、
「研究書ではなく小説だから」との理由により、著者が翻訳者に課した制約なんだそうです。
端折りましたが、シュトライヒャーエミール・モーリスハインリッヒ・ミュラーDr.モレル・・
なんて名前も登場しました。

hitler_alive.jpg

う~ん。映画かぁ。。
映画化するにあたって一番心配なのは、主役の俳優さんですね。
ソックリさんというレベルでは本末転倒ですから、ブルーノ・ガンツを越える必要があるでしょう。
コメディだからフルCGという手もあるかもしれませんが・・。子供向けじゃないし。。
また本書の面白さは、ナチス時代と現代との話のかみ合わない小ネタにあるので、
それを万人にわかるように説明するには、第三帝国のエピソードを織り込む必要がありますし、
だとすると、2時間では網羅しきれない気がします。
30分の連続ドラマあたりがちょうど良いと思うんですけどね。





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