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戦場の狙撃手 [世界の・・]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

マイク・ハスキュー著の「戦場の狙撃手」を読破しました。

最初の頃にショボいレビューを書いた「最強の狙撃手」を再読しようかな・・と思いつつ、
本棚の整理をしていたら2006年に出た285ページの本書が出てきました。
買った記憶も、読んだ記憶もハッキリしませんが、パラパラと読み進めてしまいました。
最近も「カラシニコフ自伝」を読みましたし、狙撃銃という観点からも勉強になりそうです。

戦場の狙撃手.jpg

第1章は、1775年のアメリカ独立戦争から始まります。
射撃術に優れた開拓者から成る狙撃兵部隊が10個編成され、
なかでも「モーガン・ライフル隊」の活躍などを紹介します。
ナポレオン戦争に入ると、英陸軍がベーカー・ライフルを装備。
本書は兵士のカラー図版や、ライフルのカラー写真が掲載されていてわかりやすいですね。

Loading and Firing the British Army Baker Rifle, 1799-1815.jpg

19世紀の後半になると前装式ライフルに代わって、連射速度の速く、製造コストも安い
レバーアクション式のウィンチェスター・ライフルが西部開拓を象徴する銃になります。
子供の頃「荒野の七人」や、「OK牧場の決闘」、「真昼の決闘」などの西部劇を良く観ましたし、
ジェームズ・スチュアートの「ウィンチェスター銃'73」という映画もありましたね。
それになぜかレバーアクション・ライフルのモデルガンが我が家にあって、
ジョン・ウェインの如き早打ちの練習に励んでいたことを思い出しました。

winchester-73-james-stewart-1950.jpg

第2章は「塹壕戦」。第一次世界大戦の狙撃兵です。
長年狩猟をしてきた者や、貴族の広大な所領で猟場管理人を務めてきた者たちが、
優秀な狙撃兵として、中隊レベルにまで配置されていたドイツ軍が狙撃戦で有利に立ちます。
彼らにはモーゼルのボルト・アクション式ライフルを改造した
「シャルフシュッツェン・ゲヴェール98(Gew98)」という狙撃用ライフルが
特別に望遠照準器とともに支給されたいうことですが、新たなドイツ語にちょっと混乱します。
まずモーゼル(Mauser)は最近だと、「マウザー」と言うのが一般的ですね。
そして「ゲヴェール」は歩兵銃のドイツ語読みのようで、「シャルフシュッツェン」は狙撃かな?

Scharfschützengewehr (sniper-rifle).jpg

一方、英軍は狙撃学校を開校して、狙撃兵の育成に当たります。
連合軍で圧倒的に多くの敵兵を射殺したのはカナダ軍のフランシス・ペガハマガボー伍長で、
その数、終戦までに378人。

F.Pegahmagabow_378.jpg

ガリポリ上陸作戦」ではトルコ軍狙撃兵が活躍しています。
本書にはオーストラリア・ニュージーランド兵に捕らわれたトルコ軍狙撃兵の写真がありました。
ギリースーツというか、枝葉で偽装したその姿は何とも言えません・・。
囚われた宇宙人の写真のようですね。。

turkish_sniper.jpg

いよいよお楽しみ、第2次大戦の章へと進みます。
SSのヒムラーの命により、ベルリン郊外のツォッセンに狙撃兵学校が設立されたそうで、
1935年当時からドイツ軍は「ゲヴェール98」を短く改良した「カラビナー98クルツ」を装備。
「カラビナー」は騎兵銃を意味し、「クルツ」は短いですか。
後にワルサーの「ゲヴェール43」が制式狙撃用ライフルとして採用されたものの、
ドイツ軍狙撃兵の評価は低く、Kar98kが使われ続けるのでした。

ss_snipers.jpg

ノルマンディの戦いでは映画「プライベート・ライアン」のバリー・ペッパー演じる狙撃兵に
触れていますが、あ~、彼は良かった。あの映画で一番印象的でした。
この時期の米軍狙撃銃は「M1ガーランド」なんですね。

Barry Pepper_PRIVATE RYAN.jpg

そしてドイツ軍はノルマンディで全面的な狙撃戦術に出て、
林の中、建物の中、残骸の山の中とあらゆる場所に身を潜め、米兵を狙い撃ち。
身内からは尊敬される狙撃兵も敵からは憎悪の対象ですから、
捕虜となった狙撃兵を憎しみのあまり無断で処刑するのを米軍上層部も黙認します。

American soldier killed by German snipers, Leipzig, Germany, April 18, 1945.jpg

そして地獄の東部戦線・・。
まずは映画「スターリングラード」でお馴染みのザイツェフを紹介します。
「モシン・ナガン・モデル1891/30」を愛用した彼の回想を数ページ掲載し、
本人以外にも、ジュード・ロウのカラー写真付き。
アントニー・ビーヴァーはザイツェフの戦果について否定的でしたね。

ただし、エド・ハリス演じたドイツ狙撃兵の存在については、
ソ連のプロパガンダ機関による「捏造」説も挙げ、曖昧としていますが、
個人的には完全な架空人物だと考えています。
映画のエド・ハリスはとても良かったですけどね。。

dragon Duel at Stalingrad figures.jpg

その映画でも登場したソ連女性スナイパーにも触れられており、
トップのリュドミラ・パヴリチェンコのスコアは309名ですが、
第2次大戦で出撃した女性狙撃手2000名のうち、約500名が戦死したということです。

Roza Shanina.jpg

フィンランド軍の狙撃兵として、あの「白い死神」ことシモ・ヘイヘも写真付きで登場。
しかし、この写真はまったくの別人でしょう。
いい男過ぎて、実物のザイツェフと、彼を演じたジュード・ロウぐらい違いますよ。。

Finnish sniper.jpg

また、スコ(スロ)・コルッカという冬戦争の3ヵ月間で400人以上を射殺した人物も出てきますが、
いろいろと調べてみると、ど~もこの人は、その存在自体が怪しいです。
今のところ、実在していないプロパガンダの産物のように感じますね。

1967年に軍事雑誌に掲載された3人の旧ドイツ軍狙撃兵のインタビュー。
第3山岳師団の同じ狙撃兵部隊に所属していたこの3人とは、
345人を射殺したマティアス・ヘッツェナウアー
257人の「最強の狙撃手」こと、ゼップ・アラーベルガー、
64人のヘルムート・ヴィルンスベルガーは、その22人の狙撃兵部隊の隊長です。

Helmut Wirnsberger.jpg

700~800m離れた場所から立っている人間に銃弾を命中させることができると断言する
ヘッツェナウアーは、最高で1000mくらいから狙ったこともあるそうで、
「確実に当てるのは無理でも、場合によっては敵にその距離でも安全ではないと
わからせるために、撃たなきゃならないこともあったよ」と語っています。

German sniper team.jpg

続いての章は「太平洋戦域」です。
偽装の達人であり、自ら進んで死地に踏み込み、ジャングル戦に熟練した日本兵。
望遠照準器を装着した6.5㎜口径の九七式狙撃銃や7.7㎜口径の九九式狙撃銃で、
粘り強く任務を遂行し、そのしつこさに敵兵も不本意ながら舌を巻きます。
火薬の量が少ない6.5㎜口径の弾薬と銃身長の長いライフルを使うと
狙撃兵の居場所を教えてくれるはずの硝煙がほとんど上がらず、
一般に単独で行動する日本軍狙撃兵は、発見されたら逃げ場ないために、
連合軍やドイツ軍狙撃兵が消極的だった木を狙撃のプラットフォームに利用することも多く、
自分の身体を枝に縛り付け、たとえ撃たれても木から落ちず、敵に悟られずに済むのです。

Type 99 Japanese sniper.jpg

映画「高地戦」でも描かれた朝鮮戦争の狙撃兵が紹介された後、
「ベトナム戦争」がやってきました。
ホー・チミンの北ベトナム軍はザイツェフも使っていたモシン・ナガンを使用し、
狙撃兵を集めて中隊規模の専門部隊を編成。
全員が志願兵であり、2ヶ月に及ぶ厳しい訓練を受けていて、
その活躍によって米兵は士気を削がれ、疲弊することも多いのです。

Woman NLF Fighter in Cu Chi 1966.jpg

死傷者の増えた米軍、特に海兵隊は狙撃兵訓練に取り組みます。
こうして戦前、各種大会を総なめにしていた超一流の狙撃手であり、
北ベトナム軍から、その首に「懸賞金」までかけられた伝説のカルロス・ハスコックが登場。
確認戦果は93名で、望遠照準器を装着した50口径(12.7㎜)ブローニングM-2重機関銃で、
2300mの距離からベトコンの兵器運搬係を撃って、長距離狙撃の記録も打ち立てます。

Vietnam War-M2.jpg

このカルロス・ハスコックはヴィトゲンシュタインが大好きなスティーヴン・ハンターの
スナイパー小説シリーズの主人公、ボブ・リー・スワガーのモデルとも云われており、
以前から気になっていた人物です。

carlos-hathcock-marine-sniper_93k.jpg

なかでも「狩りのとき」は最高ですね。
今まで読んだ小説のなかでも、間違いなくBest10に入るでしょう。
スナイパー物やベトナム戦争物の小説に興味のある方はぜひ読んでみてください。



海兵隊のトップは103人を射殺したチャック・マウニーです。
米軍の全狙撃兵だと陸軍のアデルバード・ウォルドロンの113名が最高記録だそうですが、
本書ではなぜかこのベトナムの3人の狙撃手の写真が掲載されていません。
ドイツ軍第3山岳師団の3人も同様で、残念です。

Chuck Mawhinney_103,Adelbert Waldron_113.jpg

後半はボスニア内戦でのセルビア人狙撃手によってサラエヴォ市民が犠牲となり、
チェチェン紛争では、チェチェン軍狙撃兵がロシア軍に多大な被害を与えます。
崩れた建物に潜んで戦うという、まるでスターリングラード戦のような戦い、
双方とも狙撃銃は「ドラグノフ SVD」というのが、如何にも内戦らしいですね。

それにしても、「ソチ・オリンピック」は何も起こらないことを祈るばかりです。

SVD (Dragunov) soldier.jpg

クウェートに侵攻したイラクに対する「砂漠の嵐」作戦や、その後のイラク戦。
狙撃銃も進化し、米英では新たな狙撃銃が制定されますが、
50口径の対物ライフル「マクミラン Tac-50」で1400m先の給水塔にいる標的を撃つと、
「体の上半身だけが給水塔から落ちてきて、下半身は塔に残ったままだったんだ」
といった話や、「被弾した標的がバラバラになった」という話も・・。

uk_sniper tac-50.jpg

進化するのは照準器も同じです。暗視スコープから、感熱照準器へと変わり、
このようなハイテク赤外線装置は多くの軍隊で使用されています。
こうなってはギリースーツでいくら偽装しようにも狙撃兵の位置はバレバレ・・。
そこで最新式の熱線映像装置にも探知されない「ティック・スーツ」が開発され、
狙撃手はコレを着込んで、再び姿を消すのです。
なんとも、Uボートvs駆逐艦の戦いが繰り返されているかのようですね。

Starlight scope.jpg

このように本書は、有名な狙撃手に焦点を当てたものではなく、
狙撃銃そのものを詳しく解説しているわけでもありません。
まさにタイトルどおり、戦場における狙撃手とはどういう存在か・・?
ということを戦争の歴史とともにエピソードを交えて綴った一冊です。
ふと思ったんですが、「ビッグフット」ってギリースーツを着た狙撃兵を見誤ったんじゃないかなぁ??

ghost_ghillie_suit.jpg

著者は米国在住の「第2次大戦ヒストリー・マガジン」の編集者だそうですが、
読んでいて気になったのは、「ギルバート著の『スナイパー』によると・・」と、
邦訳はされていない1994年の参考文献からの抜粋が多いこと多いこと。。
十数回はあったと思いますが、一冊の史料からこれだけ抜粋する本を読んだのは初めてです。

ちなみに「訳者あとがき」には狙撃に関する技術的問題や訓練の詳細については、
同じ原書房から出ているブルックスミス著の「狙撃手」を参照されたいとのことです。
本書と別の角度から狙撃兵の実像に迫った傑作で、本書と縦糸と横糸の関係にあると、
思わず読みたくなるほど営業チックにオススメしていますね。

russiche.jpg

原書房は2011年に「狙撃手列伝」も出版していますし、
大日本絵画からは「ミリタリー・スナイパー―見えざる敵の恐怖」という大型本も出ています。
どれも歴史的なスナイパーが出てくるんでしょうが、個人的には特定の人物・・、
例えばカルロス・ハスコックや、マティアス・ヘッツェナウアーの伝記だったり、
あるいは「出撃!魔女飛行隊」のような、ソ連の女スナイパー戦記が読んでみたいところです。





















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