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ソビエト航空戦 -知られざる航空大国の全貌- [ロシア]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

飯山 幸伸 著の「ソビエト航空戦」を読破しました。

ドイツ空軍モノはそれなりに読んできて、ドイツ軍機についてもそれなりに知識がつきました。
ただ我ながら不思議に思うのは、巨大な敵であるソ連空軍はからきしわからない・・。
陸戦ならソ連の戦車や自走砲が詳しく紹介されることが多いのに、
ソ連軍機のこの扱いは一体なんなんでしょう?
そんなことから今回は一度、キッチリ勉強してみようと
無敵!T34戦車―ソ連軍大反攻に転ず」のようなイメージで
2003年発刊、399ページの本書に挑んでみました。

ソビエト航空戦.jpg

まずはロシア/ソ連の航空機の歴史から勉強です。
スターリンの独裁時代には「様々な大発明がソ連人によってなされてきた」と主張され、
それは航空機の発明にも当てはまり、ソ連ではライト兄弟ではなく、
19世紀末、モジャイスキーの「空中飛行機械」が世界初の動力飛行とされたそうです。
本書ではこのような重要な飛行機が登場する度に図解とスペックを紹介。
う~ん。しかし、モジャイスキー・・、見たことも聞いたこともありませんでした・・。

Mozhaysky's airplane.jpg

続いて第一次大戦でのロシアの空軍力です。
ここでは「イリヤ・ムロメッツIM -V」という世界初の四発爆撃機が登場。
コレは正真正銘の「世界初」のようですが、いや~、知らないことばかりで勉強になります。。
また、飛行機の性能ばかりでなく、450回出撃し、64㌧の爆弾を投下した・・など、
軍用機としての働きについてもシッカリと言及しています。

Sikorsky Ilya Muromets.jpg

そして内戦が終わり、1922年には同じ敗戦国ドイツとの「ラパロ条約」を締結。
ドイツがソ連国内に資本を投下して軍需工場が設置され、軍用機や戦車といった
ヴェルサイユ条約で認められていない兵器の開発とその訓練を実施する話です。
モスクワから400㌔南のリペツク飛行場で航空士官養成に励むドイツと、
その見返りに訓練や演習にソ連人パイロットの参加を要求するソ連。

初期の複葉戦闘機としてポリカルポフやコチュリギンといった機種が紹介され、
機載式ロケット弾の早期開発では、後の大戦争でロケット兵器重要な働きをすると考えた
トハチェフスキー元帥により、1934年にロケット科学研究所が創設され、
それによってRS-132、RS-82といった空対空ロケット弾が開発されます。
そして陸戦兵器としてはあの「カチューシャ・ロケット」に・・。
う~む。。興味深い話ですねぇ。

polikarpov-I-15bis.jpg

ドイツとの蜜月も1933年にヒトラーが登場すると、昨日の友は今日の敵状態に・・。
スペイン内戦では武器の実験場として独ソがしのぎを削ります。
複葉機ではドイツのHe-51に対して、ポリカルポフI-15の性能の方が上ですが、
単葉機が登場するとI-16は、名機Bf-109の前に立場は逆転。
こうしてヤコブレフYak-1、ラボーチキンLaGG-3、ミコヤン・グレヴィッチMiG-1の
開発が大急ぎで進められることになるのでした。

ちなみにスペイン内戦も詳しく知りたいとずっと思っていましたが、
朝日ソノラマの「スペイン戦争」を買いました。楽しみですね。

Polikarpov I-16.jpg

さすが日本人の著者だけあって「ノモンハン」での日ソ戦闘の様子も詳しく語ります。
特に航空戦では7.7㎜機銃しか搭載していなかった九七式戦闘機に対して、
例のRS-82ロケット弾を装備したI-16が巻き返しを図ります。
そしてフィンランドとの「冬戦争」へ・・。

rs-82.jpg

このちょうど真ん中あたりで20ページほどソ連軍機の写真集ですが
せめて1/3は即答できるようになりたいところです。。悲しすぎるぜ・・。

さて、いよいよ来たるべく「大祖国戦争」に向けての軍用機開発。
戦闘機については先に挙げた3機種が中心ですが、
ここでドイツ軍ファンでも知ってる有名なヤツが登場してきました。
その名は「イリューシンIl-2」、通称「空飛ぶ戦車」です。
重装甲なうえに、20㎜機関砲と7.62㎜機銃、爆弾400㌔も搭載し、
RS-82ロケット弾を4発づつ装着できるロケットランチャーまで追加装備。
複座の「Il-2M」になると後部席に12.7㎜機銃がセットされたこのタフな相手に
ドイツ空軍も装甲部隊も手を焼く・・という戦記は何度か読みました。

Ilyushin Il-2.jpg

重爆撃機の主翼に戦闘機をドッキングさせて長距離飛行の末に分離するという
特殊な親子飛行機、ヴァクミストロフというのも面白いですね。
大戦末期のドイツ空軍がヤケクソ気味で開発した「ミステル」を連想しますが、
この実験を1931年からやっていたというのが何とも言えません。。

Vakhmistrov.jpg

バルバロッサ作戦が始まると、この「青天の霹靂」の緒戦1日だけで
3000機以上が無抵抗に近い状態で破壊されてしまいます。
その後、制空権を握って装甲部隊とともに進撃するドイツ軍。
モスクワを目指すタイフーン作戦を発動しますが、ソ連側も徹底的に防戦。
首都を守る決死の防空戦では「タラーン」と呼ばれる体当り攻撃も繰り出します。
敵機や敵戦車に突撃する自殺攻撃ですが、神風特攻の3年前の作戦です。
「モスクワ上空の戦い―知られざる首都航空戦1941~1942年--防衛編」
という本にはこのあたりが詳しく書かれているのかなぁ??

Unternehmen Taifun.jpg

ウラル山脈の向こうへと疎開した工場群は航空機も決死の増産体制です。
1942年の1年間だけで2万機を超える軍用機を生産。
例の「労働者ノルマ競争」については触れられていませんが、
先日、クイズ番組で「ノルマ」が問題に出ました。
コレ、ロシア語だったんですねぇ。。
また、米国からはP-39が5,000機、A-20が3000機、
英国からもハリケーン3000機、スピットファイア1300機がレンドリースで届けられます。

そして激しい航空戦が繰り広げられるスターリングラードへ・・。
ドイツ軍はシュトゥーカ急降下爆撃機を繰り出して、この工業都市を徹底破壊。

JU-87 Stuka over Stalingrad.jpg

耐えるソ連はヤコブレフYak-7にラボーチキンLa-5といったドイツ戦闘機と同レベルの
新型機を着々と配備し、11月、「ウラヌス(天王星)作戦」を発動してドイツ第6軍を包囲します。
女性エース、1号、2号となったリディア・リトヴァク
エカテリーナ・ブダノヴァといった女性飛行士にも言及。
そういえば棒高跳びのエレーナ・イシンバエワもスターリングラード出身なんですよねぇ。

Yekaterina Budanova.jpg

また、珍しいところでは「自由フランス軍」もなかなか詳しく書かれていました。
1942年11月25日に協定が結ばれたという14名のパイロットと58名の整備員から成る
「ノルマンディ部隊」。リトヴァクちゃんと同じYak-1を受領して翌年3月に初出撃。
しかし損害は大きく、初代隊長のジャン・テュラーヌも7月に戦死しますが、
部隊を立て直した4個飛行隊は、ルーアン、ル・アーブル、シェルブール、カーンと称されます。
最終的には5000回以上出撃して、撃墜273機を記録したそうです。

jean-tulasne.jpg

クルスクの航空戦が出てきた後、ソ連のエースたちを紹介します。
最も有名なコジェドブは62機を撃墜。そこにはMe-262の1機も含まれます。
クルスク戦にLa-5で出撃したアレクセンドル・ゴロヴェツは、
Ju-87の20機編隊の一団を発見するものの、無線機が故障していたために単独で急襲。
9機を撃墜しますが、間もなくBf-109に囲まれて戦死・・。

kursk.jpg

そんな彼らの強敵だったのが、「地球人類の撃墜機数1,2,3位であり続けるとみられる」
352機のハルトマン、301機のバルクホルン、275機のラルです。
このクルスク戦と以降の撤退戦において、スコアを上げ続けたのは
撃墜しても次から現れるソ連軍機と、1000回、2000回と一ケタ違う出撃回数によるようです。
1944年になるとドイツ軍機は1800機体制となりますが、
ソ連軍機はやっぱり一ケタ違いの1万機超・・。

Soviet MiG-3 and Yak-9, downed German bomber Junkers Ju-88.jpg

ドイツ領内に侵攻したソ連軍はV兵器を開発していたペーネミュンデ
ジェット戦闘機を開発していたユンカース社のデッサウに米軍に先駆けて迫ります。
最後はベルリン航空戦。
1130機ものドイツ軍機を撃墜したものの、ソ連側も527機を失うという激しい戦い・・。

Soviet Il-2s in the skies above Berlin.jpg

いま気が付きましたが、著者は以前に紹介した
ドイツ戦闘機開発者の戦い―メッサーシュミットとハインケル、タンクの航跡」の方でした。
なるほど、ドイツ空軍についても詳しい訳ですね。
バルバロッサ作戦が1942年6月22日とか、パウルスの第8軍、モーデルの第6軍など、
??っとなるところもありましたが、まぁ、誤字ということでOKでしょう。

自分にとって未知の航空機が次から次へと登場する一冊でしたが、
少なくとも「Yak-9」が完成された名機であることは理解しました。
また、Yak-1、Yak-3などと、奇数が振られたのが戦闘機であり、
偶数(Yak-2、Yak-4)は爆撃機なんてこともちょっとした豆知識ですね。







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