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若い兵士のとき [戦争小説]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ハンス・ペーター・リヒター著の「若い兵士のとき」を読破しました。

あのころはフリードリヒがいた」、「ぼくたちもそこにいた」に続く、
著者リヒターの自叙伝的小説、第3弾です。
翻訳版は1995年、そして2005年に新装版として出た245ページの本書ですが、
原著は3部作とも1960年代に書かれたものです。
前作、「ぼくたちもそこにいた」のラストがラストでしたから、
友人のハインツとギュンターの運命が気になります。

若い兵士のとき.jpg

出だしは「志願するまで」の章で、14歳から17歳の「ボク」のエピソード。
ヒトラー・ユーゲント時代に空襲を経験したり、防空壕でいつも会う女の子・・。
そして焼夷弾によって燃えるビルの消火活動。

第2章は「入隊後の訓練」です。
前2作と違って、19XX年(XX歳)というのが章のアタマに書かれていませんが、
1925年生まれで、17歳で志願した「ボク」ですから、1942年~43年の話ですね。

Dusseldorf__HJ_bei_Loscharbeiten.jpg

上級曹長による半分イジメのようなシゴキと嫌がらせ。
初めての外出の直前に、「おい、豚!」と上級曹長が怒鳴ります。
「貴様、髭も剃らずに宣誓したのか!」
「上級曹長どの、自分はまだ髭を剃ったことがないんであります!」
「貴様、豚は豚でも雄じゃないな。雌豚だ!」
「上級曹長どの、自分はまだ大人ではないということで、髭剃り用の石鹸を戴いておりません」
「貴様、大勢の前でこの俺に忠告を与えようってのか?後悔するなよ」
こうして新兵の期間中、一度の外出も許されないのでした。

german-soldiers-slaughtered-pigs.jpg

士官候補生の「ボク」にはまだまだ厳しい訓練が続きます。
銃を両手で持ったまま、砂場で匍匐前進。
下士官は「銃身の中を見せろ!」
そして「砂!砂が入っておる!それが貴様の銃の扱い方か!」
それから半時間、閲兵式の行進をし、走り、跳び、匍匐前進をし、捧げ銃。。
立っているのがやっとのボロボロの姿を見て、下士官はカラカラと大笑い。
「貴様のような弱虫が、将校になろうってのか!」

Nazi troops.jpg

そんな訓練も終わり、いよいよ前線へ。
しかし早々にロシア狙撃兵の銃弾が・・。
「肺および左腕の貫通」と衛生兵が診断を下します。
「喜べ!故郷送りの弾だぞ!」
しかし「ボク」は、「くそーっ、少尉になるのがまた遅れる」と歯ぎしり。。

負傷者たちがヒイヒイ泣いている野戦病院に送られると、
軍医は「・・腕は切断せざるを得ない・・」。
「ボク」は懇願し、身をもぎはなそうともがきますが、衛生兵に頭を押さえられ、
軍医がノコギリで引きはじめます。
脳髄が轟音を立て、足が震え、全身が揺さぶられ、まるで獣のように吠え・・。
そして古い弾薬箱に「ボク」の腕が放り投げられるのでした。

German medic and comrades help a soldier who just had his arm blown off on the East Front.jpg

後方の病院。
右のベッドには燃える機体から飛び降りたときに背骨を折った空軍一等兵。
左には凍傷によって両足を失った砲手。
向こうのベッドでは頭に弾を撃ち込まれた機甲兵がひっきりなしに喋っています。
やがて文書係が「おめでとう!」と箱を投げて寄こします。
その中には「銀の戦傷章」と、「2級鉄十字章」が入っていたのです。

名誉戦傷章(銀章).jpg

退院して久しぶりの実家へ。
母は片腕のない「ボク」を見て、ぐっと息を呑み込み、唇をかみしめて、
空っぽの袖に視線が行かないように懸命に堪えています。
てっきり除隊になるかと思っていたものの、士官学校へと移籍。
毎日、大勢の将校が死んでいる今、片腕が無いくらいではお話になりません。

そして訪れたポーランドでは父が歩哨任務に就いています。
夜はレジスタンスがドイツ兵を襲って武器を奪う危険な場所です。
父の兵員室では、第1次大戦に従軍し、再び、一等兵か上等兵として招集された
男たちが大勢。
父が「ボク」を紹介すると、彼らは飛び上がって挙手の礼をとり、
座りもせず、直立不動の姿勢で突っ立ったまま。。
前大戦の鉄十字章を下げ、白い口髭を生やした下士官が巡回に来ますが、
「失礼しました。軍曹どの」と言うと、後ずさりで出て行くのです。
「ボク」はまだ18歳。。

german dog soldier.jpg

この時点で気がつきましたが、前作の「ぼくたちもそこにいた」の続きではないんですね。
ということは、あの2人の友人の話には続きが無い・・、
すなわち、あそこで死んでしまったんでしょう。。

フランス戦線では、包囲網から抜け出るために2台の戦車を従えて、
大渋滞となっている唯一の道から、無理やり脱出に成功します。
ハッキリとした時期と地名はわからないんですが、
ファレーズ・ポケット」からの決死の脱出を想像しました。

Falaise.jpg

占領下のデンマークでは接収された獣医の家に住み、
新しい当番兵によってベッドが模範的に整えられ、窓ガラスは曇りひとつなく、
ブラシをかけた軍服に、まるで鏡のような長靴が・・。
早速、この当番兵を呼び出し、今後も当番兵を引き受けるかを訪ねる「ボク」。
「はい、喜んでやらせていただきます。自分は大家族なんであります。
でありますから、習い覚えたんですよ。自分には子供が8人おります。
一番上は、もう20歳です。少尉どの」。
「ボク」はまだ19歳。。

die zeit der jungen soldaten.jpg

朝早く、17歳、18歳の若い新兵たちが寝間着姿で整列。
「さて、それでは貴様らがもう売春婦から何かモラッてないかどうか、
診察するとしよう!」と宣言するのは軍医大尉です。
「ボク」には将校としての同席する義務が・・。
「俺の前に出るときは、左手で寝間着を持ち、右手でペニスを持つ!一番の者!」 
こうして抜き打ち検査が開始。
「包皮をめくる・・、押す・・、包皮、もとへ・・、咳をする・・、よし。次!」 
は~、咳をする・・ってのはどうゆう理由なんでしょうか・・??

musterung.jpg

再び、東部戦線。
真夜中に「ドーン」という音で叩き起こされると、バラックの宿舎の一部が壊れています。
集まって来た下士官たちは瓦礫の死体を見て、なにやら満足げな様子。
死んでいたのは部隊と一緒に行動していた、とびきり美しいロシア女と、
皆が憎々しく思っていた嫌われ者の曹長。
ロシア女を巡る嫉妬の争いの中、2人はベッドで発見されたのです。
弾が上からではなく、バラックの真横から撃ちこまれたことがバレそうになると、、
下士官たちは突然、壊れたバラックの残りの部分を力を合わせて取り壊し始めるのでした。

StuG III with mounted infantry securing a Russian village, winter.jpg

戦局はさらに悪化。
司令官に呼ばれて炊事方のロシア女がやってきます。
「わたし、要りますか?」
司令官は途方に暮れたように顔を赤らめて、一息ついて言います。
「お前に出て行ってもらわなければならないのだ。
命令がきたのだ。ロシア人の手伝いは、全員、集合施設に送ること。
そこから船でドイツへ運ばれる」。

「それ、本当じゃない!」 とロシア女は叫びます。
「あなた達、船、一隻も持ってない!ドイツの女を送る船だってないのに!」 
「いや!少尉さん、たすけて!」と「ボク」の腕を掴んで、哀願します。
「わたし、なんでもします。お願いだから、そこへ送らないで! ねぇ、お願い!」
ひざまずき、両手を組み合わせて拝む、ロシア女・・。
う~ん。言うまでもありませんが、捕虜もドイツ協力者も赤軍に解放された後は、
裏切り者として処刑か、良くても矯正収容所行きなんですね。

german-soldiers-russian-girls.jpg

縞の服を着た憔悴しきった男たちの列。
ソ連軍の手に落ちないよう、強制収容所から撤退する収容者を見ながら、
20歳の誕生日を迎え、伝令兵から髭剃り用の石鹸、
そして板チョコひとかけらをプレゼントされる「ボク」。

港から救命ボートもない貨物船が出航。バルト海かも知れませんね。
立ったまま、大勢の避難民とギュウギュウ詰めで乗り込みます。
そんな最後の最後に最大の試練が・・。
用を足す必要に迫られたのです。しかも大きい方・・。
手すり沿いの仮小屋の便所まではとても進めません。
隣りの者が「ここですればいいじゃないですか」。
「ボク」は涙が溢れ出ます。。

neuengamme.jpg

本書はこのようなエピソードの積み重ねで進み、「訳者あとがき」によると、
本書ではヨーロッパのどこかから、船で帰ったことになっていますが、
実際は敗戦後に、著者はシベリアに抑留されているそうです。
ひょっとすると中立国スウェーデンに船で着いた後、
ソ連に引き渡されたのかも知れませんね。

左腕を失ったというのは、事前情報で知ってはいましたが、それでもねぇ・・。
その他、女性との出会いもいくつかありますが、そこは児童文学ですから、
読んでて思わず興奮してしまうような、エッチなシーンはありません。
名作の誉れ高い「忘れられた兵士」を思い出させるような雰囲気もありましたが、
正直、大人向けに書かれていたら、もっともっとキツイ本になっているでしょう。
雪の中の軍曹」のような印象もありました。

あのころはフリードリヒがいた」と、「ぼくたちもそこにいた」、それから本書。
どれが一番かと言われても、これは実に難しいですね。
「フリードリヒ・・」は客観的な要素が大きかった気がしますし、
「ぼくたちも・・」は青春ドラマの雰囲気、
そして本書は前2作と違って、淡々とした、切ない思いに包まれてるというか、
著者が身も心も傷ついたことが、よく伝わってくる一冊でした。







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