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あのころはフリードリヒがいた [戦争小説]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ハンス・ペーター・リヒター著の「あのころはフリードリヒがいた」を読破しました。

いつもコメントしていただくドイツ在住の日本女性であるIZMさんが、先月、帰国され、
お目にかかる機会がありました。そのときのお話はコチラから・・。
そしてその際に、ナント本書をプレゼントしていただきました。
以前から本書のことは聞いていただけに、一度ページをめくると、2時間程度で一気読み!
もともとは1977年に、改定版である本書は2000年に出た255ページの
岩波少年文庫の読みやすい一冊です。

あのころはフリードリヒがいた.jpg

「生まれたころ(1925年)」で始まる本書。
ドイツのインフレがようやく終わろうとする時代で、主人公の「ぼく」の父親は失業者。
アパートの2階に住み、上の階には郵便局員のシュナイダーさん一家が住んでいます。
そして「ぼく」の一週間後に生まれたのがフリードリヒ・シュナイダーです。

そんなことから仲の良い付き合いが始まった両家。
もちろん「ボク」とフリードリヒも大の仲良しです。
しかし1930年になると、訪ねてきた国鉄職員の祖父がシュナイダー家のことを知り、
「この子がそのユダヤ人の子と付き合うのは承知せんぞ!」
1階に住む家主のレッシュ氏も「ユダヤ野郎め!」とフリードリヒには冷たい態度・・。

Friedrich.jpg

そんな反ユダヤの雰囲気は1933年にナチスが政権を取ると、激しさを増します。
アブラハム・ローゼンタール文具店の前には鉤十字の腕章を巻いた男が立ちはだかって
「ユダヤ人の店で買わないように」と立札でアピール。

Four Nazi troops sing in front of the Berlin branch of the Woolworth Co. store during the movement to boycott Jewish presence in Germany, in March, 1933.jpg

一方、「ボク」は両親に内緒でヒトラー・ユーゲントの集まりに
親友のフリードリヒを新入団員として連れて行きますが、
「ユダヤ人はわれわれの災いの元だ!」と連呼する地方管区本部から来た小男の前に
彼がユダヤ人であることがバレてしまうのでした・・。

Friedrich-Richter-Hans-Peter.jpg

翌年にはクラスのノイドルフ先生が苦しそうにみんなに告げます。
「フリードリヒくんはもうこの学校に来られなくなった。
ユダヤ教徒だから、ユダヤ人学校に転校しなければならなくなったのだ」。

このようにユダヤ人迫害が進む中、「ボク」の父親はナチ党員となります。
そして家にシュナイダーさんを招き、自分がとても良い職につけたことを語ります。
「初めて家族揃って休暇旅行に行けるんです。<喜びを通じて力を>という、アレですよ。
私がナチ党員になったのは、家族のためになると思ったからなんですよ」。
やがて2人の話は本題へ。
「あなたたちの生活はますます酷くなるんです。家族のことを考えて、
シュナイダーさん。早くドイツから出ておいきなさい!」

Reiseführer für KdF-Reisen nach Hamburg.jpg

1938年には「水晶の夜(クリスタルナハト)」が起こってしまいます。
アブラハム・ローゼンタール文具店のガラスは割られ、
ユダヤ人開業医の診察室が荒らされたばかりではなく、
好奇心から皆と一緒にユダヤ人寮に侵入し、ガラスを叩き割って楽しむのは「ボク」です。

しかし、帰ってくると3階に住むシュナイダー家も暴徒の標的に・・。
新聞配達のおばさんが「くたばれ、ユダヤの野郎ども!」と金切り声をあげ、
絵や本はズタズタに、ソファーも窓から放り投げられるのを見て、
母と一緒に、「ボク」も泣くのでした。

Hans Peter Richter - Damals war es Friedrich.jpg

1940年には、国民全部がこの映画を観るように・・と言われていた
「ユダヤ人ジュース」をコッソリとフリードリヒと観に行きます。
髭を生やし、こめかみまで巻き毛で覆われたユダヤ人の顔が看板。
コレは先日の「映画大臣 -ゲッベルスとナチ時代の映画-」にも紹介されていた
ゲッベルスが脚本から参加した肝いり「反ユダヤ主義映画」ですね。

しかし、身分証明書でユダヤ人であることが年配の案内係にバレて大騒ぎに・・。
その背後では電灯が消え、「ドイツ週間ニュース」の
勝利のファンファーレが鳴り響くのでした。

Jud Süss.jpg

翌年、ラビを匿っていたシュナイダーさんが逮捕されてしまいます。
たまたま家にいなかったフリードリヒは難を逃れますが、
すでに彼のお母さんも病死していてひとりぼっちに・・。
姿を消してしまったフリードリヒは、1年後にすっかり汚れた姿で戻ってきます。
そんなとき、空襲警報、続いて連合軍の爆撃機が街を襲いますが、
共同の地下防空壕へとユダヤ人を連れて行くことはできません。
爆撃は激しさを増し、ひとり屋外へと取り残されたフリードリヒが
「ぼくも入れてください!開けてくれーっ!」と絶望的に叫び、地下室のドアを叩く音が。。

Friedrich by Hans Peter Richter. Puffin Books.jpg

本書はいわゆる児童文学というものなんでしょうが、
だからってハッピーエンドではありません。
それどころか大人のヴィトゲンシュタインが読んでも、暗い気持ちになるラストです。
う~ん。確かに反ユダヤ主義とナチスの社会を理解するのには
児童向けということではなく、日本人の大人も一度は読んでみるべきですね。
ユダヤ人から描いたものではないのが素直に入りやすい感じがしますし、
「ボク」も、両親も決して聖人ではなく、我が身可愛さに
友人にしてあげられることには限界があることがリアルに伝わってくる良書でした。

ヒトラーやナチスに興味があって、いま、コレを読んでいる少年少女諸君!
とりあえず図書館で本書を借りて、読んでみるべし!
アウシュヴィッツのガス室での何十万人と云われる大量殺戮が
実際にあったにせよ、無かったにせよ、ホロコーストに繋がる根本があります。

1925年生まれの著者リヒターによる自叙伝と思わせる本書でしたが、
本書に続いて、熱心なヒトラー・ユーゲントであった自分たち少年の姿を描いた
「ぼくたちもそこにいた」と、志願して従軍した時の実態を書いた
「若い兵士のとき」の2冊も書いており、彼の3部作となっているそうです。
コレは読むしかないなぁ。







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