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ニセドイツ〈3〉 ≒ヴェスタルギー​的西ドイツ [ドイツの都市と歴史]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

伸井 太一 著の「ニセドイツ〈3〉」を読破しました。

スッカリ個人的お気に入りとなってしまったこのシリーズ。
去年の2月に出た3作目は共産趣味の東ドイツではなく、資本趣味の西ドイツ。
よくよく考えてみれば、「西ドイツ」という国名も今はなく、
子供の頃にTVで観たオリンピックやワールドカップを思い起こさせます。
表紙の自動車も「ニセドイツ〈1〉」のトラビではなく、
黄金のフォルクスワーゲンなのも意味深な感じですね。

ニセドイツ3.jpg

まずは西ドイツが誕生した歴史から・・。
1944年には連合軍によってナチス・ドイツの分割管理が検討され、
米財務長官モーゲンソーによる有名な「モーゲンソー・プラン」が提案されます。
これは第1次大戦の敗戦からたった20年で復活を遂げたドイツの高い工業力を懸念し、
ルール工業地帯も非工業化して、ドイツを農業国家にしようとするもので、
このユダヤ系米国人の評判はドイツでは相当に悪いそうです。
本書に掲載されている、雑誌シュピーゲルのモーゲンソーの写真も実に悪そうな顔で、
パッと見、NKVD長官のベリヤと勘違いするほどです。
そして彼のプランは米国の世論の反対などもあり、"もう幻想"になるのでした。

Henry Morgenthau, Jr.jpg

トラビなど自動車の話から始まった東ドイツの「ニセドイツ〈1〉」でしたが、
本書も早々に戦後、西ドイツで生まれた自動車をいろいろと紹介します。
最初は戦闘機製造が禁止されていたメッサーシュミットの3人乗り、3輪カー「KR200」。
戦闘機の流線型に、当時の最高水準の技術を投入して、10馬力で時速90㌔を実現します。
昔はメッサーシュミットって自動車も作ってんだ・・なんて思っていたものです。

Messerschmitt KR200.jpg

BMWも同様に「イセッタ」という小型車を製造してなんとか生き延びます。
フォルクスワーゲンにも6ページを割いて、ビートルからゴルフへと変貌を遂げた歴史に、
ヒトラー時代の1935年頃に製造されたプロトタイプ車の写真も載っていました。

Volkswagen Type 1  PROTOTYPE.jpg

高級車のベンツは8ページ。メルセデス・ベンツの由来となった女の子、
メルセデスちゃんの写真に、当時のポスターなど見ているだけで楽しいですね。

Mercedes Jellinek.jpg

そしてナチス・ファンにも知られたポルシェはというと、やっぱり自動車製造が禁じられ
1951年に亡くなったポルシェ博士の最後の作品は「赤いトラクター」です。
「完成されたフォルム、農作業用なのになぜか赤い。」と書かれたこのトラクター。
メッサーシュミットの「KR200」にも通じるところがあるようにも思いますが、
トラクターって普通、赤じゃない・・? と思って調べてみると、緑なんかが多いんですね。。
日本では1960年代に「ヰセキ」が、ポルシェ・トラクターを輸入販売し、
1970年代には小林旭がヤンマーの「赤いトラクター」をヒットさせたり・・と、
日本でトラクターが赤い・・というイメージは、実はポルシェが起源なのかも知れません。

Porsche_Traktor.jpg

飛行機の話では、東ドイツにある「西ベルリン」への交通が興味深かったですね。
飛び地のような顔をした西ベルリンは、本当の意味での西ドイツ領にはあらず、
連合国による分割占領状態であり、そこへ向かう航空路線も、
パンナム、ブリティッシュ・エアウェイズ、エール・フランスの3社だけで、
復活したルフトハンザの参入は認められていなかったそうです。

ニセドイツ〈2〉≒東ドイツ製生活用品」の西ドイツ版のようなキッチン用品も紹介。
1920年代に発展したオーブン、コンロ、換気扇、棚などが一体化したシステムキッチン。
これを見ると去年の6月に出た「ナチスのキッチン」を読んでみたくなります。
続いて刃物といえば「ゾーリンゲン」。
ヴィトゲンシュタインもいつかはゾーリンゲンの包丁が欲しい・・。
と思っていたら、amazonでも結構安く売ってました。。

ZWILLING J.A. HENCKELS.jpg

ドイツでは1840年頃から発達した缶詰技術。
最初に詰められたのはアスパラガスで、以降、あらゆる種類の野菜缶が誕生したものの、
「やってはいけないコトもある。」と缶詰パスタには著者はお怒りの様子です。
「茹でられたパスタを缶詰に入れるとは、神とイタリア人をも恐れぬ所業だ」として、
この ↓ 缶詰が開けられた写真が掲載されています。コレは確かにいけません。。

gut & günstig spaghetti.jpg

日本の誇る「ポッキー」はドイツを含む欧米では「MIKADO(ミカド)」として販売され、
マクドナルドの話では、ファストはドイツ語では、「かろうじて」などの意味のため、
ファスト・フードは「ギリギリ食べ物と呼べる物」と馬鹿にされる始末・・。
ビールから飲み物に進むと、やっぱり出ました「ファンタ」の話。
そして1930年以来の歴史を持つというドイツ・オリジナルの「アフリ・コーラ」。

afri-cola.jpg

こんなコーラは初めて知りましたが、ドイツ軍ファンから見ると
どうしても「アフリカ軍団(アフリカ・コーア)を連想とさせます。

Deutsches Afrikakorps.jpg

音楽の章へ行くと、デビュー当時、ハンブルク巡業に行っていたビートルズの話も。
現在もビートルズ広場や博物館があるそうですが、
そういえば「抱きしめたい」とか、「シー・ラヴズ・ユー」のドイツ語バージョン・・、
なんてのもありましたね。初めて聞いたときはショックだったなぁ。。
「Komm, Gib Mir Deine Hand」か、「Sie Liebt Dich」でググってみるか、
「パスト・マスターズ」にも入っていますので、気になる方はど~ぞ。。

DIE BEATLES.jpg

しかし本書は西ドイツがテーマですから、ビートルズなどといった英国バンドは写真もなし。
大きく取り上げられるのはポップグループ「ジンギスカン」です。。
彼らの曲はモンゴルの「ジンギスカン」以外にもイカしたものばかりだそうで、
「めざせモスクワ」、「栄光のローマ」、「さらばマダガスカル」、「前人未到のヒマラヤ」などがあり、
人名タイトルでも「ツタンカーメン」に、「サムライ」もアツい・・そうです。

めざせモスクワ.jpg

ヴィトゲンシュタインの好きなスポーツの章。
1949年の西ドイツ建国からわずか5年後、1954年のワールドカップで優勝します。
この「ベルンの奇蹟」というのは映画にもなっている有名な話ですね。
1974年の自国開催では、偶然にも東ドイツと同組になり・・。

world cup 1974 west germany_east germany.jpg

2006年の統一後の開催については、マスコットの「ゴレオ6世」を取り上げています。
あまりの不人気ゆえ、ぬいぐるみを製造していたバイエルンの会社は
ワールドカップ開催の前月に破産宣告をするハメに。。
ドイツ人サッカーファンによれば、「ゴレオ6世」の失敗の原因は、
「下半身丸出し」によるものだそうです。

Goleo VI.jpg

靴職人ダスラー兄弟の不仲から始まった「アディダス」と「プーマ」の話も
彼らがナチ党員であったとか、なかったとか、密告したとか面白いですね。
「アルプスの少女ハイジ」は1977年に放映され、ドイツ中に広まり、
アメコミ調のギャル風・ハイジや、アフロ気味なハイジなど、いろいろと漫画化されてます。

heidi.jpg

後半は初代首相アデナウアーから、歴代の西ドイツ首相を写真と共に詳しく紹介。
1980年~90年代には、ナチス時代の外務次官ヴァイツゼッカーの息子である、
リヒャルト・フォン・ヴァイツゼッカー大統領に、巨漢のヘルムート・コール首相
あの「ゲーレン機関」や、西ドイツの「共産党」の運命に、新右翼の「ネオナチ」、
テロ組織「赤軍派(RAF)」、通称「バーダー=マインホフ」などなど・・。
ウルリケ・マインホフの変貌した写真はインパクト充分ですね。

Ulrike_Meinhof.jpg

西ドイツ国歌が誕生するまでの話も聞いたことがないもので、
アデナウアー首相がシカゴを訪問した際には、まだ現在の国歌が制定されてなく、
ケルン訛りのバリバリのカーニバル行進曲「ハイデヴィツカ船長!」というコミカルな曲が
流されたそうです。
また、ナチス・ドイツではお馴染みの建物である「国会議事堂(ライヒスターク)」は、
現在、連邦議会場として綺麗に修復されていました。

Reichstag.jpg

東ドイツを扱った「ニセドイツ〈1〉」と「ニセドイツ〈2〉」は各々169ページでしたが、
本書は222ページとボリュームアップしたものの、お値段据え置きで、
西ドイツの工業製品、生活用品、そして政治・・と、実に幅広く紹介しています。
確かに後半の政治部分はニセドイツ〈1〉、〈2〉には無かった展開でしたが、
これは意図したもののようで、個人的には大変勉強になりました。

また、音楽でも「ジャーマンメタル」がマニアックに書かれていて、
パワーメタルにスラッシュメタル、デスメタルにブラックメタルといったジャンルにまで言及。。
メタルには疎いんですが、「メタラー」という言葉もあるんですね・・。
相変わらず、実にいろんなことを楽しく教えてくれる一冊でした。

Messerschmitt_kr200.jpg

この「ニセドイツ」シリーズはコレにて終了なんでしょうが、
ファンとしてはスター・ウォーズ・サーガのように、ニセドイツの前の物語、
「ナチドイツ」もぜひやってもらいたいですね。。
特に生活用品のカラー写真なんて面白そう・・。











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