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ナチを欺いた死体 英国の奇策・ミンスミート作戦の真実 [英国]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ベン・マッキンタイアー著の「ナチを欺いた死体」を読破しました。

2011年10月に発刊されたときから気になっていた469ページの本書は、
1943年にシチリア上陸を目指す「ハスキー作戦」の欺瞞工作として実施された
ワリと有名な作戦の全貌を暴いた一冊です。
一口に言うとこの欺瞞工作とは、連合軍が翌年のノルマンディ上陸でも徹底して行ったように
上陸場所はシチリアではなく、ギリシャとサルディーニャ島であると書かれた手紙を持った
英将校の死体を拾わせて、それをヒトラーを信じさせようとするものです。

ナチを欺いた死体.jpg

まずは英国がドイツに宣戦布告した1939年9月の英国海軍情報部から・・。
諜報作戦を立案する際立った能力のある男、イアン・フレミング少佐と、
その上司の部長ゴドフリーによって作成された機密メモが各軍情報部に配布されます。
ドイツ人を騙すための方法が51個も提案され、その中には
「調理法を記した爆薬を詰めた缶詰を海に流し、腹を空かせた敵艦船の乗員が回収して
火にかけたとたんに全員を吹き飛ばす」といった卑劣な方法に、
「死体に空軍兵士の軍服を着せ、重要文書をポケットに入れて海岸に落とす」。
このような突拍子もない案を考えつくフレミング少佐は、後に「ジェームズ・ボンド」を生み出し、
部長のゴドフリーは彼の小説に登場する007の上司「M」のモデルなのです。

IanFleming.jpg

そして時は過ぎ、1942年になると空軍情報・保安部の大尉で、「MI5」に臨時転属していた
チャムリーによって「死体に重要文書」が具体的に拡張され、
作戦が海軍主導となったことから海軍情報部のモンタギュー少佐とコンビを組むことになります。
しかし当初は10ポンドも出せば陸軍病院から簡単に死体は手に入ると思っていた彼らですが、
それが驚くほど難しいことに気がつくのです。
つまり軍人にふさわしい年齢で、死んだばかりで、目立った外傷や疾患がなく、
遺体を赤の他人が理由も告げずに持って行っても近親者が文句を言わない・・。
まぁ、フランケンシュタインのモンスターを作るようにはいかないわけですね。

Charles Cholmondeley_Ewen Montagu.jpg

1943年1月12日に死亡が宣告された34歳のウェールズ人、グリンドゥール・マイケル。
独身で、金も家族もいないこの男の死因は殺鼠剤を服毒したことによるもの。
有名な法医学者でも死因の解明ができないような死体が手に入り、冷蔵保存されます。
かくしてシチリア上陸「ハスキー作戦」の欺瞞工作「ミンスミート作戦」が本格的に始動。
「ミンスミート(Mincemeat)」とは刻んだドライフルーツの洋酒漬けや挽肉などの意味で、
英国では定められたコードネームを蓄積し、その作戦完了後に戻して、
再度利用するというシステムなんだそうです。

これはコードネームというものは、スパイにしろ、軍参謀にしろ、
立案者が洒落の利いた暗示的なモノで意味を持たせたがることを懸念したものであり、
ドイツ軍の無頓着さを参考にして、英本土上陸の「あしか作戦」に触れています。
あしかはドイツ語で「ゼーレーヴェ(Seelöwe)」、英語で「シーライオン(Sea Lion)」ですが、
ライオンは英国の紋章であり、その国に海から攻撃するという
なんとも単純なコードネームだとしています。確かにそうですねぇ。
朝日ソノラマに「幻の英本土上陸作戦」という、「もしも本」があったのを発見しましたので
今度、読んでみようかと思います。

Coat of Arms of England -1340.jpg

しかし実はココからが大変です。
グリンドゥール・マイケルはドイツ人が怪しまない身元のしっかりした軍人に変身しなければならず、
そのための写真つきの身分証、財布の中には生活臭に溢れた品々が必要ですし、
なにより連合軍の上陸場所が誰でも想像できるほどみえみえのシチリアではなく、
ギリシャとサルディーニャ島であると書かれた手紙の信憑性をどのようにするか??

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海軍将校にすると、「これ見よがしの」制服を新調するために死体の寸法を仕立て屋に測らせるという
おぞましい仕事が必要になることから、軍服のサイズが規格化された「海兵隊」に決定。
軍装一式を調達したチャムリーは以後、毎日その服装で過ごし、使用感を出すことにも専念し、
名前もマーティン少佐に決まって、情報部の可愛い女の子の写真に手紙が財布に収められます。

Operation-Mincemeat.JPG

ようやく準備作業であるマーティン少佐の私物が整うと、ドイツ軍を騙す手紙の偽造が始まります。
英陸軍参謀次長アーチー・ナイ少将から北アフリカのアイゼンハワーの元で
軍を指揮しているハロルド・アレキサンダー大将への私信という形で作成。
モンタギューの草稿は「アイゼンハワーとの仲はどうかい?」とか、
モントゴメリーの頭がデカい」ことをからかう悪意のない言葉もちりばめられますが、
それから1ヶ月間、情報部の様々な人間が口を挟み、何度も書き直し・・。
最終的には参謀総長のアラン・ブルックまでが登場して、
「本物らしさを出す最善の方法」としてナイ少将本人が欺瞞の手紙を書くことになります。

Nye_Alexander.JPG

ついでとばかりに連合作戦本部司令官のマウントバッテン卿から
地中海艦隊司令官カニンガム元帥に宛てた手紙も作成。
本書にはこの「完璧な手紙」も全文掲載されているのが良いですね。
こうして英首相チャーチルと「ハスキー作戦」を指揮するアイゼンハワーも、
「ミンスミートに完全な許可を与える」のでした。

グリンドゥール・マイケルとして死んでから、3ヵ月間冷蔵されていたマーティン少佐。
いよいよ出動のために軍服に救命胴衣を身に付けますが、
両目は落ち込み、皮膚は毒素による黄疸で黄色くなっています。

The body of the Welsh tramp, Glyndwr Michael.jpg

特注の死体運搬容器にドライアイスが詰められてスコットランドへ車で出発。
そこからジュエル大尉の潜水艦「セラフ」に乗り換えて、
スペインの南西、アンダルシアのウエルバ沖を目指します。
もちろん艦長以外には容器の中身は秘密。。
狭い艦内では乗組員たちも楽しくマーティン少佐と一緒に過ごすのでした。

Martin Jewell, Capitán del submarino HMS Seraph.jpg

無事にミッションを完了し、ジブラルタルから「荷物は無事配達」と書いた絵葉書を
モンタギューに送ったジュエル艦長。
スペイン人漁師が溺死体を発見し、スペイン海軍の大尉に引き渡されますが
ここからは完全なスパイ小説のような展開となります。
すなわち中立国のスペインと、その首都マドリードにおける英独のスパイ合戦です。

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英独双方のスパイは死体の持っていた手紙の存在に気がつきますが、
躍起になって手に入れようとするドイツ側に、すぐに返してほしい"フリ"をしつつ、
なんとかドイツ人の手に渡らせようとする英国側・・。
いくらドイツ寄りのスペインであっても、英国将校が保持していた手紙を
勝手に開封するなどという行為は政治的にも芳しくなく、
スペイン側に気を使って返されたら、「ミンスミート」は元も子もありません。
ロンドンで待つモンタギューも、イライラが頂点に達しています。

Ewen Montagu.jpg

ドイツ側のクラウス、キューレンタールといったスパイに加え、
国防軍防諜部(アプヴェーア)部長カナリス提督も絡んで、
見事手紙のコピーをゲットすることの出来たドイツ。
この情報に英独双方が万々歳・・。

それでも48時間以上、この手紙を調べたアプヴェーアは「信憑性は五分五分」と報告。
さらに真贋を立証する任務はドイツ国防軍の情報機関の要、「西方外国軍課」が
担当することになるのでした。
この「西方外国軍課」の課長は男爵アレクシス・フォン・レンネという中佐ですが、
銀行家の出身で几帳面で融通が利かず、頭が恐ろしく切れるキリスト教徒と紹介されます。
ちなみに、この当時の「東方外国軍課」の課長は、あのラインハルト・ゲーレンですね。

Alexis Freiherr von Roenne.jpg

やがてヒトラーのお気に入りで、疑り深いレンネの出した答えは「本物」。。
著者はこの彼の出した答えに疑問を呈します。
その最も大きな理由は、翌年のノルマンディ上陸作戦の欺瞞工作もそのまま報告し、
英国にいる44個師団を89個にまで水増して報告するという連合軍にとっての立役者であり、
その後のヒトラー暗殺未遂事件で逮捕、処刑されたことから、
「反ナチ」将校としてドイツを敗戦に追い込むために真実を報告しなかったとしています。

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ヒトラーとドイツ軍はサルディーニャ島の兵力を倍増し、戦闘機も追加配備。
それからバルカン半島のドイツ軍師団も8個から18個に増え、
ギリシャには海岸砲台を設置して、防衛部隊も1個から8個師団へと増強します。
まもなく始まるソ連との一大決戦「クルスクの戦い」の前に苦労してますねぇ。。

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「ミンスミート」のあおりを喰らって兵員を割かれたケッセルリンク元帥の守るシチリアでは
ヘルマン・ゲーリング師団」などが奮戦するものの、、
あっという間に降伏するイタリア兵の多さに、その戦力だけではどうにもなりません。

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こうして大成功を収めた「ミンスミート作戦」のかかった経費はたった200ポンドほど。。
戦後、モンテギューは「実在しなかった男」を出版し、
ベストセラーとなって1956年に映画化もされますが、
相棒のチャムリーに、ドイツの暗号機エニグマを解読していたウルトラ、
そして「マーティン少佐」の正体など、書けないことがあまりに多く、
本書はそれらをすべて解明しようと書かれたものということです。

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著者は「ナチが愛した二重スパイ 」という本も書いていて、
主役となるのは本書にも登場する「ジグザグ」というコードネームのスパイです。
ですから、本書も戦争ものというより、スパイものといった雰囲気でしたね。
007の作者、イアン・フレミングの話も初めて知りましたし、
007モノ、一度、チャレンジしてみようか・・という気にもなりました。

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映画で一番好きなのは、ヘスラー大佐が登場する「ロシアより愛をこめて」ですが、
初めてロードショーに行ったのは「ムーンレイカー」です。
でもコレ原作が評判良いですね。
元ナチス親衛隊の生き残りの復讐・・といった話のようで、独破戦線向きかな??

「Uボートで来たスパイ―あるナチス・ドイツ諜報員の回想」っていうのも
かなり前から気になっています。











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ドイツ軍の小失敗の研究 -第二次世界大戦戦闘・兵器学教本- [ナチ/ヒトラー]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

三野 正洋 著の「ドイツ軍の小失敗の研究」を読破しました。

本書をご存知の方、または読まれた方も多いのではと思いますが、
このようなネガティブなタイトルの本はなんとなく内容が想像ができるので
今まで敬遠していました。
1996年に単行本、本書は2007年の新装版の文庫ですが、
300ページほどですから、まぁ軽い気持ちで読んでみました。

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「まえがき」では、超重戦車「マウス」などの100㌧戦車については
前著に書いているため割愛すると宣言されているとおり、
著者は1995年に「日本軍の小失敗の研究」と、本書の後の1998年にも
「連合軍の小失敗の研究」も書いている、小失敗研究の専門家です。
そして第1章「総合的な失敗」では、第1次大戦における2正面戦争での敗北を教訓とせず、
「ヒトラー、ゲーリングらは僅か21年後、再び、英仏に宣戦を布告するのであった」。
う~ん。ドイツが英仏に宣戦布告したって本・・、たまにありますね。。

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続いてスペイン内戦での戦車と航空機に触れ、ドイツ軍のⅡ号戦車の性能が
ソ連のT-26BT5快速戦車の足元にも及ばなかったのに、
その後はソ連の軍事力、兵器開発力を過小評価して、1941年に攻め込んだとして、
「これは一体、どのような理由からなのであろうか」と結びます。
結局、著者が読んだ歴史書には「本当に知りたい事柄」が書かれていなかったようで、
疑問を抱えたまま、この件についてはスルー・・。

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「最悪のナンバー2 ゲーリングの大罪」として、ダメ国家元帥が権力を握り続けた
ルフトヴァッフェについて語ります。
ミルヒを中心にウーデットイェショネクといった高官2人が自殺するという内部の軋轢も紹介し、
「ヒトラーが冷静に側近たちを見つめ、より有能なケッセルリンクリヒトホーフェン
バウムバッハなどを空軍のトップに据えておけば、状況はかなり変わったはずである」。

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それからイタリアを筆頭としたルーマニア、ハンガリーなどの同盟国の存在。
特にイタリアは戦力だけは充実しているのに、ギリシャ北アフリカで敗北を重ねたことで
ドイツ軍は救援に向かわねばならなかったという話。

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暗号機「エニグマ」を解読したとされる連合軍の「ウルトラ」では、
「解読されたとはとうてい考えられない」として、
「一般の戦史に書かれている事柄は虚構と判断したい」そうです。
ほ~。。そうですか。ヴィトゲンシュタインはエニグマ本を読んだことがないので、
今度、「エニグマ・コード 史上最大の暗​号戦」を読んでみますかねぇ。

ドイツ3軍の他に武装SSが存在し、陸軍との摩擦があったという定番以外にも
最弱歩兵師団である「空軍歩兵師団」にも触れて、
ゲーリングがこのような組織を作ろうと思い立った真の理由は、
「ヒトラーは直属の親衛隊を持っている。自分も直属の戦闘部隊を持ちたい・・という
単純な欲求によるものとしか考えられない」ということですが、
この役立たず師団創設の経緯は「ラスト・オブ・カンプフグルッペIII」にも書かれていましたし、 
直属の戦闘部隊なら、降下猟兵や「ヘルマン・ゲーリング師団」がそれに当たると思います。

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他にも原爆開発はユダヤ人排除によって遅延し、ウクライナなどでの立ち振る舞いから
ウラソフによる「ロシア解放軍」設立にも言及し、ナチス政策の不備を挙げています。

第2章は「戦闘車両と火砲」です。
ドイツ軍はⅢ号戦車からティーガーまでの4種類の戦車を合計2万3000両生産したのに対して、
米国はシャーマンを5万3000両、ソ連はT-34を5万両も作り、連合軍との差は5倍とします。
そういうわけで、作りなれているⅣ号戦車を量産し、高性能のパンターに絞っての
大量生産とするべきだったと、「ティーガーの二種は無用の長物・・」といった解釈です。
もちろんティーガーが強力な戦車であったことは認めたうえで、
生産に手間がかかり過ぎるという観点からですね。

Schwere Panzer Abteilung 503.jpg

ティーガーがダメであれば、「列車砲ドーラ」なんてのはお話になりません。
一応、その巨大さを「戦艦大和」と比較します。
口径は大和の460㎜に対して、ドーラは800㎜、砲身長は21.3mに対して、32.5メートル。
砲弾に至っては大和の5倍の重さを撃ち出す史上最大の怪物ですが、
せいぜい「セヴァストポリ要塞」に登場したり、
1944年8月の「ワルシャワにおけるユダヤ人蜂起」に姿を見せたということです。。
著者は兵器には詳しいんでしょうが、わけわからん表現も所々に見受けられます。
あ~、1943年の「ワルシャワ・ゲットー蜂起」とゴッチャになってるんですねぇ。

80 cm Kanone schwerer Gustav_Dora.jpg

第3章は「ドイツ空軍の小失敗」。
1940年の「バトル・オブ・ブリテン」におけるBf-109の戦いぶりにおいて、
1930年代の中頃に日本海軍が「増槽」と呼んでいた、ドロップタンクを装着しなかったことに
疑問を呈し、中型の双発爆撃機、He-111Do-17Ju-88の3種の性能もイマイチかつ、
同程度の大きさの爆撃機を複数生産したことも失敗とします。

A flight of Dornier Do-17 bombers in a training exercise.jpg

4発爆撃機もFw-200コンドルは所詮、旅客機からの改造であり、
He-177グライフも2基のエンジンを1つにまとめるなどという凝ったことをやらず、
4つのプロペラという当たり前の設計を最初からしていればよかったということですね。

ジェット戦闘機では、有名なMe-262ではなく、ハインケルが先行開発していた
He-280を生産しなかったドイツ軍首脳の無能ぶりを詳しく検証します。

He 280 V1.jpg

急降下爆撃機が英国戦艦を1隻も沈めることができなかった・・という話は、
面白かったですね。
上空からの爆弾では防御力のある戦艦を沈めるのは困難であり、
それを成し遂げるには「魚雷攻撃」、すなわち雷撃機が必要ということです。
確かにドイツの雷撃機って聞いたことがないですね。
マルタ島攻防戦」でもイタリアの雷撃機が頑張ってたのが印象的だったくらいです。 

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高射砲をいくら増やしても連合軍爆撃機編隊への損害は頭打ちという件では、
米国が開発していた近接信管(マジックヒューズ)を開発できなかったのが残念・・として、
「もしこのマジックヒューズ付き砲弾があれば、撃墜率は5倍~10倍まで上昇したはずであった」
と断言します。
この信管は知りませんでしたが、そんな凄い代物なんですか。

ロケット戦闘機ナッターミステルにも触れながら、様々な試作機も紹介。
なかでもブローム・ウント・フォスBV141偵察機は左右非対称の変わりモノで、
操縦は極端に難しいであろうことはシロウトでもわかります。
こんな ↓ 写真を見ると、とても完成形とは思えませんね。

BV 141.jpg

第4章は「ドイツ海軍の失敗」。「小失敗」じゃなく「失敗」なのは
英国の海軍力と比較して、「戦う前についていた勝負」としているからなんですね。
特に空母グラーフ・ツェッペリンの建造が始まっては中止を繰り返し、
遂には完成を見なかったことが大きな失策であったとします。
しかしその要因は「翼のあるものは自分のもの」と公言するゲーリングによる
政治的圧力と見るべき」としていますが、コレはどうかなぁ。。

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最後の第5章では「ドイツ軍の優れていた部分」を無理やり紹介します。
個々の兵士としては特に粘り強く、「電撃戦」を編み出し、突撃砲も1万台量産。
車両の修理・回収部隊の手腕は超一流といった具合。
空軍ではV-2を含めたV-1、に、誘導ミサイルHs-293、誘導爆弾「フリッツX」の開発。
海軍の水上艦隊には著者はなぜか厳しく、よってUボートのⅦC型を量産を進め、
そのUボート・ブンカーの耐久性を褒めるくらいです。

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読んでいて思ったのは「小失敗」の基準が一定ではないことです。
著者の考える良い兵器とはコストが安く、大量生産が可能で、革新的なアイデアで、
1950年台以降も古くならずに役に立つような素晴らしい兵器が、然るべき時に完成し、
効率よく運用できるモノ・・といった具合に感じました。
そしてうまく開発できなかった理由が不明だと、たくさん読んだ本に書かれていないとか、
やれヒトラーが悪い、ゲーリングが悪いと、短絡的な推測に終始します。

ドイツ軍全体としても1939年から戦争がはじまり、しかもそれが1945年まで続く・・
などと考えていた人間は皆無ですし、戦局も相手も刻々と変化。
後付けでもって、「あの時、これを選択していれば・・」ってことならば、
ヴィトゲンシュタインでさえ、ほとんどの兵器と戦略、戦術にダメ出しできますよ。。

Bel Utility Tractor.jpg

巻末の参考文献を見てみると、パウル・カレルの戦記に始まり、
朝日ソノラマの戦史シリーズ、第二次世界大戦ブックスがかなり多く、
ジャーマンタンクス」や、「第三帝国の興亡」なども挙げられていますが、
それらの本はこの「独破戦線」でも半分は紹介したモノでもありますし、
決して悪い本ではないものの、言ってしまえば古典の入門編のような書籍たちで、
コレらを元本にして「研究」とか、「教本」って謳っていいのか・・? と疑問に感じました。

特に戦略空軍についての分析は「東部戦線の独空軍」や「最後のドイツ空軍」の
パクリにも近いですし、T-34戦車の優越性の部分は読んでいても
無敵! T34戦車」の受け売りであるとすぐにわかります。
重戦車大隊記録集」を喜んで読んでしまうような人間にとっては、生産台数から
「ティーガーの二種は無用の長物・・」という評価をアッサリ下されると、
冷静に読もうとするのはなかなか大変です。
ドイツ軍の兵器ファンでも若干「Mっ気」があれば、悶絶しながら楽しめるかも知れません。





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ニセドイツ〈3〉 ≒ヴェスタルギー​的西ドイツ [ドイツの都市と歴史]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

伸井 太一 著の「ニセドイツ〈3〉」を読破しました。

スッカリ個人的お気に入りとなってしまったこのシリーズ。
去年の2月に出た3作目は共産趣味の東ドイツではなく、資本趣味の西ドイツ。
よくよく考えてみれば、「西ドイツ」という国名も今はなく、
子供の頃にTVで観たオリンピックやワールドカップを思い起こさせます。
表紙の自動車も「ニセドイツ〈1〉」のトラビではなく、
黄金のフォルクスワーゲンなのも意味深な感じですね。

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まずは西ドイツが誕生した歴史から・・。
1944年には連合軍によってナチス・ドイツの分割管理が検討され、
米財務長官モーゲンソーによる有名な「モーゲンソー・プラン」が提案されます。
これは第1次大戦の敗戦からたった20年で復活を遂げたドイツの高い工業力を懸念し、
ルール工業地帯も非工業化して、ドイツを農業国家にしようとするもので、
このユダヤ系米国人の評判はドイツでは相当に悪いそうです。
本書に掲載されている、雑誌シュピーゲルのモーゲンソーの写真も実に悪そうな顔で、
パッと見、NKVD長官のベリヤと勘違いするほどです。
そして彼のプランは米国の世論の反対などもあり、"もう幻想"になるのでした。

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トラビなど自動車の話から始まった東ドイツの「ニセドイツ〈1〉」でしたが、
本書も早々に戦後、西ドイツで生まれた自動車をいろいろと紹介します。
最初は戦闘機製造が禁止されていたメッサーシュミットの3人乗り、3輪カー「KR200」。
戦闘機の流線型に、当時の最高水準の技術を投入して、10馬力で時速90㌔を実現します。
昔はメッサーシュミットって自動車も作ってんだ・・なんて思っていたものです。

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BMWも同様に「イセッタ」という小型車を製造してなんとか生き延びます。
フォルクスワーゲンにも6ページを割いて、ビートルからゴルフへと変貌を遂げた歴史に、
ヒトラー時代の1935年頃に製造されたプロトタイプ車の写真も載っていました。

Volkswagen Type 1  PROTOTYPE.jpg

高級車のベンツは8ページ。メルセデス・ベンツの由来となった女の子、
メルセデスちゃんの写真に、当時のポスターなど見ているだけで楽しいですね。

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そしてナチス・ファンにも知られたポルシェはというと、やっぱり自動車製造が禁じられ
1951年に亡くなったポルシェ博士の最後の作品は「赤いトラクター」です。
「完成されたフォルム、農作業用なのになぜか赤い。」と書かれたこのトラクター。
メッサーシュミットの「KR200」にも通じるところがあるようにも思いますが、
トラクターって普通、赤じゃない・・? と思って調べてみると、緑なんかが多いんですね。。
日本では1960年代に「ヰセキ」が、ポルシェ・トラクターを輸入販売し、
1970年代には小林旭がヤンマーの「赤いトラクター」をヒットさせたり・・と、
日本でトラクターが赤い・・というイメージは、実はポルシェが起源なのかも知れません。

Porsche_Traktor.jpg

飛行機の話では、東ドイツにある「西ベルリン」への交通が興味深かったですね。
飛び地のような顔をした西ベルリンは、本当の意味での西ドイツ領にはあらず、
連合国による分割占領状態であり、そこへ向かう航空路線も、
パンナム、ブリティッシュ・エアウェイズ、エール・フランスの3社だけで、
復活したルフトハンザの参入は認められていなかったそうです。

ニセドイツ〈2〉≒東ドイツ製生活用品」の西ドイツ版のようなキッチン用品も紹介。
1920年代に発展したオーブン、コンロ、換気扇、棚などが一体化したシステムキッチン。
これを見ると去年の6月に出た「ナチスのキッチン」を読んでみたくなります。
続いて刃物といえば「ゾーリンゲン」。
ヴィトゲンシュタインもいつかはゾーリンゲンの包丁が欲しい・・。
と思っていたら、amazonでも結構安く売ってました。。

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ドイツでは1840年頃から発達した缶詰技術。
最初に詰められたのはアスパラガスで、以降、あらゆる種類の野菜缶が誕生したものの、
「やってはいけないコトもある。」と缶詰パスタには著者はお怒りの様子です。
「茹でられたパスタを缶詰に入れるとは、神とイタリア人をも恐れぬ所業だ」として、
この ↓ 缶詰が開けられた写真が掲載されています。コレは確かにいけません。。

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日本の誇る「ポッキー」はドイツを含む欧米では「MIKADO(ミカド)」として販売され、
マクドナルドの話では、ファストはドイツ語では、「かろうじて」などの意味のため、
ファスト・フードは「ギリギリ食べ物と呼べる物」と馬鹿にされる始末・・。
ビールから飲み物に進むと、やっぱり出ました「ファンタ」の話。
そして1930年以来の歴史を持つというドイツ・オリジナルの「アフリ・コーラ」。

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こんなコーラは初めて知りましたが、ドイツ軍ファンから見ると
どうしても「アフリカ軍団(アフリカ・コーア)を連想とさせます。

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音楽の章へ行くと、デビュー当時、ハンブルク巡業に行っていたビートルズの話も。
現在もビートルズ広場や博物館があるそうですが、
そういえば「抱きしめたい」とか、「シー・ラヴズ・ユー」のドイツ語バージョン・・、
なんてのもありましたね。初めて聞いたときはショックだったなぁ。。
「Komm, Gib Mir Deine Hand」か、「Sie Liebt Dich」でググってみるか、
「パスト・マスターズ」にも入っていますので、気になる方はど~ぞ。。

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しかし本書は西ドイツがテーマですから、ビートルズなどといった英国バンドは写真もなし。
大きく取り上げられるのはポップグループ「ジンギスカン」です。。
彼らの曲はモンゴルの「ジンギスカン」以外にもイカしたものばかりだそうで、
「めざせモスクワ」、「栄光のローマ」、「さらばマダガスカル」、「前人未到のヒマラヤ」などがあり、
人名タイトルでも「ツタンカーメン」に、「サムライ」もアツい・・そうです。

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ヴィトゲンシュタインの好きなスポーツの章。
1949年の西ドイツ建国からわずか5年後、1954年のワールドカップで優勝します。
この「ベルンの奇蹟」というのは映画にもなっている有名な話ですね。
1974年の自国開催では、偶然にも東ドイツと同組になり・・。

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2006年の統一後の開催については、マスコットの「ゴレオ6世」を取り上げています。
あまりの不人気ゆえ、ぬいぐるみを製造していたバイエルンの会社は
ワールドカップ開催の前月に破産宣告をするハメに。。
ドイツ人サッカーファンによれば、「ゴレオ6世」の失敗の原因は、
「下半身丸出し」によるものだそうです。

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靴職人ダスラー兄弟の不仲から始まった「アディダス」と「プーマ」の話も
彼らがナチ党員であったとか、なかったとか、密告したとか面白いですね。
「アルプスの少女ハイジ」は1977年に放映され、ドイツ中に広まり、
アメコミ調のギャル風・ハイジや、アフロ気味なハイジなど、いろいろと漫画化されてます。

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後半は初代首相アデナウアーから、歴代の西ドイツ首相を写真と共に詳しく紹介。
1980年~90年代には、ナチス時代の外務次官ヴァイツゼッカーの息子である、
リヒャルト・フォン・ヴァイツゼッカー大統領に、巨漢のヘルムート・コール首相
あの「ゲーレン機関」や、西ドイツの「共産党」の運命に、新右翼の「ネオナチ」、
テロ組織「赤軍派(RAF)」、通称「バーダー=マインホフ」などなど・・。
ウルリケ・マインホフの変貌した写真はインパクト充分ですね。

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西ドイツ国歌が誕生するまでの話も聞いたことがないもので、
アデナウアー首相がシカゴを訪問した際には、まだ現在の国歌が制定されてなく、
ケルン訛りのバリバリのカーニバル行進曲「ハイデヴィツカ船長!」というコミカルな曲が
流されたそうです。
また、ナチス・ドイツではお馴染みの建物である「国会議事堂(ライヒスターク)」は、
現在、連邦議会場として綺麗に修復されていました。

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東ドイツを扱った「ニセドイツ〈1〉」と「ニセドイツ〈2〉」は各々169ページでしたが、
本書は222ページとボリュームアップしたものの、お値段据え置きで、
西ドイツの工業製品、生活用品、そして政治・・と、実に幅広く紹介しています。
確かに後半の政治部分はニセドイツ〈1〉、〈2〉には無かった展開でしたが、
これは意図したもののようで、個人的には大変勉強になりました。

また、音楽でも「ジャーマンメタル」がマニアックに書かれていて、
パワーメタルにスラッシュメタル、デスメタルにブラックメタルといったジャンルにまで言及。。
メタルには疎いんですが、「メタラー」という言葉もあるんですね・・。
相変わらず、実にいろんなことを楽しく教えてくれる一冊でした。

Messerschmitt_kr200.jpg

この「ニセドイツ」シリーズはコレにて終了なんでしょうが、
ファンとしてはスター・ウォーズ・サーガのように、ニセドイツの前の物語、
「ナチドイツ」もぜひやってもらいたいですね。。
特に生活用品のカラー写真なんて面白そう・・。











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柏葉騎士十字章受勲者写真集3 (eichenlaubträger 1940-1945-Band Ⅲ) [軍装/勲章]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

Fritjof Schaulen著の「eichenlaubträger 1940-1945-Band Ⅲ」を読破しました。

柏葉騎士十字章受章者のカラー写真集の最終巻です。
アルファベット順で「R」~「Z」の受章者が対象となっていますが、
今回の表紙のメンバーはこんな感じです。
左上から、ヘルマン・"降下猟兵"・ラムケ
クルト・"空挺将軍"・シュトゥーデント
エルヴィン・"砂漠のキツネ"・ロンメル
下はオットー・"最も危険な男"・スコルツェニー、クラウス・ショルツ、
フェリックス・"SSドイチュラント"・シュタイナー
U-108艦長のショルツがわかった方はスゴイですね。優勝です。

eichenlaubträger 1940-1945-Band Ⅲ.JPG

今回も最初の20ページほどは各種勲章がカラー写真と共に解説されます。
前線での活躍ではなく、後方における戦功を挙げた者に授与される戦功十字章に、
ナルヴィク、ホルム、クリミアデミヤンスク、クバンの各シールド、
アフリカ、クレタクーアラントの各カフタイトル。

eichenlaubträger  Ⅲ_1.jpg

各種突撃章、優秀ドライバー章、パルチザン掃討章にパイロット章、などなど、
細かく書かれていますがドイツ語なので読みきれないのが悔しい限り・・。

eichenlaubträger  Ⅲ_2.jpg

「R」の受章者はギュンター・"275機撃墜"・ラルに、
エアハルト・"第6戦車師団"・ラウス
オットー・"7月20日反乱鎮圧"・レーマー
ロタール・"クーアラント"・レンドリック
ヴィルヘルム・フォン・"コンドル軍団"・リヒトホーフェンと続き、
ロンメルはさすがに5ページぶち抜きと別格の扱いです。
しかし、次のハンス=ウルリッヒ・"シュトゥーカ大佐"・ルーデルも3ページの扱いで、
この写真は例の唯一の、「黄金柏葉剣付ダイヤモンド騎士十字章」の写真かと思います。

Rudel_Rudorffer.jpg

それというのも、一つ等級が下のダイヤモンド付騎士十字章を受章したのが、
出撃回数1800回の時であり、この写真では
「2000回出撃・金・ダイヤモンド付空軍前線飛行章」を付けていることからなんですね。
パイロット章も金・ダイヤモンド付という、ほとんど成金兄ちゃんといった風貌ですが、
最終的には足を切断して、「金の戦傷章」まで手に入れる・・という恐るべき軍人です。。

Rudels_medals.jpg

ゲルト・フォン・"長老"・ルントシュテットが「R」を〆て、「S」の軍人へと移ります。
ディートリッヒ・フォン・"片眼鏡"・ザウケンに、
プリンツ・ツー・ザイン=ヴィトゲンシュタインが登場。
「W」じゃなくて、正しくはザインの「S」です。
U-100のヨアヒム・シェプケは以前に紹介したカラー写真ですが、
やっぱりプリーンとクレッチマーは、ただ単にカラー写真が無いだけかも知れません。

さらにヴィルヘルム・"ヘルマン・ゲーリング師団"・シュマルツ
ヴァルター・"勝手に反逆部隊"・シュミット
ヴォルフガンク・"夜戦No.1エース"・シュナウファー
アダルベルト・"エレクトロ・ボート"・シュネー
フェルディナント・"冷酷元帥"・シェルナー
アダルベルト・"パンツァー"・シュルツと続き、
スコルツェニーと、空を見上げるヴォルフガンク・"コメート"・シュペーテが一緒だと、
なにか「UFOから降り立った男スコルツェニー」を思い出してしまいました。

Skorzeny_Spate.jpg

シルベスター・"デア・フューラー連隊"・シュタドラー
ヨハネス・"大火傷"・シュタインホフ
グラーフ・"戦車伯爵"・シュトラハヴィッツ
ラインハルト・"テディ"・ズーレンと「S」は、まぁ、大勢いますね。
シュトラハヴィッツで思い出しましたが、オットー・"泥まみれの虎"・カリウスは出てきません。

「T」に入ると個人的に好きなUボート艦長のエーリッヒ・トップ先生が登場。
「W」ではマキシミリアン・フォン・"B軍集団"・ヴァイクスとヒトラーの写真が好きです。
「総統・・。そ、そんな・・、どうやっても無理です・・」。
そして背後ではフォン・ゾーデンシュテルン参謀長が目を閉じて、もはや神に祈るのみ・・。

Hitler_von Weichs.jpg

ヘルムート・"ベルリン防衛軍司令官"・ヴァイトリンク
フリッツ・"ヒトラーユーゲント師団長"・ヴィット
そしてミヒャエル・”ヴィレル・ボカージュ”・ヴィットマンは4ページと大きく、
何といってもグデーリアンと談笑するカラー写真はホント良いですね。
3巻通して、一番好きなのがこの写真です。
「どうかね。やっぱりティーガーは最高かね?」
「いやいや、ボクの腕ですよ。砲手もなかなかですけどね。ふっふっ・・」
だからグデーリアンとヴィットマンに興味あるのかなぁ・・。

Guderian_Wittmann.jpg

最後に紹介するのは第12SS「ヒトラーユーゲント」の戦車野郎、マックス・ヴュンシェですが、
1939年の総統お誕生日会の写真です。
ヒトラーと握手するハインリヒ・"専属写真家"・ホフマンテオドール・"ヤブ医者"・モレル
そして右端のSS副官がヴュンシェです。
ちなみに奥に写っている2人はオットー・"新聞全国指導者"・ディートリヒと
カール・"T4作戦"・ブラントだそうで。。

Hitler_Hoffmann_Morell_Wünsche.jpg

やっぱりドイツ語に苦労しましたねぇ。
ヒットラーと鉄十字章」とか、「鉄十字の騎士」、「ナチ独逸ミリタリー・ルック」などを
本棚から引っ張り出して、まるでウルトラセブンの「カプセル怪獣」のように助けを求めました。

しかし本書はamazonで結構安くなっています。
新品でもヴィトゲンシュタインが買ったときの半額くらいになってますねぇ。。
こういうのは、ちょっと悔しい・・。







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ナヴァロンの要塞 [戦争映画の本]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

アリステア・マクリーン著の「ナヴァロンの要塞」を読破しました。

もうコレはまさに「古典」ともいえる有名な戦争映画の原作です。
過去に2回はTVで映画は観ましたが、原作を読むのは今回が初めて。
強烈な本を読んだ次は、こういう小説で息抜きしたくなりますね。
著者の本は処女作の「女王陛下のユリシーズ号」を読んでいますが、
本書は第2作に当たり、原著は1957年、日本では単行本として1971年に発刊され、
文庫化されたのは1977年という大変歴史ある、393ページの戦争冒険小説です。

ナヴァロンの要塞.jpg

まずはいつものように「訳者あとがき」から・・。
グレゴリー・ペックとアンソニー・クィン出演による1961年の映画「ナバロンの要塞」に触れ、
映画も面白いけど、原作も面白いよといった紹介です。
また、原作は「ナヴァロンの要塞」ですが、映画だと「ナバロンの要塞」。。
こういう微妙に違うってのはややこしくて、こんなBlogを書いている人間には大変迷惑です。
ヒギンズの「鷲は舞い降りた」も、映画のタイトルは「鷲は舞いおりた」ですしね。。

the-guns-of-navarone-japanese-movie-poster-1961.jpg

英軍在カイロ後方攪乱作戦本部の作戦主任、ジェンセン大佐に呼び出された主人公マロリー大尉。
彼は前日にドイツ軍が占領するクレタ島での18ヶ月に及んだ任務を解除されたばかり。
半ば強引に連れてこられたこの作戦室でブリーフィングが始まります。
英軍将兵1200名で占領しているトルコ沿岸の小さなケロス島。
しかしこの島にドイツ軍が上陸するとの情報がもたらされ、
先手を打って彼らを救出するための駆逐艦が派遣されることになっていますが、
そのルートである西側の水道に睨みを利かしているのが「ナヴァロンの要塞」です。

The Guns of Navarone1.jpg

4ヵ月前にも巡洋艦をわずか5分で片づけてしまった恐ろしく正確な2門の巨砲・・。
断崖絶壁に囲まれたこの島の怪物を無力化しないことには、
ケロス島の1200名の命は風前の灯です。
そこで砂漠挺身隊のベテランで、有名な登山家であり、世界最高のロック・クライマーである
ニュージーランド人のマロリー大尉に白羽の矢が立ったというわけです。

the_guns_of_navarone_G.Peck.JPG

チームには英海軍の大尉で一流の登山家でもあるスティーブンス。
逆に山と名の付いたものには一度も登ったことがないものの、
爆発物を扱わせたら天才的な米国人のミラー伍長。
船舶特殊部隊のベテランで本部との無線連絡を担当するスコットランド人のブラウン電信兵曹。
最後にクレタ島でマロリーの副官を務めていた相棒で、大男のギリシャ人アンドレアです。

The Guns of Navarone3.jpg

こうして彼らは深夜に船でナヴァロン島に接近し、
不可能と言われたこの断崖絶壁を登り切って上陸に成功。
しかし食料の喪失やスティーブンス大尉の足が複雑骨折するという代償を払うことに・・。
このエーゲ海に浮かぶトルコ沿岸の「ナヴァロン島」ですが、どうやら架空の島のようです。
そこで映画のロケを行ったのはロードス島・・。
ラスト・オブ・カンプフグルッペⅢ」の一発目に出てきた、あの島ですね。

the_guns_of_navarone_Maclean.JPG

ここまで読み進めて、映画はかなり原作に忠実だったのが良くわかります。
主役のマロリー大尉はグレゴリー・ペックの顔、
相棒のアンドレアはアンソニー・クィンを簡単に当てはめられますね。
ミラー伍長はエドワード・フォックスだったと思っていましたが、
納得いかずに調べてみると、デヴィッド・ニーヴンでした。。
そうか。。エドワード・フォックスがミラーを演じたのは続編の「ナバロンの嵐」だったんですね。
どちらもひょうひょうとして、すっ呆けた感じのミラーをイメージ通りに演じています。
ちなみに「ナバロンの嵐」で主役のマロリーを演ずるは、「ヘスラー大佐」こと、ロバート・ショウ。
この面子では若き「ハン・ソロ」もさすがに印象薄かったですねぇ。。

Force 10 from Navarone.jpg

話を本書に戻すと、上陸早々に有能なドイツ軍の軍曹に発見され、
その後、エーゲ海とは思えないほど雪の降る山中を逃げまどうマロリー隊ですが、
彼らを追跡するのは最強の山岳兵団である、「アルプス軍団」です。
現地人である頼りになる味方、ルーキとパナイスとも合流したのも束の間、
疲れ切っていた彼らは洞窟で寝込みを襲われ、ドイツ軍に捕えられてしまいます。

the-guns-of-navarone-belgian-movie-poster-1961.jpg

テュールジッヒ中尉は怒りに声を震わせて語ります。
「我々はジュネーブ協定に従って正々堂々と戦っているんだ!
しかし、あの協定は将兵のためのもので、人殺しのスパイなんかに・・」。
「俺たちはスパイじゃないぞ!」とマロリーが反論しますが、
「じゃ、軍服はどこにあるんだ? お前はスパイだ。
平気で後ろから刺したり、喉笛を掻き切る人殺しのスパイだ!」。

そこでギリシャ人のアンドレアが「俺はスパイじゃない! 
無理やり協力させられているんです!」と迫真の演技でお慈悲を訴えます。
そして隊長が世界一のロック・クライマー、キース・マロリーであることが明かされると、
アルプスの登るに値する山はすべて登っているという山岳大隊の
テュールジッヒ中尉の態度は一変します。

The Guns Of Navarone6.JPG

「確かにマロリーだ。その名を知らんものは俺の隊には一人もおらんよ。
戦前なら、いや、たとえ戦争中でもあなたと知り合いになれたことを誇りに思っただろうし、
喜んだろう。しかし、ここでは別なんだ。嬉しいとは思わない。
誰かほかの者を寄こしてくれたらという気持ちでいっぱいだ」。
いや~、このシーンは一番のお気に入りです。映画でもありましたかねぇ?

The Guns of Navarone4.JPG

心優しい登山家のテュールジッヒ中尉の上官であるスコダ大尉は
「全身これ悪の塊」という典型的なナチ将校です。
そしてこの悪人を見事にぶち殺して脱出に成功するマロリー隊一行。
再び山中へ逃げ込むも、今度はシュトゥーカ急降下爆撃機の編隊と、
ネーベルヴェルファー・ロケット砲が襲い掛かります。
アルプス軍団にも追い詰められて絶体絶命となった彼らですが、
骨折した足が壊疽を起こし、すでに死にかけているスティーブンスが
「弾薬2箱ばかりと、手榴弾2、3発を置いて立ち去ってください」と申し出るのでした。

The Guns of Navarone5.jpg

ドイツ兵から奪い取った軍服に身を包み、巨砲の破壊に向かうマロリーとミラー。
ここまでくれば後はハリウッド映画になったのと同様、ハッピーエンドが待っています。
そういえば映画ではヒロインの女性がいたと思いますが、
この原作では女性はただの一人も登場しませんでした。

The Guns Of Navarone.jpg

映画で主役を演じたグレゴリー・ペックは、なぜか日本人が大好きな「ローマの休日」で
「真実の口」に手を食べられちゃう人ですから、若い女性の方でもご存知でしょう。
しかし、男目線からしてみれば、あんなオチャラケた新聞記者役ではなく、
なんといっても「白鯨(モビィ・ディック)」での執念の男、エイハブ船長が印象的ですね。

mobydick.jpg

冒険アクション小説ですが、登場人物が良く描き込まれていて古さを感じさせない一冊でした。
主役のマロリーも運のなさと疲労から、度々、誤りを犯す人間味のある人物ですし、
ミラーの皮肉たっぷりのお喋りは、緊張感も和らげて実に楽しくさせてくれます。
敵であるドイツ軍も、立場の逆転したテュールジッヒ中尉とのやり取りは公平、
そしてスタートから怪我をして単なるお荷物となった
スティーブンスの苦悩と最後の選択もジ~ンとさせてくれました。
さすが名作ってトコですね。









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