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ニセドイツ〈2〉≒東ドイツ製生活用品 [ドイツの都市と歴史]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

伸井 太一 著の「ニセドイツ〈2〉」を読破しました。

去年の10月に紹介した「ニセドイツ〈1〉 ≒東ドイツ製工業品」のレビューが意外なほど好評で、
その〈1〉と同時に2009年に発刊された159ページで個人的にも楽しみにしていた一冊です。
可能な限りカラー写真を使用したカタログ形式のようなこのシリーズ。
著者やダジャレなど、本書の特徴は〈1〉のレビューを読んでいただくとして、
早速、内容を紹介してみましょう。

ニセドイツ2.jpg

「生活用品」がテーマの本書。まず最初に登場するのは買い物するための
国営スーパー「HO(ハーオー)」です。
1948年から東ドイツ政府の管理下として組織された商業組織であるこの「HO」。
1958年には全国統一価格が導入されたため、大安売りセールなどといったものもなく、
「ちょっと奥さん、あそこのスーパーのじゃがいも安いわよー」と盛り上がることもない社会。。

weihnachtseinkaufe-naturlich-im-ho-stalinallee.jpg

続いては、そのスーパーなスーパーで買える品々。
パンとケーキでは「小麦粉」に「バウムクーヘン」、
チョコレートも「代用コーヒー」と同様、不足するカカオ豆の代わりに麦芽や大豆が混ぜられて
ショコラーデとは言わず、公式には「ヴィタラーデ」と呼ぶ代用チョコレートです。
ちなみにハンバーガーも東ドイツでは「グリレッタ」と呼ばれたそうですが、
これは「ハンバーガー」があまりにもアメリカ的過ぎる・・という理由のようです。

食べ物に付き物なのは、もちろん飲み物です。
1941年の米国の参戦までは、第三帝国でも人気のあった「コカコーラ」の話と、
その後のドイツの発明品である「ファンタ」の話も以前に紹介していますが、
1958年に東ドイツ初のコーラ、「ヴィタ・コーラ」が発売されます。
特許申請から4年を要したこのコーラ製造の会社名は「ミルティッツ化学工場」。。
現在でも販売されているこの「ヴィタ・コーラ」ですが、
当時の味を知る人は、「まったくの別物」であるとして、
東ドイツに子供連れて旅行したことのある西ドイツのヘルガさんによると
「コーラが不味くて、子供が旅行を嫌がった」というほど、恐るべきコーラだったそうです。

vita cola DDR.jpg

ヴィトゲンシュタインも日々の生活には欠かせないビール。
ドイツビールも大好きで、その製法「ビールは麦芽、ホップ、水、酵母のみを原料とする」
ということをキッチリ守って国産ビールを呑んでいます。
日本の伝統的な製法である「米」や「コーンスターチ」が入っているものは好きじゃなく、
「モルツ」と「ヱビス」専門です。発泡酒とか第3の・・とかいう怪しい飲み物は一切ダメで、
いくら檀れいさんが好きでも「金麦」を買ったことすらありません。檀さん、ゴメンね・・。

金麦_檀れい.jpg

そして原料不足でも昔ながらの製造法にこだわり続けた東ドイツのビール醸造所もあり、
特に東ドイツの「レーベンブロイ」は気になりました。
日本でライセンス生産されている「レーベンブロイ」は西ドイツはバイエルンのビールですが、
このレーベンブロイは「ニセドイツ〈1〉」に出てきたような戦争による分割といったことではなく、
ライオン(レーベ:Lowe)はザクセン州の由緒正しき紋章であり、
それにブロイ(醸造所)をくっつけただけの東ドイツの「本家」だということですね。

mittweidaer-lowenbrau.jpg

洗剤、石鹸、歯磨き粉と続いた後に出てきたのは、トイレット・ペーパーです。
「拷問道具」とダジャレで紹介され、「私は出来る限りトイレに行きたくなかった」と
当時の思い出を語る人・・。
新聞をクシャクシャに柔らかくしてから使った方がマシという証言もあるほどで
東ドイツのトイレット・ペーパー・ジョークもあります。

「どうして東ドイツのトイレット・ペーパーは堅いんだい?」
「それはケツの先まで真っ赤にするためさ。」

DDR Toilettenpapier.jpg

東ドイツのファッションは当時の綺麗なモデルさんのカラー写真も何枚か、
アンチ・アメリカの代名詞ジーンズの章では、
19世紀にバイエルンから米国に移住した「レヴィ・シュトラウス(Levi Strauss)」が
ジーンズを発明し、英語読みするとリーヴァイ・ストラウスとなる彼のブランド名が
「リーヴァイス(Levi's 」であることを紹介します。
そしてそんな西側の「本物」のジーンズに憧れる、東ドイツの若者たち・・。

Levi-Strauss-Co_-501.jpg

スポーツの章も興味深かったですねぇ。
あの「コマネチ」が活躍した1976年のモントリオール五輪では、メダル獲得数で
3位の米国、4位の西ドイツを押さえ、1位の親分ソ連に次ぐ、第2位と躍進した東ドイツ。
ドーピングなんかは当たり前で、練習中の筋肉作りに多量の薬物が用いられたと言われ、
選手たちは引退後にその副作用に悩まされます。。

「カティ」という愛称で親しまれ、ホーネッカー書記長のお気に入りでもあったカタリナ・ヴィット。
2大会連続金メダルという1980年代のスケート界の女王です。
世界を飛び回る彼女は秘密警察シュタージから要請を受け、各国での情報収集をさせられます。
また、亡命を危険視されて、家族は人質として国内に留まらなければなりません。

Katarina Witt 1988.jpg

フィギア・スケートって良くTVで観ますが、最近、あまりにもジャンプ偏重じゃないですかね?
もちろん「要素」として必要なことはわかりますが、いったいどれだけの観客が
トウループ、ルッツ、フリップ、サルコウ、ループ、アクセルといったジャンプの違いを
解説なしでわかるというんでしょう。。
トリプル・アクセル飛ぶとか、飛ばないとかが話題になっていますが、特に女子の場合は、
もっとプログラムのオリジナリティや美しさをアピールして欲しいですね。
トリノ五輪の荒川静香なんて、観てる途中で泣きそうになったほど綺麗でしたよ。

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ロック、宝くじ、たばこと続いて、「共産主義エロス」の章へ・・。
東ドイツ刑法では「ポルノを広めた者は罰金、執行猶予、もしくは2年以下の禁固刑に処す」と
共産主義にとってポルノは「労働者を堕落させる悪」と考えられていたそうです。
そんな国で、「ダス・マガツィーン」、訳すと「ザ・雑誌」という名の月刊娯楽誌が
50万部を売り上げます。主に文化や生活が書かれたお上品なものですが、
「芸術作品」として女性や男性の裸体写真が数枚程度付いているのがミソ・・。
このあたりは「愛と欲望のナチズム」と似た感じがしますね。

das magazin  -1976.jpg

テレビゲームの章も面白い。
西側に遅れること10年。1980年に家庭用ゲーム機「BSS01」を発表しますが、
お値段500マルクと超高価。しかし世界広しと言えども自国製のゲーム機を開発している国は
米国、日本、そして東ドイツだけです。
ですが、西ドイツの若者が「スペース・インベーダー」で地球を守っていた時に、
東では白い棒を動かして球を打ち合う「ポン(Pong)」が人気となっています。
いや~、懐かしいですねぇ。子供の頃、家で良くやりました。

poly play.jpg

ゲーセンまでも政府によって認可されていたそうですが、
唯一にして伝説の東ドイツ製アーケードゲーム機「ポリプレイ」が誕生。
そして最高の人気を誇ったゲームが「ウサギとオオカミ」で、
超有名ゲーム「パックマン」のパクリである・・。

hase_und_wolf.jpg

ディズニーとナチスの関係といった本を紹介したことがありますが、
やはり東ドイツにもミッキーらしきキャラクターが存在していました。
しかし色は黄色だったり、青かったりとちょっと不気味・・。
まるで隣のデカい国における「ドラえもん」モドキの泣けるデザインを彷彿とさせます。

Micky die Maus DDR.jpg

その他のキャラクター、それから家具の章と続いて、東ドイツをテーマにした映画。
2003年製作の「グッバイ・レーニン!」には本書で紹介されたモノも登場する良作として
最初に紹介。一度TVで観た記憶があるんですが、今見直したら、確かに面白そう。
2006年の「善き人のためのソナタ」はシュタージの監視体制がテーマになっているそうで、
コレはビックリしました。こんな邦題じゃストーリーわからんよ。。

good-bye-lenin!.jpg

「ニセドイツ〈1〉」でコメントいただいた1991年の「ゴー・トラビ・ゴー」も登場。
「ザクセン人が行く」という副題が良いですねぇ。
1992年には2作目も作られ、ゲーム化もされて、爆音響かせながらトラビで「ゆっくり」と走る、
謎のレースゲームということです。
いま調べたら「体験版」がダウンロードできるようですよ。

go trabi go_game.jpg

最後は東ドイツの博物館を紹介。
ベルリンの「シュタージ博物館」は行ってみたい。。
ホテルやレストランも紹介し、まるで旧東ドイツの観光ガイドです。
日本にある東ドイツ雑貨店も紹介していて、東京の「マルクト」というお店はワリと近いので
一度、覗きに行こうと思っています。

Stasi-Museum Berlin.jpg

〈1〉が「工業品」、〈2〉が「生活用品」と分けられた2冊ですが、
このように通して読み終えてみると、〈1〉を読破したときと若干、印象が違いますね。
〈1〉では共産主義国家「東ドイツ」の歴史も含めた全体像を知ることができ、
本書ではそのような国で、共産主義者に成りきれない国民の生活を知ることになります。
その意味では、東ドイツに特別詳しくない一般の日本人に向けては、
この順番と構成が絶妙だと思いました。

なので、〈1〉と〈2〉のどっちが面白かったか・・?? と聞かれても、答えはありません。
〈1〉と〈2〉のセットで一冊というか、本として完成しているわけで、
同時発売の意味もわかりました。
過去の共産主義国家を眼でも楽しく学べる・・という、まず他に類を見ない本であり、
写真とダジャレ満載で、一見、軽く見えそうな2冊ですが、
実はシッカリとした目的を持ち、巧妙に編集された、とても優れた2冊ですね。

Berlin Wall, showing the famous kiss between Brezhnev and Honecker.jpg

ちなみに本書は副題??が「共産趣味インターナショナル VOL 3」となっていて、
実は「アルバニアインターナショナル―鎖国・無神論・ネズミ講だけじゃなかった国を・・」
というさらにマニアックな、というか、ほとんど変態的な本がVOL 1としてありました。。
う~む。。アルバニア・・。気になるなぁ。。
「ニセドイツ〈3〉ヴェスタルギー的西ドイツ」を次に読むつもりでいますが、
こちらは西ドイツですから、ちゃんと「資本趣味インターナショナル」になっているトコが笑えます。













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