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ヒトラーのテーブル・トーク1941‐1944〈上〉 [ナチ/ヒトラー]

ど~も。明けましておめでとうございます。ヴィトゲンシュタインです。

アドルフ・ヒトラー著の「ヒトラーのテーブル・トーク〈上〉」を読破しました。

一昨年の9月に「ヒトラーの遺言: 1945年2月4日―4月2日」を読んだ際に、
本書の経緯についてもいろいろと確認し、最終的には
「こんな感じなら「ヒトラーのテーブル・トーク」も読んでみようか・・という気にもなりました。
でも、古書でも結構高いなぁ・・。」などと書いていました。
半年ほど前に、この1994年発刊で上下巻あわせて931ページという大作が
2冊セット、1000円で売り出されていたのを見逃さずゲット。。
ヒトラーの側近たちが、繰り返し語られるヒトラー談話に睡魔と戦いながら付き合わされる・・
といった話もよく聞きますが、果たしてヴィトゲンシュタインもやられてしまうのでしょうか?

ヒトラーのテーブル・トーク1941‐1944〈上〉.jpg

序文で本書の解説をするのは、ヒトラーの研究の権威、トレヴァ=ローパーです。
「偶然の悪戯が頂点に押し上げた山師」、「妖術使いの催眠術師」といったヒトラー評に異を唱え、
オーストリアの田舎町で生まれ、教育は不十分、確固たる後ろ盾もなく、
ウィーンのスラム街で浮浪者同然の青春を送ったヒトラーが、あれだけの強大な権力を手中にし、
世界征服にあと一歩まで迫った事実に注目します。
それは「無限の権力欲に支配された悪魔的冒険家」ではなく、
「ヒトラーには思想があった」ことを主張したいと述べます。

独ソ戦の期間、総統大本営である東プロイセンの「ヴォルフスシャンツェ」と
ウクライナの「ヴェアヴォルフ」におけるこの談話は、昼食時、夕食時、または夜会と呼ばれる
真夜中の長いお茶の時間の談話が速記者によってノートを取られ、「ヒトラーの遺言」と同様に
総統の思想の最も信頼のおける解釈者たるボルマンが訂正、承認、保管をしていた物で、
ですから本書は「アドルフ・ヒトラー著」となっていますが、もちろんそんなことはなく、
どちらかと言えば「マルティン・ボルマン記」としても良いでしょう。

bormann hitler.jpg

談話の最初には日付が書かれており、最初は1941年7月5日です。
6月22日に始まった「バルバロッサ作戦」から2週間後ですね。
作戦も順調に進んでいることもあってか、
「クリミアは美しい。アウトバーンで行けるようになれば、クリミアはドイツ人とっての
リヴィエラになるだろう。戦争が終われば娯楽には事欠くまい」と上機嫌です。
しかし7月11日には、「歴史的に見てもスターリンは特筆すべき人物である。
名もない党書記としてスタートしたが、無名のままで終わりはしなかった」と、
この時点で高く買っていますね。

出席者は明記されていませんが、おそらく女性秘書たちに外務省のヘーヴェル
モレル医師写真家ホフマン、OKWのカイテルとヨードル、その他、側近たちに
当然ボルマンといった面々でしょう。
軍事作戦的な話は予想していたより出てこないので、
以降は興味深かった「談話」を挙げていきたいと思います。

Hitler discussing with Prince Philipp of Hesse and Goebbels.jpg

9月、チェコ人が母なるロシアに期待をかけていたという話では、
「旅順港陥落の授業の時、私のクラスにいたチェコ人の子供は泣いていた。
他の子はみんな興奮して喜んでいた! 
この時から私は日本人対して好意を抱くようになったのだ」。

10月、犠牲の多さから一つの攻撃作戦を中止したと語り始めます。
「指揮官は想像力と先を見通す目を持たなければならない。
私は部隊が直面している状況を頭に思い浮かべることが出来、それが私の強みである。
それが出来るのは私自身が普通の兵士だったからである。どんな状況にあっても、
適切な判断を素早く下せるようになったのもそのためである」。

Hitler and Keitel in meeting with Finnish General Öhquist in Germany, 1941.jpg

そして前年の西方電撃戦を思い起こすヒトラー。
「敵が全戦線に沿って前進しているというニュースを聞いたとき、
私は喜びで涙が出そうになった。敵は罠にハマったのだ!」
う~ん。。すでに同じことが起こらないことを理解したんでしょうか・・。
ちなみ「電撃戦」という言葉についてはこんなことも言っていました。
「『電撃戦』というのはイタリアが作った用語だ。こっちは新聞で知ったのだ」。

Compiegne, France, June 1940, Hitler and Goering before the signing.jpg

キリスト教に対する辛辣な発言と、戦後に実施しようと語る宗教政策の話は多いですね。
「現在の学校教育システムでは、こんなおかしなことが起こる。
午前10時、生徒は聖書に基づいて世界創造を学ぶ。
午前11時、科学の時間に進化論を学ぶ。
しかもこの二つの説は完全に相反しているのである。
少年時代に私はこの矛盾に悩まされて、頭を壁に打ち付けたこともあった。
教師の誰彼に、さっき習ったことと違うと文句を言い、教師もまた困り果てていた」。

Schule im Nationalsozialismus.jpg

この10月にはSS全国指導者ヒムラーがゲストとして滞在してます。
そしてハイドリヒも同席した夕方。。
「ところで我々がユダヤ人根絶を計画しているという噂だが、悪くないな。
恐怖はなかなかいいものだ」。

続いてドイツでは男性より200万人も多いという女性問題について・・。
「女の子の目標は結婚である。
オールドミスで終わるより子供だけでも持ちたい!
2人が婚姻届を出したかどうかなどは、自然は全く気にしない。
子供を持たない女は、心も伏し目がちとなり、「ヒステリー女!」と言われたりもする。
年老いていくよりは、私生児を生んで生きがいを得る方が何千倍もいいのである」。
なるほど。レーベンスボルン的な考え方ですね。。

heydrich_himmler_hitler.jpg

「狩猟がよくないとは私は言わない。だが情けないスポーツだと思う。
密猟者は少なくとも命を懸けている。
鹿に戦いを挑むなど弱虫の出来損ないである。
連発銃とウサギとの対決も、不公平極まりない。
ウサギと足で競争して勝った者がいれば喜んで敬意を表そう」。

Hermann Goring during hunt in Jasnitz 1935.jpg

この2日後、チアーノ外相のためにリッベントロップが企画し、ヒムラーとフンクが参加していた
ズデーテンラントでの狩猟から帰ってきたヴォルフSS中将が報告に訪れてしまいます。

総統 「何を撃ってきたのかね? 鷲とかライオンとか・・・」
ヴォルフ 「いえ、普通のウサギです。狩猟は素晴らしい気分転換です」
総統 「気分転換にウサギやウズラを殺す必要があるのかね?
ウサギの言葉がわからなくて幸いだな。あーだこーだ・・」。

ここでヨードルが「人間には気晴らしが必要です」と一生懸命フォローしているところが笑えます。

Karl Wolff hitler.jpg

続いては、たっぷり金を出してるのになんの報告もない「外務省」がターゲット。。
「以前の米大使ドッドの娘をモノに出来る男が一人もいなかったとは!
しかもあの娘は難物ではなく、あっという間に征服できるハズだった。
現実に娘は征服された。ただし、よその国の男にな。
そのとき、ドイツ外務省の爺むさい男どもは雁首揃えて何をしていたというのだ。
あのうすのろのドッドも娘を陥落させればこっちのモノだったのに・・」。

そこでカイテルが質問。「ドッドの娘はさぞかし別嬪だったんでしょうな」。
海軍副官のフォン・プットカマーが答えます。「ひどいのなんのって!」

Martha Dodd.jpg

11月、勲章について語るヒトラー。
「ドイツの勲章で本当に価値があり、なかでも最高のものが金の母親十字章で、
百姓のおかみさんであれ、大臣の奥さんであれ、社会的地位に関係なく与えられる」。
そして「騎士十字章には年金を付けるべきだろう」と語った後、
「勲章の価値低落を考えて、例外的にしか与えない我が党独自の勲位を導入しようと
思っている。党の金の勲章は国家のどの勲章よりも上位に置かれるべきだ」。
これは、ヒトラー自らデザインしたとされる「ドイツ勲章」のことでしょうね。

Mutterkreuz_hitler_Scholtz-Klink.jpg

年も明けた1942年1月3日。話題はSSです。
「SSは隊員募集の窓口を広げ過ぎてはいけない。大切なのは高いレベルを維持し、
女どもが惚れ惚れするような雰囲気を身に付けたエリート集団でなければならない」。

ゼップ・ディートリッヒの役割はユニークなものだ。
私はいつも彼を難しい微妙な任務にばかり就かせてきた。
彼はエネルギッシュで残酷、かつ狡猾、しかしその悪漢然として容貌にもかかわらず、
根は真面目で良心的、実直な男であり、闘争初期からのかけがえのない同志なのだ」。

Hitler, Julius Schaub,Sepp Dietrich&Kurt Daluege.jpg

そのゼップがゲストに登場し、彼に話しかけるヒトラー。
「ホフマンが彼のモデル農場を訪ねて欲しいとしょっちゅう言っている。
何を狙っているか見え見えじゃないか。私が奴さんの牛小屋に入るところを
写真に撮ろうとしているのだよ。牛乳の宣伝にはもってこいだからな。
こうして彼の乳製品のすべてに私の写真が使われるというわけだ」。

Hitler and his photographer Heinrich Hoffmann.jpg

そして久しぶりに軍事的な話も・・。
ロンメルはあと200台は戦車が必要だ。もしマルタの中立化に成功して、
アフリカに新しい戦車を送れれば、ロンメルは先手攻撃が出来るようになるのだがな」。

「もしブラウヒッチュが、あとほんの数週間でも総司令官の地位に留まっていれば
事態は収拾のつかない大惨事になっていただろう。
あれは軍人なんかじゃない。ただの臆病な老人だ。
将来、あの4週間が私にとって何だったのかを皆、わかってくれるだろう」。

何が起こったのかといった解説はないので、日付から戦局を理解できないと
なんの4週間かはわかってあげられません。。

von Brauchitsch_Hitler.jpg

「今更言うまでもないが、我々ドイツ人は日本人に親近感など抱いていない。
日本は生活様式も文化もあまりにも違和感が大きすぎるからだ。
しかし米国に対する私の感情は違和感でなく、憎悪と反感だ。
米国社会の行動様式は、半分ユダヤ化、半分黒人化しているのだ。
収入の80%が国庫に流れるような国! すべてがドルで動くような国!
そんな国がどうやって持ちこたえられると思うのだ。
だから私は英国の方がずっと優れた国だというのだ」。

Churchill,Roosevelt.jpg

有名なヒトラーの菜食主義についても熱く語ります。
「動物でも肉食より、草食のものの方が優れている。
ライオンはせいぜい15分しか走れないが、象は8時間も走り続けることが出来る!
日本の相撲取りは、世界でも最強に数えられる闘士であるが、彼らも野菜しか食べない」。

ふ~ん。まぁ、野菜タップリのちゃんこ鍋を知っているんでしょうけど・・、そういえば
ヒトラー・ユーゲントが来日した時、大横綱の双葉山を表敬訪問したりしていますし、
ヴィトゲンシュタインも読んでみたい相撲本があるんですね。
双葉山もそうですが、特に江戸時代の「雷電 爲右エ門」にすごく興味があります。

雷電爲右エ門.jpg

「私にとっては党大会は大変な努力を要する、1年で最も苦しい時である。
最も苦しいのは分列行進の時だ。何時間もじっと立っていなければならないのだよ。
何度かめまいを起こしたこともある。長時間、身動きもせず、
膝をピッタリ合わせて立っているのが、どんな難攻苦行か想像できるかね?
しかも腕を伸ばして敬礼しているのだよ。前回はやむなく少し誤魔化してしまった。
その上、全員と視線を合わせるようにしなければならない。その内、日除けも必要になるだろう。
戦争が終われば、縦隊を今までの12人から16人にする方が良いだろう。
行進は6時間ではなく5時間ですむ。大きな進歩ではないか!」

Adolf-Hitler-SA-Parade-in-Nurnberg-Reichsparteitag-1938.jpg

総統専属運転手のケンプカが「機甲部隊に入らせてくれ」と頼んできた話。
「敵の戦車を打ち倒すことは彼でなくてもできることだ」と結論。
「私のために9年も働いており、賞賛の言葉以外なく、彼は非常に慎重に運転する。
ただし、片思いで悩んでいる時は別である。私にはすぐわかるんだ」。

また、「彼は世界中のあらゆる車について知っている!」と車好きのヒトラーにとって
かけがえのない存在であるのが伝わってきます。
ちなみに長く侍従長を務めているリンゲについてはこんな感じ。。
「リンゲはいい奴だが、あまり頭が良くないし、おまけにボンヤリしている」。

Adolf Hitler&Erich Kempka.jpg

そして自分が結婚しない理由を説明するヒトラー。
「結婚の欠点は権利が生じることである。その点では愛人の方が遥かにいい。
義務は少ないし、何もかもプレゼントという次元で話が済む」。

この時、秘書のヴォルフ夫人とシュレーダー嬢が気落ちした表情に気がつく総統。。
すぐに話題を変えて「ドーラは可愛い娘だが、ケンプカが彼女と幸せになれるとは思えない。
ケンプカは機械にしか興味を持っていない。彼女は彼の相手としては頭が良すぎる!」
もちろん、この時にはエヴァとの関係が続いているわけですが、
さすがに大本営に彼女は来ていなかったので、割と言いたい放題ですね。。

Christa Schroeder.jpg

「道楽半分で政治に口を出す女は大嫌いだ。軍事問題にまで口を出されると耐えがたい」
と、女性について語ります。
「特筆すべき女性を挙げるなら次の4人である。トロースト夫人、ワーグナー夫人、
ショルツ=クリンク夫人レニ・リーフェンシュタールである」。

Gerdy Troost (the wife of Paul Troost) and Adolf Hitler.jpg

2月、「英国人はフェアプレーを良く口にするが、自分たちの敗北を認めようとしない」と
お怒りの様子です。
「時速750㌔の爆撃機があれば勝利は間違いなしだ。こんな爆撃機は武装の必要さえない。
どんな戦闘機より早いのだからな。高速爆撃機は最優先課題だ。
ここで敵に差をつけなくてはいけない。決定的な時点で技術的優位を保っていること、
これが大事なのだ。そう、私が技術、技術とうるさいのは確かだ。
常に新技術の開発に努め、敵が驚愕するような新技術を見せつけてやれ」。

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上巻の最後に紹介するのは各国の王たちについてです。
「スウェーデンのグスタフ5世ときては、テニスで体を鍛える以外のことは何もしない。
もしデンマーク王がこの真似をすれば恐ろしく長生きするだろうな。
ベルギーのレオポルド3世・・・畜生! どうしようもない奴だ。
他の馬鹿王どもと一緒に消えてさえくれれば!
あの美人の愛人も一緒につけてやったのに!」

残念ながら、どうしてレオポルド3世にこんなに腹を立てているのかは不明です。
妹のイタリア皇太子夫人、マリア・ジョゼーも兄の件をヒトラーに持ち込んでいますから、
ややこしい問題があるのは想像できるんですけどねぇ。。

KING GUSTAV V ON THE TENNIS COURTS.jpg

思っていたよりも面白いですねぇ。
この上巻の期間は「バルバロッサ作戦」の開始から、モスクワ侵攻が潰え、
前線の建て直しを図る・・という時期なわけですが、そのような軍事的な話はほとんどなく、
女性秘書らも同席する夜会でヒトラーの好きな、建築、音楽、美術、ローマ史の話になると
延々と続いたであろうことがよく伝わってきます。実際、そっちの話も多く、
本書では「繰り返される話」は割愛しているそうですが、
確かに聞き手に興味が無ければ睡魔との戦いが勃発してしまいますね。。
個人的には、運転手ケンプカその他の側近やナチ党古参党員などの話が楽しめましたが、
気が付くとまるでカイテルのように「落ちた」ことも3度ありました。。





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