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ラスト・オブ・カンプフグルッペIII [戦記]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

高橋 慶史 著の「ラスト・オブ・カンプフグルッペIII」を読破しました。

過去に1作目2作目と楽しく読んだシリーズの3作目です。
今年の2月あたりから出るぞ、出るぞと噂をありましたが、10月末になってようやく発売。
早速、購入しました。
前2作が、「戦争末期の戦闘団」が主役だったのに対して、
本作は、「知られざる小規模な戦闘部隊の奮戦」ということですが、
4515円とお値段はちょっと高くなったものの、ページ数も400ページを超え、
鮮明な写真も増量されています。

ラスト・オブ・カンプフグルッペIII .jpg

第1章に登場する部隊は「突撃師団 ロードス」です。
1943年に枢軸から脱落しそうなイタリア。
3万以上のイタリア軍が駐留するエーゲ海に浮かぶ、ロードス島とドデカネス諸島を巡る
戦闘の経緯が語られます。
9月に案の定、イタリアが降伏したことで始まった「枢軸作戦」。
それまでの盟友イタリア軍が英軍の支援を受けてドイツ軍に反旗を翻します。
クレタ島駐在の部隊などから編成された「ロードス」。
あの特殊部隊「ブランデンブルク」も沿岸猟兵大隊として登場してきたり、
ドイツ軍らしくない、まるで海兵隊のような戦闘が続きます。
特に興味深かったのは第999要塞大隊で、これは「懲罰第Ⅳ大隊」という
純粋な懲罰部隊だそうです。いや~、この懲罰部隊だけで1章欲しかった。。

Kos von deutschen Truppen 1943.jpg

第2章の「残されて島った人々」の舞台となるのは、英国とフランスの間、
ドーヴァー海峡のチャンネル諸島です。
1940年の西方戦役の際にこれらの島々も占領したドイツ軍。
最も大きなジャージー島とガーンジー島には、敵の上陸を危惧するヒトラーの命令によって
沿岸砲も数多く備え付けられ、「第213重戦車大隊」の姿もあります。
主役であるこの大隊の重戦車とは、もちろんティーガーではなく、
フランスで鹵獲した「シャールB1」26両に、「シャールB2火炎放射戦車」10両というものです。
この島が舞台のジャック・ ヒギンズの小説、「狐たちの夜」を思い出しながら楽しめました。

Char B-1 auf der Kanalinsel Jersey.jpg

続いてはハンガリーの突撃砲大隊のお話。
以前に「トゥラーン」というハンガリー戦車を写真付きで紹介したことがありますが、
この章の主役は「ズリーニィⅡ」というハンガリー産の突撃砲です。
なんとなく、Ⅲ号突撃砲とソ連のSU自走砲を合体させたような風貌ですね。
しかし生産台数は最大でも72両に過ぎず、結局、ハンガリーの突撃砲大隊が乗るのは
ドイツから譲り受けたⅢ号突撃砲になるわけです。

Zrínyi II 1943.jpg

さらにもっとマイナーな国が登場。それは「スロヴァキア快速師団」です。
1942年の夏季攻勢に参加し、ドイツ軍と共にカフカスへと向かったこの部隊ですが、
スターリングラードでドイツ第6軍が壊滅し、彼らのA軍集団にも危機が迫ると、
士気は目に見えて低下・・。集団投降することがソ連側とコッソリ合意されます。
この部隊の話は「カフカスの防衛」でも印象的だったヤツですね。

第5章は「フランス艦隊」です。
1940年、降伏したフランスの艦隊がドイツ側に奪われることを危惧したチャーチルによって、
カタパルト作戦」が発動され、英vs仏の戦いが・・。
そして1942年11月、ツーロンのフランス艦隊を接収するために、
フライヘア・フォン・フンク率いるドイツ第7装甲師団に命令が下ります。
お~と、この人、「ノルマンディー上陸作戦1944」に出た人ですねぇ。

Toulon_7. Panzer-Division.jpg

「空軍地上師団ついに勝つ」は、一番のお気に入りの章です。
空軍の地上部隊という意味では、歴戦の「降下猟兵師団」や、
精鋭「ヘルマン・ゲーリング師団」と、その戦いぷっりでは陸軍の師団にも劣らないことが
知られていますが、この「空軍地上師団」とは、1942年9月、空軍の予備部隊20万名を
陸軍に編入させようとするヒトラーと、それに猛反対し、
独立した空軍地上部隊を創設すると説き伏せたゲーリングから生まれた産物です。
陸軍の補充兵としていれば、その完成された訓練システムによって鍛え上げられたものの、
経験不足の将校や兵で一から師団を創設したところで、どうなるものでもありません。

Hitler_and_Goering.jpg

こうして1943年までに高射砲訓練部隊や飛行場警備部隊、通信部隊出身の兵士による
「ドイツ軍最弱師団」と呼ばれる空軍地上師団21個が創設されますが、
結局、ヒトラーの決定により、全空軍地上師団は陸軍へと編入され、
例えば本章の主役「第16空軍地上師団」は「第16地上師団(L)」と改称されます。
この(L)はもちろんルフトヴァッフェを指すものです。
そしてオランダに駐留していたこの師団は、1944年6月16日、
連合軍が上陸したノルマンディに向けて行軍が下令されるのでした。

luftwaffen-felddivisionen.jpg

第21装甲師団の戦区を引き継ぎ、第12SS装甲師団「ヒトラー・ユーゲント」と隣接する、
英軍の猛攻のど真ん中に放り込まれた、最弱の第16地上師団(L)。
すぐにパニックに陥って兵器を遺棄して敗走。。多くが捕虜となってしまいます。
この師団の話も充分に面白いものですが、特に面白かったエピソードは高射砲部隊です。

第125装甲擲弾兵連隊長ルック中佐が敵戦車30両を発見し、88㎜高射砲中隊の
若い空軍大尉に、移動しての戦車攻撃を命令します。しかしこの大尉は
「私の標的は敵の航空機で、戦車と戦うのは貴方の仕事です。私は空軍ですから」。
ルックは拳銃を突きつけて「死ぬか、勲章を貰うかどっちかだ」。
こうして4門のハチハチシャーマン戦車4両と装甲車両14両を見事撃破するのでした。

Hans_von_Luck.jpg

勢いに乗った88㎜高射砲中隊はその後、味方のティーガー2両の分厚い正面装甲までもぶち抜き、
「敵重戦車2両撃破」と誤射にも気づかず、大いに士気はあがります。。
結局、英第5近衛機甲旅団15両も撃破したところで弾薬が尽き・・。
ちなみにこの空軍大尉が勲章を貰ったか否かは定かではないということです。

Acht-Acht.jpg

本書のメインとなるのは次のワルシャワ蜂起の章でしょうか。
1944年8月1日に蜂起したポーランド国内軍(AK)の兵力や状況から、
この蜂起を知ったヒトラーが、つい先日に起こった暗殺未遂事件から陸軍を信用せず、
SSのヒムラーに反撃作戦を命令します。
臨時攻撃司令官となったのは、SSおよび警察司令部「ポーゼン」の司令官、ライネフェルトSS中将
とんでもない悪人顔ですが、1940年に陸軍第377歩兵連隊の小隊長(曹長)時の
活躍によって騎士十字章を受章し、その後、武装SSに転出してSS中将まで上り詰めたという、
決してありがちなお飾りのSS警察司令官ではなく、
実戦指揮能力はずば抜けて高いと紹介されます。

Heinz_Reinefarth.jpg

そしてこのライネフェルトの指揮下に駆け付けたのが、悪名高い囚人部隊「ディルレヴァンガー」、
ロシア義勇兵部隊カミンスキー旅団から抽出されたフロロフSS少佐の連隊、「戦闘団フロロフ」、
国防軍防諜部によって編成されていた「アゼルバイジャン第111大隊」といった連中です。
ヘルマン・ゲーリング師団の突撃砲や鹵獲T-34の援護にも関わらず、
これらの兵士たちは戦闘などほったらかしで、掠奪、暴行、強姦、殺人に走り、
作戦初日にはわずか900m前進したのみ。。
フロロフ戦闘団に至ってはBdMの少女を暴行するという事件までも起こしています。

Warschauer Aufstand  Waffen-SS 1944.jpg

この章では人物と戦闘の経緯が中心で、最終的に蜂起の失敗を迎えますが、
次の章、「ワルシャワ蜂起の装甲車両」では別の角度から語られます。
突撃戦車「ブルムベア」にⅢ号突撃砲、ヘッツァー、そしてティーガー、
その擱座したティーガーを破壊するために投入されたミニ戦車「ゴリアテ」。
パンターはAKに鹵獲されて「マグダ」と命名されます。

Powstanie Warszawskie Panther_Magda.jpg

その他、ボルクヴァルト重爆薬運搬車がAKの手に落ちると、
熱狂したAK中隊と市民数百人が集まって、黒山の人だかりに・・。
そしてその時、この500㎏の高性能爆薬を積んだ恐ろしい兵器は目を覚まして爆発。。
諸説あるものの、死者500人、重軽傷者350人という地獄絵図が繰り広げられます。
まだまだカール超重自走臼砲の第Ⅵ号車「ツィウ」に、シュトルムティーガーも写真付きで登場。

Sturmtiger-Warsaw 1944.jpg

写真ということでは、「瓦礫と化したワルシャワ市街を飛翔する
ネーベルヴェルファー」の写真 ↓ が凄いですね。感動ものの鮮明さです。

Wurfgerät 42 Nebelwerfer. Warsaw. August-September 1944.jpg

第9章は「聞くのも恐ろしい雑多な部隊の寄せ集め」と紹介される「第11軍」。
これはもちろん、東部戦線でマンシュタインが指揮し、セヴァストポリ要塞を陥落させた
第11軍のことではなく、戦争末期の1945年3月、ルール包囲網から逃れることの出来た
敗残部隊などから編成された新生第11軍、またはSS第11軍と呼ばれるものです。

軍司令官には63歳の老将軍ヴァルター・ルヒト大将、
3個軍団の編成内容も詳細で、例えば、「敗残兵を率いて頑強な防衛戦を展開する専門家」
と紹介される有名なフレッター=ピコ大将の率いる第9軍団の内訳は、
2個国民擲弾兵師団の「残余」が中心です。。

Maximilian_Fretter-Pico.jpg

そして最後は「装甲列車」。
第1次大戦時のドイツ帝国が保有する装甲列車から、第2次大戦時までの開発の歴史に始まり、
「第61鉄道装甲列車」の戦いの記録までが、写真たっぷりで紹介されます。
コレはハッキリ言って、とても勉強になりました。

eisenbahn panzerzug.jpg

この章の「おわりに」では、日本には鉄道ファン(テッチャン)は100万人~200万人いるそうで、
一人当たりの出費5万円として、1000億円市場といわれているということですが、
「セッチャン」というらしい戦車ファンや戦史ファンの人口は2万人・・としています。
ヴィトゲンシュタインは果たして「セッチャン」だったのか・・?
という、いままで考えたこともない難題にぶち当たりました。。

本書と、このシリーズは決して「一般的」な戦史ファンが喜べる内容ではないと思いますが、
より「マニア」な戦史ファンには実に楽しめるシリーズです。
個人的には「ドイツ武装SS師団写真史」のシリーズも含めて、
出来る限り続けていただけるよう応援しています。



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