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誰にも書けなかった戦争の現実 [USA]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ポール・ファッセル著の「誰にも書けなかった戦争の現実」を読破しました。

4年前にほとんど無意識で買っていた1997年発刊で485ページの本書。
自分でも「なんでこんなの買ったんだろ・・?」と目次をペラペラめくってみると、
第二次大戦時の英米軍の前線兵士の実態や、チョンボ集大成といった内容で、
改めて、「コリャ、面白そうだ」となりました。
まぁ、買ったときもまったく同じことを思ったんでしょうが・・。
著者は1944年のヨーロッパ戦線に従軍し、ブロンズスターを受勲するものの、
負傷して除隊・・という経歴の持ち主です。

誰にも書けなかった戦争の現実.jpg

「はじめに」では英米兵士の心理と感情を文化的側面から考察し、
異常に高まった欲求不満を解消するための手段も述べていることが書かれ、
18章から成る「目次」も、「味方を狙う兵士たち」、
「また誰かがドジを踏む」、
「学校で習った町々をぼくらは焼いた」、
「アルコールを浴び、性に飢える」、
「弾丸は睾丸にも当たる」など、興味深い章タイトルが列挙されていますが、
今回は本書全体から、特に印象に残ったエピソードを紹介しましょう。

Army troops on board a LCT.jpg

ナチス・ドイツとの「まやかし戦争」の真っ只中であった1940年4月、
イングランド東部の町にハインケル爆撃機が墜落して、ドイツ兵4名が死亡した事故。
女性たちがすすり泣くなか、ドイツ兵の死体は英空軍の制式軍葬の手順で葬られ、
勇敢なる敵に対し、「英空軍全兵士より」、「ある母親より、衷心よりの同情をこめて」
といった言葉と共に献花が添えられます。
この時点ではまだ第1次大戦の「レッド・バロン」リヒトホーフェンを埋葬したときと、
ほとんど変わらない雰囲気ですね。

この第2次大戦時の爆撃機による爆弾投下の精度の悪さを検証しながら、
1944年のノルマンディにおける「コブラ作戦」の援護爆撃によって、
味方の米軍に死傷者150名以上を出し、その翌日には再び米軍の頭上に爆弾が降り注ぎ、
マクネア中将を含む111名が死亡し、500名の負傷者が・・という有名な話を紹介します。

General McNair (left) and Maj. Gen. George S. Patton, Jr., Studying a Map.jpg

味方を殺すのはこのような作戦や通信の不備といった問題だけではなく、
兵士個人の恐怖心が主な原因にもなっています。
1943年のシチリア侵攻時の輸送機とグライダー23機が味方の対空砲によって
撃墜された件にも触れながら、カナダ軍爆撃機パイロットの証言も掲載します。
「素人同然の地上砲手たちはいつだって脅えてすぐ撃ってくる。
こちらが北から南へ800機もの編隊で飛んでいることなんかお構いなしにだ。
どんな馬鹿でも俺たちがドイツ軍でないことはわかりそうなものを・・」。

M-1 Anti-Aircraft 90mm.jpg

識別ミスということでは兵士vs兵士のパターンもあります。
ノルマンディで戦ったカナダ人は「昔、米兵を殺っちまったことがある」と語ります。
「向こうが自分をドイツ兵だと勘違いして、どうしても殺そうとしていることが分かった。
本能的にこれは殺るしかないと思って撃った。殺るか殺られるかだった。馬鹿な奴だ」。

Normandy_Canadian Boys.jpg

またドイツ軍の拠点で捨てられていた軍服を見つけ、仲間に見せびらかせようと
そのドイツ軍の軍服を着込んでトーチカから出てきた英航空兵。
「不幸にも、彼の身振りは仲間に伝わらず、すぐに撃ち殺されてしまった」。

他にもパラシュートで落下してきた兵士が集まってきた人々に向かって外国語でまくしたてると、
それがドイツ語だと思った英国人たちは棒で叩き殺してしまいます。
しかし実はこの兵士は英空軍に所属するポーランド兵だったのでした。。

このような知られざるエピソード以外にも、1944年のノルマンディ上陸作戦の演習として実施され、
偶然に紛れ込んできたドイツ海軍のEボートの前に大混乱となった「タイガー演習」も紹介します。

Exercise Tiger_damage.jpg

兵士による「噂話」の類も実に豊富です。
ドイツ軍が流したにも関わらず、海外の英国兵に広く流布し、冷笑的に楽しまれた
「自分たちの妻や彼女が侵攻準備中の米兵に慰めを見出し、
夫の棒給があまりに低いので生活に困り、米兵相手の売春宿を始めた」というものや、
グレン・ミラーが死んだのは墜落ではなく、フランスの売春宿での喧嘩によるものだ」、
婦人部隊員たちが男たちをレイプして回るのがいくつかの基地では慣行になっている」、
北アフリカでは「ドイツ軍はサッカーボールを蹴っている人間は撃たない」というのは
まだホノボノしてますが、1944年になると
V-1ロケットを発射する度に爆風で死亡するドイツ兵が6人はいる」という
慰めの噂に変化します。

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そして1945年4月、パットンの司令部に「ドイツ軍が米軍の野戦病院を襲撃し、
患者に至るまで男は全員殺され、看護婦全員が強姦された」という報告が入ります。
しかし夜が明けてみると、死亡したのは将校1名と兵士2名と判明。
パットンは「夜の報告は真に受けてはならない。必ず拡張されている」と結論するのでした。
こういう「噂」が双方の怒りの捕虜虐殺に繋がっていくのは、容易に想像できますね。

軍隊用語もいろいろなバリエーションを詳しく紹介します。
特に「クソ(shit)」と、「ケツ(ass)」が含まれるものは無限に存在します。
牛肉の細切れのホワイトソースは「砂利のクソ和え」と呼ばれ、マスタードなら「赤ん坊のクソ」。
単に「移動せよ」は、「食堂へケツを運べ」ですし、「休むな」は、「ケツを動かし続けろ」、
「退去せよ」なら、「ここからケツをどけろ」、「勝手に休むな」は、
「愛と青春の旅立ち」でルイス・ゴセット・ジュニアがリチャード・ギアをシゴく時に
叫んでいたような、「誰がここにケツを置けと言った?」になるわけです。

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兵士への酒の配給も細かく書かれていますが、アルコール欲しさのあまり、
捕獲したV-1ロケットから燃料のメチルアルコールを取り出して飲み、
死んだ米兵が何人もいた・・という話は、日本やソ連軍でも起こっていますね。
そして大陸侵攻が近づくと、セックスが顕在化してきます。
ロンドンにはあらゆる年齢の売春婦が溢れて、兵士を公園に連れ込んだり、
ピカデリーの路上の暗がりで「壁立ち」や、「中腰」に応じるのでした。

American_soldier_recreating_first_kiss_with_Scottish_girl.jpg

弟が戦死したり、当番兵が砲弾に当たって死んだりすれば、
両親やその家族、妻に手紙を書かなけばなりません。
ドイツ兵なら「総統のために・・」とか、「ボルシェヴィキと戦って・・」と書くことが出来ますし、
日本兵も「天皇陛下のために名誉の戦死を遂げた。家の誉れである」と書けばよかったものの、
米兵の場合にはそのようなイデオロギー面の問題があります。
「我々はどう言えば良いのか? 自由のためとでも言うのか?」。

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士気を高めるための命名や言い換えというのは、ほとんど必然のようでもあります。
ドイツ軍が戦車に獰猛さを感じさせるパンターやティーガーと名付けたのに対し、
中世の騎士道精神や防衛を主たる任務とすることを匂わせた米軍の傑作は、
B-17爆撃機「空の要塞」であり、英軍戦車も「クルセイダー(十字軍)」と
志の高い方へ向かうことがあると推察します。
ハンブルクが爆撃の被害を受けると英国の新聞の見出しでは
「ハンブルク、ハンバーガーに!」という洒落をお披露目するまでに・・。

hamburg hamburger.jpg

連合軍が士気にこだわった理由としては、その脱走率の高さを挙げ、
イタリア戦線だけで12000名が脱走し、そのうち2000名が英国兵。
米軍で確定している脱走兵19000名のうち、1948年までに発見されたのは、わずか9000名。

そんな戦時中にも映画が作られ、1943年にはハンフリー・ボガートの
「サハラ戦車隊」などが製作されます。
もちろんコレは政府による介入もあり、軍も使用する軍艦や戦車を使わせるために
予め脚本をチェックさせなければ協力しないと言って、内容を書き直させ、
立派な、勇気ある行動と成功といった作品にすることが出来ますが、
このようなことは戦中戦後だけではなく、1969年になっても「レマゲン鉄橋」で
ある部分をカットしなければ撮影に協力しないと言い出します。それは、
「ひとりのGIがドイツ兵の死体から双眼鏡と腕時計を外す」場面です。

sahara_1943_Bogart.jpg

待機する兵士向けに胸ポケットに入る小さいペーパーバックの本が流行します。
軍の評議会によって決定された発行品目を見ると、
もちろん士気に影響を与える恐れがある本はNGです。例えば、
「西部戦線異状なし」、ヘミングウェイの「武器よさらば」など第1次大戦の幻滅を描いたもの、
両手足を失った兵士の苦悩を描く「ジョニーは戦場へ行った」に至っては問題外です。。
まぁ、ヴィトゲンシュタインが子供の頃にTVで偶然見てしまった「ジョニーは・・」は、
いまだにトラウマになっているくらいですからねぇ・・。
でも原作は一度、チャレンジしてみますか。。

Johnny_Got_His_Gun.jpg

そしてそんな手足がバラバラになった米兵の写真などというものは公式には存在しません。
しかし兵士たちは宣伝とは逆に、いざと言う時に頼りになる武器や装備が
ドイツ軍より劣っていることを知っており、性能の良いドイツ軍の軽量の機関銃、
ドイツ軍の戦車とモロに遭遇してしまったら、とても勝ち目がないこと、
この戦争の最大の武器といえば、ドイツ軍の88㎜砲であり、
世界最大の工業国を自任する米国に、これらの兵器がないことも知っています。

88pak.jpg

そのため、最前線では歩兵が腰に括り付けて運んでいた地雷に銃弾が当たり、
爆発によってその兵士の身体は頭と胸と下半身の3つに千切れ、
内臓が地面に四散するという現実が見過ごされがちなのです。
マーケット・ガーデン作戦に参加したパラシュート兵も、隣で降下している兵の腹から
腸が飛び出してブラブラ揺れている姿を目撃し、
ドイツ兵も「ディエップ奇襲」のとき、浜辺に打ち上げられたカナダ兵の
首のない胴体、腕、脚が散乱している光景を語ります。

Dieppe,_Landungsversuch,_tote_alliierte_Soldaten.jpg

ある師団では1/4の兵士が「恐怖心から嘔吐、あるいは便意をもよおしたことがある」と答え、
失禁の経験者が1割ということです。
そして「男らしさ」や「ガッツ」という概念からは、吐くのは許容できても、
失禁・脱糞となると、そうは大目に見られません。
この子供ような形で「恐怖心」を人前に曝け出してしまうことへの「恐怖心」は、
階級が上に上がるほど強くなり、砲撃を受けている最中に大佐が失禁するのは、
上等兵が失禁するより、遥かに大きな失態となるわけです。

The battered body of a dead American soldier.jpg

やがて恐怖心が狂気へと変わっていく将兵も紹介されますが、
「米国人がこの戦争でしたことのなかで最も胸が悪くなるもの」として紹介される例は、
沖縄戦での若い海兵隊将校の行動です。それは、
「死んだ日本兵にまたがり、死体の口めがけて放尿したのである」。

Battle of Okinawa.jpg

思っていたより遥かに面白い1冊でした。
今回は端折りましたが、米国兵と英国兵との考え方や「Fuckワード」の使い方の違い、
比較対象となるドイツ兵以外にも、日本兵と太平洋戦争なども紹介し、
幅広く前線の兵士たちの苦悩を知ることが出来ました。
そろそろ、アントニー・ビーヴァーの「ノルマンディー上陸作戦1944」でもいきますかねぇ。



















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