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マルタ島攻防戦 [英国]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

P.シャンクランド、A.ハンター共著の「マルタ島攻防戦」を読破しました。

先月の「潜水艦の死闘」で、この地中海はマルタ島の戦いがあったこともあり、
本棚にあった1986年、262ページの朝日ソノラマを選んでみました。
「マルタ島の戦い」は過去に読んだドイツ空軍もの、ドイツ海軍ものでも触れられていましたが、
ドイツ陸軍の誇るロンメル元帥ファンからしてみれば、
目の上のたんこぶであるこの島に英軍が頑強にしがみついたことが
北アフリカでの敗北の大きな要因のひとつとも言えるという、まことに厄介な島でもあります。

マルタ島攻防戦.jpg

第1章では「地中海のかなめマルタ島」として、1942年夏までのこの島を巡る状況を振り返ります。
ドイツ・イタリア枢軸軍は北アフリカ北東岸ギリシャ、そしてクレタ島を手に入れ、
ロンメルが東部地中海、エジプトのアレキサンドリアにも手を伸ばしています。
一方の英国艦隊は危機の迫るアレキサンドリアから主力艦隊が撤退し、
地中海の西の入り口、スペインのジブラルタルの艦隊も極東からの要請で大きく戦力が削減。
このアレキサンドリアとジブラルタルのほぼ中間に位置する「マルタ島」ですが、
手の届くところにはイタリアのシシリー島もあり、周囲はすべて敵という、
中部地中海における、敵に占領されていない英国の唯一の要塞として存在しています。

Malta.jpg

そんなマルタ島の存在をロンメルの参謀長バイエルラインが苦々しく語ります。
「マルタ島の空軍と海軍の基地が睨みを利かし、かつ支配権を持っている限りは、
我が方の前線を進め得る可能性も、ナイル・デルタを占領できる望みもない・・」。
ヒトラーとドイツ国防軍は、前年のバルバロッサ作戦がロシアの冬将軍の前に潰え、
1942年夏の再度の攻勢に向けて準備中。

Fritz Bayerlein.jpg

そんな忙しいなか、マルタ島の重要性をヒトラーに説くのは、
独ソ戦とは直接関係のないレーダー海軍総司令官です。
ヒトラーはモスクワ前面に展開していたケッセルリンクの第2航空軍をそっくり南イタリアに送り、
ロンメルのアフリカ軍団を空から援護しつつ、マルタ島を空爆によって粉砕するという
ヘラクレス作戦」が発動されるのでした。

Rommel_&_Albert_Kesselring.jpg

枢軸軍の猛爆により、マルタ島の住民25万人と18万人の軍隊に飢餓が訪れようとしています。
これまで輸送船によって支えられていた食料、オイル、石炭、そして弾薬も激減し、
重責で疲れ果てた島の知事、ドビー将軍も、ジブラルタル総督のゴート子爵へと交代。
6月にはマルタ島の救援のため、大量の物資を積んだ大規模な輸送船団が派遣されますが、
なんとか2隻の商船が辿り着いたのみであり、重油と石油の欠乏は絶望的なまま。。
次に予定されている8月の輸送船団が失敗すれば、島は降伏を余儀なくされます。

Operation Pedestal.jpg

こうして、最後の決死の輸送船団の物語が始まるわけですが、
本書の原題は「マルタ・コンボイ」で、訳せば「マルタ島輸送船団」といったところでしょうか。
船団護衛艦を含め、多くの艦艇が含まれていますが、
本書の主役は最も必要とされる石油を積んだタンカー「オハイオ」です。

ohio.jpg

名前からもわかるとおり、米国で建造された"大きな体でも足も速い"最新タンカーで、
船長に任命されたのはイーグル・オイル社の39歳の若手英国人船長、メーソン。
危険極まりない輸送船団も商船の乗組員は軍人ではなく、国のために命を懸ける船乗りたちです。

Captain of the Ohio, Dudley Mason.jpg

この輸送船団をイタリア艦隊から守る支援艦隊は、戦艦ネルソンとロドネイを中心としたZ艦隊。
サイフレット提督率いるこの艦隊は航空機攻撃に備え、
ヴィクトリアス、インドミタブル、イーグルといった空母5隻も配し、その他、
巡洋艦3隻、駆逐艦15隻という大艦隊です。
そしてバロー少将率いる船団直衛艦隊はX艦隊と呼ばれ、巡洋艦4隻、駆逐艦11隻、潜水艦8隻。
これらが、敵からの攻撃に応戦するわけです。
しかし重要なのはオハイオを含めた14隻の商船。彼らが無事、辿り着くことが全てです。
いよいよ8月11日、ジブラルタル海峡からマルタ島に向けた「ペデスタル作戦」が始まります。

Operation Pedestal2.jpg

この1942年8月にはロシア向けの輸送船団が中止されていたことで、
この地中海に強力な護衛艦隊を集めることが出来たわけですが、
ロシア向けが中止になったのは、7月にあの「PQ17船団」壊滅されたことによるんですね。
ここでも独ソ戦線と北アフリカ戦線がリンクしていることを知りました。

operation_Pedestal_on_its_way_to_Malta.jpg

もちろんこんな大艦隊が集結していることを枢軸側も見逃しません。
初日にはいきなりU-73のローゼンバウムが、空母イーグルを撃沈。
魚雷を抱いたJu-88He-111、36機編隊が迫りくる夜の暗闇の中、1500mの高度から降下。
護衛船団から全火砲が火を噴き、ハリケーン戦闘機も敵編隊に突っ込みます。

The aircraft carrier HMS Eagle sinks after being torpedoed.jpg

Ju-87シュトゥーカやイタリアのサヴォイア雷撃機 、夜になれば高速魚雷艇の攻撃と、
イーグルに続き、空母インドミタブルも大きな被害を受け、
イタリア艦隊が出撃したとの情報から、強力なZ艦隊は「心から成功を祈る」と信号を送って、
ジブラルタルに引き返すのでした。

hms_nelson.jpg

バロー提督の乗船する旗艦、巡洋艦ナイゼリアも被害を受け、舵も利かなくなって旋回するのみ。
同じく巡洋艦マンチェスターもイタリア魚雷艇2隻の攻撃の前に大爆発・・。
仲間の商船も次々に餌食となっていきます。
後方に位置するオハイオも、その姿からタンカーであるのは一目瞭然で、
枢軸軍の目標No.1であることも彼らは自負しています。

それにしても本書の枢軸軍は単なる殺人マシーンの敵でしかありませんが、
イタリア軍の頑張りと戦果は、いまだかつて読んだことないほどですねぇ。

HMS MANCHESTER, enjoy cigarettes during a lull in the action..jpg

8月13日の朝を迎える頃にはたった4隻となってしまった商船。
60機のシュトゥーカがイタリア戦闘機に護衛されて、オハイオを目標に
恐怖のサイレンを鳴らしながら突っ込んできます。
この作戦のために、強力な火器を装備し、プロの軍人も乗り込んでいるオハイオ。
飛行機の破片が降り注ぎ、、至近弾による振動、船橋は大波をかぶってタンクも浸水。
混乱の中、司厨長のミークスが驚いた様子もなくコーヒーとサンドウィッチを持って現れます。
「大変なお仕事で。船長」。
そして20機のJu-88の攻撃によって、電動燃料ポンプが壊れ、エンジンも停止してしまうのでした。

Ju-87s returning to their base.jpg

壊れたドイツ機の機体が船橋に横たわり、船は傷つき、壊れ、動けなくとも、
疲れ果て、呆然とした乗組員たちとオハイオは、なおも戦い続けます。
そして1機の爆撃機が右舷から迫ると、船橋の機関砲でバラバラとなって消え失せますが、
その直前に投下された爆弾が、物の見事にオハイオの中央に命中。
何とか浮かんでいるだけのオハイオは今や見捨てられ、その間にも
3隻の生き残りの商船はマルタ島民の歓喜の声に迎えられてグランド・ハーバーに入港。

ohio is hit by a torpedo.jpg

護衛の駆逐艦隊は最も大事なオハイオを救うため、まるで肩を貸すかのように
両サイドに張り付いて曳航するという作戦に。
僅か5ノットでゆっくりとマルタ島を目指すオハイオと2隻の駆逐艦。
そしてJu-88の編隊が諦めずに迫りますが、マルタ島を基地とするスピットファイアがコレを迎撃。
最後の最後にはUボートまでが、獲物を逃すまいと姿を現すのでした・・。。

SS Ohio is heavily supported by two destroyers as she enters Grand Harbour.jpg

読んでいる途中で本書と同じタイトルの「マルタ島攻防戦」という映画が
1953年に製作されていたことを発見しました。
主演はオビ=ワン・ケノービこと、名優アレック・ギネス。
この4年後に彼が主演するのが「戦場にかける橋」ですね。
本編には実際の記録映画が結構挿入されているそうで、
本書のペデスタル作戦も登場し、その部分は実写にもなっているようです。

Malta-Story-dvd-cover.jpg

原著は1961年と古いですが、著者2人はこの「ペデスタル作戦」に参加していたそうで、
そのためか客観的な目線ではなく、とても臨場感に溢れたものとなっています。
本書の主役を務めたタンカー「オハイオ号」が沈没寸前でフラフラになりながらも
両脇を駆逐艦に支えられ、歓喜をもってマルタ島に辿り着くと、
自分でも予想していなかったほど感動してしまいました。。
やっぱり海の男たちの話っていうのは古今東西、良いもんですねぇ。





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