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ドイツ戦車隊 -キャタピラー軍団,欧州を制圧- [第二次世界大戦ブックス]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ダグラス・オージル著の「ドイツ戦車隊」を読破しました。

「重戦車大隊記録集〈1〉陸軍編」に挑戦する前に、ちょっとウォーミングアップを・・、
ということで、今年の春に「無敵! T34戦車」を読んで以来、気になっていた
「第二次世界大戦ブックス」の一冊を選んでみました。
ドイツ戦車部隊を扱ったものでは、以前に「ドイツ機甲師団 -電撃戦の立役者-」も読みましたし、
未読ですが、「ドイツ装甲軍団―グデーリアン将軍の戦車電撃戦」というのもあったり、
「無敵! T34戦車」と同じ著者による本書は、上記2冊といったいナニが違うのか・・?
原題は「ジャーマン・アーマー」で、「ドイツ軍の装甲車」って訳して良いんですかね?
そしてこの翻訳版はやっぱり副題が恥ずかしいほど素晴らしい。
表紙も「キャタピラー軍団が欧州を制圧」している図ですね。。

ドイツ戦車隊.jpg

第1章「ドイツ戦車隊の誕生」では、1916年、ゴロゴロとやって来た英国の菱形の怪物戦車
「ドイツ陸軍暗黒の日」として、決して忘れられないものとなると、
翌年、ドイツ軍も32㌧の「A7V」戦車を開発。
そして重量148㌧、77㎜砲4門に、機関銃7丁、戦車兵22人が搭乗する桁外れの怪物戦車「K型」
を紹介します。コレは日本では「Kワーゲン」と呼ばれているやつですね。
しかしベルリンの工場でほぼ完成していた2台の「K型」戦車は、充分なテストを行う前に
1918年11月、連合国管理委員会の手によって破壊されてしまいます。

K_Wagen.JPG

続いて、新生ドイツ陸軍のためにソ連との秘密協定を締結する10万人軍隊のゼークト将軍
新進気鋭の戦車信奉者であるグデーリアンも登場し、彼の回想録を引用しながら、
保守派の騎兵などとの戦い、逆に馬嫌いの新首相ヒトラーの支持を得る様子などが紹介されます。

1933年、クルップ社によって「訓練用戦車」であり、「農業用トラクター」という略称を与えられた
二人乗りの「Ⅰ号戦車」が誕生します。
1937年までフォン・トーマによって「スペイン内戦」で盛んに使われたⅠ号戦車ですが、
敵対戦車砲に完敗・・。トーマは出来る限りの敵のソ連戦車を鹵獲して部隊に編入。。
本書では、鹵獲したT-26戦車と並んだⅠ号戦車の写真も出てきますが、
一見しただけで、その力の違いが分かります。
なんてったってⅠ号戦車は砲塔にあるのは「機関銃」ですからね。。

Panzer I.jpg

Ⅱ号戦車はMAN社製。搭乗員も1人増えて、3人乗り。そして武装は、
「恐るべきとは書きにくいが、とても良くなっていた20㎜砲」が搭載。
装甲の厚さや、速度、エンジンなど、Ⅰ号戦車と比較しながら、なかなか専門的な解説です。

そして1935年には3個装甲師団が創設され、戦車以外にも機械化を進める必要が・・。
軽装甲兵員輸送車は「夢のような万能車両」と紹介され、
「Sd Kfz250」や、大型の「Sd Kfz251」も写真付き。

sdkfz251_1942.jpg

より大型な中戦のⅢ号戦車の開発が始まると、機械化部隊総監は50㎜の
大型口径砲を推奨しますが、陸軍兵器局はすでに歩兵部隊が装備している
37㎜対戦車砲を標準装備することを望みます。
その結果、ポーランド戦フランス戦で誤りであったことが判明し、50㎜砲への変更が始まりますが、
ヒトラーの工学的慧眼は短砲身ではなく、高初速の長砲身にするよう言明。
しかし陸軍兵器局は途方もない不服従行為で、ヒトラーの命令を無視した短砲身砲を搭載。
この行為が、独ソ戦初期の決定的な時期にドイツ軍が苦杯をなめる結果になったとしています。

Panzerkampfwagen III Ausf. L.jpg

手間をかけてゆっくりと生産されたⅣ号戦車。ポーランド戦には初期型が211両出動します。
その後、改良に改良を加えられ、長砲身の75㎜砲を装備して、ドイツ戦車部隊のエースとなります。
また、チェコ製の35(t)戦車38(t)にも触れ、これらのドイツ軍戦車と、
当時のフランス軍主力戦車、ソミュアシャールB1戦車、英軍のマチルダとの比較も行います。

SS-Division_Hitlerjugend_Panzer_IV.jpg

中盤は「西方電撃戦」の戦車部隊の活躍を、やっぱりグデーリアンを中心に紹介し、
続く北アフリカ戦線もロンメル中心で・・。
こうして「バルバロッサ作戦」へと進むと、ドイツの将軍たちについての著者の見解。
「ドイツ軍司令官たちは変化する戦争の性質を的確に理解した預言者のような集団ではなく、
誰一人として、一度に10個以上の戦車師団を使った作戦計画の起草や、
実戦を経験した者はいなかった。グデーリアンでさえ、例外でなかったのである」。

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対するソ連軍については「ソ連軍機械化部隊の創設者トハチェフスキーが銃殺され、
スターリンのえこひいきによって、かつての第1騎兵軍の大ベテラン、
ブジョンヌイティモシェンコヴォロシーロフのような者を返り咲かせた。
ただ、このなかにジューコフが含まれていた。運命の女神が彼を
戦争史の中で輝ける金字塔として残しておいたのだ」。

Zhukov_at_the_Tiger_tank.jpg

「当時、戦車軍団を指揮していた聡明なマンシュタイン・・」、
他にも第4軍参謀長ブルーメントリットの話なども登場しながら、独ソの攻防が語られますが、
そこはやっぱり「第二次世界大戦ブックス」。写真が良いですねぇ。
この部分では初見のマンシュタインの写真もありました。
そして強敵T-34とKV戦車の前にドイツ戦車工業界はパニックに陥ります。
T-34がいかなる戦車か・・というところは、さすが「無敵! T34戦車」って感じですね。

T34_german.jpg

1942年4月の総統誕生日に向けて、Ⅵ号戦車「ティーガー」の試作車が大急ぎで用意。
88㎜砲を備え、絶大な火力と装甲を持って就役した最強戦車ですが、
この戦車は快速で運動性の良いT-34に対抗するモノではなく、
むしろ、防衛戦になれば効果的な役割を果たすだろうと期待されたモノです。

tiger_tank.jpg

一方、その厄介なT-34を圧倒するために開発されたのがⅤ号戦車「パンター」です。
さらに回転砲塔を持たない分、量産が可能な自走砲類も、種類ごとにⅢ号突撃砲を筆頭に、
駆逐戦車「エレファント」、突撃戦車「ブルムベア」なども写真つきで登場。
東部戦線の戦いもスターリングラードハリコフクルスクの戦いと続きます。
また、このパンターがT-34/85をも凌いでいたと、著者が考える理由は
「ソ連戦車兵はソ連戦車より、鹵獲したパンターに乗りたがっていた」ということです。

PzKpfw V.jpg

1943年には西側連合軍の上陸が迫る西部戦線も重要になってきます。
防衛を任されたロンメルの「自筆の空挺作戦防止策のスケッチ」が出てきたり・・。
コレは凄いですねぇ。初めて「ロンメルのアスパラガス」のスケッチを観ました。

そしてどことなくパンターに似ている「新型ティーガー」、ティーガーⅡ、
またの名をケーニッヒスティーガーと呼ぶ怪物戦車が登場します。
さらに自走砲も大型化され、128㎜砲を備え、最強とされる「ヤークトティーガー」、
同様に駆逐戦車に改良されたパンターである「ヤークトパンター」も。
生産台数はそれぞれ48両、380両としています。

Jagpanther.jpg

まだまだ「マーダー」に、「ナースホルン」、「ヘッツァー」といった自走砲、
37㎜高射砲を積んだ「オストヴィント(東風)」と
20㎜高射砲4門を積んだ「ヴィルベルヴィント(旋風)」といった対空戦車などにも触れ、
連合軍のシャーマン、クロムウェル、チャーチル、ファイヤフライとも比較。

Hitler_inspiziert_Jagdpanzer_38-t__Hetzer.jpg

ノルマンディの戦いでは、たった1両のティーガーが「戦史上偉大な単独戦車戦を展開した」として、
ライプシュタンダルテの若いSS将校が英機甲連隊の戦車とハーフトラック25台を撃破した・・と
紹介します。ヴィットマンという名前が出てこないのが、逆に新鮮ですね。

バルジの戦いを経て、最後には「超重戦車マウス」について語られます。
「はつかねずみ」と名付けられた188㌧の怪獣の生産にダメ出しをしていますが、
ココでは「クルップ社の試験場で「マウス」を視察するヒトラー」の写真にビックリしました。
本書の写真は良いものがほとんどですが、コレだけは胡散臭いですよ。。
お持ちの方はぜひ確認してみてください。

Panzer VIII Maus.jpg

「無敵! T34戦車」では、「ソ連戦車を主役とした「独ソ戦記」といえばわかりやすいでしょうか。」
という感想を書いていましたが、本書もさすが同じ著者だけあって、
ドイツ戦車の開発と運用を中心とした、ドイツ装甲部隊の興亡といった趣で、
この2冊は独ソ両軍戦車を扱った「姉妹編」と言えるかも知れません。



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