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第三帝国の興亡〈3〉 第二次世界大戦 [ナチ/ヒトラー]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ウィリアム・L.シャイラー著の「第三帝国の興亡〈3〉」を読破しました。

前巻でオーストリアを併合し、チェコスロヴァキア全土も獲得した第三帝国とヒトラー。
ここまで読んだ印象では予想していたよりも、かなり公平に書かれています。
ヒトラーの逸話だけではなく、各国の関係者を含めた政治的駆け引きの様子も
戦後に公開された数多くの記録文書を掲載しながら進み、
また、当時のドイツ国内の様子も著者の体験談として語られるところも面白いですね。

第三帝国の興亡〈3〉.jpg

1939年早々、リッベントロップやヒトラーと会談するのは、猛烈なロシア人嫌いで
パリ駐在武官当時に、言いがかりをつけられて追放になったことでフランスに恨みを抱いていた
ポーランド外相のベックです。
彼はこのような経緯から、伝統的なフランスとの結帯を弱めつつ、ナチス・ドイツに対して
より親しくする努力を6年に渡って続けていたのでした。

Joachim von Ribbentrop and Józef Beck. Warsaw, 25 January 1939.jpg

ヴェルサイユ条約によってダンツィヒを奪われ、ポーランド回廊によって東プロイセンを本土から
切り離されたドイツは、1922年にゼークト将軍がドイツ陸軍の態度を規定しています。
「ポーランドの存在は到底我慢できず、ドイツの生存の本質的条件と両立しない。
ポーランドは消え去らなくてはならず、それはロシアの支援を得て達成し得る」。
ドイツ陸軍としてはゼークト時代から親ソ、反ポーランドの姿勢であったわけですが、
なるほど・・。予言的言葉ですね。

Generaloberst Hans von Seeckt - 70. Geburtstag.jpg

しかしダンツィヒとポーランド回廊問題については頑なな態度を取るポーランド政府。
そんな折、英仏との軍事同盟によってナチス・ドイツに対する安全保障政策の提唱者であった
ソ連のリトヴィーノフ外相が突如、罷免され、首相のモロトフが後任に・・。
ココからは「ヒトラーとスターリン 死の抱擁の瞬間」の展開となっていきますので、
かぶった話は端折って、本書ならではのエピソード中心で・・。

kaitel ribbentrop molotov 1940.jpg

イタリアの軍事力を信用しないドイツ国防軍ですが、ヒトラーはムッソリーニとの
軍事同盟締結を急ぎます。イタリア外相チアーノとリッベントロップの会談によって
枢軸の「鋼鉄条約」が5月に総統官邸で署名されると、チアーノはドイツ外相に
「アヌンツィアータ首飾り章」を送りますが、コレに目に涙を浮かべ、歯ぎしりをして悔しがるのは
勲章大好きのゲーリング・・。
同盟を実際に促進したのは自分であり、首飾り章は自分に授けられるべきだと
人前もはばからず、騒動を起こします。

勲章ネタというのは面白いものが多いですが、、ヴォロシーロフ元帥を中心とした
軍事代表団に対して、交渉に乗り込んだ英仏代表団の話も出てきますが、
本書ではさすがに「バス勲章」の件はありませんでした。

Ordine Supremo della Santissima Annunziata.jpg

8月14日、ヒトラーはオーバーザルツベルクに国防軍将校団を集め、
ポーランド侵攻計画について語ります。
「英国は1914年と違って何年も続く戦争に巻き込まれるようなヘマはしないだろう。
それが富める国の運命である」。
参謀総長ハルダーの書いたこの速記記録によると、フランスについても
「西方の壁に向かって進撃するとは考えられず、ベルギー、オランダを通って北方を迂回したのでは、
迅速な勝利は得られず、いずれもポーランドの役には立たない。
そこでポーランドを1、2週間で屈服させれば、世界はポーランドの崩壊を認めて、
これを救おうと試みることはしないだろう」。

Military demonstration at Hitler's 50th birthday celebration in Berlin. April 20, 1939.jpg

グライヴィッツの放送局襲撃でっち上げ作戦は、ニュルンベルク裁判で証言した
ナウヨックスの供述によって詳しく判明しているようです。
そして「SSとゲシュタポの典型的な産物で一種の知能的ギャングで、
ヒムラーやハイドリヒが思いつく、あまり芳しからぬ企ての実施役を勤めた」と紹介される彼は
1944年に米軍に投降したものの、自身の裁判の前に脱獄して逃亡。
本書が描かれている時点では、いまだ捕まっていない・・ということでしたが、
政治や国防軍だけではなくて、SSの作戦についても結構シッカリと書かれていますね。

naujocks.jpg

8月26日土曜日にはゲッベルス指揮する新聞宣伝が最高潮を迎えます。
ベルリナー・ツァイトゥンクの一面の見出しは
「ポーランド、完全な混沌状態。ドイツ人家族避難。ポーランド軍、ドイツ国境に迫る」。
その他、「ドイツ旅客機3機、ポーランド側から射撃さる。回廊でドイツ人農家焼き打ちさる」。
翌日曜日のフェルキッシャー・ベオバハターは「ポーランド全土の戦争熱。150万動員さる」。
もちろん、すでに2週間前から始まっていたドイツの動員についてはなんの言及もありません。

Hitler 1939.jpg

そして遂に9月1日、ドイツ軍がポーランド国境を越えて侵攻開始
ただこの時点ではまだ、独ポの局地的戦闘であり、世界大戦が始まったわけではありません。
特に悩みに悩んだ末、ドイツとの同盟の義務からの解除をヒトラーに伝えたムッソリーニは
英仏の圧倒的な軍事力が、ドイツの同盟国イタリアの上に襲い掛かることを心配して
今一度、ミュンヘンの手配をしようと必死になっています。

hitler_Mussolini.jpg

英外相ハリファックスは交渉の条件としてポーランドからの即時撤退を求めますが、
フランスも包囲されているポーランドに対する義務から逃れるための脱出口を探し回ります。
英仏からの最後通牒の回答を故意に遅らせて、その間に出来るだけ多くのポーランド領土を
奪取したあとで、「太っ腹な平和提案」をヒトラーが言ってくることを心配し、
結局、英仏は宣戦布告することを余儀なくされますが、フランス外相ボネはギリギリまで粘り、
ベルギーのレオポルド国王を説いて、ムッソリーニと一緒にヒトラーを説得するよう頼み込んだりと、
はまり込んだ罠から救い出してくれるかも知れない・・という希望に頑強にしがみつきます。

Hitler_1939.jpg

ヴィルヘルムシュトラーゼの総統官邸前で英国の宣戦布告を拡声器が告げると
集まっていたベルリン市民は呆然として、ヒトラーが世界戦争に引きずり込んだことを
彼らは良く理解できなかった・・とその場に居合わせた著者は語ります。

ハインツ・グデーリアン将軍がその戦車隊をもって初めて名声を馳せたとする回廊の戦い。
ポモルスカ騎兵旅団の猛反撃を受けたものの、戦車に立ち向かう馬。騎兵の長い槍。
勇敢で、豪胆で、向う見ずだったポーランド兵は、あっさりドイツ軍の猛攻によって圧倒・・。
シャイラーは数日後、現場を訪れ、その胸がむかつくような殺戮現場を目撃します。

Hitler, Heinz Guderian '39.jpg

独ソ不可侵条約と秘密議定書によって、ドイツ軍の分け前に与ることとなっていたソ連。
モロトフは「ソ連が介入するためにドイツを非難しても差し支えないか」と
リッベントロップに尋ねます。
もちろんドイツ側の回答は「もってのほかである」。
そこでソ連のポーランド侵攻の理由はこのように。。
「ポーランドは解体して、もはや存在しない。
したがってポーランドと締結された一切の協定は無効である」。

It shows a German, a Russian and a Polish soldier sitting together!.jpg

ドイツ軍に占領されたポーランドはヒムラーのSSによって「掃除」が始まります。
そしてその情報は陸軍総司令官ブラウヒッチュやハルダーの耳にも入ることに・・。
「文明開化の化粧板の底には冷酷無残な殺し屋が潜んでいた」と紹介される
ハンス・フランクが総督となり、副総督にはザイス=インクヴァルトが任命・・、
ふ~ん。ザイス=インクヴァルト・・、コレは知らなかったですねぇ。

Polen, Krakau, Polizeiparade, Daluege, Frank.jpg

一方、ドイツの工業地帯であるルール地方を爆撃することで、フランスの工場がドイツ空軍の
報復爆撃の目標となることを恐れるフランスは、英国に対してドイツを爆撃しないよう主張します。
このように及び腰の英仏連合軍との「まやかし戦争」が陸上では続き、
海上ではグラーフ・シュペー号などのポケット戦艦Uボートが暴れ始めています。

Batalla del Río de la Plata_grafspee.jpg

一刻も早く、打倒英仏を求めるヒトラーに、反ヒトラーたちが再び集結します。
12月30日時点の計画は、「相当数の師団がベルリンに滞留している時を選び、
ヴィッツレーベンがベルリンに出てきてSSを解散する。この行動を背景として、
ベックがツォッセンに赴き、ブラウヒッチュの手から最高司令部を接収する。
ヒトラーはその職務に堪え得ないと声明して拘留する。
戦争は継続するが、妥当な基準に立つ平和は受諾する用意がある」。
本来、これらを実行する立場にある参謀総長ハルダーですが、ポーランド戦に完勝し、
軍人としての本能に目覚めたのか、西方作戦計画策定にも没頭して、
悲しいかな、反乱計画すべては非現実的なものになっていたのでした。。

Hitler_Keitel_Halder_ Brauchitsch.jpg

そんなドイツ軍とヒトラーにとって戦略的状況を根本的に変える問題が発生。
ソ連によるフィンランド侵攻です。
この小国を支援するため、ノルウェー、スウェーデンを経由して遠征軍を送ろうとする英仏。
輸送路維持を口実としてその地に駐留し、ドイツへの鉄鉱石の供給を遮断する狙いがあると
ヒトラーは見て取ります。こうしてノルウェー侵攻作戦「ヴェーザー演習」と、
ノルウェー陸軍士官学校を首席で卒業した過去を持つファシスト政党の党首である
クヴィスリングが登場。ナチス・ドイツ国際局の親玉、ローゼンベルクと接触するなど、
彼のことがこれほど詳しく書かれたものは初めて読みました。
ちなみに第1巻でもチンチンに書かれていたローゼンベルクですが、この巻でも
「このバルト生まれの薄のろ男は・・」と著者はなにか恨みでもあるんでしょうか??

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フランスのダラディエ首相は、フィンランドが連合軍の救援を「正式」に要請しないのを叱りつけ、
ノルウェーとスウェーデンの抗議を無視しても連合軍を派遣するとほのめかしますが、
マンネルヘイム元帥はフランスが自国の戦線ではなく、フィンランド戦線で戦おうとしていると
疑いを持ち、あくまで拒否するのでした。

The Winter War.JPG

著者は「もし、英仏遠征軍がフィンランドに到着し、ソ連軍と戦うようなっていたら、その結果、
交戦国間にいかなる混乱が起こったか・・」として、この時、ソ連と同盟のドイツは、
1年後にソ連と戦い始めた場合、「西方の敵は、東方の味方となったろう」としています。

このような「もし」は考えたことがありませんでしたが、今回、本書を読んで、ふと思ったのは
「もし、ポーランド政府に妥協的な人物がいたら・・?」ということです。
ズデーテンランドの時と同様に、各国からの要請によってダンツィヒと回廊をドイツに引き渡し、
その後、ドイツはうやむやにポーランド全体を占領・・。
その時点で戦争は始まっていないとすると、西部への電撃戦は行なわずに、
ソ連にはやっぱり侵攻するヒトラーとドイツ軍。
英仏はソ連ためにドイツに対して宣戦布告はせずに、中立の傍観者となりそうです。
う~ん。第2次世界大戦ではなく、単なる独ソ戦。
西側はヘビー級の両者が打ち合い疲れたところでレフェリーよろしく、休戦調停・・??





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