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ミッキー・マウス ディズニーとドイツ [ナチ/ヒトラー]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

カルステン・ラクヴァ著の「ミッキー・マウス」を読破しました。

映画好きのヴィトゲンシュタインとしては、第三帝国時代の映画全般について書かれたものを
以前から探しているんですが、どうも「コレだっ」ってやつが見つかりません。
そんなときに見つけたのが本書です。
「ミッキー・マウス」と第三帝国の関係といえば、ドイツ空軍の誇るエース・パイロット、
アドルフ・ガーランドがその機体にミッキーを描いていたのが有名ですね。
ということで、米国が生んだミッキーとディズニーが、1941年12月の独米の戦争以降、
ドイツ国内でどのように変化していくのか・・? 
コカコーラとファンタ」の話も思い出しつつ、2002年発刊で290ページの本書を読んでみました。

ミッキー・マウス.jpg

初めてドイツに輸入されたディズニー映画は「ネズミ」ではなく、「うさぎ」だったという話からです。
まだミッキーが生まれる1年以上前、1927年に「しあわせうさぎのオズワルド」のシリーズの
「トロリー・トラブル」が、「オズワルドと路面電車」というタイトルでベルリンで試写されます。
その後、ウォルト・ディズニーはミッキー・マウスを誕生させ、
1946年まで彼自身がミッキーの吹き替えを行うなど、
ミッキーの誕生秘話から、会社としてのディズニーについても詳しく語られますが、
物心ついた時からのプーチン派・・じゃなくて、「プーさん派」だったヴィトゲンシュタインには
すべてが初めて知ることばかりです。。

Oswald-Trolley troubles.jpg

そして1930年、最初のミッキー映画がドイツに上陸。
本書の表紙のポスターがその時の映画広告です。
人気の出てきたミッキーはドイツでも人形やら、塩入れの陶器やらが勝手に量産され、
今日のようにディズニー社の厳しい基準のない当時は、
ミッキーが酒を呑んで酔っ払ったり、煙草を吸ったりする絵葉書も登場。。

mickey-postkarte 1 saufen.jpg

ワイマール共和国時代には当局も好意的だったミッキー。
しかし、もともと映画を宣伝道具と考えていた政権を狙うナチ党とゲッベルスは、
ドイツで人気を博す、このアメリカ映画にも反応しなければなりません。
1931年のナチ党の地方機関紙には、こんな声明が・・。
「薄汚い、泥にまみれた小害獣、動物界の偉大な伝染病媒体を
理想動物に祭り上げることなどできない。
米国の商売上手なユダヤ人が汚い有害動物でもうけようとしている」。

やがてナチ党が政権取り、映画産業にも力を入れるゲッベルスですが、
1934年のクリスマスになるとディズニー・ブームがドイツ帝国に巻き起こります。
子供たちが熱狂しただけでなく、大人たちもディズニーの近代的なメルヘンを楽しみ、
フェルキッシャー・ベオバハター紙でさえ、「民族同胞の趣味に合った・・」と認めざるを得ません。

propaganda minister Goebbels - The Patron of German Film - with his boss Adolf Hitler at UFA. Hitler liked films.jpg

1937年になるとドイツ映画産業界は経済危機に陥り、ウォルトの兄、
ロイ・ディズニーが売り込む新作にも手を出せなくなってきます。
それでもヒトラー総統もお気に入りのディズニー映画は首相官邸でも熱心に観られ、
ゲッベルスは18本のミッキー・マウス映画を総統にクリスマス・プレゼントとして送るほど。

しかし、日本女性っていうのもどうしてあんなにミッキーが好きなんでしょう?
そういえば中2のときに初めて付き合った女の子にミッキーのぬいぐるみをせがまれて、
5000円のデカイやつを強引にプレゼントさせられたことを思い出しました。。
当時の5000円っていったら、そりゃ大金ですし、渡した直後に
「ミニーはいつ買ってくれるの?」と言われて愕然としましたね。。

Steamboat Willie Poster by Tom Whalen.jpg

そんな青春時代の苦い思い出はさておき、ディズニー初の長編アニメの名作、
「白雪姫」が完成しますが、20万ドルとの米国側の要求で交渉は暗礁に乗り上げます。
「支払いは外貨でなければならず、しかもとても高い。
白雪姫は米国人のアニメーターが如何に優れているかをハッキリと示し、
結局、それはドイツ映画の恥をさらすことになる。」
というのがゲッベルスが輸入しないことに決めた理由です。
そして彼が日記に付けた白雪姫の感想・・。「大人のメルヘン。
細部まで考えつくされ、大きな人間愛と自然愛で作られた素晴らしい芸術作品」。

Original-Snow-White-Poster-1937.JPG

このように白雪姫は経済的な問題からドイツの映画館では上映されなかったものの
以前のミッキー映画がナチに妨害されずに繰り返し上映され、公に賞賛までされた理由は
ウォルト・ディズニーがユダヤ人ではなく、それどころか母親はドイツ系であり、
映画はほとんど非政治的、かつテーマの選び方がグリム童話などの
ドイツのメルヘンの伝統に対する愛着に基づいていたことだとしています。

1939年に戦争が始まり、1941年に米国に対する宣戦布告が行われるまで、
ドイツの映画館では戦況を伝える「ドイツ週間ニュース」とともに、
ディズニー映画も上映され続けます。
その間にも傑作「ファンタジア」が製作されますが、もはやドイツでは新作は上映されません。
それでもやっぱりナチ党員と招待客による、コッソリ上映会がゲッベルスによって開かれます。

Fantasia(1940).JPG

そしてお腹にパラシュート、両手に斧とピストルを持ち、煙草をくわえた
ガーランドのミッキーにも本書は言及。
1937年、スペイン内戦のコンドル軍団で、彼の指揮する第3飛行中隊の部隊章として始まり、
その後、第2訓練部隊第4中隊もシンボルとして、1940年の英空軍との死闘でも
彼のBf-109に描かれたということですが、コンドル軍団の部隊章からというのは知りませんでした。
てっきりガーランドのパーソナルマークだと思っていましたが、彼は戦闘機隊総監として
メッサーシュミットからは離れてしまうので、米国との開戦後にミッキー印の戦闘機には、
ジェット戦闘機Me-262も含め、さすがに乗っていないんじゃないでしょうか。

Galland,Micky Mouse.jpg

1942年にもなると外国映画は一切合財、帝国映画資料館に封印。
それでも宣伝大臣ゲッベルスの個人的な裁可によっては貸し出しも可能です。
1944年、外務大臣リッベントロップはドナルド・ダック映画を注文し、
1945年1月という時期になっても、オーバー・シュレージエンの地区指導者が
「白雪姫」を観たいと申し出ます。
その理由は、「敵の行動傾向について情報を得たい」というものです。。。

Donald's Ostrich_1937.JPG

占領地であるフランスやデンマークではディズニー映画の上映は許可されていたそうですが、
ドイツ国内ではディズニーに代わって自国のアニメ映画の製作がゲッベルスの肝いりで始まります。
しかし「かわいそうなハンジ」というアニメが1本完成したのみ・・。
一方、戦時下のウォルト・ディズニーは、全収益の45%をヨーロッパから得ていたために
大打撃を被ります。おかげで名作「ピノキオ」も「ファンタジア」も赤字。。
軍から教育映画の製作を依頼され、従業員たちのストライキも乗り越えながら生き残ります。
う~ん。ヴィトゲンシュタインが初めて見たディズニー映画は「ピノキオ」だったかも知れません。

Pinocchio original poster 1940.JPG

カナダ軍依頼の「戦車を止めろ」という対戦車砲の取り扱い映画では、ヒトラーのパロディーも登場。
1942年には「総統の顔」という反ナチのプロパカ゛ンダ映画も制作します。
当初は「ナチの国のドナルド・ダック」というタイトルで、本書では内容も詳しく紹介します。
さらにウォルトは利益を顧みず、米軍の部隊章のデザインにも着手。
各部隊はディズニー申し込めば、人気者が描かれた記章を作ってもらえるのです。
1941年から1944年までに1000を超える記章をデザイン。潜水艦乗組員からの依頼には
魚のモチーフを考案しなければならず、殺到する注文もさばききれません。

Der Fuehrer's Face poster 1942.jpg

ようやく戦争も終わり、1950年になってやっと「白雪姫」がドイツの映画館に登場します。
翌年にはミッキー・マウスもカムバックを祝うのでした。
本書では白黒ですが、当時のディズニー映画のポスターなどが沢山掲載されています。
ドイツ語で書くと「MICKY MAUS」なんですね。
「MAUS」だと、ついつい超重戦車をイメージしてしまいますが・・。

micky maus 1936.JPG

本書のタイトル「ミッキー・マウス」ですが、
原題は「ミッキーはどのようにしてナチスの仲間になったか」というものです。
日本では「ミッキー」と「ナチス」を関連付けたタイトルはダメなのかも知れませんね。
また、本書ではディズニー兄弟の経営的な話も多く、商品としての映画の売買や
キャラクターの使用権問題などにも多くのページを割いていて、
個人的にはディズニー・ファンではありませんが、大人の読めるディズニー本だと思いますし、
思った以上に、勉強になった一冊でした。



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