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戦艦ティルピッツを撃沈せよ! [ドイツ海軍]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

レオンス・ペイヤール著の「戦艦ティルピッツを撃沈せよ!」を読破しました。

以前に紹介した「ロンメル将軍」と同様に、子供の頃からハヤカワNF文庫のコーナーに
必ず陳列されていた、個人的に有名な一冊です。
最初の翻訳版は1970年で、この473ページの文庫版は1980年の発刊ですが
ドイツの誇る巨大戦艦の割には何もすることなく撃沈されたという実績??を持ち、
タイトルどおり、英国寄りと思っていた本をやっと読んでみようという気になったのは
去年の10月に独破した「極北の海戦 -ソ連救援PQ船団の戦い-」で
大魔神のごときティルピッツの存在が非常に印象的だったのと、
リデル・ハートの「第二次世界大戦」での戦艦武蔵の件・・。
いわゆる2番艦というのが子供の頃から好き・・というのと同様、
ビスマルク級の2番艦がティルピッツだという、No.2繋がりなんですね。

戦艦ティルピッツを撃沈せよ!.jpg

1942年1月、ロンドンの首相官邸で物思いにふけるチャーチル・・。
半年前にドイツの巨大戦艦ビスマルクを大追跡の末に屠ったものの、
その姉妹艦「ティルピッツ」の存在が彼を悩ませます。
英本国艦隊の最大艦艇群をスカパ・フローに釘付けにしているだけではなく、
そもそも英海軍の最強の軍艦を上回る強力な敵の戦艦が遊弋している事実が面白くなく、
腹にもすえかねているのでした。

Battleship Tirpitz in Fetten-ferd.jpg

そのティルピッツを指揮するのは、巡洋艦エムデンの航海長だったカール・トップ大佐です。
精悍で厳しい、この海軍軍人は2400名の乗員を載せた強力戦艦の初代艦長にうってつけです。
そして彼も半年前に起こった姉妹艦の壮絶極まりない運命に思いを馳せ、
ただの「一発」でフッドを撃沈させた火器を思えば、ティルピッツの威力も心強く感じています。
それは4基の38㎝口径8門の砲。
前部砲塔は「アントン」と「ブルーノ」、後部砲塔は「シーザー」と「ドーラ」。
う~ん。。陸軍の巨大砲も大抵こんな名前ですね。しかもちゃんとABCD順です。。

Battleship Tirpitz_Dora.jpg

戦艦ビスマルクを知らない方でも「ビスマルク」という名はご存知だと思います。
日本で一番有名なのは、ヴェルディ川崎とか鹿島アントラーズにいたビスマルク・・?
じゃなくて、やっぱり「鉄血宰相」と呼ばれたオットー・フォン・ビスマルクでしょうかね。。

では「ティルピッツ」というと、さすがに授業では習わなかったと思いますが、
ドイツ帝国海軍元帥で第一次大戦では海軍大臣を務めたアルフレート・フォン・ティルピッツで、
彼の名の付いたこの戦艦の大きな食堂にも、ヒトラーの肖像画とともに飾ってあり、
英海軍ではこの戦艦のことを「アルフレート・フォン・ティルピッツ」と口頭でも文書でも
長ったらしく呼ぶことにいら立ちを隠せない、第一次大戦時の海軍相チャーチル。。

Alfred von Tirpitz.jpg

ノルウェーのトロンハイムに投錨するティルピッツの情報は、英国および、ノルウェーの
協力者(スパイ)たちによって英国本土へと伝えられます。
トップ艦長がドーヴァー海峡を突っ切って、フランスのブレスト艦隊と合流しようという作戦を
本国に提案するのと同様に、英側もその危険を想定して、ティルピッが収容できる
ただ一つの乾ドックである、サン・ナゼールのドックの破壊を命じます。
しかし逆にドーヴァー海峡を突っ切ったのはシャルンホルストらのブレスト艦隊。。
こうして北方艦隊が強化され、名実ともにその旗艦となったティルピッツ・・。

The Channel Dash.jpg

60ページほど読んで思いましたが、本書はまったく英国寄りではなく、
英、独、ノルウェーの3ヶ国の話が短い章で交互に、公平に書かれています。
登場人物たちの会話も豊富で、まるで小説のよう・・というか、
映画を観ている感じすらしますね。

7月には「PQ17船団」に対して出撃しますが、すでに空軍とUボートによって狩りは終了・・。
なんの戦果もなければ、2級鉄十字章すら貰えずに士気も下がり始めると
暇をもてあました水兵が脱走する事件が起きてしまいます。
「ココではさっぱりなので英国か、米国の海軍で服務したかった」と
馬鹿正直に語る彼にトップ艦長は死刑を宣告。
ティルピッツの艦上で、食卓仲間の銃殺隊によって一斉射撃が・・。

Friedrich Carl Topp.jpg

ベルリンでは一回の作戦で大量の油を喰う、レーダー元帥の水上艦艇をヒトラーが
「くその役にも立たない」とののしり、すべて解体して、砲塔は陸上の堡塁にすべし・・。
すったもんだの挙句、レーダーが辞任して、デーニッツが後任になりますが、
Uボート男デーニッツでも、戦艦の存在が敵に与える恐怖を充分理解しているのでした。

HitlerundRaeder.jpg

少将へ昇進したトップ艦長はティルピッツに別れを告げ、後任にはハンス・マイヤー大佐が着任。
その間にも英国は、地中海のアレキサンドリアで戦艦クイーン・エリザベスとヴァリアントが
イタリアの人間魚雷によって大破したことにヒントを得て、
小型で4人乗りの潜航艇「X-艇」を開発。訓練に勤しんでいます。

X-craft_submarine.jpg

1943年9月、いよいよX-5号からX-10号までの6隻がそれぞれ親潜水艦に曳航されて出航。
X-5号~X-7号はティルピッツを、X-9号とX-10号はシャルンホルストを、
X8号はリュッツォーを攻撃するこの計画ですが、X-9号が途中で行方不明に・・。
X8号もトラブルに見舞われて断念。
結局、親潜水艦から切り離された4隻のX艇がソールオイ水道へ突入することに・・。

X-5_.jpg

X-6号艇長キャメロン中尉を中心としたこの「ソース作戦」の様子はかなり細かく書かれています。
首尾よく、魚雷防御網をくぐり抜けて、
ティルピッツの艦底に時限式爆雷を仕掛けることに成功するものの、
発見されて捕虜となった彼ら・・。じきに爆雷も爆発します。
英語を話す少尉が疲れ切った彼らにコーヒーとチョコレートを振る舞い、
キャメロンも愛用の曲がったパイプに煙草を・・。その時、凄まじい爆発が・・。

Lieut_D_Cameron.jpg

ティルピッツは戦死者1名、負傷者40名を出し、本国で大修理をしない限り、
本来の速力は取り戻せないほどの重傷を負いますが、マイヤー艦長は
「捕虜は静かに眠らせてやれ。彼らはそれに値するだけのことをやってのけたのだ・・」

英軍のさらなる攻撃を避けるため、入り組んだフィヨルド内をゆっくりと移動するティルピッツ。
しかし1944年4月、今度は空母から飛び立った英国機の襲来を受け、
マイヤー艦長も爆風で吹き飛ばされ、両耳もちぎれた血まみれの顔で艦橋に倒れるのでした。
今度は戦死者122名、負傷者は316名にも達し、その多くが重傷です。

Hans Karl Meyer.jpg

それでも浮かび続けるティルピッツはヴォルフ・ユンゲ大佐に艦長が交代。
意地でもティルピッツを沈めたい英国は、重さ5トンの大型爆弾「トールボーイ」を開発し、
爆撃機軍団長のアーサー・ハリスによって作戦が立てられます。
9月に「トールボーイ」を積んだランカスター爆撃機33機がティルピッツを発見しますが、
一発が右舷前甲板に命中したのみ・・。

Lancaster_Tallboy.jpg

しかし大穴の空いたティルピッツは、戦闘不能の片輪者に過ぎません。
トロムセへと隠れるように移動して、ロベルト・ヴェーバー砲術長が艦長に昇格。
これはすなわち、もはや軍艦ではなく、浮かぶ「ティルピッツ要塞」と化したことを意味します。

tirpitz_5.jpg

1944年11月12日、遂に最期の日を迎えたティルピッツ。
ランカスターの襲来を察知し、アントンとブルーノの両砲塔が火を噴きます。
しかし高高度から落とされた巨大な爆弾が一発、二発とティルピッツを貫きます。
3分余りで10度も傾き、やがて135度に達して、上下が逆さに近い状態に・・。

28_tirpitz_nov_12_1944.jpg

ヴェーバー艦長は司令塔に閉じ込められて戦死。
その後の数日間に及ぶ、生存者救出作戦までが詳しく語られます。

実はこうして読み終えるまで、本書は「X艇」の活躍に特化したものだと思っていたので、
「トールボーイ」でティルピッツがひっくり返るところまで書かれていたのは予想外でした。
なぜ、そう思い込んでいたのかは良くわかりませんが、
フジ出版の「怒りの海 -X艇 戦艦ティルピッツを奇襲-」とゴチャゴチャになっていたのかも・・。

Tallboy_Lancaster.jpg

ティルピッツの艦長が計4人もいたとか、海軍としてのプライドの高い英海軍とチャーチルが
「わが国よりも凄い戦艦をもってるのはけしからん」とばかりに
戦略を度外視したような執念ともいえる執拗さ・・。
ビスマルクの追跡もかなり執拗でしたが、ティルピッツに対しても
ここまでやっていたのか・・と、初めて知ったことも多くありました。

29_wreck_of_tirpitz.jpg

またビスマルクについても以前に読んだ「巨大戦艦ビスマルク」以外に
やっぱりフジ出版から「決断」という本が出ています。
こんなタイトルだけだと、どんな本だか、わかったものじゃありませんが、
副題が「ビスマルク号最後の9日間」というんですね。最近、知りました。
いずれ、この2冊もやっつける予定です。

著者のペイヤールはフランス人で、実は以前から本書よりも「潜水艦戦争」を
読んでみようと思っていた海戦専門の方です。
いま調べてみたら「大西洋戦争」という上下巻の本もありますし、
翻訳されていないようですが、「ラコニア号事件」なんて本まで書いています。。。
うぅぅ~。コレ読みたい・・。









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