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第二次世界大戦〈下〉 リデル・ハート [戦記]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

リデル・ハート著の「第二次世界大戦〈下〉」を遂に読破しました。

ヨーロッパにおける戦いだけでも陸海空それぞれに分かれているものが普通の
第二次世界大戦記。それらを一緒にして、かつ太平洋戦争までも網羅している本書・・。
1999年再刊のこの下巻は、上巻よりも100ページ以上も薄いですが、それでも519ページ・・。
同じ中央公論社の「砂漠のキツネ」が488ページ、「呪われた海」が572ページですから、
まったく「薄い」という気はしませんね。。

第二次世界大戦下.jpg

1943年から始まる下巻は、連合軍がすでに上陸した北アフリカの掃討戦からです。
ロンメルに代わってアルニムバイエルラインが奮戦し、戦力も「アフリカ軍集団」に
増強されて、再び、ロンメルもこの地に上陸します。
しかし、ロンメルにとってはアルニムとの指揮系統の確執だけではなく、
上官のケッセルリンク、イタリア軍、ヒトラーらの意見と命令の前に、またもや挫折・・。
遂に降伏したアフリカ軍集団の捕虜の数は10万人を超える膨大なものとなり、
これら枢軸軍の歴戦の兵士たちが次の連合軍のシシリー島上陸に投入されていたら
連合軍を早い段階で挫折させていたかも知れないとしています。

Tunisia 1943 250.jpg

そしてシシリー島上陸のハスキー作戦へと続いていくわけですが、
ヒトラーがもともとロンメルに対し、勝利を可能とするような戦力を送らなかったのに、
最後の最後になって、大部隊を送り込み、それが結局、
「ヨーロッパ防衛の見込みを失ったのは最大の皮肉」とする解釈は納得のいくものでした。
通常、北アフリカ戦史とシシリー・イタリア戦史は別々ですから、この一連の流れと
それらの関連性がとても良くわかります。

1943 Britische und amerikanische Truppen landen auf Sizilien.jpg

そのヒトラーが連合軍の上陸はシシリー島ではなく、サルディーニャ島だと推測していた話では、
スペイン海岸に漂流してきた「英軍将校の死体」にあった書類が決定的となり、
連合軍がまんまと成功させたこの有名な「欺瞞工作」にも触れていますが、
去年の10月に「ナチを欺いた死体 - 英国の奇策・ミンスミート作戦の真実」という本が
出てますので、今度、読んでみようと思っています。

Mussolini_Hitler_Ciano.jpg

チュニスでの二の舞は避けて、さっさとイタリア本土へと撤退したドイツ軍。
盟友ムッソリーニが失脚すると、寝返ったイタリア軍兵士を「全員捕虜にすべし」との
ヒトラー命令が・・。しかし南方のC軍集団司令官のケッセルリンクは
イタリアの降伏を受け入れ、ローマを無防備都市とすることも了解します。
そして彼の言う「モントゴメリーの極めて用心深い進撃」にも助けられて、
ゆっくりと、徐々に北へと撤退する遅延戦術を駆使して、最小限の損害にとどめつつ、
悪魔の旅団」にも書かれていた、2か月間の山岳地帯での防衛戦で
米軍だけでも5万人の損害を与え、舞台はモンテ・カッシーノへ・・。

Monte Cassino.jpg

一方、東部戦線の1943年の状況は、ドイツ第6軍がスターリングラードで包囲され、
カフカスから慌てて撤退するクライストのA軍集団と、ソ連軍のロストフへの競争が・・。
ソ連軍より3倍も遠いクライスト軍の側面を援護する、新設されたマンシュタイン
ドン軍集団の活躍もあって、退却軍の勝利・・。なんとか罠から抜け出すことに成功します。
そして本書ではパウルスの第6軍が1月末まで降伏しなかったことによって、
ドイツ軍は更なる崩壊から大いに救われたとしています。

Helmets of the Germans.jpg

「太平洋における日本軍の退潮」の章は、マーシャル諸島などの島々での戦いがメインですが、
B-29が登場したり、キング提督やスプルーアンス提督が出てきたりして、
「はぁはぁ、聞いたことがある名前だナァ・・」なんて感じで読んでいました。
スプルーアンスは軍事古書店に行くと「提督スプルーアンス」という分厚い本が必ず
置いてあるので知っていたんですね。
片や日本軍では山本五十六連合艦隊司令長官が戦死すると、
後任の古賀峯一について触れられていますが、この人すら始めて知りました・・。

Nimitz-King-Spruance.jpg

ノルマンディに上陸した連合軍とドイツ軍の戦い、そして並行して語られる英米の「ののしり合い」。
英軍と肩を並べて進撃するパットンは電話でがなり立てます。
ファレーズまで行かせてくれ。そうすりゃダンケルクのように英軍を海へ突き落してやるから」。
相変わらず、パットンは楽しいですね。。
このあたりの連合軍の作戦については、当時のドイツ西方軍参謀長だったブルーメントリット
後任のヴェストファールの戦後のインタビューを多用して、ダメ出しする展開です。

東部戦線でもドイツ軍はソ連の攻勢の前に退却を続けます。
チェルカッシィ包囲」、「ワルシャワ蜂起」と続き、ヒトラー暗殺未遂事件に将校団の粛清。。
罷免したマンシュタインの毒舌よりも、粗削りな性格で渡り合う勇気を持った54歳の若い将軍、
モーデルを好み、大抜擢するヒトラー。

generalfeldmarschall_walter_model_with_general_der_panzertruppe_erhard.jpg

対ドイツ戦略爆撃」は個別に1章設けています。
1942年から始まった英爆撃機司令官ハリスによる「1000機爆撃」は、
まず「ケルン」を瓦礫の山にし、1945年にはドレスデンを壊滅させます。
そしてハリスの言う、「爆撃によってドイツ国民の士気を挫いて戦争を早期に終結させる」
この戦略について「戦略上の誤りと基本的モラルの無視にもかかわらず、重要な役割を果たした」
としながらも、「ドイツ市民の士気は萎えることがなく、
戦争末期まで理由もなく地域爆撃を続けたことは問題であり、
製油工場と後方連絡路の攻撃に的を絞っていれば、
戦争を少なくとも数ヵ月は短縮させることができたことは明らかである」と結論付けています。

Homeless refugee German woman sitting w. all her worldly possesions on the side of a muddy street amid ruins of Köln, Germany 1945.jpg

「レイテ沖海戦」というのはかなり有名ですが、コレの詳細も本書が初めてです。
戦艦「武蔵」の最期にも触れられていますが、この「武蔵」っていうのは
小学生の頃、プラモデルを作った思い出があるんですねぇ・・。
おそらく、1/700スケールだったんじゃないかと思うんですが、
あまりのデカさと細かさに挫折したような苦い記憶が甦ります。。

武蔵700_1 タミヤ.jpg

また「大和」ではなく、なぜ二番艦の「武蔵」が良かったのか・・というと、
ヴィトゲンシュタインは三男坊でしたから、「一番」ていうのに抵抗があったんでしょう・・。
例えば「なんとかレンジャー戦隊」でも赤レンジャーじゃなくて「青レンジャー」が好き。
「新撰組」なら近藤勇じゃなく、鬼の副長「土方歳三」が好き、
男組」なら流全次郎よりも「高柳秀次郎」が好き・・といった具合で
表舞台に立つNo.1ではなく、日陰で補佐する実力あるNo.2に惹かれるんですね。

「硫黄島の戦い」は、さすがに栗林"渡辺謙"中将の「硫黄島からの手紙」を
ロードショーに観に行っているので、本書の太平洋戦争の章で唯一、
「お~、そうそう・・」なんて上から目線で読めました。。

Iwo Jima.jpg

「沖縄の戦い」も双方の兵力が細かく記載されて進みますが、
戦艦大和の海上特攻も、ドイツ海軍の誇る戦艦ティルピッツと同様に、
敵戦艦に向かってその巨砲を放つことなく沈んだ・・という記述が印象的でした。
特に注釈で、この日独の巨大戦艦の比較があり、
ティルピッツの排水量43000㌧、38cm砲8門に比べ、64000㌧に46cm砲9門というのは、
素人が見た数字としても、ちょっと格が違う?と思わせるものがありますね。

それから「特攻隊」・・。
米海軍の艦艇34隻を撃沈し、368隻に被害を与えた、その主なるものが「神風機」であったとして、
「その苦い経験が、日本本土進攻に強い警戒心を生み、原爆投下の決断を即したといえる」

KAMIKAZE! A Japanese Zero kamikaze fighter about to crash into the battleship Missouri off Okinawa,.jpg

しかしB-29による「東京大空襲」から「原爆投下」という話になってくると、
なかなか客観的に読むのが難しくなりました。
もともと太平洋戦争ではなく、ヨーロッパの戦争を勉強しようと思ったのは、
日本人である自分に直接、関係がないことで、客観的に戦争を知りたかったからです。
東京下町の人間として、このような「焼夷弾の雨」の必要性を連合軍サイドになりきって
「まぁ、戦術として妥当だナァ・・」などと解釈するのは大変なんですね。。

b_29_bomber.jpg

1000ページ超えの上下巻を読み終わって、やっぱり太平洋戦争が印象的でした。
ほとんど知らなかったのもありますが、ドイツ降伏後のクライマックスに、
日本に歴史的な大きな山場が来るのも印象に残った理由のひとつだとは思います。

それに比べて、ヨーロッパの終結はワリとあっさり・・。
バルジの戦い」と「レマゲン鉄橋」まではドイツ軍も奮闘していますが、
ベルリン掃討戦ヒトラーの自殺なんてのはチョロチョロです。
しかしこれは本書の一貫した取り上げ方であるようにも感じました。
すなわち、戦局において「決定的な出来事」を戦略的、戦術的に分析するという姿勢です。
1945年4月の1ヵ月間は、ドイツ軍が軍事的に頑張ろうが、ヒトラーがどんな命令を出そうが、
東西連合軍がどのように攻めようが、ドイツの降伏は時間の問題であって、
それらをいちいち分析する必要がないという意味ですね。

Battle of Berlin.jpg

また、戦役ごとに双方の戦死者などの損害も検証しますが、
特に日本の場合はその比率が高く、戦艦と運命を共にする艦長に対しては、
日本海軍の伝統としながらも、生き残って、別の艦を指揮したほうが
よっぽど自軍のためになる・・という考え方ですし、
陸軍でも「バンザイ突撃」や司令官の自決、そして「カミカゼ特攻」と続くと
都度、「日本人らしく・・」とあきらめ顔のようにも感じました。

これらについても軍事評論家からしてみれば、無益な死であり、
彼らが命を捨てても戦局は変わらなかったということのようですね。
そしてそれは最後の「原爆投下の必要性は存在しなかった」にも繋がっていきます。

Sailors in Pearl Harbor,  Japan surrender_A Japanese soldier walks through a completely leveled area of Hiroshima.jpg

「この戦争で勝利をしたのは中央ヨーロッパへ進出をしたソ連である」
と締めくくられた本書。
公平に客観的に書かれているのは間違いありません。
その意味では、自分が今まで「独破戦線」を続けてきて、本書の見解とほぼ同じだったことに
逆に疑問を持ちましたが、40年前の本書が第2次大戦における底本となっているからなのかも
知れません。読んでいなかったものの、さまざまな書物で間接的に読んでいた・・ということです。
今回、太平洋戦争も含めて、第2次大戦全体を振り返るという経験をしたことで、
なにかしら自分の中で、一区切りついたような気もしています。
第2次大戦について勉強されている方なら、これは決して外してはならない1冊だと思います。













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