SSブログ

将軍たちの夜 [戦争映画の本]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ハンス・ヘルムート・キルスト著の「将軍たちの夜」を読破しました。

今回は2年以上前に紹介した「戦争映画名作選 -第2次大戦映画ガイド-」の表紙の主役、
ピーター・オトゥール演じるサイコなタンツ中将で有名な映画の原作小説です。
この映画は10数年前にTVで一度観たっきりなので、ドイツ軍に関係する細かいところは
ほとんど覚えていませんが、猟奇殺人スリラーとして、非常に印象に残っています。
著者キルストの小説も、手に入る文庫は結構前に読んでいて、
それは「長いナイフの夜」と「軍の反乱」の2冊です。
前者はSA粛清事件モノ、後者はヒトラー暗殺未遂事件モノの小説ですが、どちらも面白かったので、
489ページ の本書が1年半前に再刊されてから読むのを楽しみにしていました。

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著者のキルストをまず紹介しますが、1914年、東プロイセン生まれ。
1935年に復活したドイツ国防軍に志願し、ポーランド戦から対ソ戦まで従軍、
最終階級は中尉という経歴の持ち主です。
戦後は作家として活動し、1954年に第2次大戦時のドイツ軍の実相を描いたという
「零八/一五」を発表。
これは三部作で翻訳もされていますが、絶版かつ、プレミア価格なので残念ながら未読です。
また、彼のこの出世作は映画にもなっているようです。

というわけで1962年に発表された「将軍たちの夜」ですが、1966年に映画化され、
最初の翻訳版もハヤカワ・ノヴェルズから発刊されています。
映画の俳優陣もピーター・オトゥールしか覚えていませんでしたが、
鷲は舞いおりた」でヒムラーを演じたドナルド・プレザンスや、
「アラビアのロレンス」のコンビ、オマー・シャリフも出ていました。

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1942年のワルシャワ。真夜中の殺人事件現場に呼び出されたのは
この地区の防諜活動責任者、グラウ少佐です。
メッタ刺しにされて殺されていたポーランド女性はドイツ防諜部のために働いていたこともあり、
呼び出された彼ですが、偶然トイレの隙間から容疑者を見かけた人物は
犯人は「ズボンに沿った赤い線」と「首のところに金色のもの」とその特徴を証言します。
このふたつの特徴が示すモノ・・、それはドイツ陸軍の将軍です。

当時4000人も存在していたというドイツ国防軍の将軍。
ワルシャワ市内には7人が、その内の4人にはアリバイがあり、
残る3人は、軍団長フォン・ザイトリッツ・ガープラー大将と
軍団司令部主任(参謀長)カーレンベルゲ少将、そして、
精鋭を集めた特別師団「ニーベルンゲン」師団長タンツ中将です。

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ローマ時代の剣闘士のように鍛え上げられた筋肉質の身体で
英雄的な要素を余すところなく詰め込んだ絵のような男、タンツ中将は、
大の潔癖症で独身、戦争のために一日たりとも休暇を取らず、
総統のために闘い続ける戦闘マシンのような人物です。
ワルシャワ市内での暴動を危惧し、ブロックごとに火炎放射器も使用して遠慮なく
住民を制圧していきますが、この辺りはなんとなく、シュトロープSS少将をイメージさせますね。

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そして3人の将軍に付きまとい、殺人事件について聞き出そうとするグラウ少佐は
軍団長ガープラー大将の意向によって、中佐に昇進し、
厄介払いとしてパリ勤務が命ぜられるのでした。

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第2部は1944年のパリが舞台です。
ガープラー大将とカーレンベルゲ少将の軍団はパリで勤務中・・。
そこに東部戦線で消耗し尽くしたタンツ中将の「ニーベルンゲン」が補充を求めてやってきます。
嫌がるタンツに数日間の休暇を命令し、芸術に造詣の深いハルトマン上等兵を
運転手として与える軍団長。
その理由は3日後の7月20日に、ある事件が起こることを掴んでいるからなのでした。
本書でもこの反乱グループについて、西方軍司令官フォン・クルーゲはハッキリと共感を示し、
フランス方面軍司令官フォン・シュテルプナーゲルの参加も確実、
国内予備軍司令官フロムも行動を起こす準備が出来ていると紹介されます。

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一方、この機会に徹底的に休暇を過ごすことを決めたタンツはハルトマンの案内で
ルーヴル美術館巡りなどを楽しみますが、
気難しいことで有名なシェルナー将軍に7日間従えたことに誇りを持つハルトマンも
タンツの潔癖ぶりには辟易・・。実は映画ではこのシーンを一番良く覚えています。。
こうして7月19日の夜、タンツの選んだ売春婦とともに彼女のアパートへと送り届けますが、
タンツに呼ばれて部屋に入ると、そこにはメッタ刺しにされた女性の死体が・・。
ハルトマンに犯人の汚名を着せ、逃亡するようしたたかに語るタンツ・・。

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師団長であるにも関わらず、最前線で武器を取って戦うタンツは
レニングラード戦線でソ連軍に包囲され、全滅の危機を迎えたものの、何とか生き延び、
ワルシャワ蜂起では彼の乗る自動車が地雷に触れ、何日間も意識を失い、
ドン河橋頭堡で川に流されながらも、瀕死の状態で助かった男・・。
冷静で厳格さを貫き通すこの男の張りつめた精神には、
このような猟奇殺人が必要であり、それがひと時、彼を解放するのでした。。

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当然、この事件に興味を示すのは、このパリの地へ飛ばされていたグラウ中佐です。
信頼するフランス人警官プレヴェールとともにハルトマンを発見するものの、
ワルシャワの事件を知る彼は真犯人は別人だと確信しています。
そのころ、シュテルプナーゲル将軍は「ベルリンでゲシュタポが反乱を起こし、
総統が暗殺された」と告げ、パリにいるゲシュタポ、SD、SSのトップまで、
直ちに逮捕することを命令。。

ワルキューレ」の合言葉が届いても、行動することに逡巡する軍団長ガープラー。
SSの反乱に疑問を持つタンツはゲッベルスから
「破廉恥な反動将校によるもので総統は死んではいない」と電話で聞かされます。
毅然として、軍団長の机に陣取り、鎮圧指示を出すタンツのもとを訪れ、
前夜の殺人事件に関する質問をするグラウ中佐ですが、
総統の意志を代行していることを理由に、逆に逮捕、そして射殺・・。

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第3部は1956年のベルリン。
終戦時、ソ連側に捕らわれていたタンツは東ドイツで軍人として活躍中。
西ドイツで退役軍人として名声を挙げつつあるガープラー大将の招きで西側へ向かいます。
しかしこれはパリ警視庁に戻っていたプレヴェールの「罠」なのでした。

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ストーリーを知らない方でも、タンツが犯人なのは途中でわかりますので、
謎解きのような小説ではありませんが、いくらか映画を覚えているヴィトゲンシュタインでも
時間の許す限り、没頭してしまいました。
基本的には実際に起こった出来事に架空のタンツらが絡む展開で、
ハルトマン上等兵のロマンスなどもあって、楽しい小説でした。
しかし本書の表紙でも、映画でも途中からタンツ中将はSSの制服に変身していますが、
この経緯は良くわかりません。

特別師団「ニーベルンゲン」は国防軍の架空の師団ですが、国防軍のエリート師団、
グロースドイッチュランド」をイメージしているように思いました。
「ワルキューレ」の真相をゲッベルスから聞くところも、そんな感じですし・・。
ひょっとしたら武装SSの終戦直前に編成された「SS第38擲弾兵師団 ニーベルンゲン」が
本書の師団名に使われているのかも知れません。

Die Nacht der Generäle.jpg

ただヒトラー派の悪役師団長なので、映画では武装SSに転属したようにも思いますし、
また、映画のラストではこの師団の戦後の集まりにタンツ師団長が招待されて・・
という展開だったように思いますが、この原作では違いますね。
映画はうろ覚えの部分が多すぎて、DVDを買って見直そうと思っています。











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