SSブログ

第二次大戦のドイツ軍婦人補助部隊 [女性と戦争]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ゴードン・ウィリアムソン著の「第二次大戦のドイツ軍婦人補助部隊」を読破しました。

2007年発刊の「オスプレイ・ミリタリー・シリーズ」の1冊である本書は、
男のなかの男であっても、ついつい興味をソソラレてしまう「女性の制服」モノです。
以前から気にはなっていましたが、定価2415円で、たった51ページ・・。
大いに悩んだ挙句、図書館にありましたのでちょっと借りてみました。
う~む、我ながら実に男らしくありませんね。。

第二次大戦のドイツ軍婦人補助部隊.jpg

最初は「陸軍補助婦隊」からです。
ヴィトゲンシュタインは「補助婦隊」という言葉自体、初めて知りましたが、
第1次大戦前からドイツ陸軍には女性を補助部隊員として採用してきた
長い歴史があったにもかかわらず、
1937年の陸軍の動員令に女性は招集されず、1940年10月になって、
占領地フランスの膨大な事務職などのポストに婦人補助員を充てることになります。

Heer helferinnen.jpg

当初は「通信補助婦隊」だけだったのが「福利厚生補助婦隊」、「本部付補助婦隊」、
「雑役補助婦隊」、さらには「調馬婦隊」も編成され、やがて終戦も近づいた1944年11末には
陸海空3軍すべての補助婦隊が統合されて「国防軍補助婦隊」となったということです。

helf1.jpg

このような歴史を紹介した後で、「陸軍通信補助婦隊」の職務や制服が
実際の彼女らの写真とともに詳しく解説。
例えば「ブラウス」では、
「官給品はグレーで、襟の先端はとがり、一番上のボタンまで留めた。
夏季服装や外出服装では白のブラウスに代えられることもあった。」

Heer Stabshelferin.jpg

「通信補助婦隊」は通信科の兵科色レモンイエローの「電光(ブリッツ)」マークの袖章を付けており
このことから彼女たちは「カミナリ嬢」と呼ばれていたそうですが、
コレにはやっぱり、あ~ゆ~意味も含まれていたんでしょうか?

Heer Nachrichtenhelferin2.jpg

そして階級。
階級章のないただの「補助婦」から「上級補助婦」、その上の「指導婦」は4階級あり、
最高が「高級指導婦」です。
しかし1942年には改正されて、トップに君臨するのは「上級本部付指導婦」で
金色の縞織山形章に金色の星章1個、金色のパイピング・・と、全階級を明記しています。
さらに白黒ですが、カフタイトルの写真も4種類紹介。。いやいや、凄いですね。

femcufftitle.jpg

続いては「海軍補助婦隊」です。
こちらも陸軍同様、長い歴史があったそうですが、1941年に「海軍対空監視補助婦隊」が編成され、
翌年には大規模な「海軍補助婦隊」となり、1943年には「海軍高射砲補助婦隊」も結成。
彼女たちは、長い哨戒から帰港したUボートを迎える写真が良く知られていますが、
本書によると「海軍補助婦隊」だけではなく、「陸軍補助婦隊」も駆り出されていたそうです。

Nachrichtenhelferinnen_welcoming_U-boat_back_to_base.jpg

「補助婦隊」で一番有名なのは「空軍」ですね。
新たに創設されたルフトヴァッフェには、当初から事務員や電話交換手などが採用されて
その後、「航空通信補助婦隊」、「高射砲補助婦隊」などが誕生します。
制服の色は陸海のフィールドグレーと違って、空軍らしいブルーグレー。

GERMAN LUFTWAFFE HELFERIN-BLITZMÄDCHEN-MÄDELS-FRAU-WWII.jpg

「対空監視服務隊」のバッジや「通信補助婦隊」のブローチ、「防空警報服務隊」の徽章などの
図柄も細かく書かれていて、大変勉強になります。

spotter_blitzs_badge.jpg

真ん中には表紙のようなカラーイラストが8ページほどあり、
20人ほどの制服の婦人補助員が登場します。
ちなみに表紙の3名は左から「帝国労働奉仕団(RAD) RAD女子高級指導婦」、
「高射砲補助婦隊 上級補助婦」、「海軍補助婦隊 高級指導婦」です。

luftwaffe helferinnen 1944.jpeg

軍の補助婦隊が終わると、「民間団体および党の補助婦隊」の章となります。
帝国労働奉仕団(RAD)の女性が工場労働者、病院、郵便局の補助員、
バスや路面電車の車掌といった重要な民間職に就き、
その代わりに、悲しいかな男性は前線送りになるわけですが、
これらの制服といっても、各々の現場での制服なりを着用し、
表紙のような制服は、お偉いおばちゃん専用だったようです。

Heer Nachrichtenhelferinnen.jpg

いよいよ看護婦さんの登場です。
各軍にはドイツ赤十字社(DRK)から看護婦が派遣されており、
白の介護服以外にもグレーの正式な勤務服が存在していました。
どちらも写真と解説で服装を・・。

deutsche rote kreuz.jpg

さらに北アフリカなどの熱帯用も出てきますが、
特に北アフリカ戦役全期間に従軍した古参看護婦、イルゼ・シュルツは
砲火のなかで負傷兵を介護し続けた功により、2級鉄十字章を受章。
写真でも「アフリカ軍団」カフタイトルを付けてます。
さすが修羅場をくぐり抜けて来たような何とも言えない表情ですね。。

Female Uniform Deutsches Rotes Kreuz Afrikakorps.jpg

「ドイツ少女同盟(BdM)」もしっかり書かれており、その階級も
「少女班長」から「婦人大管区連盟長」までの8階級がありますが、
「少女組長」っていうのは、なんとも・・。「男組」じゃないですけど「女番長」みたいですよね。。
そういえばヴィトゲンシュタインが少年時代から好きなソフィー・マルソーが主演した
「レディ・エージェント 第三帝国を滅ぼした女たち」という映画を思い出しました。
そのコスプレっぷりだけは、なかなか印象的な映画でした。

FEMALE AGENTS Sophie Marceau.jpg

「SS補助婦隊」はいくらか知っていましたが、1943年に制定された
本物の銀製の略章の話が楽しめました。
SSルーンに柏葉がちりばめられ「HELFEN(補助)」と書かれたこの代物・・。
2年間の研修期間を模範的な態度で務め、優れた勤務成績を達成した者に与えられたそうですが、
実物は現存しているものの、その受章記録や佩用した写真は見つかっていないそうです。
う~む。初めて知りました。

ss helfen.jpg

占領地出身の女性志願兵が自国の国旗色をあしらった袖パッチをしていた例も紹介され、
これらは男性兵士用に導入されたものだったということですが、
本書全体でも、女性向けの制服が支給されず、男物の制服を着用していた話も多く、
特に戦争後半は物資が足りないのに、改定やら再編成やらで、
おそらく、男性兵士並みにバラバラになっていったのでは・・と思いますね。

Norway  helferinnen.jpg

読み終えてから気が付きましたが、著者は
「鉄十字の騎士―騎士十字章の栄誉を担った勇者たち」の方で、
勲章の受章者など詳しいなぁ、と思ってましたが、かなり専門的でした。
この「オスプレイ・ミリタリー・シリーズ」は初めて読みましたが、
51ページでも、コレは馬鹿に出来ない1冊で、今回、実に多くのことを学びました。
ちゃんと図書館に返しますが、改めて購入しようと思っています。
でもその前に「第二次大戦の連合軍婦人部隊」を借りてみます・・。







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V1号V2号 -恐怖の秘密兵器- [第二次世界大戦ブックス]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ブライアン・フォード著の「V1号V2号」を読破しました。

今回でちょうど10冊目と、スッカリお馴染みとなった「第二次世界大戦ブックス」からの紹介です。
有名な報復兵器であるV-1飛行爆弾とV-2ロケット・ミサイルですが、
このblogではちょいちょい登場するものの、これらについて詳細に書かれた本は
読んだことがありませんでした。
なので、実は詳しいことはほとんど知りません・・。
そんなときには、写真タップリでボリュームも手ごろな第二次世界大戦ブックスがうってつけです。
原題は、副題のような感じの「ドイツの秘密兵器」。
気になって珍しく目次を見てみましたが、「V1号V2号」だけに特化したものではなく、
さまざまな特殊兵器に言及し、解説しているものでした。

V1号V2号.jpg

まずは「秘密兵器の研究センター」と題した章で、陸海空3軍の兵器開発/研究組織と
各々の置かれた立場を解説します。
ヴェルサイユ条約によって排水量1万㌧以上の戦艦を建造することを許されなかった海軍は
ドイツの技術者たちが軽合金や高度の溶接技術を駆使して、「ポケット戦艦」を建造。
海軍兵器実験部には魚雷や無線の研究所が置かれ、世界をリードします。

deutschland2.jpg

新設の空軍では、その伝統のなさから逆にゲーリングと、ヒトラー政府の大きな関心が・・。
1931年には最初の液体燃料ロケットを打ち上げており、大型の長距離飛行機も開発し、
プロペラの新型戦闘機メッサーシュミットBf-109で最高速度も樹立します。

Produkion_Bf_109.jpg

そして第1次大戦前からの伝統ある陸軍兵器局では「兵器実験部」と、
それと同じレベルに「兵器研究部」という似たような部署が存在・・。
これだけでもヤヤコシイですが、ロケットの研究では見解の相違も。
「ロケットは本来、砲弾の一種である」と、
「ロケットは翼が短く、操縦者がいない飛行機である」
こうしてドルンベルガー陸軍少将が指揮官として250人の若い科学者から成る
ロケット研究が始まります。

dornberger.jpg

規模はすぐに大きくなり、1937年、ペーネミュンデに莫大な費用をかけて広大な秘密施設を建築し、
そこで働く科学者は2000人を越えていきます。
そしてその中には20歳そこそこの青年、ヴェルナー・フォン・ブラウンの姿も・・。

Peenemünde, Wernher von Braun.jpg

1942年にやっと「V2ロケット」の発射実験に成功し、ヒトラーも注目します。
本書は相変わらず写真が豊富ですが、内容もかなり専門的で驚きました。
5000基以上つくられたV2の最終形は全長14.03m、直径1.651m・・。
さらに燃料などの細かい数字もバンバン出てきます。

V2.jpg

長距離ロケットによる「ロンドン爆撃」に心を動かし始めたヒトラーですが、
彼はロケットよりも、ジェット機、飛行爆弾という「飛行機」の方に関心を持ち、
そして「爆薬を内蔵した大きな弾丸」という兵器に分類され、
ロケットは陸軍の管轄下に置かれると、これに反発した空軍は独自の計画を打ち出し、
無人飛行爆弾「V1」の生産を始めます。

Vergeltungswaffe 1.jpg

このようにして、空軍の「V1」、陸軍の「V2」競争が勃発しますが、
安価ですが性能はイマイチ、スピード的にも戦闘機に撃墜されてしまうこともある「V1」と、
マッハ4の超高速で飛ぶものの、高価で生産にも時間のかかる「V2」。
結局は両兵器とも並行して使用されることになるわけですが、
相変わらずナチス・ドイツらしい展開で、苦笑いするしかありませんね。。

ちなみに超名作映画「グレン・ミラー物語」で、超名曲「イン・ザ・ムード」を野外で演奏中に
この「V1」が落下してきても演奏を中止せずに、観客(英国軍人たち)が拍手喝采・・、
なんてのを思い出しましたが、コレが幼少の頃に「V1」を知ったキッカケです。

the V1.jpg

タイトルの「V1号V2号」はこの半分ほどで終わり、その他の秘密兵器が登場します。
以前に紹介したBa 349「ナッター」だけでも10ページも書かれており、
続いてロケット戦闘機Me-163も6ページ。
「超巨大機と超小型機」の章では、He-111を2機繋ぎ合せた怪物機He-111z
Uボートに折りたたんで格納できるヘリコプター、フォッケ・アハゲリス Fa 330。
これはエンジンなしで気流によって回転し、揚力を得るというものです。

Focke-Achgelis Fa330.jpg

その他、親子飛行機のミステルや、
試作機も3枚のブレードフィンが回転して垂直離昇を目指したトリープフリューゲル、
三角翼がトレードマークのリピッシュDM-1。

Lippisch DM-1.jpg

ジェット・エンジンを搭載したホルテンH IX V2も詳しく書かれています。
特にホルテンについては、現在では「ステルス性」を評価されますが、
さすがに1971年の本書には「ステルス」という言葉は出てこないですね。

Ho229.jpg

この変り種飛行機シリーズが終わると、突然「戦慄の毒ガス」の章がやってきます。
いわゆる生物化学兵器・・。これも今まで読んだことがありませんし、
せいぜい、第1次大戦でヒトラーが一時的に失明した程度です。。
本書では古代の戦争から、川の汚染や伝染病といった戦術を紹介し、
近代の毒ガスの種類と症状についても詳しく解説します。

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そして前例がないほど危険なガス・・として紹介されるのが、ドイツ人が発見した「タブン」。
1939年頃に開発したらしいですが、当然、戦争では使用されていません。
これに続いて「サリン」や「ソマン」が出来たそうですが、
"sarin"、"soman"ですから、本書で書かれているように「ザリン」と「ゾマン」が正しいようです。

また、ドイツは終戦までに「サリン」だけでも7000㌧を貯蔵し、
これはパリのような大都市30個の住民を全滅させるのに充分な量だったということです。
「地下鉄サリン事件」当時も、地下鉄通勤していたヴィトゲンシュタインにとっては、
この章は妙に現実味があるというか、恐ろしさを感じました。

サティアン.jpg

このような話を詳しく知ると、やっぱりヒトラーがコレを兵器として使わなかった理由と
絶滅収容所でも同様だったことが不思議のような気もします。
兵器として使わなかった理由はわからなくもないですが、
効率的な絶滅方法を模索して「チクロンB」に辿り着いたSSが使わなかった理由は・・?
本書を読む限り、明らかに毒性は強いですし、ヒムラーですら存在を知らなかったのか、
または、輸送やガス室での使用に設備が追い付かなかったのか・・?

Zyklon B degesch.jpg

小型Uボートのゼーフントや、巨大な列車砲「ドーラ」(連合軍は「ビッグ・バーサ」と
呼んでいたそうです)が登場し、「V3」ことホッホドルックプンペ(ムカデ砲)、
最後はジェット戦闘機Me-262だけでなく、国民戦闘機He-162もしっかり出てきます。

Hochdruckpumpe v3.jpg

こうして書いていても、本書は物凄く広い範囲をカバーしています。
写真と絵が随所にありますから、このような内容だと実に助かりますね。
う~ん。これは本当に勉強になりました。いろいろ興味も湧きましたし・・。

triebflugel.jpg

実は「報復兵器V2 -世界初の弾道ミサイル開発物語-」も持っているので
どちらを先に読もうか悩んでいましたが、本書が先で正解だった気がします。
たぶん「「報復兵器V2」を読むと、ドルンベルガーの「宇宙空間をめざして―V2号物語」や
フォン・ブラウンの「宇宙にいどむ」、「月をめざした二人の科学者―アポロとスプートニクの軌跡」
なんかに進んでしまうような気がしてなりません。。











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シリーズ 制服の帝国 -ナチスの群像- <下> [軍装/勲章]

ど~も。明けましておめでとうございます。ヴィトゲンシュタインです。
今年も「独破戦線」をど~ぞ、ごひいきに・・。

山下 英一郎 著の「シリーズ 制服の帝国 <下>」を読破しました。

2012年の一発目は、年末に上巻を読破して続けて・・と思っていたたものの、
160ページのわりには実に内容の濃い、マニアックさにやられて、
上巻だけで疲れてしまった、「シリーズ 制服の帝国」の下巻です。
ちょっと一度浮気して、頭をリフレッシュしてから本書に挑みました。

制服の帝国 下.JPG

上巻同様、最初の8ページは、カラーで制服などを掲載していますが、
今回は「空軍将官用フリーガーブルーゼ」。
フランツ・ロイス空軍少将が着用していた実物の制服を詳細に解説します。
このドイツ空軍のブルーの制服は個人的に一番好きなので、下巻の掴みもOKです。

まずは「徒然なる第三帝国」と「写真で見るナチスドイツ」の章でスタート。
「写真で見るナチスドイツ」はなぜか内相のフリックが主役で、
10枚ちょっとの彼の写真が続けざまに登場しています。

Goebbels and Frick.jpg

次の「参謀本部の憂鬱」は非常に面白く読みました。
1935年の復活した陸軍参謀本部の組織に始まり、1939年開戦時の組織改革まで細かく解説し、
「参謀総長のもとに中央部長と5人の次長がおり、その下に16部が配置されていた」
そして「参謀総長」が陸軍総司令部(OKH)の最高司令官を補佐する5人のうちの
一人に過ぎなくなっていたとして、
陸軍人事長官、総務長官、兵器長官、主計長官という長官職を紹介。
さらに国防軍最高司令部(OKW)が創設され、参謀本部出身者たちで構成された
ヨードル長官の国防軍統帥部の存在がOKHを不利な立場に追いやります。

Hitler in a meeting with Keitel, Brauchitsch, and Paulus.jpg

19世紀以来、参謀本部が立案してきた戦争がらみの国策によって連戦連勝し、
軍事が政治を越えていたとされ、第1次大戦敗北後も「皇帝は去ったが将軍は残った」
と云われてプライドのある参謀本部ですが、
OKWが西部戦線を受け持つと、OKHの東部戦線は踏んだり蹴ったりが続き、
無能な参謀が出世に目が眩んで、陸軍よりナチ(OKW)に走ったとしても無理はないとしています。

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そして1944年のヒトラー暗殺未遂事件に触れ、「現在では諸手を挙げて"良心"だとされている行動」
については「ナチスを選んだ愚かな国民の一員という自覚がなく、
参謀本部は「神」であり超然としていると考えていた」として、
また「ヒトラー排除後の首相に、元参謀総長のベックを据えようとし、
自分たちが敬意を払われないナチス体制を嫌う点でのみ一致するだけの烏合の衆で
一体、どのように国民を救うというのか・・」とかなり辛辣です。

ただ、首尾よく「ヒトラー暗殺」していたらその後は・・??
と、個人的には懐疑派なので、ある程度納得のいく章でした。

ludwig_beck_0.jpg

続いて「ヒトラーの将軍たち」では武装SSが軍事組織ではあったものの、
「参謀本部」も持たないことから、国防軍3軍のような、「軍」とは認められてないという話や、
「准将」という階級はドイツ国防軍にはなく、SA時代からの「上級指導者」を階級整合の際に
「SS准将」(柏葉2枚)としたものの、肩章などの観点からも将官ではなかったという話。
しかし一般SSにおいては、肩章も含めて将官待遇であった・・と相変わらずややこしいですね。
写真もリストハルダーマンシュタインブラウヒッチュとすべて初見のモノばかりです。

NSKK, Guerrera de Servicio de un Oberführer.jpg

「パンツァージャケット事始め」の章では、その有名な「黒」や「髑髏」についても解説。
そして装甲部隊の生みの親であり、パンツァージャケットのデザインも手掛け、
戦争後半には参謀総長にもなったグデーリアンを大きく取り上げて、
「戦争の最初も最後もドイツの命運を担ったのはグデーリアンだった」として、
「戦記のほとんどが彼の回想録を底本にしている・・」
著者はほとんど「SS」の専門家と思っていましたから、このような国防軍の組織や
人物についての独特の見解が本書では続いて、かなり楽しめました。

Guderian_Panzerjacket.jpg

14ページに渡ってしっかりと書かれた「国民突撃隊」はなかなかの力作です。
1944年9月の総統命令での、「国民突撃隊の創設に関して」という呼称の初登場から
11月のナチ党官房長官ボルマンによる命令の発行、
SS全国指導者兼国内予備軍司令官ヒムラーの最終指揮権、
そして「総力戦全権委任者」ゲッベルス・・という、結局、誰が責任者なのか
相変わらず、よくわからないこの新設部隊を丁寧に検証します。

Kaltenbrunner_Goring_Goebbels_Himmler_Bormann.jpg

3軍やSSに属するものではなく、すべての陸軍、武装SS、警察によって大管区単位に編成し、
その年齢は20歳から60歳。後に16歳まで引き下げられヒトラー・ユーゲントなども対象になります。
「階級」も隊員、班長、小隊長、中隊長、大隊長とあり、既定の制服の襟には
ちょっとSSっぽい独自の襟章が・・。
大隊長なら両襟に「星四つ」で、以下、星が一つずつ減っていきます。
この中隊長の制服の写真が掲載されていますが、初めて見ましたね~。

Volkssturm company leader.jpg

また、ほとんどの隊員は「ドイッチャー・フォルクスシュトルム」と書かれた腕章だけをする訳ですが、
これにも「国防軍」と書かれたものと、書かれてないものと2種類あるようです。
さらに国防軍所属の「国民擲弾兵師団」や「突撃師団」との混同についても解説していますが、
この「突撃師団(Sturm-Division)」というのも聞いた記憶がないですねぇ。
いずれにしても「国民突撃隊」についてこれだけしっかり書かれたものは初めてで、
大変勉強になりました。

volkssturm-armband-original.jpg

ヒムラーが射撃練習をする写真で始まる「ルガーP08」の章。
以前にもワルサーP38と、この尺取虫の如きルガーP08のモデルガンを持っていた
ということを書きましたが、そんな思い出もあって楽しめました。
帝政ドイツ陸軍に1908年に採用された「ルガーP08」。
しかし1938年に「ワルサーP38」に取って代わられますが、本書ではその理由を、
SA粛清の際に幕僚長レームに自決を迫ったものの、アイケらの渡したルガーP08が不発に終わり、
レームの勢いが挫かれ、仕方なくブローニングで撃ったところ、口径が小さく、
即死せずに30分ももだえ苦しんだため、アイケは
「間違いのない拳銃」をヒムラーに要望した・・ということです。
ということは「長いナイフの夜」がなけれは、ルパン3世もワルサーP38じゃなかったかも・・。

Himmler aiming a pistol P08.jpg

後半は勲章の章が続きます。「鉄十字章」に「騎士十字章」
特に英兵と米兵が捕虜のコレが欲しくてしょうがなかった・・という件では、
いまでも英米が大きなコレクターの市場であることが解説され、
実物の残存数は騎士十字章が2万個、柏葉章が1800個、剣章が450個、ダイヤモンド章が80個
だそうです。もちろん定価はなく、欲しい人がいくら出すのかの問題ですが、
以前、ヤフオクで騎士十字章は数百万でしたかねぇ。。

それらに比べてマイナーな「剣付き騎士戦功十字章」も登場しますが、
実は受賞者はかなり少なく、140人ほどだそうで、ゲシュタポのミュラー
ヒトラー暗殺未遂事件捜査の功績によって受章したそうです。

Ritterkreuz des Kriegsverdienstkeuzes.jpg

血の勲章」と呼ばれる「ブルート勲章」、「戦車突撃章(戦車戦闘章)」と続き、
「陸軍将官階級章」では独特のアラベスク模様のような襟章について考察。
写真が白黒なのが残念ですが、「現物を手にしたことのない低レベルな自称コレクターの間では
"海老フライ"と揶揄されている」ということで、まぁ、そう言われてみれば・・。

Generalfeldmarschall pattern collar tab in fine gold wire from the uniform of GFM von Manstein.jpg

装甲師団"フェルトヘルンハレ"少尉の制服」というのもマニアックで素晴らしい・・。
このフェルトヘルンハレという部隊が、SSに立場を奪われたSAに
公務に参加する機会を増やしてあげよう・・という目的で
1938年に創設されたSA警察連隊であったことや、
1942年、SA部隊、もしくは人名を冠した師団を編成するというヒトラー命令によって、
ほとんどがSA隊員から成っていた第271歩兵連隊がフェルトヘルンハレと改名して
師団となっていったということですが、SA警察連隊とは別組織で並行して存在していたそうです。

SA Standarte Feldherrnhalle.jpg

下巻も濃い内容なのでいくつか章は飛ばしましたが、
この巻は著者お得意の「SS」ではなく、「ドイツ陸軍」中心のものでした。
しかし、その分、過去の著作も含めて重複することもなく、予想外の展開で
新鮮な驚きと、独特の視点は充分楽しめました。
著者の本を読まれたことがないドイツ陸軍ファンの方にもオススメします。



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