SSブログ

ヒトラー第四帝国の野望 [SS/ゲシュタポ]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

シドニー・D・カークパトリック著の「ヒトラー第四帝国の野望」を読破しました。

先日の「ナチス第三帝国辞典」で気になった、「アーネンエルベ協会」関連が書かれている
ということで、ついつい買ってしまった本書。タイトルがもう泣けますねぇ・・。
落合信彦が翻訳している「第四帝国」という本を2度挑戦しては、
あまりのツマラなさに尽く挫折しているヴィトゲンシュタインとって、
いまさら「第四帝国」っていう邦題はないだろうよ・・と考えます。。
原題は「ヒトラーの聖遺物」といった感じで、2010年発刊という新しいもの。
「ディスカバリー・チャンネル」や「ヒストリー・チャンネル」に携わる著者によるノンフィクションで、
ナチス・ドイツによってウィーンからニュルンベルクに移された、神聖ローマ帝国の
貴重なお宝を探し出すべく、ドイツ人美術史学者である米陸軍中尉の活躍を描きます。

ヒトラー第四帝国の野望.jpg

パットンの米第3軍の尋問官である36歳のウォルター・ホーン中尉。
彼は1945年2月、ニュルンベルクで徴募され、わずか1ヶ月の訓練でバルジの戦いに投入された
老齢の2等兵の尋問を行い、思いがけない話を聞き出します。
それはニュルンベルク城の地下壕に隠された財宝がある・・というもので、
入口は旧市街の骨董品店に見せかけており、家族がそこに住んで、空調管理などを
行っていることから、噂話ではない、非常に詳細な情報を聞き出すことが出来たのでした。

神聖ローマ皇帝、バルバロッサ王フリードリヒ一世の宝珠や「ロンギヌスの槍」、
「マウリティウス刀」といった伝説的な人工遺物が隠されているとの話に
美術史学者であるホーン中尉も興奮し、早速、報告書をまとめて提出します。
しかし、彼の仕事は尋問であり、5月の終戦後もペンキ屋に化けて逃走していたシュトライヒャー
医師に化けていたカルテンブルンナーといったナチの大物たちの尋問に多忙の日々。。

streicher_kaltenbrunner.jpg

そして7月に突然、呼び出しを受け、MFAA(歴史的建造物・美術・文書)班に配属され、
ホーンの報告書によって発見された地下壕の調査を任命されますが、
極めて重要な遺物である、帝冠、宝珠、笏、皇帝の剣、儀式用の剣が姿を消しているとのこと・・。
さらにこの任務はアイゼンハワー直々の命令というおまけ付きです。
ということで、この消えたお宝を3週間で探し出すこととなったホーン中尉の謎解きと
10年前に亡命した祖国の旅が始まるわけですが、
本書はミステリー小説のような雰囲気なので、細かい展開は割愛します。

Reichsinsignien.jpg

ニュルンベルクの地下壕では「ロンギヌスの槍」と呼ばれる、十字架のキリストの死を確認するため、
わき腹を刺したという「聖槍」も発見しますが、その貴重性をわからず手荒に扱う同僚に対して、
ホーンはそれが如何なる物かを説明します。
本書ではこのような展開で、ヴィトゲンシュタインのように聖遺物に明るくない読者にも
知識を与え、そしてまた、彼のミッションの重要性も理解しながら、クライマックスへ進んでいく・・
ということに成功しています。
「ロンギヌスの槍」ってどこかで聞いたことがあったと思ったら、
「ヒトラーとロンギヌスの槍」という本がありましたね。でもコレは・・?

Angelico_Holy Lance.jpg

そしてニュルンベルクから運び去られた、神聖ローマ帝国の5つの宝物。
元々、帝都ニュルンベルクに皇帝命令により未来永劫保管されるはずであったものの、
ナポレオンの手に落ちるのを恐れて、市の長老たちがウィーンに移したという経緯も語られ、
オーストリアを併合したヒトラーがそれをまた、ニュルンベルクに移したということは、
ヒトラーとニュルンベルク市からしてみれば「奪還」であり、
オーストリアと連合軍からしてみれば「強奪」と解釈も違います。

本書の真ん中には関連する当時の写真が掲載されており、
1938年に聖カタリーナ教会で宝玉を見るヒトラーの写真や
ニュルンベルクの地下壕にはSS警護の詰所、そして彫像の残る保管庫の写真もしっかりと。

Adolf Hitler besichtigt die in Nürnberg ausgestellten Reichskleinodien, hier die Kaiserkrone.jpg

特に「エクステルンシュタイネ」という天文学的な位置関係によって作られた岩の聖地・・、
キリスト教伝来以前からゲルマン人の聖地として信仰されていた場所を視察する
ヒムラー一行の写真やらが印象的でした。
これは後のキリスト教時代にレリーフが彫られ、岩をくりぬいて礼拝堂を作って
修道士が洞窟に住んだりと、ちょっと調べてみましたが、一時、寂れていたこの場所も
ヒムラーが興味を示したおかげで脚光を浴び、今では、有名な観光地なんだそうです。

Externsteine.jpg

5つの宝物の行方を追ううちに、ヒムラーが設立したその「アーネンエルベ協会」も紹介。
ドイツ人の先祖であるアーリア人の偉業を発見し、教育、雑誌、論文、書籍の発行といった
研究結果を大衆に伝えることを目的とする、必要不可欠な仕事であって
軍役を避けたい学者や知識人にとっては実に魅力的だったそうです。
ヒムラーはキリストがアーリア人の血を引いていたことを証明するため、中東まで調査隊を派遣し、
トルコのカッパドキアや、スペインにも聖杯を探すために、
さらにアーリア人の足跡を探すべくチベットに南極まで・・。

Wewelsburg_5.jpg

ヒムラーがSSの聖地にしようとしていたヴェーヴェルスブルク城も訪れることになります。
連合軍が迫るなか、ゲーリングカリンハルと同様に爆破しようとしたヒムラーですが、
爆薬の量が少なすぎて失敗・・。
このヒムラーのお城で起こった逸話もいくつか紹介しながら、城内を案内してくれます。
人工遺跡や複製が並べられていた展示室、結婚式も行われた大会堂、
円棟はがらんとした、だだっ広い部屋で、床には大理石を象嵌した太陽が描かれています。
そしてココに丸い机の12脚の椅子を配して、アーサー王の円卓の騎士を意識していたというのは
なにかで読んだ話ですねぇ。

wewelsburg_3.jpg

また、ヒムラーの金庫も発見しますが、たいしたものはなく、
戦死したSS隊員の髑髏リングをココに入れていたという解説もありました。
この髑髏リングはこの城の近くに埋められたという話もありますが、
いまだに見つかっていないようです。

Totenkopfring.jpg

こうして戦争末期、この城のお宝を含め、膨大な第三帝国の貴重な財宝や金塊などが
各地に隠匿されることになるわけですが、ヒムラーの命令によりこれを首尾よく実行したのが、
RSHA第Ⅱ局長官のヨーゼフ・スパシルという「ヒムラーの金庫番」だそうです。
捕虜収容所で身元がばれて、証言したとおり、彼が隠した金の延べ棒19袋などが見つかりますが、
ジープの操縦をミスった米情報将校が大怪我・・。彼の身体には札束と指輪、
時計にダイヤモンドを散りばめた十字架が・・。
他にも強欲な米兵の例も挙げられていて、ゲーリングの奥さんを騙して国家元帥の
最上の制服一式を預かり、豪華な短剣を売りさばいて、テキサスに土地買ったなど・・。
主人公のホーンは誰も信用できないんですね。

Josef Spacil.jpg

出だしこそオーストリアを併合後、すぐにウィーンから神聖ローマ帝国の宝物を
ナチ党の聖地であるニュルンベルクに移すなど、ヒトラーが第三帝国の重要なもの・・
と考えていたというのは理解できますが、終戦間際に
これらを隠して連合軍の手に渡らせないようにとヒトラーが指示し、
来るべき「第四帝国」の遺産と考えていたとはとても思えません。

結局のところ、本書でもヒムラーとSS、お宝を守るドイツ騎士団・・といった連中が
金塊に偽札なども含めて、隠そうと奔走した・・というところであり、
まぁ邦題の「ヒトラー第四帝国の野望」などというものではありませんでした。
万が一、このタイトルの内容を期待して読まれた方なら、ちょっと拍子抜けかも知れませんが、
個人的には「違う内容でよかった・・」というのが実感です。

poderesunidos-ahnenerbe.jpg

またアーネンエルベ協会とヴェーヴェルスブルク城についても
最終的には主人公の探すお宝の行方とは関係がなかったりするんですが、
まぁ、この話があるので、読んでいて盛り上がりましたし、
興味のあったこの2つについて、これだけ書かれたものは初めてでした。
ミステリー小説のような展開と、結果的に「聖遺物」についても勉強になったという
拾い物以上に価値ある一冊でした。

・・・これをもって今年は終わりです。
来年もまたお付き合いください。






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