SSブログ

エヴァ・ブラウン -ヒトラーの愛人- [女性と戦争]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ネリン・E.グーン著の「エヴァ・ブラウン」を読破しました。

以前に紹介した「エヴァ・ブラウンの日記」があまりにもXXXXでしたので、
ちゃんとしたエヴァものを読みたいなぁ・・と思っていました。
先日の「アドルフ・ヒトラー」もそれほどでもなく、今回、文華堂で見つけた
1973年発刊の400ページという本書。
1979年には「エヴァの愛・ヒトラーの愛―独裁者を恋した女の生涯」という本も出ているんですが、
こっちの方がページ数もあるし、古書でも安かった・・というのが本書を選んだ理由です。

エヴァ・ブラウン.jpg

やっぱりエヴァ・ブラウンには興味がありますね。
そういう方も多いんじゃないかと思いますが、それでも、ヒトラーが愛した女として見るのか、
なぜ、彼女はヒトラーを愛したのかと見るのか、見方は人それぞれだと思います。
ヴィトゲンシュタインは両方ですね。ヒトラーがエヴァのどこに特別なものを見たのか。
エヴァはヒトラーの男として以外の部分、政治的なことまで知っていたうえで愛したのか。
実はエヴァが強烈な反ユダヤ主義者で、
「あんた、ユダヤ人なんてラインハルトに全部殺させちゃいなさいよ」
なんて言っていたとは、とても想像できないですから・・。

本書には30枚ほどの写真が掲載されていますが、「ヒトラーのお気に入りの写真」と書かれた
19歳のエヴァを見ると、なんとなくゲリに似ているような気もしますね。

Geli_Eva.jpg

著者は中立国の特派員として活躍中に捕えられ、終戦とともにダッハウ強制収容所から解放され、
米国に帰化後、フリー・ジャーナリストとして活動・・という数奇な経歴の持ち主です。
序文では、ヒトラーの専属カメラマンのホフマンや、娘のヘンリエッテ、その旦那である
フォン・シーラッハらの証言と、トレヴァ・ローパーなどの研究者によって
エヴァが甚だしく誤って描かれているとし、ヒトラーの秘書たちやエヴァの唯一の親友だったヘルタ、
20年間、口を閉ざしていたエヴァの家族からもインタビューを行い、本書を書き上げたそうです。

Eva and her sister Ilse (1908 - 1979) in a childhood photo from 1913.jpg

第1章はヒトラーの19歳年下の姪、ゲリの死から始まります。
ここではヒトラーの最初の運転手で、世話好きのヒトラーから「早く妻をめとるように」との
忠告を受け入れ、ゲリと婚約した結果、ヒトラーの逆鱗に触れてクビになったモーリスの
「ヒトラーはゲリに惚れてましたよ」と断言する話を紹介します。
一方、女中で管理人だったアニー婦人の話・・、「ヒトラーの愛は父親の愛情であり、
ゲリはヒトラー夫人になることを望んでいた」という様々な話も・・。
そしてゲリが自殺の直前「親愛なるヒトラー様」と書かれた手紙を発見。。
その最後には「あなたのエヴァより」と書かれていたのでした。

ゲリより4歳若い、1912年生まれのエヴァ。姉のイルゼ、さらに妹グレートルとの3姉妹は
ミュンヘンの学校教師の家庭で育っていきます。
やがて教育の総仕上げに修道院に送り、礼儀作法などを教えるのが一家のしきたりです。

this is supposed to be Eva Braun as a young girl at Simbach Convent.jpg

17歳で修道院をあとにし、就職先を探すふっくらと太ったエヴァ。
求人広告を見てやって来たのは「ハインリヒ・ホフマン美術写真商会」。
近くには「フェルキッシャー・ベオバハター」の印刷所とナチ党幹部が集うイタリア料理店があり、
ナチ党員の店主ホフマンは、ウサギ飼育業者を自称するヒムラー
泥だらけの長靴を履いたボルマン、向かいの薬局に長生きの万能薬を買いに行くヘス
しきりに女たちを怖がらせるシュトライヒャーらの写真を撮り、
3週間後にはヒトラーも遂に姿を現します。

Teenager Eva Braun.jpg

政治に無知な彼女は「ヒトラーってどんな人なの?」と父に尋ねます。
「あいつは自分のことを全能だと思い込んでいて、世界を改造したがっている低能児だよ・・」
しかし23歳年上のヒトラーに度々会っていたエヴァは、
ゲリの自殺に精神錯乱となって悲観に暮れ、姿を現さないヒトラーと、
彼のために命を捨てる女性がいたことに感動し、
このことが、ヒトラーを愛することになった決定的な要因と本書では推測しています。

Die 21-jährige Eva Braun.jpg

そして時は1932年、まさにヒトラーとナチ党にとっては政権奪取に向けて多忙を極める毎日。
20歳の小娘とちょいちょい逢引きしているヒマはありません。
やがて短い便りさえ届かないことにシビレを切らしたエヴァは1年前のゲリと同様、
ピストル自殺を図ります。
2人の関係を決して口外せず、タクシー代も自分が払うと言い張り、
贈り物にも控えめなお返しをするエヴァに「これからは気を付けてやらないと・・」と、
ヒトラーもホフマンに打ち明けます。
ちなみに日本で「ヒトラーの愛人」とされるエヴァですが、別に独身の男女ですから
「愛人」というのも変ですよね。まぁ、昔は「恋人」のことを「愛人」とも言っていたようなので
その名残りなんでしょうか?

Eva Braun in the office of Heinrich Hoffmann.jpg

彼女を特別な存在と認めたものの、政権を握ったヒトラー総統の前には
様々な女性たちが群がってきます。
以前に紹介したレニ・リーフェンシュタールユニティ・ミトフォード・・。
本書ではこのような女性たちにも1章を割いて紹介していますが、個人的には
「うっとりとさせるような金髪のインゲ・ライは、いつもヒトラーの胸をかきたてていた」とされる
ドイツ労働戦線全国指導者ロベルト・ライの奥さんの話が印象的でした。
呑んだくれの旦那との不幸な結婚生活をヒトラーは常に話題にし、やがて彼女は1943年、
窓から飛び降りてしまいます。綺麗な人ですよねぇ。。

Hitler. Inge Ley.jpg

例の「エヴァ・ブラウンの日記」についても書かれていました。
1947年に発表されたこの日記は「ずうずうしいイカサマ」であるとして、一刀両断にしています。。。
しかし1935年の20ページから成る本物の日記が発見され、
姉のイルゼが「本物」と言い切るこの日記が本書には収められていました。
「彼が愛すると言う時、そのことを彼は、しばらくの間は、と考えているに過ぎない。
約束にしても同じこと。彼がそれを守ったためしはないんだもん」

注釈で著者は、のちに世界中の政治家がヒトラーを信じ、そして裏切られたことを
彼女はこの時点で理解していたのだ・・と褒め称えています。。
しかし愛に悩む、23歳の女の子の日記ですから、読んでるコッチが照れくさいですね。。

Eva Braun um 1935.jpg

中盤からは数々の困難とライバルを押しのけ、「ベルヒテスガーデン」の女主人の地位まで
上り詰めたエヴァと、ヒトラーの取り巻きたちとの生活の様子、
副総裁ヘスが英国に飛び立った事件で、ヘス婦人のためにヒトラーに懇願するエヴァ。
さらにその他のナチ党高官婦人との関係が・・。

リッベントロップ夫人はエヴァごときには見向きもしないものの、
「第三帝国のファーストレディー」を自負するエミー・ゲーリング
「エヴァを村八分にしましょう」とスローガンを掲げるナチ政府女性群の総帥格。。
シュペーア婦人とボルマン婦人とは仲が良かったようですが、
互いにヒトラーを征服しようと企むエヴァとボルマンは敵同士です。
また、パパ・ブラウンからは「中年男の妾に成り下がり、結婚のあてもないのに
同棲するとは何たる不真面目!」と、2度と実家に足を踏み入れるなと言い渡されるのでした・・。

Hitler Eva Magarete Speer.jpg

エヴァはヒトラーのことを皆と同じく「マイン・フューラー」と呼び、
使用人にも仲の良い友人であると思わせるために演技を続けます。
ヒトラーも毎朝、階段で出会うごとにうやうやしく挨拶をし、手にキスをするという
礼儀正しい振る舞いを見せ、書斎からエヴァの部屋へ直接入れるにも関わらず、
彼女の部屋をノックしてお伺いを立てます。
「フロイライン・エフィー、着替えはお済ですか、お会いできますか?」
しかし侍従長のリンゲはヒトラーのベッドで抱擁する2人に不意打ちを喰わせてしまったことを
証言しているそうです。

hitler_eva.jpg

豪華なレセプションや紳士淑女の集いに招待してくれと頼むエヴァですが、ヒトラーは答えます。
「エフィー、きみは社交的な生活をするようにできてないんだよ。きみは私の大事な宝・・。
私にはきみの清らかさを守る義務がある。外の世界は汚物の山なんだ」
そんなことで諦めないエヴァは、山荘を訪れるウィンザー公爵夫妻を紹介してくれるよう
ヒトラーに迫り、うんざりさせます。
「だって、あの方は一人の女性のために大英帝国を惜しげもなく捨てたんですもの・・」

The Duke and Duchess of Windsor with Hitler.jpg

さらに映画「風と共に去りぬ」が公開されると、自分をスカーレット・オハラに見立て、
衣装をまとって一場面をパントマイムで演じて見せ、ヒトラーにも映画を鑑賞させて、
口を開けば「クラーク・ゲーブル、なんて素敵な男でしょう」と、自室に写真も飾り、
食卓でも声マネで英語を喋るという大変なのぼせよう・・。
とうとう嫉妬心に掻き立てられたヒトラーはレット・バトラー役になることもなく、
ドイツでの公開許可を取り消す旨を指示・・。
本書では、このようなエヴァの行為を「遠回しに・・」としていますが、
男からしてみれば、十分、直接的です。。。

Mr-Bean-Gone-With-The-Wind.jpg

うっぷん晴らしにベルリンの商店で一番値の張る品物を注文し、
総統官邸に届けさせるという行動で商店主たちを悩ませます。
靴はイタリアから、下着はパリから取り寄せ、ドレスも何十着と注文し、見せびらかします。
当初は「なんて優雅なんだ」と鼻が高かったヒトラーも、「密輸業者からでも買ったのかね?」

Eva Braun.jpg

連合軍がノルマンディに上陸したニュースに起こされて、「ついに来た。これこそ本物の敵だ」と
歓声を上げ、軍事地図を求めて白木綿のナイトシャツのまま、飛び出そうとするヒトラーを
最高司令官にふさわしくないと躍起になって引き留めるエヴァ・・。
この頃になると女主人のモラルも変貌を遂げ、熱烈なナチ党支持者となり、傲慢にもなっていきます。
姉のイルゼがヒトラーの方針に批判を投げかけると
「総統があなたを強制収容所に送ったとしても、わたしは救い出してあげませんからね」と
宣言するほど・・。

Eva Braun with her parents, Friedrich 'Fritz' and Franziska (centre) and her sisters Ilse (left) and Margarethe Gretl (second from right) in 1940.jpg

そうはいっても、女性に関することにはヒトラーに喰ってかかります。
ヒムラーが美容院の閉鎖を命じると、ヒトラーを説得して再開させ、
主婦が闇市で食品を買うことを禁止する法令も撤回・・。
地下鉄で立っている女性を尻目に、のうのうと座っている将校たちを目撃すると、
「軍人は公共の乗り物を利用するにあたって常に騎士道精神に則った振る舞いをすべし」
という布告をヒトラーに出させるといった具合・・。

ヒトラー暗殺未遂事件では、2通の手紙・・。ヒトラーの書いた
「わたしは大丈夫。じきに帰れて、君の腕の中で休むことができれば・・」という手紙と
シュムント将軍はお気の毒に・・。命ある限りあなたを愛します」というエヴァの手紙を紹介します。

eva13.png

ヒトラーのたばこ嫌いは有名ですが、コレにまつわるエピソードが豊富でした。
エヴァの妹グレートルに対し「たばこをやめなさい。そしたらあなたに別荘をあげるから」
それをあっさりと断られると、エヴァを含む20名の女性たちには
「1ヶ月間禁煙したら、スイス製の金の時計と宝石を送るから」
そして、いつかすべてのたばこの箱には「危ない!喫煙はあなたを殺す。危ない!ガンになる!」
と印刷したラベルを張るよう法律で定めると宣言しています。

Eva Braun's Sister, Gretl.jpg

そのグレートルはSS副官のフェーゲラインと1944年に結婚するわけですが、
本書のフェーゲラインの紹介は、「ベルヒテスガーデンの女性を尽くなで斬りにしており、
自分と寝ることを承知しない女を仇敵とみなすという、まことにあっぱれな男性の典型だったのだ」
また、この結婚式の様子も新婦が語ったと思いますが、エヴァの雇ったSS護衛兵の楽団が
軍服もヨレヨレで、その演奏はさらにボロボロだったという話や、
舎弟の結婚に気を良くしたボルマンがシャンパンを飲み過ぎて担架で退場したなど・・。

Fegelein_Gretl_Hitler_Eva.jpg

ベルリンは爆撃によって廃墟となった建物が目立ち始め、エヴァも不安におののき始めます。
著者はカイテル元帥のような人物が「クリスマスのためのとっておきの大勝利」を約束し、
愛する軍事の天才が明けても暮れても「エフィー、これほど勝利の確信が湧いたことは一度もない」
と宣言するに及んでは、彼女がむやみに楽観的になったり、
熱狂的になったりするのは異常なことではなく、
当時のドイツの若い女性はみんな同じように考えていたのだとしています。

Eva with Speer.jpg

1945年になると、ベルリンからの疎開をヒトラーから命じられたエヴァ。
しかし33歳となった彼女はすぐにベルリンの総統のそばに戻ることを決断します。
ダイムラー・ベンツ社を訪れて「総統から大至急ベルリンに来るように命じられているんです」
とウソをつき、以前の運転手がエヴァを運ぶ役目を引き受けます。
そんなエヴァの顔を一目見たヒトラーは叱りつけようとするものの、彼の喜びは傍目にも明らか。。

最後の地下壕の様子は、「私はヒトラーの秘書だった」のユンゲ嬢らの証言で構成されており、
だいたい、過去に読んだ「ヒトラーの最期」本と同じ展開です。
ただし、親友のヘルタや、妹のグレートルに宛てた最後の手紙が印象的でした。

Hitler's mistress Eva Braun.jpg

実に濃くて面白いエヴァ・ブラウン伝でした。原著は1968年と古いものですが、
逆に当時だからこそ、彼女を知る当事者にインタビューが可能だったのも事実ですね。
いくつか知っているエピソードもありましたが、コレは本書がネタ本になっているのかも知れません。
今回はかなり長くなりましたが、これでも結構、端折ったつもりなんですね。
不思議なのは、本書を読んでエヴァという女性を理解できたか・・というと、そうでもないことです。
なぜなら、本書は事実と思われるエピソードの積み重ねであり、
著者がエヴァの人間像を自分なりに作り上げて、それを読者に強制していないからです。
可愛らしいエヴァもいれば、おいおい・・というエヴァも混在しますが、
人間の本性なんて当然、一冊の本で表せられるわけもない複雑なものですからね。





nice!(0)  コメント(6)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。