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アドルフ・ヒトラー[4] -1941-1945 奈落の底へ- [ナチ/ヒトラー]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ジョン・トーランド著の「アドルフ・ヒトラー[4]」を読破しました。

この最終巻は対ソ戦における軍事的な話ではなく、ユダヤ人絶滅政策・・、
「最終的解決」を任され、ヴァンゼー会議で宣言するラインハルト・ハイドリヒと、
銃殺に代わる人道的で効率的な大量殺戮方法を模索するSS全国指導者ヒムラー
その答えである「ガス室」を設置し、実施するアウシュヴィッツ所長のヘース・・。
ヒトラーはこの大量殺戮の実用性を英米の歴史から学び、南アフリカのボーア人捕虜収容所と
大西部のインディアン収容所で行われた「飢えと対等でない戦いによる絶滅」という
能率的なやり方を賞賛します。

アドルフ・ヒトラー④.jpg

本書ではこの時点で「ユダヤ人絶滅政策はヒトラーが指示したもの」という解釈です。
逆の解釈ではアーヴィングの「ヒトラーの戦争」がありましたが、
これは文書が残っていない・・ということで分かれているところですね。

Entrance to Hitler's office, the Chancellery.jpg

ゲッベルスの部下であるハンス・フリッチェはアインザッツグルッペンの噂を聞き、
ハイドリヒに単刀直入に尋ねます。
「ウクライナのSSは大量殺戮のためにあそこにいるのですか?」
憮然として否定するハイドリヒ。。。翌日、調査結果をフリッチェに伝えます。
「総統の知らない間に大量殺戮を行った犯人はガウライターのコッホである」
いや~、ドロドロ感がハンパじゃないですねぇ。

einsatzgruppen-nazi-death-squads.jpg

1942年の夏季攻勢「青作戦」。
攻撃の続行を渋るフォン・ボックを解任し、カフカススターリングラード
同時に大規模な攻撃を仕掛けようとするヒトラー。
この兵力の分散に公然と反対する参謀総長ハルダーですが、ヒトラーは副官に語ります。
「これ以上ハルダーの言葉に耳を傾けていたら、私は平和主義者になってしまう」

Adolf Hitler 1941.jpg

そして「二兎追うものは・・」の格言どおり、カフカスから撤退し、スターリングラードも逆包囲・・。
責任を取らされたハルダーに代わってツァイツラーが登場し、
空からの補給を安請け合いし、総統の信頼を取り戻そうとするゲーリング
包囲された第6軍司令官のパウルスを降伏させないように元帥へ昇進させ、
救出チームマンシュタインにも責任を肩代わりさせるヒトラー。
このあたりはスッカリお馴染みですが、この包囲陣のなかにはヒトラーの最愛の女性ゲリの兄弟、
レオ・ラウバルをおり、パウルスはヒトラーに「彼を飛行機で護送すべきかどうか?」尋ねますが
ヒトラーの答えはノー・・。「彼は一兵士として戦友たちのそばに留まるべきである」

This man is gulping his hot drink.jpg

1943年の4月にはヒトラーはベルヒテスガーデンへ久しぶりの休暇に向かいます。
エヴァの2匹のスコッチ・テリアを「手のひらの掃除係」とからかうと、
エヴァもヒトラーのアルザス種の愛犬ブロンディを「とんま」と罵ります。
また「スカートを履いたものならなんでも追いまわす」と称される女癖の最悪なボルマン
エヴァが嫌っていた話も出てきますが、もちろん彼女だけは言い寄られることはありません。。

eva's Scottish Terriers.jpg

夏には西側連合軍によるドイツ本土への無差別爆撃が激しさを増し、
何度も空襲を受けたハンブルクでは7万人が死亡。
「このようなテロ爆撃はユダヤ人が考えたものだ!」と英軍のハリス司令官らを
「ユダヤ人かユダヤ人の混血である」と怒り心頭・・。
ハンブルクに視察に訪れたゲッベルスはその廃墟を見て、真っ青になって震え上がり、
最も責任のあるゲーリングは戦闘機隊総監ガーランドらの前で、完全に取り乱します。

Hamburg im Feuersturm.jpg

途中、クルト・ゲルシュタインも登場してきましたが、本書で虐殺行為を阻止するために
最も力を尽くした人物として、コンラート・モルゲンという34歳の弁護士が出てきます。
SDの経済犯罪部へ移された彼はブッヘンヴァルト強制収容所の所長、カール・コッホ
私腹を肥やしていることを追及します。
コッホの積年の腐敗と関係者の殺害という証拠を掴んだ彼ですが、上司たちは一様に青ざめ
暗殺されたハイドリヒの後任、カルテンブルンナーですら取り合いません。
たらい回しにされた挙句、なんとかヒムラーの目に留まった報告書。
矛盾に満ちた潔癖症のヒムラーは、このモルゲンにコッホに関する汚職事件捜査の
「全権」を与え、逮捕、裁判と進んでいきます。

Ilse_und_Karl_Otto_Koch.jpg

その一方で、各々の収容所では医学実験のために無数の人びとが死んでいきます。
雪や氷水のなかに裸で放置され、ある者は空軍の高々度実験で、
またある者はガスや有毒弾のモルモットとして死に、ラーヴェンスブリュックの婦人たちは
壊疽の実験に使われ、ダッハウでは人間が塩水だけでどれだけ生きられるか・・。

そして1944年のノルマンディ。西方軍司令官ルントシュテットとB軍集団司令官のロンメル
ヒトラーに面会し、戦いは絶望的であると進言します。
しかしヒトラーは「新しいロケット爆弾が和平を求めさせるだろう」と取り合いません。
「ならば英国南部の諸港の補強基地へ向けて発射するように」という要請も、
「政治的目標に集中されなければならない」と拒否・・。
このような状況で7月20日、シュタウフェンベルクの仕掛けた爆弾が炸裂します。

Erwin Rommel und Gerd v Rundstedt.jpg

このヒトラー暗殺未遂事件も詳しく書かれていますが、本書では
あの「ヨーロッパで最も危険な男」スコルツェニーの活躍が光ります。
たまたまベルリンで反乱の報を受けた彼は、馴染みのシュトゥーデント将軍の家を訪れますが、
婦人が傍らで縫い物をしている平和な光景・・。スコルツェニーの話も信用してくれません。
上司のシェレンベルクの命令でベントラー街へと向かい、レーマー少佐
すでにシュタウフェンベルクらを処刑したフロムらと出会いますが、現場は一様に混乱状態です。
残る陸軍の参謀将校たちとSSのスコルツェニー・・誰が指揮を取ってこの場を収めるのか・・?

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この爆弾による負傷よりも、この事件への関与者が多かったことがヒトラーを傷つけます。
ここからは従医モレルによる薬の投与によって、徐々に病んでいくヒトラーの様子・・。
彼は癌で死んだ母親を忘れず、自分も遺伝により若くして癌で死ぬ・・と考えて生き急ぎ、
それが早まった東部への戦争を引き起こしてしまう要因でもあるわけですが、
変な話、ヴィトゲンシュタインも両親が死んだのと近い歳になってきて、
実は50歳や60歳の自分なんて考えたことがなかったですね。。
なので、なんとなく、この1940年~のヒトラーの焦り・・というのは理解できるような・・。

起死回生の「アルデンヌ攻勢」の主役は、第6SS装甲軍を率いるゼップ・ディートリッヒ
パイパー戦闘団ではなく、第5装甲軍を率いるマントイフェルです。
これは彼からインタビューしていることが大きいんでしょうね。

Manteuffel_in_the_winter.jpg

1945年2月、ドレスデンが壊滅するとゲッベルスは声を上げて泣き出し、ゲーリングを非難します。
「あの寄生虫めは、怠慢と利己心ゆえに、いかに大きな罪を背負い込んだことか!」
そしてヒトラーに英米の捕虜パイロットを報復として処刑することを提案しますが、
ヒトラーは「反対」・・。翌月にはレマゲン鉄橋が爆破されずに米軍の手に落ちると、
「裏切りだ!」として、責任者は厳罰に処せられます。
しかし、この頃から時折見せる、放心状態も多くなってきます。

Dresden.jpg

ベルリンの地下壕での、いわゆる「ヒトラー最期の日々」は、
彼の落差の激しい精神状態が本書では印象に残りました。
ゲッベルスはフリードリヒ大王の奇跡の逸話でヒトラーを盛り上げ、
ブッセの第9軍にも同じ話で士気を高めようとしますが、ある将校は皮肉交じりに質問します。
「それで、今度はどこの女帝が死ぬのですか?」
そんな重い雰囲気のなか、ルーズヴェルト大統領の死の報がもたらされて
「やはり奇跡は起きた!」と盛り上がり、後任の大統領トルーマンは怒らせないよう、
悪口禁止戦術を展開するゲッベルス・・。
しかし、米国の態度は以前と何も変わらず、またもやションボリです・・。

Hitler was in total despair.jpg

一人のスーパーマンを思い出したヒトラーは数か月前に片足を失った男に託します。
急降下爆撃機で戦艦1隻、戦車500両を撃破してきた不死身の男、ルーデル大佐です。
彼にすべてのジェット戦闘機を指揮させる命令を下すものの、
そんな知識のないルーデルは言い訳を並べ立てて、必死にお断り・・。
真夜中過ぎにようやく総統から解放されるのでした。

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そこで軍事の天才ヒトラーがひらめいた「シュタイナー軍集団」による、ジューコフ軍への反撃ですが、
結局はシュタイナーがなんの行動も取らないことから、例のヒトラー史上最大の怒りが爆発し、
「戦争は負けた!ベルリンに残って自殺する」と宣言。もう精神的にも肉体的にもボロボロです。。
ボルマンやカイテルヨードルにもベルヒテスガーデンのゲーリングのもとへ行くよう指示しますが、
ヒトラーを奮い立たせたい彼らは、「ヴェンクの第12軍」の存在を伝えます。
これに目を輝かせるヒトラー・・。再び希望と決意が蘇り、ヴェンクにベルリン救出の
最後の望みを託します。

Walther Wenck.jpg

最後はいつものようにゲーリングとヒムラーの裏切りに憤慨し、
ゲッベルスの子供たちや飛んで来たハンナ・ライチュとの交流、
また、ゲーリングの後任に任命したフォン・グライムが、ヒトラーが初めて乗った飛行機の
パイロットであったという運命的な話をもう一度・・。
そしてエヴァとの結婚と心中・・で終わります。

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本書は戦記中心ではなく、ヒトラー個人がテーマですから、エヴァ・ブラウンの話も多いのかと
思っていましたが、実際のところ、そうでもありませんでした。
これは著者が生存者へのインタビューや残された公式文書などを手がかりとしていることから
かなりの間、秘密の存在であった彼女自身もヒトラーと運命を共にしたことで
噂話やゴシップのようなものは無視した感じがします。
私はヒトラーの秘書だった」のユンゲ嬢が語るエヴァのエピソードや
その最年少秘書の彼女を父親のように温かく見守るヒトラーの人間らしいエピソードも
所々に登場し、これが彼の複雑な人間性をうまく表現しています。

Emmy Göring with Adolf Hitler.jpg

また、そのようなことは全巻を通して言えるようで、著者トーランドは、
ヒトラー個人のエピソードを彼がインタビューした人物の口から語られたことを
良い悪いは別にして、伝説よりも重要視しているようにも感じました。
また、モレルの薬により体調が悪化の一途を辿っても、その場しのぎの回復を望むだけで
「千年帝国」などとしていたヒトラー自身が独裁者らしく末永く君臨しようとしていたとは
相変わらず思えません。
もともと戦争が終わったら引退する・・などと語っていたというヒトラーですから、
戦争に勝利して、ナチス・ドイツ帝国が確固たるものとなれば、あとは後継者に・・と
考えていたのは事実のように感じました。
とにかくオカルト独裁者が考えがちな不老不死なんか興味なしで
常に死を意識し、「死ぬまでにやらねば・・」と思っていたんじゃないでしょうか。。

そういう意味では、彼は死ぬことを怖れておらず、「勝利か、無か」と語っていたように
特に軍人に対してはスターリングラードのパウルスを筆頭に「死」を要求したのは
彼が残酷な人間だからではなく、「失敗したら死ぬものだ」と当然のように考えていた
ようにも思いました。

Führer mit seine Soldaten.jpg

最後の「感謝の言葉」も「5年以上に渡ってヒトラーに耐えてくれた」日本人の奥さんにも感謝・・。
個人的にも「そりゃないだろ」などということのない、イメージ通りのヒトラー像で、
どなたが読んでも満足できる、バランスの良いヒトラー伝だと思います。

ただし、本として良かったからといって、コレがヒトラーの真の姿である・・
などとは思っていません。
誰でもそうですが、人間、発言したこと全てが本心であるわけでもなく、
上司が部下に対して、仕事上、やる気を起こさせるために、大げさに言ったり、
怒ってみたりすることは当然ですから、その真意が理解されずに誤解を招くこともあるでしょう。
ヒトラーという人物を悪魔ではなく、人間としてイメージできたのは間違いないですが、
やっぱり、彼の本音と真の姿を理解することは不可能なのか・・とも考えます。

次は来年になると思いますが、「ヒトラー 最期の12日間」を書いたヨアヒム・フェストの
上下巻の大作「ヒトラー」も持ってますので、本書と比較しながら読んでみようと思っています。
でもその前に「エヴァ・ブラウン―ヒトラーの愛人」が気になってしまいましたし、
数冊連続シリーズとしては、ウィリアム・シャイラーの有名な
「第三帝国の興亡」全5回シリーズも予定しています。









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